第8話 龍虎の二重奏
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「大っきな乳は包まれたい、小っちゃな乳は包んであげたい。」
私が胸の話はもうこりごりだと言ったのに、白澤はなおも胸の話を続ける。それにしても、なんてアホらしい願望だ。白澤はまた私に振り返ると、手のひらをこちらに向けるので、キッと睨みつけておいた。それ以上やるとセクハラで訴えますよ、と言わんばかりに。
そんな白澤の背後で金属のこすれる音がした。
「ほらよ、包まれろ」
そこにいたのは鎖に繋がれた大きな大きな牛。鬼灯をも遥かに超える巨体に、逞しい角をこさえ、つぶらな瞳が艶やかに白澤をみつめている。鬼灯がその牛の鎖を手放すと同時に、地を揺らすほどの大きな声でもぉーっと一声鳴くと、どしどしと白澤に走り寄った。
「ウオオオオオオオオオオオオオッ」
今までいやらしい顔つきで鼻の下を伸ばしていたというのに、顔色をころっと変えて白澤が逃げ惑う。いい気味だ。
「見事な巨乳の上、4つもありますよ。」
「多けりゃいいってもんじゃない!」
ついにその大きく筋肉に包まれた両腕に捕らえられた白澤。それを面白おかしそうに見る鬼灯。
「男性の女性に求める一般的な理想像をまとめると「牛」になると思うんです。」
包容力
巨乳、豊満
母のようにおっとり
「…確かに言われてみればなぁ。」
「曲解だ!」
牛はうっとりと白澤を抱擁し、白澤は念願かなって4つもの大きな胸に包み込まれている。放心状態の白澤を何度も何度も強く抱擁する牛を眺めて、桃太郎はポツリと声を漏らした。
「…なんか変な牛だなぁ…」
「変…って。」
顔を青白く変色させた白澤は蚊の鳴くような声で囁く。
「…変も何も彼女が牛頭だからね。」
「え⁉これが牛頭?」
私の何倍もある大きな体に大きな胸、インパクトの強い彼女が牛頭。彼女はどうも同じ偶蹄類の白澤を気に入っているようで、やっとのことすり抜けた白澤に、
「白澤様どう?アタシ。とりあえず毎日牛乳なら出るわよ。頑張れば練乳もイケる気がする。」
「「どう?」って言われても…」
偶蹄類(牛?)の中での口説き文句なのだろうか。いや、確かにどうと聞かれても返事に困るが、牛乳の出る乳があるだけいいかもしれない。
「きっと良妻ですよ。マタドールが向かってきても守ってもらえますよ。」
「そんな機会多分ない」
妙に牛頭を勧める鬼灯とボロボロの白澤がしばらく沈黙の中睨み合うと、
「「本当、コイツとだけは一ミリも分かり合えません/ないよ」」
と同時に呟いた。
「シンクロした。」
「シンクロしましたね。」
キリキリとお互いの頬をつねり合う二人の大の大人を見て、呆れを越して笑えてきてしまう。桃太郎と二人でまた顔を見合わせて苦笑いを零す。この人たちは本当に仲が悪いのか、悪くないのかがわからない。
「牛頭~」
そこに地面を揺らして駆け寄ってきたのはもう一人の門番。ヒヒインと声をあげて鳴けば、その辺りに大きくこだました。
「ちゃんとお仕事なさってよ」
牛頭と同じ大きな体に逞しい前脚。つぶらな瞳に、美しく長い睫毛、手入れのされた鬣が美しい。
「あ、彼女が馬頭です。」
「ゴズメズ?」
シロが二頭の前にいくとクンクンと鼻を揺らした。
「そうよぉ、アタシ達、地獄の門番、牛頭と馬頭」
彼女たちがともに体を揺するとシロが声を上げた。
「すごーい!息ピッタリ!グリとグラみたい!」
そんなシロの言葉に二頭は自慢げに鳴いた。綺麗な長いまつ毛をバサバサと上下させながら彼女達が手を取り合う。
「恋バナとかも二人でするもんね」
「ねーっ!」
「草食獣のはずなのになんか肉食っぽい…」
きゃっきゃと盛り上がる二人に桃太郎は言葉を漏らした。
「まぁ、昔からあの方達は変わりませんね。」
私は鬼灯と白澤と言葉を交わす二頭にくすりと笑いかけた。昔から本当に何も変わらない。大きくて、強くて、優しい、お姉さんたち。
「あら?白鷺ちゃんじゃなーい!」
「ウソッ?あらやだ、久しぶりー!」
大きな人たちに囲まれていた私にやっと気がついた二頭は、私にどすどすと歩み寄ると屈んで私と目を合わせた。屈んでも見上げてしまうけれど。
「お久しぶりです。お元気そうで何よりです。」
「白鷺ちゃんも仕事が変わったって聞いて寂しかったわ」
馬頭が頭をわしわしと蹄で撫でる。ちょっと痛い。
「白鷺ちゃん、知り合いなの?」
白澤が後ろから抱きつくように覆いかぶさる。
「あ…はい。昔から仲良くしていただいてます。」
鬼灯により引き剥がされ、顔の形が変わるかと思う位殴りつけられている白澤にそう答える。
「お仕事うまくいってる?」
「そこそこですね。前の仕事も良かったですが、今の仕事の方が私にはあっているようで、なかなか天職ですよ。」
フラフラと立ち上がる白澤に冷たい視線を送り続ける鬼灯の後ろ姿を見て私はクスリと笑った。
あの人があの時、声をかけてくれなければ、大釜という狭い視野の中で過ごすだけの人生になってたのかもしれない。今は天国やEU地獄などを行き来でき、地獄でもたくさんの経歴の持ち主や役職の方と語り合えて、視野だけでなく私の価値観というのも広がり、変わったと思う。なかなかの天職ではなく、本当に天職である。なんてこと鬼灯本人に言えるわけないけど。
「で、どうなの?」
牛頭が首を傾げる。
「どう…とは?」
牛頭と馬頭が顔を見合わせるとクスクスと笑った。
「鬼灯様に惚れて、後を追って今の仕事についたんでしょ?」
「…はい?」
なんだそれ。私は身に覚えのない解釈に裏返った声を出した。
「意外に白鷺ちゃんも大胆なのねって話を二人でしてたのよ。」
「そ…それどこから聞いたんですか?」
「風の噂?」
噂でそんなのが流れているなんて知らなかった。ただそんな事実どこにもない。めちゃくちゃに迫られて、閻魔大王に土下座させるとまで言い出したのだから仕方なくであったはずだ。例え今彼に私が好意を抱いていたとしても、まだ会って日も浅く、あれ程のアプローチに恐怖すら覚えていたあの頃の私がそんなことになるはずがない。
「白鷺さん、そんなことなら早く言ってくだされば…」
「ご…誤解です!」
牛頭馬頭との話を聞いていたのか、無表情だが興奮気味の鬼灯が近づいてくるのを押し返して、牛頭馬頭に両手を振った。
「そうなの?」
「あの…そんな噂私自身も初めて聞きました…。ま…真に受けないでください!」
「残念だわ」
二人はクスクスと再び楽しそうに笑った。
→
私が胸の話はもうこりごりだと言ったのに、白澤はなおも胸の話を続ける。それにしても、なんてアホらしい願望だ。白澤はまた私に振り返ると、手のひらをこちらに向けるので、キッと睨みつけておいた。それ以上やるとセクハラで訴えますよ、と言わんばかりに。
そんな白澤の背後で金属のこすれる音がした。
「ほらよ、包まれろ」
そこにいたのは鎖に繋がれた大きな大きな牛。鬼灯をも遥かに超える巨体に、逞しい角をこさえ、つぶらな瞳が艶やかに白澤をみつめている。鬼灯がその牛の鎖を手放すと同時に、地を揺らすほどの大きな声でもぉーっと一声鳴くと、どしどしと白澤に走り寄った。
「ウオオオオオオオオオオオオオッ」
今までいやらしい顔つきで鼻の下を伸ばしていたというのに、顔色をころっと変えて白澤が逃げ惑う。いい気味だ。
「見事な巨乳の上、4つもありますよ。」
「多けりゃいいってもんじゃない!」
ついにその大きく筋肉に包まれた両腕に捕らえられた白澤。それを面白おかしそうに見る鬼灯。
「男性の女性に求める一般的な理想像をまとめると「牛」になると思うんです。」
包容力
巨乳、豊満
母のようにおっとり
「…確かに言われてみればなぁ。」
「曲解だ!」
牛はうっとりと白澤を抱擁し、白澤は念願かなって4つもの大きな胸に包み込まれている。放心状態の白澤を何度も何度も強く抱擁する牛を眺めて、桃太郎はポツリと声を漏らした。
「…なんか変な牛だなぁ…」
「変…って。」
顔を青白く変色させた白澤は蚊の鳴くような声で囁く。
「…変も何も彼女が牛頭だからね。」
「え⁉これが牛頭?」
私の何倍もある大きな体に大きな胸、インパクトの強い彼女が牛頭。彼女はどうも同じ偶蹄類の白澤を気に入っているようで、やっとのことすり抜けた白澤に、
「白澤様どう?アタシ。とりあえず毎日牛乳なら出るわよ。頑張れば練乳もイケる気がする。」
「「どう?」って言われても…」
偶蹄類(牛?)の中での口説き文句なのだろうか。いや、確かにどうと聞かれても返事に困るが、牛乳の出る乳があるだけいいかもしれない。
「きっと良妻ですよ。マタドールが向かってきても守ってもらえますよ。」
「そんな機会多分ない」
妙に牛頭を勧める鬼灯とボロボロの白澤がしばらく沈黙の中睨み合うと、
「「本当、コイツとだけは一ミリも分かり合えません/ないよ」」
と同時に呟いた。
「シンクロした。」
「シンクロしましたね。」
キリキリとお互いの頬をつねり合う二人の大の大人を見て、呆れを越して笑えてきてしまう。桃太郎と二人でまた顔を見合わせて苦笑いを零す。この人たちは本当に仲が悪いのか、悪くないのかがわからない。
「牛頭~」
そこに地面を揺らして駆け寄ってきたのはもう一人の門番。ヒヒインと声をあげて鳴けば、その辺りに大きくこだました。
「ちゃんとお仕事なさってよ」
牛頭と同じ大きな体に逞しい前脚。つぶらな瞳に、美しく長い睫毛、手入れのされた鬣が美しい。
「あ、彼女が馬頭です。」
「ゴズメズ?」
シロが二頭の前にいくとクンクンと鼻を揺らした。
「そうよぉ、アタシ達、地獄の門番、牛頭と馬頭」
彼女たちがともに体を揺するとシロが声を上げた。
「すごーい!息ピッタリ!グリとグラみたい!」
そんなシロの言葉に二頭は自慢げに鳴いた。綺麗な長いまつ毛をバサバサと上下させながら彼女達が手を取り合う。
「恋バナとかも二人でするもんね」
「ねーっ!」
「草食獣のはずなのになんか肉食っぽい…」
きゃっきゃと盛り上がる二人に桃太郎は言葉を漏らした。
「まぁ、昔からあの方達は変わりませんね。」
私は鬼灯と白澤と言葉を交わす二頭にくすりと笑いかけた。昔から本当に何も変わらない。大きくて、強くて、優しい、お姉さんたち。
「あら?白鷺ちゃんじゃなーい!」
「ウソッ?あらやだ、久しぶりー!」
大きな人たちに囲まれていた私にやっと気がついた二頭は、私にどすどすと歩み寄ると屈んで私と目を合わせた。屈んでも見上げてしまうけれど。
「お久しぶりです。お元気そうで何よりです。」
「白鷺ちゃんも仕事が変わったって聞いて寂しかったわ」
馬頭が頭をわしわしと蹄で撫でる。ちょっと痛い。
「白鷺ちゃん、知り合いなの?」
白澤が後ろから抱きつくように覆いかぶさる。
「あ…はい。昔から仲良くしていただいてます。」
鬼灯により引き剥がされ、顔の形が変わるかと思う位殴りつけられている白澤にそう答える。
「お仕事うまくいってる?」
「そこそこですね。前の仕事も良かったですが、今の仕事の方が私にはあっているようで、なかなか天職ですよ。」
フラフラと立ち上がる白澤に冷たい視線を送り続ける鬼灯の後ろ姿を見て私はクスリと笑った。
あの人があの時、声をかけてくれなければ、大釜という狭い視野の中で過ごすだけの人生になってたのかもしれない。今は天国やEU地獄などを行き来でき、地獄でもたくさんの経歴の持ち主や役職の方と語り合えて、視野だけでなく私の価値観というのも広がり、変わったと思う。なかなかの天職ではなく、本当に天職である。なんてこと鬼灯本人に言えるわけないけど。
「で、どうなの?」
牛頭が首を傾げる。
「どう…とは?」
牛頭と馬頭が顔を見合わせるとクスクスと笑った。
「鬼灯様に惚れて、後を追って今の仕事についたんでしょ?」
「…はい?」
なんだそれ。私は身に覚えのない解釈に裏返った声を出した。
「意外に白鷺ちゃんも大胆なのねって話を二人でしてたのよ。」
「そ…それどこから聞いたんですか?」
「風の噂?」
噂でそんなのが流れているなんて知らなかった。ただそんな事実どこにもない。めちゃくちゃに迫られて、閻魔大王に土下座させるとまで言い出したのだから仕方なくであったはずだ。例え今彼に私が好意を抱いていたとしても、まだ会って日も浅く、あれ程のアプローチに恐怖すら覚えていたあの頃の私がそんなことになるはずがない。
「白鷺さん、そんなことなら早く言ってくだされば…」
「ご…誤解です!」
牛頭馬頭との話を聞いていたのか、無表情だが興奮気味の鬼灯が近づいてくるのを押し返して、牛頭馬頭に両手を振った。
「そうなの?」
「あの…そんな噂私自身も初めて聞きました…。ま…真に受けないでください!」
「残念だわ」
二人はクスクスと再び楽しそうに笑った。
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