第9話 精神的運動会
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
不喜処を始めとする動物たちの競技も今年から開催された第二種目。その名も「もふもふ動物大集合!ワンワンパニック」なんとも鬼灯の好きそうな名前だ。闘犬には不喜処地獄から「向こう疵の狂犬」夜叉一、そして遠路はるばる出稼ぎに来た「タルタロスの熱き犬」ケロベロスの二頭が犬選された。
ケロベロスとはギリシャ神話における冥界の王ハデスの番犬である。一つの体に三つの頭のある猛犬だ。
そんな二頭に当たり前のことながら、
「あの…棄権します。俺には妻も子いるので」
と夜叉一が潔く棄権した。鬼灯は夜叉一に賢明な判断だと褒め(不服そうではあった)、その代わりに、
「ケロベロスさん、何か面白い小話でもどうぞ」
とあのケロベロスに無茶ぶりするのだから相変わらず流石なほどの冷徹さだと肩をすくめた。
他にも猿の組体操に、鳥達の魅惑的な応援歌、そしてブリッジで競争するエクソシスト徒競走と、面白い(?)競技が催された。
「…コレ、毎年やってるんスか?」
「やってるね。でも今年が変なんだよ。」
毎年医療部は白澤が担当している。これまでも何度も医療部は白澤にお願いしていたが、今回はこれまで連絡を取っていた鬼灯に代わり、今日に備えて白澤との連絡は私が取っていた。だから、大会中も医療部へこまめに連絡、相談、そして状況の聞き取りをしにいくのが、今日の私の仕事の一つである。
「あぁ、白澤様、桃太郎さん。お疲れ様です。」
更には今年には桃太郎という信頼できる人がいるんで、安心だ。
「あー白鷺ちゃーん。」
暇そうにしていた白澤が急に立ち上がると私に飛びついた。そしてその大きな体で私をホールドすると頬同士をこすり合わせた。
「痛い痛い痛い」
「お疲れ様ぁ~、怪我とかしてない?僕、白鷺ちゃんなら治療張り切っちゃうなー」
「ならどうぞ自分の頭を治療してやってください」
無理やりに引き剥がすと苦笑いの桃太郎に軽く会釈した。
「この運動会大丈夫なんですか?」
「心配するのはわかりますが…きっと鬼灯様の事ですから大丈夫ですよ。」
今桃太郎に投げかけられた言葉を、私は今までここにくるまでに、何人もの獄卒に言われた。
「でも…玉入れの玉なんか泥だんごっすよ…」
「アイツ、なに考えてるんだろうね。」
「あの人の考えなんて何百年経ってもわかりゃしませんよ。その点、私は諦めました。」
桃太郎と白澤の会話に、肩をすくめて乾いた笑い声を漏らした。
「なんだか本当に疲れてますね。あまり無理しないでくださいよ。」
桃太郎が身を案じてくれているのか、その言葉は私の胸を一発で貫いた。確かに、疲れているのは間違いない。これまでとは一新して新しい運動会にしようということを、今回の大会のコンセプトにした直後から、私も白澤だけでなく、様々なところへアポを取り、様々なものを用意し、今日に備えてきた。そして、今日である。ぐったりと疲れているところを見破られてしまうのは、自分の力不足だとは思うが、桃太郎のように優しい言葉をかけられてしまうと、嬉しい気持ちで胸が溢れてしまいそうだ。
「やっぱり大変な上司を持つ部下の疲れ切った心はその待遇の人でないとわかりませんよね。今度飲みに行きましょう。」
「そうですね。そうしましょう。」
二人の視線はそれぞれのちゃらんぽらんな上司に向けられる。私には一人のちゃらんぽらんと一人の変態がいるから大変だが、桃太郎は両方を兼ね備える凄い男を支えているのだから私も見習わなくてはいけない。とにかく近々本当に二人で飲みに行こう。
「えー、僕も連れてってよー。」
「「ダメです」」
桃太郎と白澤に医療部を任せて、本部に戻ると、
「鬼灯様、本当にこの運動会大丈夫なんですか?」
とまた医療部から戻ってくるまでの間に何十人もの獄卒に問われたことを代表して告げてみた。
「そうだよ…きついよコレ…」
閻魔も顔面蒼白で訴えるが鬼灯は何の慈悲もなく、
「なにを甘いことを」
と言ってのけた。
「地獄では強くナンボです。プラナリアよりタフなくらいでないと」
プラナリアを超えるタフさを持ち合わしている人はなかなかいない。鬼灯はまた容赦無く拡声器で自らの声を大きく広げた。
《最終種目、大玉転がし》
それは一体いつ作り上げたのか。大玉を自らが転がすのではなく転がる大玉を追いかける、そういった不思議な競技だが、それは所謂。
「残酷ピタ○ラスイッチ‼」
大きな鉄の塊の球は飛び込み台から落下すると下の板にぶち当たる。その板のテコの原理で倒れ始めた墓石を次々にドミノ形式で倒して行き、その先のレバーに衝突させる。
レバーはギロチンを落とす紐に繋がっており、巻かれた縄をギロチンが真っ二つに切る。するとその縄の先についた鉄の塊が落下し、これまたテコの原理で置かれた髑髏を飛ばし、先の鉄の球、そして銅の球、最後に木の球を、順序良く転がして行き、丸太に激突させる。
丸太は下の板に落下し、丸太が落ちると同時に注がれるように設定された油に濡れた巨大な玉にロウソクの火が付き、更にそれを支える縄まで燃え切る。支えを失った燃え盛る玉が最後に十字架に貼り付けられた獄卒に突進していく。
獄卒のそばには大量の油。あんなものに点火したら一溜まりもない。いくら鬼であろうと焼け死んでしまう。
しかし勢いを失うことのない燃え盛る球を誰も止めることはできなかった。
「うわぁぁぁあああああ」
獄卒の断末魔があたりに響き渡る。
「うわぁ、間に合わないっ!」
「誰か、早く助けて!」
閻魔と私が声を上げた。それは一瞬の出来事だった。
私の目で確認出来た範囲だと、渋々と金棒を手にした鬼灯が本部を飛び出すと、獄卒に迫り来る火の塊をすんでのところで、その金棒で叩き返したのだ。
その間、1秒にも満たない。そんな早業に獄卒は「おお…」と感嘆の声を上げた。
もちろん弾き返した玉はなんの恨みがあってか、閻魔に直撃した。狙ってやってるなら本当に凄い。
「…ったく…。明日の本番では一切助けませんからね。」
鬼灯のまさかの言葉にその場が凍りついた。
「本…番?」
「今日リハ?」
あまりの衝撃的な発言に一同は戸惑いを隠せずにぽかんとしているだけだった。
「精神的負担を伴うと言ったでしょう。」
鬼灯は金棒を構えてから、恐怖の一言を告げた。
「ほら、最初から!」
→後日談
ケロベロスとはギリシャ神話における冥界の王ハデスの番犬である。一つの体に三つの頭のある猛犬だ。
そんな二頭に当たり前のことながら、
「あの…棄権します。俺には妻も子いるので」
と夜叉一が潔く棄権した。鬼灯は夜叉一に賢明な判断だと褒め(不服そうではあった)、その代わりに、
「ケロベロスさん、何か面白い小話でもどうぞ」
とあのケロベロスに無茶ぶりするのだから相変わらず流石なほどの冷徹さだと肩をすくめた。
他にも猿の組体操に、鳥達の魅惑的な応援歌、そしてブリッジで競争するエクソシスト徒競走と、面白い(?)競技が催された。
「…コレ、毎年やってるんスか?」
「やってるね。でも今年が変なんだよ。」
毎年医療部は白澤が担当している。これまでも何度も医療部は白澤にお願いしていたが、今回はこれまで連絡を取っていた鬼灯に代わり、今日に備えて白澤との連絡は私が取っていた。だから、大会中も医療部へこまめに連絡、相談、そして状況の聞き取りをしにいくのが、今日の私の仕事の一つである。
「あぁ、白澤様、桃太郎さん。お疲れ様です。」
更には今年には桃太郎という信頼できる人がいるんで、安心だ。
「あー白鷺ちゃーん。」
暇そうにしていた白澤が急に立ち上がると私に飛びついた。そしてその大きな体で私をホールドすると頬同士をこすり合わせた。
「痛い痛い痛い」
「お疲れ様ぁ~、怪我とかしてない?僕、白鷺ちゃんなら治療張り切っちゃうなー」
「ならどうぞ自分の頭を治療してやってください」
無理やりに引き剥がすと苦笑いの桃太郎に軽く会釈した。
「この運動会大丈夫なんですか?」
「心配するのはわかりますが…きっと鬼灯様の事ですから大丈夫ですよ。」
今桃太郎に投げかけられた言葉を、私は今までここにくるまでに、何人もの獄卒に言われた。
「でも…玉入れの玉なんか泥だんごっすよ…」
「アイツ、なに考えてるんだろうね。」
「あの人の考えなんて何百年経ってもわかりゃしませんよ。その点、私は諦めました。」
桃太郎と白澤の会話に、肩をすくめて乾いた笑い声を漏らした。
「なんだか本当に疲れてますね。あまり無理しないでくださいよ。」
桃太郎が身を案じてくれているのか、その言葉は私の胸を一発で貫いた。確かに、疲れているのは間違いない。これまでとは一新して新しい運動会にしようということを、今回の大会のコンセプトにした直後から、私も白澤だけでなく、様々なところへアポを取り、様々なものを用意し、今日に備えてきた。そして、今日である。ぐったりと疲れているところを見破られてしまうのは、自分の力不足だとは思うが、桃太郎のように優しい言葉をかけられてしまうと、嬉しい気持ちで胸が溢れてしまいそうだ。
「やっぱり大変な上司を持つ部下の疲れ切った心はその待遇の人でないとわかりませんよね。今度飲みに行きましょう。」
「そうですね。そうしましょう。」
二人の視線はそれぞれのちゃらんぽらんな上司に向けられる。私には一人のちゃらんぽらんと一人の変態がいるから大変だが、桃太郎は両方を兼ね備える凄い男を支えているのだから私も見習わなくてはいけない。とにかく近々本当に二人で飲みに行こう。
「えー、僕も連れてってよー。」
「「ダメです」」
桃太郎と白澤に医療部を任せて、本部に戻ると、
「鬼灯様、本当にこの運動会大丈夫なんですか?」
とまた医療部から戻ってくるまでの間に何十人もの獄卒に問われたことを代表して告げてみた。
「そうだよ…きついよコレ…」
閻魔も顔面蒼白で訴えるが鬼灯は何の慈悲もなく、
「なにを甘いことを」
と言ってのけた。
「地獄では強くナンボです。プラナリアよりタフなくらいでないと」
プラナリアを超えるタフさを持ち合わしている人はなかなかいない。鬼灯はまた容赦無く拡声器で自らの声を大きく広げた。
《最終種目、大玉転がし》
それは一体いつ作り上げたのか。大玉を自らが転がすのではなく転がる大玉を追いかける、そういった不思議な競技だが、それは所謂。
「残酷ピタ○ラスイッチ‼」
大きな鉄の塊の球は飛び込み台から落下すると下の板にぶち当たる。その板のテコの原理で倒れ始めた墓石を次々にドミノ形式で倒して行き、その先のレバーに衝突させる。
レバーはギロチンを落とす紐に繋がっており、巻かれた縄をギロチンが真っ二つに切る。するとその縄の先についた鉄の塊が落下し、これまたテコの原理で置かれた髑髏を飛ばし、先の鉄の球、そして銅の球、最後に木の球を、順序良く転がして行き、丸太に激突させる。
丸太は下の板に落下し、丸太が落ちると同時に注がれるように設定された油に濡れた巨大な玉にロウソクの火が付き、更にそれを支える縄まで燃え切る。支えを失った燃え盛る玉が最後に十字架に貼り付けられた獄卒に突進していく。
獄卒のそばには大量の油。あんなものに点火したら一溜まりもない。いくら鬼であろうと焼け死んでしまう。
しかし勢いを失うことのない燃え盛る球を誰も止めることはできなかった。
「うわぁぁぁあああああ」
獄卒の断末魔があたりに響き渡る。
「うわぁ、間に合わないっ!」
「誰か、早く助けて!」
閻魔と私が声を上げた。それは一瞬の出来事だった。
私の目で確認出来た範囲だと、渋々と金棒を手にした鬼灯が本部を飛び出すと、獄卒に迫り来る火の塊をすんでのところで、その金棒で叩き返したのだ。
その間、1秒にも満たない。そんな早業に獄卒は「おお…」と感嘆の声を上げた。
もちろん弾き返した玉はなんの恨みがあってか、閻魔に直撃した。狙ってやってるなら本当に凄い。
「…ったく…。明日の本番では一切助けませんからね。」
鬼灯のまさかの言葉にその場が凍りついた。
「本…番?」
「今日リハ?」
あまりの衝撃的な発言に一同は戸惑いを隠せずにぽかんとしているだけだった。
「精神的負担を伴うと言ったでしょう。」
鬼灯は金棒を構えてから、恐怖の一言を告げた。
「ほら、最初から!」
→後日談