第9話 精神的運動会
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「諸君、今年もこの大会がやってきました。」
針山、血の池。
広い地獄にパンパンとピストルの音が響く。少量の火薬の匂いが私の鼻を刺した。
「獄卒大運動会、新卒も先輩も一丸となって楽しんでください。」
毎年恒例のこの行事は、毎年閻魔の挨拶によって開会を宣言される。閻魔がマイクを下げるとぞろぞろと集まった獄卒が一斉に拍手した。これ程までに鬼が集まると拍手の音もなかなか大きい。広い地獄に人手不足なく務めるには1000人以上の鬼が必要となる。さらに不喜処地獄など動物がいるので、本部側に立つ私は、閻魔を挟んで向こう側に見える大量の獄卒に蟻の行列を思い出してしまった。
「さーてあとはゆっくり観戦しよう。今年は鬼灯君が大会委員長だっけ?」
本部で待っていた鬼灯と私は閻魔に軽く会釈を返した。
「はい、まぁこの運動会も今年で100回目。ベテランは飽きていると思うので…一工夫加えるのに苦労しました。」
「本当?どんなのだろ、楽しみだね。」
「「スポーツは筋肉」と思っている方も多いですからね、そこから見直しました。」
鬼灯のやることだからきっとえげつない地獄絵図が描かれるのだろうと思ったが、ここが地獄だったと思い直して言葉を飲み込んだ。代わりに肩をすくめて笑う。
「白鷺ちゃんは?種目にでるの?」
「はい、本部でお手伝いをしながら出れる競技は出ることになってます。現に次の種目にでますしね。」
鬼灯が閻魔と私の会話をよそにアナウンス用の拡声器に電源を入れた。「あーあー」と拡声器の調子を確認する良い声が会場に響く。
《第一種目、借り物競争》
私の出場は2レース目だ。1レース目にはあの地獄のチップとデール、茄子と唐瓜が出場している。
「あっ!おーいシラ様ぁー!」
スタート地点から手を振る茄子に手を振り返す。
「茄子さーん。がんばってくださいね!唐瓜さんもねー!」
本部から声を張り上げると、ふたりの「はーい」という返事が返ってきて思わずクスクスと笑ってしまった。可愛い。
「ヨーイ…」
ーードンッ
とスタートの合図としてなったのは可愛いピストルなんてものじゃない。大柄な男が抱えるのにやっとなバズーカ。
《さぁ、始まりました。注目の第一種目!》
「どうでもいいけど、何あのスタート合図。」
拡声器に声を吹き込む鬼灯に閻魔が慌てて問いかけるが、鬼灯は表情を変えずあっけらかんとして、レースの様子を伺っている。私もなかなかに驚いてしまった。
「生ぬるいライカンピストルはやめてバズーカにしました。迫力あるでしょう。」
「うん…イヤ…あのバズーカ撃ったコがすごいよね…。」
驚いたのは私だけでなく、レース中の獄卒ももちろんであった。
何名かはスタート地点で腰を抜かしてしまったようで泡を吹いている人も居る。
《獄卒がそんなことでどうするんですか。》
拡声器が拾う声に悪意を感じて私は思わず鬼灯の後ろ姿を恐怖の目で見てしまった。
「厳しいなこの大会⁉」
「ここは地獄なんですよ。この機会にヌルい奴は叩き直します。」
スパルタだ。昭和のスポコン漫画か。
一番お題の紙に辿り着いたのは唐瓜だった。続いて茄子。
「よーし、一番乗りだ。借り物のお題は…」
そう言って拾い上げた真っ白な紙の真ん中には大きな字で「好きな異性」と書かれてある。
「公開処刑だっっっ!」
「え?何これ⁉」
「ヤダー!」
次々に獄卒が声をあげる。
《今年の運動会は全体を通して精神的に負担を伴います。さぁ、張り切ってどうぞ。》
「はりきれません!」
唐瓜の怒声が響く。確かに私もあっち側ならそうなる。
「ちょっと待ってください、鬼灯様。まさか、2レース目もあんな感じですか?」
「もちろんです。」
他人事ではなかった。
「頑張ってェ、新卒ちゃん」
応援席では衆合地獄の獄卒が集まって華やかに競技中の選手を応援してる。その中でもひときわ目立つのは、お香さん。可愛らしくポンポンをフリフリ、唐瓜を応援する。可愛いのに何故か色気がある。咄嗟に自分の胸と彼女の胸を見比べて、
「色気の本性は胸なのか…」
一人でガッカリして。
「わかりやすいねあの子」
閻魔が落ち着きのない唐瓜を見てまるで親が我が子を見るようにポツリと言う。
《言っちゃいなさいよ唐瓜さん。そして玉砕すればいい》
「ヒィィィィ、鬼の中の鬼!」
《若いうちのこういう刺激が脳の活性化に繋がるのです。》
「脳は活性化されても心は崩壊寸前です!」
鬼灯と唐瓜の会話からして、彼はどうもお香さんに気があるようだ。あのような年頃の子は大人の女性に憧れるのはわかるが、唐瓜には元々備わる性の癖があるような気がする。
「私なんかなんの躊躇いもなく、愛を囁けますよ。ね、白鷺さん。」
「そうですね、あなたには恥じらいを持って頂きたいくらいです。」
鬼灯のねっとりとした視線を感じながらも、手で軽く視線を遮り、レースの様子を見守る。多くの獄卒がそうこうしているうちに、早くも一人目の獄卒がゴールテープを切った。
《おっと、そうこうしている間に茄子さんがゴールしました。さて、お題は?》
一番乗りでゴールに足を踏み込んだ茄子が、お題を聞かれて「はい!」と大きく掲げたのは髪の毛の塊…ではなくて、
「か…カツラ?」
お題の紙には堂々と、「誰かのヅラ」と書いてある。
《素晴らしい、合格です。》
鬼灯が拡声器越しに感嘆の声を上げた。誰もが触れることの出来ないタブーの究極、カツラの有無について何の躊躇いもなく踏み込める人物など、この世にいるのかと思ってしまうが、まさに今この時に茄子が掲げているものを見れば、そのような禁忌にさえ遠慮なく触れてしまう、所謂無神経な人物も存在するのだと、呆れを越して逆に尊敬してしまう。
「わぁい、やったよー。」
「ヒィィィィ、バレてないと思ってたのに…」
「なんの躊躇もなくもぎ取って行ったぞ…あいつ…」
スゲェ…と観覧する獄卒がどよめく。
「流石というか…なんというか…」
茄子の無神経な部分は以前から感じられていたが、ここまで証明されるともう何も言えなくなってしまう。逆に潔すぎて、称賛の拍手さえ送ってあげたくなる。
「あれ…あの子っていつもあんな感じなの?」
閻魔に聞かれて私はぎこちなく頷いた。
「躊躇いがないというか、どこか抜けているというか…」
でもあれこそ茄子だ、と私はもぎ取られたカツラの持ち主に小さく手を合わせた。
「白鷺さん、次はあなたの番ですよ。」
と鬼灯に促されてスタート地点を見ると、すでに集まりつつある出場選手に私は慌てて本部を飛び出した。
「い…いってきます!」
「「いってらっしゃーい」」
閻魔と鬼灯に見送られてスタート地点に着くと、走るからと足首と手首をくねくねと回した。借り物競争か。1レース目で、大方このレースの目的がわかったから気を強くしていかなければ、唐瓜のようになることになる。
《位置についてよーい》
ーードンッ
とバスーカが放たれると同時に数名がスタートから飛び出した。2回目とあってその大砲の音に腰を抜かす人は少なくなったが、何名かはその場にへたり込むと抜けた腰を支えている。
いくらか走ったところに数枚の紙が置かれている。数名が前でそれぞれ拾った紙を開いては、ひっと声をあげている。
「今一番嫌いな人って…」
「うわぁぁぁぁ、浮気相手なんてぇぇぇぇぇ!」
それぞれ精神的に非常にキツイお題を出されているようだ。私もやっとそこに混じると紙を拾った。中に書かれた文。
「あ、これ行ける。」
私は頭を抱える獄卒たちを尻目に、本部で拡声器を抱え、楽しそうにしている鬼灯にかけよった。
「鬼灯様、一緒に来てください。」
「私ですか?」
「はい。」
「いやしかし、私もここを離れることはできませんし。」
どこか恍惚に顔を染めて鬼灯がボソボソという。何を期待しているのかわからないが、期待しない方がいい。
「わかりました、じゃ少し違うけど、白澤様に…」
「行きましょう、白鷺さん」
単純だな。拡声器を放り出し、私の手を取ってゴールに走り出す鬼灯の背中に私は苦笑した。
そのまま誰にも抜かされないで一位でゴールした私たち。ゴールで待ち構えていた茄子に飛びつかれて、私は彼のふわふわの頭を撫でた。
「で、お題は何だったんですか?」
鬼灯に急かされるように言われて私はニッコリと微笑み、手に握っていた紙を鼻の先に突き出した。そこには大きな字で「今すぐ殴りたい上司」そう書かれているのである。
「いやぁ、本当は白澤様と迷ったんですけど…白澤様は上司ではないと思ったんで…。大体上司は鬼灯様と閻魔大王くらいだし。」
鬼灯は黙って私の話を聞いていたが、やがてわなわなと震え出すと、問答無用で私の手からその紙を強引に奪うと、
「私の期待を返せ!」
ビリビリに破いてしまった。
「ちょっと!何するんですか!」
「てっきり好きな異性だとか、愛してる異性だとか、せめてでも大好きな異性とかで呼んでくださればいいものを!」
「言ってること全部おんなじですから!"せめて"の意味が間違ってます!」
不機嫌な鬼灯とにらみ合う。お互い大人気ないことはわかっているが、ここは引き下がれない。
「私の期待を返してください!」
「お断りします!」
競技場に怒鳴り合う声が10分ほど響いたとか。
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針山、血の池。
広い地獄にパンパンとピストルの音が響く。少量の火薬の匂いが私の鼻を刺した。
「獄卒大運動会、新卒も先輩も一丸となって楽しんでください。」
毎年恒例のこの行事は、毎年閻魔の挨拶によって開会を宣言される。閻魔がマイクを下げるとぞろぞろと集まった獄卒が一斉に拍手した。これ程までに鬼が集まると拍手の音もなかなか大きい。広い地獄に人手不足なく務めるには1000人以上の鬼が必要となる。さらに不喜処地獄など動物がいるので、本部側に立つ私は、閻魔を挟んで向こう側に見える大量の獄卒に蟻の行列を思い出してしまった。
「さーてあとはゆっくり観戦しよう。今年は鬼灯君が大会委員長だっけ?」
本部で待っていた鬼灯と私は閻魔に軽く会釈を返した。
「はい、まぁこの運動会も今年で100回目。ベテランは飽きていると思うので…一工夫加えるのに苦労しました。」
「本当?どんなのだろ、楽しみだね。」
「「スポーツは筋肉」と思っている方も多いですからね、そこから見直しました。」
鬼灯のやることだからきっとえげつない地獄絵図が描かれるのだろうと思ったが、ここが地獄だったと思い直して言葉を飲み込んだ。代わりに肩をすくめて笑う。
「白鷺ちゃんは?種目にでるの?」
「はい、本部でお手伝いをしながら出れる競技は出ることになってます。現に次の種目にでますしね。」
鬼灯が閻魔と私の会話をよそにアナウンス用の拡声器に電源を入れた。「あーあー」と拡声器の調子を確認する良い声が会場に響く。
《第一種目、借り物競争》
私の出場は2レース目だ。1レース目にはあの地獄のチップとデール、茄子と唐瓜が出場している。
「あっ!おーいシラ様ぁー!」
スタート地点から手を振る茄子に手を振り返す。
「茄子さーん。がんばってくださいね!唐瓜さんもねー!」
本部から声を張り上げると、ふたりの「はーい」という返事が返ってきて思わずクスクスと笑ってしまった。可愛い。
「ヨーイ…」
ーードンッ
とスタートの合図としてなったのは可愛いピストルなんてものじゃない。大柄な男が抱えるのにやっとなバズーカ。
《さぁ、始まりました。注目の第一種目!》
「どうでもいいけど、何あのスタート合図。」
拡声器に声を吹き込む鬼灯に閻魔が慌てて問いかけるが、鬼灯は表情を変えずあっけらかんとして、レースの様子を伺っている。私もなかなかに驚いてしまった。
「生ぬるいライカンピストルはやめてバズーカにしました。迫力あるでしょう。」
「うん…イヤ…あのバズーカ撃ったコがすごいよね…。」
驚いたのは私だけでなく、レース中の獄卒ももちろんであった。
何名かはスタート地点で腰を抜かしてしまったようで泡を吹いている人も居る。
《獄卒がそんなことでどうするんですか。》
拡声器が拾う声に悪意を感じて私は思わず鬼灯の後ろ姿を恐怖の目で見てしまった。
「厳しいなこの大会⁉」
「ここは地獄なんですよ。この機会にヌルい奴は叩き直します。」
スパルタだ。昭和のスポコン漫画か。
一番お題の紙に辿り着いたのは唐瓜だった。続いて茄子。
「よーし、一番乗りだ。借り物のお題は…」
そう言って拾い上げた真っ白な紙の真ん中には大きな字で「好きな異性」と書かれてある。
「公開処刑だっっっ!」
「え?何これ⁉」
「ヤダー!」
次々に獄卒が声をあげる。
《今年の運動会は全体を通して精神的に負担を伴います。さぁ、張り切ってどうぞ。》
「はりきれません!」
唐瓜の怒声が響く。確かに私もあっち側ならそうなる。
「ちょっと待ってください、鬼灯様。まさか、2レース目もあんな感じですか?」
「もちろんです。」
他人事ではなかった。
「頑張ってェ、新卒ちゃん」
応援席では衆合地獄の獄卒が集まって華やかに競技中の選手を応援してる。その中でもひときわ目立つのは、お香さん。可愛らしくポンポンをフリフリ、唐瓜を応援する。可愛いのに何故か色気がある。咄嗟に自分の胸と彼女の胸を見比べて、
「色気の本性は胸なのか…」
一人でガッカリして。
「わかりやすいねあの子」
閻魔が落ち着きのない唐瓜を見てまるで親が我が子を見るようにポツリと言う。
《言っちゃいなさいよ唐瓜さん。そして玉砕すればいい》
「ヒィィィィ、鬼の中の鬼!」
《若いうちのこういう刺激が脳の活性化に繋がるのです。》
「脳は活性化されても心は崩壊寸前です!」
鬼灯と唐瓜の会話からして、彼はどうもお香さんに気があるようだ。あのような年頃の子は大人の女性に憧れるのはわかるが、唐瓜には元々備わる性の癖があるような気がする。
「私なんかなんの躊躇いもなく、愛を囁けますよ。ね、白鷺さん。」
「そうですね、あなたには恥じらいを持って頂きたいくらいです。」
鬼灯のねっとりとした視線を感じながらも、手で軽く視線を遮り、レースの様子を見守る。多くの獄卒がそうこうしているうちに、早くも一人目の獄卒がゴールテープを切った。
《おっと、そうこうしている間に茄子さんがゴールしました。さて、お題は?》
一番乗りでゴールに足を踏み込んだ茄子が、お題を聞かれて「はい!」と大きく掲げたのは髪の毛の塊…ではなくて、
「か…カツラ?」
お題の紙には堂々と、「誰かのヅラ」と書いてある。
《素晴らしい、合格です。》
鬼灯が拡声器越しに感嘆の声を上げた。誰もが触れることの出来ないタブーの究極、カツラの有無について何の躊躇いもなく踏み込める人物など、この世にいるのかと思ってしまうが、まさに今この時に茄子が掲げているものを見れば、そのような禁忌にさえ遠慮なく触れてしまう、所謂無神経な人物も存在するのだと、呆れを越して逆に尊敬してしまう。
「わぁい、やったよー。」
「ヒィィィィ、バレてないと思ってたのに…」
「なんの躊躇もなくもぎ取って行ったぞ…あいつ…」
スゲェ…と観覧する獄卒がどよめく。
「流石というか…なんというか…」
茄子の無神経な部分は以前から感じられていたが、ここまで証明されるともう何も言えなくなってしまう。逆に潔すぎて、称賛の拍手さえ送ってあげたくなる。
「あれ…あの子っていつもあんな感じなの?」
閻魔に聞かれて私はぎこちなく頷いた。
「躊躇いがないというか、どこか抜けているというか…」
でもあれこそ茄子だ、と私はもぎ取られたカツラの持ち主に小さく手を合わせた。
「白鷺さん、次はあなたの番ですよ。」
と鬼灯に促されてスタート地点を見ると、すでに集まりつつある出場選手に私は慌てて本部を飛び出した。
「い…いってきます!」
「「いってらっしゃーい」」
閻魔と鬼灯に見送られてスタート地点に着くと、走るからと足首と手首をくねくねと回した。借り物競争か。1レース目で、大方このレースの目的がわかったから気を強くしていかなければ、唐瓜のようになることになる。
《位置についてよーい》
ーードンッ
とバスーカが放たれると同時に数名がスタートから飛び出した。2回目とあってその大砲の音に腰を抜かす人は少なくなったが、何名かはその場にへたり込むと抜けた腰を支えている。
いくらか走ったところに数枚の紙が置かれている。数名が前でそれぞれ拾った紙を開いては、ひっと声をあげている。
「今一番嫌いな人って…」
「うわぁぁぁぁ、浮気相手なんてぇぇぇぇぇ!」
それぞれ精神的に非常にキツイお題を出されているようだ。私もやっとそこに混じると紙を拾った。中に書かれた文。
「あ、これ行ける。」
私は頭を抱える獄卒たちを尻目に、本部で拡声器を抱え、楽しそうにしている鬼灯にかけよった。
「鬼灯様、一緒に来てください。」
「私ですか?」
「はい。」
「いやしかし、私もここを離れることはできませんし。」
どこか恍惚に顔を染めて鬼灯がボソボソという。何を期待しているのかわからないが、期待しない方がいい。
「わかりました、じゃ少し違うけど、白澤様に…」
「行きましょう、白鷺さん」
単純だな。拡声器を放り出し、私の手を取ってゴールに走り出す鬼灯の背中に私は苦笑した。
そのまま誰にも抜かされないで一位でゴールした私たち。ゴールで待ち構えていた茄子に飛びつかれて、私は彼のふわふわの頭を撫でた。
「で、お題は何だったんですか?」
鬼灯に急かされるように言われて私はニッコリと微笑み、手に握っていた紙を鼻の先に突き出した。そこには大きな字で「今すぐ殴りたい上司」そう書かれているのである。
「いやぁ、本当は白澤様と迷ったんですけど…白澤様は上司ではないと思ったんで…。大体上司は鬼灯様と閻魔大王くらいだし。」
鬼灯は黙って私の話を聞いていたが、やがてわなわなと震え出すと、問答無用で私の手からその紙を強引に奪うと、
「私の期待を返せ!」
ビリビリに破いてしまった。
「ちょっと!何するんですか!」
「てっきり好きな異性だとか、愛してる異性だとか、せめてでも大好きな異性とかで呼んでくださればいいものを!」
「言ってること全部おんなじですから!"せめて"の意味が間違ってます!」
不機嫌な鬼灯とにらみ合う。お互い大人気ないことはわかっているが、ここは引き下がれない。
「私の期待を返してください!」
「お断りします!」
競技場に怒鳴り合う声が10分ほど響いたとか。
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