戦国BASARA
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ある日突然トリップする話
(佐助、かすが、伊達主従愛され)
(長編で書こうと思っていた話の冒頭です。続きはありません。)
「絃、ここで寝たら風邪をひくぞ。風呂は沸いているから早く入って、布団で寝ろ」
「ん……かすが……?」
かすがに肩を優しく揺すられて、目が覚めた。炬燵に入りながら、テレビを見ているうちに眠ってしまったらしい。わたしが起きるのを確認したかすがは、もう一度風呂に入るようにとわたしへ言った。わたしはそれに、目を擦りながら頷いた。
「こらこら、そんなに擦っちゃダメでしょ。ほら。着替え準備したから、お風呂に入っておいでよ」
目を擦っていた利き手の手首を佐助に掴まれた。佐助は、わたしに着替えを渡して、優しい手つきで頭を撫でた。そんな佐助を見つめていると佐助は口角を上げて笑った。
「うん、ありがとう」
佐助が用意してくれた着替えを腕に抱えて、炬燵から出た。炬燵の中と外の温度差に、わたしは体を小さく震わせた。そんなわたしの様子を見て、佐助とかすがが笑った。
「お風呂で寝ちゃダメだよー?」
「うん。寝ないよ」
生返事をするわたしに、「ホントかなー」と半眼の佐助が溢した。
最近、わたしは浴槽でお湯に浸かりながら眠ってしまう。暖かいお湯に浸かっていると、いつの間にか眠ってしまっているのだ。眠ってしまった日には、佐助とかすがから危ないと怒られてしまう。怒られるのはなるべく避けたいし、本当に危険なことだと分かっている。だが、眠くなってしまうのだから仕方ない。と、言ったら二人から一時間ぐらい説教されてしまいそうだ。
*
「ふう……」
できるだけ早く身体と頭を洗い、浴槽の中に入った。冷えていた身体が暖かいお湯に温められる。鼻の下までお湯に浸かり、しっかりと体を温める。口から息を吹き出して泡を立てて遊ぶ。「子どもみたい」そう言って笑う佐助の顔が頭に浮かび、むっとしてその遊びを止めた。お湯に浸かって、そろそろ上がろうかなと考えているとだんだん眠気が襲ってきた。
(あー、また怒られちゃうな……)
でも、お風呂で寝るのはとても心地良い。だんだんと意識が遠のいていき、ニ人にお説教をされるのを覚悟して、わたしは意識を手放した。
意識が完全に落ちようとした瞬間、鼻の中にすごい勢いで水が入ってきた。痛い。わたしは、あまりの痛さに口を開けてしまった。すると、口内の中にも水が同じようにすごい勢いで、入ってくる。苦しい。息ができない。溺れる、と悟ったわたしは浴槽から出ようと、立とうとするが不思議なことに浴槽の底に届かなかった。息ができない苦しさから逃れられない。手足を懸命に動かしたが、ただ体力を消費するだけだった。身体がどんどん沈んでいく。
(わたし……お風呂で溺れるの……?)
苦しい。
危ないって言っていたのに、約束破ってごめんなさい。佐助。かすが。
意識が朦朧とする中、こちらに向かってくる佐助とかすがを見た気がした。幻想を見てしまっているのだろうか。
「ごめんなさい」
声に出すことはできなかったが、口を動かし、わたしの幻想の佐助とかすがにそう伝えた。限界がきたわたしはゆっくりと意識を手放した。
*
大将に頼まれた書状を奥州の竜の旦那に届け、任務が終わった俺は帰路についていた。
折角、奥州へとやってきたのに絃に会えなかった。甲斐を出発したのは昼前で空もまだ青かった。その青かった空は、今は橙色に染まっていた。足を止めることなく、そんな空を眺める。
「ったく……どうしてこんな時に絃を任務に出すかねぇ~。この日々の任務でボロボロに疲労した心を癒せると思ったのに……」
愚痴を零し、溜め息をつく。溜め息をつくと幸せが逃げるというが、それなら俺様の幸せはもう底を尽きているに決まっている。
ふと、前方に大きな池が見えた。その池の上を鼠色の烏に捕まり、奥州の城の方向に向かっている人影が見えた。
「お? 俺様ってばツイてるっ!」
それは、今まさに俺が会いたかった人物だった。俺は、飛び乗った木の枝に足を止めて呼び止めようと、声を張り上げた。
「おーい、絃……っ!? 絃ッ!!」
何の前触れも無く絃は烏から手が離れ、落下していった。大きな音を立てて、絃は池の中に落ちた。
任務で酷い怪我でも負ったのだろうか、そう考えるより先に俺は絃の後を追って池の中に飛び込んだ。すると俺と同じように池の中に飛び込む者がいた。
「かすが!?」
俺と同様に絃が池の中に落下するのを見たのか、かすがは必死の形相だった。
「いいから、早く引き上げるぞ」
口の動きで俺にそう告げたかすがは絃に手を伸ばしながら池の底に潜水した。俺も後を追い、深く深く潜水した。絃に手が届きそうなくらい近づいたとき、絃の口は、「ごめんなさい」と動いた。
(何が『ごめんなさい』だッ!)
絃の腕を掴み、ぐいっと引き寄せ、絃の腰に腕を回す。そこで気付いた。
「あれ? 何で絃、裸なの……?」
「今はそんなことどうでも良いだろ! 早く池から出るぞ!」
口の動きだけでかすがと会話を交わす。かすがも絃の腰に腕を回し、急いで池の外へと向かった。池から顔を出し、池に浮いたまま空気を肺に取り込む。いくら忍と言えどこんなに長い間水の中に潜水するのは苦しい。かすがも同じように苦しそうに新鮮な空気を取り込んでいる。
「絃っ! おいっ! 絃!」
頬を軽く叩きながら、名前を呼ぶ。顔色が悪い絃に血の気が引いていく。どうか俺達から離れでいかないでくれ。
「絃! 起きろッ!」
かすがも俺と同じように悲痛に名前を呼びながら、絃の肩を掴み、揺らす。すると、俺達の腕の中にいる絃は激しくせき込み飲み込んでしまった水を吐き出した。苦しそうにせき込む絃の背中を優しく撫でてやり、息が整うのを待った。
「……さ、すけ? かすが……?」
絃は苦しそうに肩で息をしながら、俺達の顔を見て名前を呼んだ。
「良かった……」
絃をそっと抱きしめる、赤子をあやすように背を撫でる。絃は、再びごめんなさいと小さく呟いて、俺の衣服をぎゅっと握りしめた。
「佐助、私は池にもう一度潜る。お前は絃を連れて池から上がれ」
「ああ」
池の中に潜るかすがを見て、俺は絃を抱きしめて池から上がった。絃は俺の衣服を握ったまま眠っている。先程と比べて顔色の良い顔で安らかに寝息を立てる絃にひどく安心して、深く溜め息が出た。無事なのはよかったのだが、どうして絃は裸なのだろうか。池の中に落ちてしまう前は、確かに服を着ていた。
「佐助、池の中には絃の服はなかった」
「そっか……裸、それに」
「傷と伊達の家紋の焼き痕がない…」
「うん」
そう。今目の前で眠っている絃には、俺達の知っている古傷と左腕に刻まれているはずの伊達の家紋がない。
誰かが絃に変化しているのか?
でも、自分の本能がこれは絃だと言っている。
「でもこの子は絃だ」
「ああ」
かすがも俺と同じことを思っていたようだった。
「何がどうなっているのかわからないけど、とりあえず絃を竜の旦那の城へ連れて行こう。ここからは一番そこが近い」
寝かせていた絃の膝裏と背に腕を回し、絃を抱きかかえる。着物を着せてやるのが一番良いのだが、生憎かすがも俺も持ち合わせていない。肌を隠すように絃を抱き直す。
「佐助、私は謙信様に書状を届けなければならない。お前に絃を預けるのは不本意だが頼んだ。謙信様に事情を話してから私もすぐに行く。」
「……不本意ってなんだよ」
「言葉通りの意味だ」
俺をいつものように冷たくあしらい、かすがは俺が抱える絃の頬を優しく撫でる。
「絃……」
愛おしそうに名前を呼ぶかすが。
「頼んだぞ。絃に何かあればお前を殺すからな」
先ほどの顔が嘘のように鋭い眼差しで俺を睨み付ける。
「かすがは相変わらずおっかないねー。そんなこと言われなくたって分かってる」
俺を睨むかすがに真剣な眼差し見つめる。
「当然だ」
そう言葉を残し、越後の龍の元へとかすがは消えた。俺も地面を蹴りあげ、再び奥州へと向かった
*
重たい瞼をゆっくりと持ち上げる。視界に入ったのは、木製の天井が見える。わたし達が住んでいるアパートはこんな天井ではなかったはず、そしてこんなに広くはなかった。
左手の暖かい温度に気づき、そちら側に目を向ける。
「絃……? 絃っ!!」
するとそこには、右目に眼帯を付けた男の人がいた。その人は、わたしの左手を握っている。左手の暖かい温度はその人だったらしい。その人は何度もわたしの名前を呼んだ。
「っ絃……!」
もう一度名前を呼ばれ、手を強く握られた。痛い。
「……だれ?」
「は……?」
わたしがそう言うと男の人は、目を見開いて瞳を細くした。どうしてこんなに驚くのだろうか。
「……どうして、わたしの名前を知っているの?」
「何言ってんだよ……! お前っ、俺がわかんねぇのか……!?」
疑問に思っていたことを男の人にぶつけると男の人の雰囲気が変わった。ぐいっと力強く肩を掴まれた。
「冗談言ってんだったら……叩き斬るぞ!?」
すごい形相で迫られ、肩をさらに強く掴まれた。痛い。
見たことがないあまりの迫力に本当に殺されると思ったわたしは恐怖でいっぱいになった。
「い、……嫌っ! 離してっ!」
男の人を突き飛ばそうと思っても力が敵わない。ますますその男の人が怖くなり、涙が溢れた。
「おいっ、絃! ふざけるのも良い加減にしろ!」
「やだ! 離して! ……っ佐助! かすが!」
涙で視界が歪むが男の人が怒っているのだけはわかった。わたしは大好きなニ人の名前を叫びながら怖くて怖くて暴れる。
「絃!」
「政宗様! 何をなされているのですか!」
後方から荒々しく襖を開く音が聞こえた。振り向くとそこには佐助と顔に傷がある男の人がいた。
「小十郎……」
顔に傷がある人の名前だろうか、眼帯の男の人はそう呟きわたしの肩を掴む手の力が少し緩んだ。そその隙に男の人を突き放して佐助の腕の中に飛び込んだ。
「さすけっ……佐助……!」
「なあに? どうしたの?」
佐助の酷く優しい声にわたしは落ち着いた。抱き締められながら背中を優しく撫でられる。
そういえば、わたしお風呂で溺れたんだった。
「……佐助、助けてくれてありがとう。ごめんなさい……」
「うん」
わたしがそう言うと優しくいつものように笑顔を浮かべてくれた。わたしは、ゆっくりとあたりを見渡した。畳、襖、掛け軸、そして眼帯の男の人と傷の人が着ているものは着物。自分の姿を足先から胸元まで見ると、自分も着物を着ていた。佐助の格好は、着物ではなく見たことのない服装。日本史の教科書で見たことある甲冑というのに似ているかもしれない。
「佐助、ここどこ?」
今度は疑問に思っていたことを佐助に投げかけた。すると佐助は、今度は苦笑いを浮かべた。
「やっぱりわかんないか……」
「Hey! どう言うことだ、猿!」
いきなり眼帯の人に声をかけられて、肩を震わせるわたしに佐助は大丈夫だよ、と告げて頭を撫でた。
「竜の旦那、右目の旦那。絃のことで話がある」
佐助は真剣な顔で不審そうにこちらを見ている男の二人へ向き直った。
(佐助、かすが、伊達主従愛され)
(長編で書こうと思っていた話の冒頭です。続きはありません。)
「絃、ここで寝たら風邪をひくぞ。風呂は沸いているから早く入って、布団で寝ろ」
「ん……かすが……?」
かすがに肩を優しく揺すられて、目が覚めた。炬燵に入りながら、テレビを見ているうちに眠ってしまったらしい。わたしが起きるのを確認したかすがは、もう一度風呂に入るようにとわたしへ言った。わたしはそれに、目を擦りながら頷いた。
「こらこら、そんなに擦っちゃダメでしょ。ほら。着替え準備したから、お風呂に入っておいでよ」
目を擦っていた利き手の手首を佐助に掴まれた。佐助は、わたしに着替えを渡して、優しい手つきで頭を撫でた。そんな佐助を見つめていると佐助は口角を上げて笑った。
「うん、ありがとう」
佐助が用意してくれた着替えを腕に抱えて、炬燵から出た。炬燵の中と外の温度差に、わたしは体を小さく震わせた。そんなわたしの様子を見て、佐助とかすがが笑った。
「お風呂で寝ちゃダメだよー?」
「うん。寝ないよ」
生返事をするわたしに、「ホントかなー」と半眼の佐助が溢した。
最近、わたしは浴槽でお湯に浸かりながら眠ってしまう。暖かいお湯に浸かっていると、いつの間にか眠ってしまっているのだ。眠ってしまった日には、佐助とかすがから危ないと怒られてしまう。怒られるのはなるべく避けたいし、本当に危険なことだと分かっている。だが、眠くなってしまうのだから仕方ない。と、言ったら二人から一時間ぐらい説教されてしまいそうだ。
*
「ふう……」
できるだけ早く身体と頭を洗い、浴槽の中に入った。冷えていた身体が暖かいお湯に温められる。鼻の下までお湯に浸かり、しっかりと体を温める。口から息を吹き出して泡を立てて遊ぶ。「子どもみたい」そう言って笑う佐助の顔が頭に浮かび、むっとしてその遊びを止めた。お湯に浸かって、そろそろ上がろうかなと考えているとだんだん眠気が襲ってきた。
(あー、また怒られちゃうな……)
でも、お風呂で寝るのはとても心地良い。だんだんと意識が遠のいていき、ニ人にお説教をされるのを覚悟して、わたしは意識を手放した。
意識が完全に落ちようとした瞬間、鼻の中にすごい勢いで水が入ってきた。痛い。わたしは、あまりの痛さに口を開けてしまった。すると、口内の中にも水が同じようにすごい勢いで、入ってくる。苦しい。息ができない。溺れる、と悟ったわたしは浴槽から出ようと、立とうとするが不思議なことに浴槽の底に届かなかった。息ができない苦しさから逃れられない。手足を懸命に動かしたが、ただ体力を消費するだけだった。身体がどんどん沈んでいく。
(わたし……お風呂で溺れるの……?)
苦しい。
危ないって言っていたのに、約束破ってごめんなさい。佐助。かすが。
意識が朦朧とする中、こちらに向かってくる佐助とかすがを見た気がした。幻想を見てしまっているのだろうか。
「ごめんなさい」
声に出すことはできなかったが、口を動かし、わたしの幻想の佐助とかすがにそう伝えた。限界がきたわたしはゆっくりと意識を手放した。
*
大将に頼まれた書状を奥州の竜の旦那に届け、任務が終わった俺は帰路についていた。
折角、奥州へとやってきたのに絃に会えなかった。甲斐を出発したのは昼前で空もまだ青かった。その青かった空は、今は橙色に染まっていた。足を止めることなく、そんな空を眺める。
「ったく……どうしてこんな時に絃を任務に出すかねぇ~。この日々の任務でボロボロに疲労した心を癒せると思ったのに……」
愚痴を零し、溜め息をつく。溜め息をつくと幸せが逃げるというが、それなら俺様の幸せはもう底を尽きているに決まっている。
ふと、前方に大きな池が見えた。その池の上を鼠色の烏に捕まり、奥州の城の方向に向かっている人影が見えた。
「お? 俺様ってばツイてるっ!」
それは、今まさに俺が会いたかった人物だった。俺は、飛び乗った木の枝に足を止めて呼び止めようと、声を張り上げた。
「おーい、絃……っ!? 絃ッ!!」
何の前触れも無く絃は烏から手が離れ、落下していった。大きな音を立てて、絃は池の中に落ちた。
任務で酷い怪我でも負ったのだろうか、そう考えるより先に俺は絃の後を追って池の中に飛び込んだ。すると俺と同じように池の中に飛び込む者がいた。
「かすが!?」
俺と同様に絃が池の中に落下するのを見たのか、かすがは必死の形相だった。
「いいから、早く引き上げるぞ」
口の動きで俺にそう告げたかすがは絃に手を伸ばしながら池の底に潜水した。俺も後を追い、深く深く潜水した。絃に手が届きそうなくらい近づいたとき、絃の口は、「ごめんなさい」と動いた。
(何が『ごめんなさい』だッ!)
絃の腕を掴み、ぐいっと引き寄せ、絃の腰に腕を回す。そこで気付いた。
「あれ? 何で絃、裸なの……?」
「今はそんなことどうでも良いだろ! 早く池から出るぞ!」
口の動きだけでかすがと会話を交わす。かすがも絃の腰に腕を回し、急いで池の外へと向かった。池から顔を出し、池に浮いたまま空気を肺に取り込む。いくら忍と言えどこんなに長い間水の中に潜水するのは苦しい。かすがも同じように苦しそうに新鮮な空気を取り込んでいる。
「絃っ! おいっ! 絃!」
頬を軽く叩きながら、名前を呼ぶ。顔色が悪い絃に血の気が引いていく。どうか俺達から離れでいかないでくれ。
「絃! 起きろッ!」
かすがも俺と同じように悲痛に名前を呼びながら、絃の肩を掴み、揺らす。すると、俺達の腕の中にいる絃は激しくせき込み飲み込んでしまった水を吐き出した。苦しそうにせき込む絃の背中を優しく撫でてやり、息が整うのを待った。
「……さ、すけ? かすが……?」
絃は苦しそうに肩で息をしながら、俺達の顔を見て名前を呼んだ。
「良かった……」
絃をそっと抱きしめる、赤子をあやすように背を撫でる。絃は、再びごめんなさいと小さく呟いて、俺の衣服をぎゅっと握りしめた。
「佐助、私は池にもう一度潜る。お前は絃を連れて池から上がれ」
「ああ」
池の中に潜るかすがを見て、俺は絃を抱きしめて池から上がった。絃は俺の衣服を握ったまま眠っている。先程と比べて顔色の良い顔で安らかに寝息を立てる絃にひどく安心して、深く溜め息が出た。無事なのはよかったのだが、どうして絃は裸なのだろうか。池の中に落ちてしまう前は、確かに服を着ていた。
「佐助、池の中には絃の服はなかった」
「そっか……裸、それに」
「傷と伊達の家紋の焼き痕がない…」
「うん」
そう。今目の前で眠っている絃には、俺達の知っている古傷と左腕に刻まれているはずの伊達の家紋がない。
誰かが絃に変化しているのか?
でも、自分の本能がこれは絃だと言っている。
「でもこの子は絃だ」
「ああ」
かすがも俺と同じことを思っていたようだった。
「何がどうなっているのかわからないけど、とりあえず絃を竜の旦那の城へ連れて行こう。ここからは一番そこが近い」
寝かせていた絃の膝裏と背に腕を回し、絃を抱きかかえる。着物を着せてやるのが一番良いのだが、生憎かすがも俺も持ち合わせていない。肌を隠すように絃を抱き直す。
「佐助、私は謙信様に書状を届けなければならない。お前に絃を預けるのは不本意だが頼んだ。謙信様に事情を話してから私もすぐに行く。」
「……不本意ってなんだよ」
「言葉通りの意味だ」
俺をいつものように冷たくあしらい、かすがは俺が抱える絃の頬を優しく撫でる。
「絃……」
愛おしそうに名前を呼ぶかすが。
「頼んだぞ。絃に何かあればお前を殺すからな」
先ほどの顔が嘘のように鋭い眼差しで俺を睨み付ける。
「かすがは相変わらずおっかないねー。そんなこと言われなくたって分かってる」
俺を睨むかすがに真剣な眼差し見つめる。
「当然だ」
そう言葉を残し、越後の龍の元へとかすがは消えた。俺も地面を蹴りあげ、再び奥州へと向かった
*
重たい瞼をゆっくりと持ち上げる。視界に入ったのは、木製の天井が見える。わたし達が住んでいるアパートはこんな天井ではなかったはず、そしてこんなに広くはなかった。
左手の暖かい温度に気づき、そちら側に目を向ける。
「絃……? 絃っ!!」
するとそこには、右目に眼帯を付けた男の人がいた。その人は、わたしの左手を握っている。左手の暖かい温度はその人だったらしい。その人は何度もわたしの名前を呼んだ。
「っ絃……!」
もう一度名前を呼ばれ、手を強く握られた。痛い。
「……だれ?」
「は……?」
わたしがそう言うと男の人は、目を見開いて瞳を細くした。どうしてこんなに驚くのだろうか。
「……どうして、わたしの名前を知っているの?」
「何言ってんだよ……! お前っ、俺がわかんねぇのか……!?」
疑問に思っていたことを男の人にぶつけると男の人の雰囲気が変わった。ぐいっと力強く肩を掴まれた。
「冗談言ってんだったら……叩き斬るぞ!?」
すごい形相で迫られ、肩をさらに強く掴まれた。痛い。
見たことがないあまりの迫力に本当に殺されると思ったわたしは恐怖でいっぱいになった。
「い、……嫌っ! 離してっ!」
男の人を突き飛ばそうと思っても力が敵わない。ますますその男の人が怖くなり、涙が溢れた。
「おいっ、絃! ふざけるのも良い加減にしろ!」
「やだ! 離して! ……っ佐助! かすが!」
涙で視界が歪むが男の人が怒っているのだけはわかった。わたしは大好きなニ人の名前を叫びながら怖くて怖くて暴れる。
「絃!」
「政宗様! 何をなされているのですか!」
後方から荒々しく襖を開く音が聞こえた。振り向くとそこには佐助と顔に傷がある男の人がいた。
「小十郎……」
顔に傷がある人の名前だろうか、眼帯の男の人はそう呟きわたしの肩を掴む手の力が少し緩んだ。そその隙に男の人を突き放して佐助の腕の中に飛び込んだ。
「さすけっ……佐助……!」
「なあに? どうしたの?」
佐助の酷く優しい声にわたしは落ち着いた。抱き締められながら背中を優しく撫でられる。
そういえば、わたしお風呂で溺れたんだった。
「……佐助、助けてくれてありがとう。ごめんなさい……」
「うん」
わたしがそう言うと優しくいつものように笑顔を浮かべてくれた。わたしは、ゆっくりとあたりを見渡した。畳、襖、掛け軸、そして眼帯の男の人と傷の人が着ているものは着物。自分の姿を足先から胸元まで見ると、自分も着物を着ていた。佐助の格好は、着物ではなく見たことのない服装。日本史の教科書で見たことある甲冑というのに似ているかもしれない。
「佐助、ここどこ?」
今度は疑問に思っていたことを佐助に投げかけた。すると佐助は、今度は苦笑いを浮かべた。
「やっぱりわかんないか……」
「Hey! どう言うことだ、猿!」
いきなり眼帯の人に声をかけられて、肩を震わせるわたしに佐助は大丈夫だよ、と告げて頭を撫でた。
「竜の旦那、右目の旦那。絃のことで話がある」
佐助は真剣な顔で不審そうにこちらを見ている男の二人へ向き直った。
End.