第10話 ニャパラッチ
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小判の記事は案の定不評だったらしく、悲しいことにまだまだ大スクープにはほど遠いようだ。まあ、奪衣婆の裸なんて見たって誰も喜ばないことは目に見えている。
「これで、しばらく静かになりますね。」
きっとこの件で懲りたでしょう、と重要書類に手を付ける鬼灯は雑誌の話を聞いてからやけにご機嫌で、意地の悪い人だと笑いが漏れてしまう。
彼はもう何時間も重要書類とにらめっこをしている。小判との一件で手が付けられなかった仕事の皺寄せが今来ていて、溜まった重要書類を朝から彼は渋い顔をして見つめ続けている。すっかり冷めきった彼の湯呑を手に取ると、新しい温かいお茶を入れて机の角に置いた。
「あぁ、すみません。」
「少し休憩しませんか?朝からずっと気を張っていては体が持ちませんよ。」
私にそう言われて、鬼灯はもう何時間も経っていることに気がついたのか、時計を見てから背骨を伸ばした。
「気がつきませんでした。もうお昼なんですね。」
「昼餉でも食べに行きましょうか。」
もう時計の針の短い方は頂点からだいぶ傾いている。
「え…食べにいかれてないんですか?」
「え…?あ、はい。一緒に食べに行かないんですか?」
その為に待っていたのに。あまりにも意外すぎる彼の反応に私自身も驚きを隠せない。
「いえ…行きましょう。」
彼が慌てて立ち上がると膝が机の端にぶつかったのか、ガタンっと机が大きく揺れた。その反動で入れたばかりのお茶が湯のみごと傾いた。
「あっ!」
心臓が跳ね上がって慌てて湯呑を両手で抑えると、雫一滴が机に落ちる程度で済んだ。その代わり、両手は熱々の湯呑を触ったので、当たり前のことだがとても熱い。
「重要書類なんですから、気をつけてください。」
彼らしくないミスに私は首を傾げた。普段の冷静さが微塵も感じられない。鬼灯様は「すみません」と蚊の鳴くような声で謝って、それから何かを考えているように黙り込んでしまった。
「鬼灯様?」
彼の不可思議な態度を怪しむように彼の顔を覗き込むと、あの独特な形の口から漏れだすように、彼の低い声が響いた。
「最近…」
「最近?」
そこで彼は言葉を切るとグッと押し黙ってしまった。
「なんでもありません。行きますよ?」
そこまで言ったなら続きを教えて欲しいところだが、それ以上は追求することはしなかった。彼は少々乱暴に重要書類を片付けて、その乱暴な手つきで私の腕を引いた。かなり焦りの見える彼の二歩後ろを歩く。
「一つ聞いていいですか?」
「なんですか?」
「まぁ、私も嫌だったんで正直ありがたかったのですが…。どうして私に取材を押し付けなかったのかな、と思って。貴方なら出来たはずです。それを逆に取材をするな、まで言って。」
あれ程までに取材を嫌がる彼なら、様々な手を使ってあの取材を断っただろう。その中で私に押し付けるという手も容易に考え付くはずだ。閻魔やシロ達に押し付けていたのなら、私にもその一言二言あってもよかったのではないだろうか。それが不可解で仕方がないのだ。
「それは…」
「それは?」
先ほどと言い、今日は鬼灯の話の歯切れが悪い。またそこまで言って押し黙ってしまうので悶々としてしまい、思わず私は流そうとする鬼灯の前に駆け出すと、大きく手を広げて彼の行く手を塞いだ。
「ちゃんと答えてください。」
「よろしいんですか?」
「今日、なんだかおかしいです。鬼灯様らしくありません。」
私が少し強めに言うと彼はしばらくまた黙ってしまった。そんな彼の様子が煩わしく感じてしまい、私は彼に詰め寄った。
「鬼灯様」
「知りませんよ?」
私が彼の答えを急かすように顔を覗き込むと、彼は宣戦布告とでも取れるような挑発的な顔をした。そこからが早かった。彼は強引に無防備な私の腕を引くと、広い廊下の壁に思い切り叩きつけた。
「ッつ!」
背中を強打して息が詰まり、声のない悲鳴が漏れる。今までに彼にここまで乱暴に扱われたことはない、と肺いっぱいにようやく息を吸い込みながら、酸素の薄い脳で考えた。
「今日の私がおかしいと貴方が感じているのに、私が感じないわけがない。」
目の前がチカチカと光り、背中の鈍痛に耐える私をそのまま彼は壁に押し付けて、その耳元へとその口を寄せた。
「ちょちょちょちょッ!ストップ!ストオオオオップ!」
私は瞬時に危機を悟り、彼の胸を両手で突っ張ると彼の接近を拒んだ。彼の急な行動に自分の心臓の音が頭の奥で聞こえる。
「嫌です。」
しかし彼はそんな私の抵抗にビクともせずにその厚い胸を押し付けた。ガクッと肘が折れ、それによって彼の美しい顔が一気に接近する。あまりの綺麗さに直視できず、顔を逸らす。というか、自分の平凡な顔をこんな至近距離で見られたくない。
「ダメですって…」
「どうして…?」
「…あッ…」
耳にふっと息がかかると体の底から震えた。彼の吐息交じりの声が鼓膜を揺るがし、同時に下腹部も震えるのを感じる。彼の腕がバランスを取るために私の頭上に着かれると、再び二人の距離が縮まり、胸と胸がくっついてしまいそうになる。今日に限って、巨乳でないことをありがたく思う。彼の熱い吐息が睫毛にかかり、一気に体が熱を上げる。
「ひ…人が来る…」
「見せつけましょう。そうすれば私と貴方の関係が周りに広まる。貴方に悪い虫もつかない。名案ですね。」
「悪案です!」
本当にこの状況を人に見られてしまったら、職場で密着する男女として、私だけでなく鬼灯の株さえ下げてしまうことになる。それは何としても逃れたい。人が来る前に何処からか逃げなければと考える。抵抗しても無駄なら逃げるしかない。長身の彼が壁に手を付くには脇から地面までの間があく。小柄な私ならその隙を抜けることができるかもしれない。
「鬼灯様!お遊びはこの辺にしましょう!」
「遊び?こんな状況でも遊びと語れる貴方の能天気さが羨ましい。」
鬼灯は私の言葉に、はあと深いため息をついた。ため息をつく時、人は自然と下を見てしまうものだ。これまで真っ直ぐに私を見つめていた鬼灯の視線が床に落ちた、その隙に私は体を丸くして彼の脇の下を通ろうとした。が、彼にそんな子供騙しのようなことは通用しない。
「白鷺さん」
彼の驚きの瞬発力。脇の下を通り抜ける一瞬のうちに、彼の腕が私の腰に回された。そしていとも簡単に私を元の場所へと引き戻してしまったのだ。
「や…ヤダ…」
「私からよくも逃げようと考えましたね。」
鬼灯の顔に影が差す。彼の絹の様に美しい黒髪の隙間から、額に青筋が浮かんでいるのが見える。
「おおおおお…怒っていらっしゃる⁉」
「黙ってください。」
鬼の形相の彼の顔が接近すると、再び睫毛にふっと息がかかって、彼との距離を理解せざるを得ず、顔に熱がこもり始める。
「一々可愛らしいというか、男心をくすぐるというか。おかげで気が気でないですよ。」
頭の先からつま先まで舐め回すような視線を感じ、さらに熱くなって顔を見られないように背ける。私の頭上に着けられている手が更に彼の接近を許し、既に彼の重低音の効いた声は直接脳を揺るがしているのかと錯覚させるほどである。自由に動くもう片方の鬼灯の手は私の頭を伝い頬を伝い、首、肩、胸、腹、尻にかけてをいやらしく撫でる。そして、私の身体の曲線を楽しんだ鬼灯は、最後にだらんと垂れ下がる私の右手をゆっくりと掴むと、指と指の間に自らの指を挟みこみ、きつく握り込んだ。
「貴方の質問に答えましょうか。どうして、取材を押し付けなかったのか。」
あまりの恥ずかしさに目の前が霞む私の耳元に、また口を寄せると、低い、低い声で囁いた。
「貴方の事を知っていいのは私だけです。誰にも教えたくはありません。小さなことも。例えそれが、趣味でも、特技でも、日頃のちょっとしたことでも、涙でも、笑顔でも…顔も声も何もかも…」
彼の緊迫した声に、彼の焦りを感じた。まるで私が誰かに奪われてしまうかのような、そんな焦りを感じて私は体の底からわなわなと震えた。なおも彼は私の逃げ道を奪うように、膝を私の両足の間に挟み込むと、腰と腰を密着させる。ずっと彼の表情は変わらないに、所々に感じる彼の焦りに妙な愛おしさを感じてしまい、意味もなく涙を流してしまった。それを彼は大きな手で拭うと私の頬を両手で掴んだ。
温かい。大きくて、少し骨ばっていてゴツゴツしてる。とても、温かい。
「貴方の全てを知って良いのは、私だけです。」
そう乱暴に言って彼は強引に私の頬を引き寄せると、唇を奪った。
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「これで、しばらく静かになりますね。」
きっとこの件で懲りたでしょう、と重要書類に手を付ける鬼灯は雑誌の話を聞いてからやけにご機嫌で、意地の悪い人だと笑いが漏れてしまう。
彼はもう何時間も重要書類とにらめっこをしている。小判との一件で手が付けられなかった仕事の皺寄せが今来ていて、溜まった重要書類を朝から彼は渋い顔をして見つめ続けている。すっかり冷めきった彼の湯呑を手に取ると、新しい温かいお茶を入れて机の角に置いた。
「あぁ、すみません。」
「少し休憩しませんか?朝からずっと気を張っていては体が持ちませんよ。」
私にそう言われて、鬼灯はもう何時間も経っていることに気がついたのか、時計を見てから背骨を伸ばした。
「気がつきませんでした。もうお昼なんですね。」
「昼餉でも食べに行きましょうか。」
もう時計の針の短い方は頂点からだいぶ傾いている。
「え…食べにいかれてないんですか?」
「え…?あ、はい。一緒に食べに行かないんですか?」
その為に待っていたのに。あまりにも意外すぎる彼の反応に私自身も驚きを隠せない。
「いえ…行きましょう。」
彼が慌てて立ち上がると膝が机の端にぶつかったのか、ガタンっと机が大きく揺れた。その反動で入れたばかりのお茶が湯のみごと傾いた。
「あっ!」
心臓が跳ね上がって慌てて湯呑を両手で抑えると、雫一滴が机に落ちる程度で済んだ。その代わり、両手は熱々の湯呑を触ったので、当たり前のことだがとても熱い。
「重要書類なんですから、気をつけてください。」
彼らしくないミスに私は首を傾げた。普段の冷静さが微塵も感じられない。鬼灯様は「すみません」と蚊の鳴くような声で謝って、それから何かを考えているように黙り込んでしまった。
「鬼灯様?」
彼の不可思議な態度を怪しむように彼の顔を覗き込むと、あの独特な形の口から漏れだすように、彼の低い声が響いた。
「最近…」
「最近?」
そこで彼は言葉を切るとグッと押し黙ってしまった。
「なんでもありません。行きますよ?」
そこまで言ったなら続きを教えて欲しいところだが、それ以上は追求することはしなかった。彼は少々乱暴に重要書類を片付けて、その乱暴な手つきで私の腕を引いた。かなり焦りの見える彼の二歩後ろを歩く。
「一つ聞いていいですか?」
「なんですか?」
「まぁ、私も嫌だったんで正直ありがたかったのですが…。どうして私に取材を押し付けなかったのかな、と思って。貴方なら出来たはずです。それを逆に取材をするな、まで言って。」
あれ程までに取材を嫌がる彼なら、様々な手を使ってあの取材を断っただろう。その中で私に押し付けるという手も容易に考え付くはずだ。閻魔やシロ達に押し付けていたのなら、私にもその一言二言あってもよかったのではないだろうか。それが不可解で仕方がないのだ。
「それは…」
「それは?」
先ほどと言い、今日は鬼灯の話の歯切れが悪い。またそこまで言って押し黙ってしまうので悶々としてしまい、思わず私は流そうとする鬼灯の前に駆け出すと、大きく手を広げて彼の行く手を塞いだ。
「ちゃんと答えてください。」
「よろしいんですか?」
「今日、なんだかおかしいです。鬼灯様らしくありません。」
私が少し強めに言うと彼はしばらくまた黙ってしまった。そんな彼の様子が煩わしく感じてしまい、私は彼に詰め寄った。
「鬼灯様」
「知りませんよ?」
私が彼の答えを急かすように顔を覗き込むと、彼は宣戦布告とでも取れるような挑発的な顔をした。そこからが早かった。彼は強引に無防備な私の腕を引くと、広い廊下の壁に思い切り叩きつけた。
「ッつ!」
背中を強打して息が詰まり、声のない悲鳴が漏れる。今までに彼にここまで乱暴に扱われたことはない、と肺いっぱいにようやく息を吸い込みながら、酸素の薄い脳で考えた。
「今日の私がおかしいと貴方が感じているのに、私が感じないわけがない。」
目の前がチカチカと光り、背中の鈍痛に耐える私をそのまま彼は壁に押し付けて、その耳元へとその口を寄せた。
「ちょちょちょちょッ!ストップ!ストオオオオップ!」
私は瞬時に危機を悟り、彼の胸を両手で突っ張ると彼の接近を拒んだ。彼の急な行動に自分の心臓の音が頭の奥で聞こえる。
「嫌です。」
しかし彼はそんな私の抵抗にビクともせずにその厚い胸を押し付けた。ガクッと肘が折れ、それによって彼の美しい顔が一気に接近する。あまりの綺麗さに直視できず、顔を逸らす。というか、自分の平凡な顔をこんな至近距離で見られたくない。
「ダメですって…」
「どうして…?」
「…あッ…」
耳にふっと息がかかると体の底から震えた。彼の吐息交じりの声が鼓膜を揺るがし、同時に下腹部も震えるのを感じる。彼の腕がバランスを取るために私の頭上に着かれると、再び二人の距離が縮まり、胸と胸がくっついてしまいそうになる。今日に限って、巨乳でないことをありがたく思う。彼の熱い吐息が睫毛にかかり、一気に体が熱を上げる。
「ひ…人が来る…」
「見せつけましょう。そうすれば私と貴方の関係が周りに広まる。貴方に悪い虫もつかない。名案ですね。」
「悪案です!」
本当にこの状況を人に見られてしまったら、職場で密着する男女として、私だけでなく鬼灯の株さえ下げてしまうことになる。それは何としても逃れたい。人が来る前に何処からか逃げなければと考える。抵抗しても無駄なら逃げるしかない。長身の彼が壁に手を付くには脇から地面までの間があく。小柄な私ならその隙を抜けることができるかもしれない。
「鬼灯様!お遊びはこの辺にしましょう!」
「遊び?こんな状況でも遊びと語れる貴方の能天気さが羨ましい。」
鬼灯は私の言葉に、はあと深いため息をついた。ため息をつく時、人は自然と下を見てしまうものだ。これまで真っ直ぐに私を見つめていた鬼灯の視線が床に落ちた、その隙に私は体を丸くして彼の脇の下を通ろうとした。が、彼にそんな子供騙しのようなことは通用しない。
「白鷺さん」
彼の驚きの瞬発力。脇の下を通り抜ける一瞬のうちに、彼の腕が私の腰に回された。そしていとも簡単に私を元の場所へと引き戻してしまったのだ。
「や…ヤダ…」
「私からよくも逃げようと考えましたね。」
鬼灯の顔に影が差す。彼の絹の様に美しい黒髪の隙間から、額に青筋が浮かんでいるのが見える。
「おおおおお…怒っていらっしゃる⁉」
「黙ってください。」
鬼の形相の彼の顔が接近すると、再び睫毛にふっと息がかかって、彼との距離を理解せざるを得ず、顔に熱がこもり始める。
「一々可愛らしいというか、男心をくすぐるというか。おかげで気が気でないですよ。」
頭の先からつま先まで舐め回すような視線を感じ、さらに熱くなって顔を見られないように背ける。私の頭上に着けられている手が更に彼の接近を許し、既に彼の重低音の効いた声は直接脳を揺るがしているのかと錯覚させるほどである。自由に動くもう片方の鬼灯の手は私の頭を伝い頬を伝い、首、肩、胸、腹、尻にかけてをいやらしく撫でる。そして、私の身体の曲線を楽しんだ鬼灯は、最後にだらんと垂れ下がる私の右手をゆっくりと掴むと、指と指の間に自らの指を挟みこみ、きつく握り込んだ。
「貴方の質問に答えましょうか。どうして、取材を押し付けなかったのか。」
あまりの恥ずかしさに目の前が霞む私の耳元に、また口を寄せると、低い、低い声で囁いた。
「貴方の事を知っていいのは私だけです。誰にも教えたくはありません。小さなことも。例えそれが、趣味でも、特技でも、日頃のちょっとしたことでも、涙でも、笑顔でも…顔も声も何もかも…」
彼の緊迫した声に、彼の焦りを感じた。まるで私が誰かに奪われてしまうかのような、そんな焦りを感じて私は体の底からわなわなと震えた。なおも彼は私の逃げ道を奪うように、膝を私の両足の間に挟み込むと、腰と腰を密着させる。ずっと彼の表情は変わらないに、所々に感じる彼の焦りに妙な愛おしさを感じてしまい、意味もなく涙を流してしまった。それを彼は大きな手で拭うと私の頬を両手で掴んだ。
温かい。大きくて、少し骨ばっていてゴツゴツしてる。とても、温かい。
「貴方の全てを知って良いのは、私だけです。」
そう乱暴に言って彼は強引に私の頬を引き寄せると、唇を奪った。
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