第8話 龍虎の二重奏
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「うぇ…何あれ、気持ち悪っ…」
柱の装飾を見てシロが声を漏らした。
「あれは監視カメラの役割ですよ。門番がいるくらいですから、亡者が逃げたしたり、仮死状態でまだ生きることのできる人などが迷い込んだりしないようにするんです。」
指を指した先の私の顔ほどある大きな瞳がギョロリとこちらを見た。
「へぇー。すごいね。」
「私はこの装飾が結構お気に入りですよ?地獄らしいというか、なんというか。」
柱の一本一本につけられた大きな眼球は前を通る度に、ギョロリギョロリと私たちを追った。規格外の巨大な眼球は一体誰のものなのか、どこから持ってきたのか、考えれば考える程おぞましく、それが逆に地獄らしさを感じさせる。
「地獄は独特の風潮があって、このようなインパクトのある装飾は多くあります。観光スポットにもなるくらい有名な所もありますよ。」
鬼灯の豆知識を聞きながら、一本一本の柱に意味もなく掌を当てて歩いた。太くて丈夫な柱は手が当たっても空洞のない無機質な音がした。
「…クンクン…あっ!」
シロが急に辺りを嗅ぎ始めると急に走り出した。私と鬼灯は顔を見合わせるとゆっくりと肩を並べて彼の後を追った。
「ハッハッ…桃太郎!」
シロが声高々とそう叫んだ。まさかと思ったが、まさに向かいから見えてきたのは二人の見覚えのある顔だった。
「おぉ!シロ!」
その一人桃太郎がシロにかけよる。桃太郎の大きな手がシロの頭や顎を撫で、それに合わせるようにシロもまたくるりとお腹を天に向け、その親密さを体で表現している。やはり共に鬼退治をしたからなのか、彼らの絆は何年経っても変わらない。微笑ましいその光景に私は小さく笑みをこぼした。
その隣で足の踏みしめる音がした。
「え?」
「ソイヤッ」
ゴキャッと骨と骨がぶつかる鈍い音がしたと思うと、もう一人の男、白澤の顔面に鬼灯の逞しい右の拳が叩き込まれた。白澤の身体は弧を描くように華麗に宙を舞い、少し離れた先に見事に顔面から床に落ちた。
「なんの挨拶もなくそれかコノヤロウ!」
鼻から大量の血を吹いているというのに、騒げるほどの力があるところが、やはり神獣なんだなと思う。鼻がぶつかりあうほどの近さでにらみ合う鬼灯と白澤。
「いや、どうせ貴方と会ったら最後こうなるんですから、先に一発かましとこうと思って…」
「80年代のヤンキーかお前は!」
何でわざわざ絡むんだろう…。
シロも桃太郎も同じことを思ったのか、三人(二人と一匹)で顔を見合わせて苦笑いをこぼした。
「というか、白鷺ちゃんだー!」
鼻血を振りまきながら、白澤は鬼灯の側を通って私のそばまで来ると、思い切り私を抱きしめて頬ずりをした。
「い…痛いです。あと、血が…」
真っ白な白衣に血のシミがつきそうだ。あと、このままだと私の着物にまで彼の鼻血がついてしまう。急いで手拭いを取り出すと鼻と口を覆った。全力で。
「いや、死ぬから」
「神獣ですから、簡単には死にませんよね。」
白澤は手拭いを片手で抑えて首を傾げた。
「また、借りて良いの?」
「はい。構いません。」
「また返すよ。前の分もまだ返せてないもんね。またうちにおいで。」
そして彼は私の耳元に口を近づけるとこう続けた。
「泊まっていくといい、もちろん寝かしはしないけどね。」
彼の言葉にほんのり熱を持った私の耳たぶに、白澤はチュッと唇をつけた。が、その瞬間また白澤の体が舞った。鬼灯が拳を振りかざして、もう一度腹立たしい男に制裁を加えようとしている。
「ストップ、ストップ!鬼灯様!もう良いですから、これ以上の血祭りは勘弁してください!」
必死に制止を促すと、鬼灯は渋々拳を下ろした。白澤も相変わらず学習しないというか。呆れてしまう。
「ったぁ…なんだよ…。ったく…胸糞悪いよ。さっさと用済ませて地獄名物の花街にでもいこうよ。」
「そんな所があるんスか?」
立ち上がり、白衣の土をはたきながら白澤がぼそぼそと文句を垂れる。桃太郎は聞き覚えのない言葉に首を傾げた。
「あるよー、そりゃもう、ぱっつんぱっつんのおねーちゃんがいっぱいの」
「へぇ…」
花街…地獄名称では衆合地獄。衆合地獄の性質上、女獄卒が多いからか、なぜか徐々に水商売や風俗の店が集まってしまった。
「貴方、女性なら手当たり次第ですか」
白澤の嬉しそうな表情に、鬼灯が冷たい視線を送る。
「人聞きが悪いな。ストライクゾーンが広大って言ってよ。」
それは無理がある、と口から漏れそうになった言葉をぐっと噛み締めて飲み込む。白澤は悪気もなく肩をすくめた。
「まー、乳はあるに越したこたァないね。」
「乳」
白澤の言葉に私がつぶやいた時、鬼灯と白澤が一度にこちらを見た。同じ顔がこちらを向くのはもはや一種のホラーだ。白澤はしばらく私に穴を開けるかのよう見つめると、半笑いで私の肩に手を置いた。
「どんまい。」
「なんのどんまいですか。バカにしてるんですか。」
「昔は微乳が美とされてましたから。落ち込まないでください。」
「フォローですか?それが貴方のフォローなんですか⁉」
ちくしょう・・・二人ともがっつり私の胸を見ている。確かに小さい乳に間違いはないが、そう妙に慰められると心底腹立つ。二人のいやらしく、かつ哀れなものを見るような眼から逃れるように、私は自身の胸を守るように自分の肩を両手で抱いた。
「まあね、おっきいのも、ちっちゃいのもどっちも大好きだよ。」
手をワキワキさせながらジリジリと近づいてくる白澤から逃れると、桃太郎の後ろに隠れた。
「大丈夫ですよ。乳の大きさは関係ありませんから。」
桃太郎が囁く。この中で一番良い人かもしれない。
「もしかしたら着痩せするタイプかもしれないもんね」
白澤がニヤニヤ笑う。手のひらがこちらを向いていて、少し丸みを帯びたものを包むように手のひらをすぼめているので、そっと胸の前を腕で隠す。
「ね、少しだけ確認させてよ。一揉み、一揉みでいいからさ!」
「やめてください!あっち行って!」
白澤の魔の手から逃れようと、桃太郎の背中にさらに隠れる。桃太郎の大きく広い背中を盾にするために、更にその背に近づき、体を密着させた。
「あっ…」
急に桃太郎が艶やかな声を上げた。白澤を睨みつけていた目を彼の横顔に向けると、桃太郎の顔は耳まで赤くなっている。
「あー!桃タローくん、ずるい!僕も!僕も!」
「桃太郎さん!そこを退きなさい!今すぐに!」
鬼灯と白澤が必死になっている様子を見て、瞬時に自分の仕出かしたことに気がついた。白澤から逃れようと桃太郎の後ろに隠れようとすればするほど、私の胸が彼の背中に押し付けられていることを。
「ごめんなさい!」
慌てて桃太郎から離れるように、飛び退く。
「こちらこそッ!ごちそうさまです…!あっ違う!すいません!」
桃太郎の顔が真っ赤に染まっている。私も顔から火が出るくらい真っ赤になった顔を着物の袖で隠しながら、「やっちゃった」とその場にしゃがみこんでしまった。こんなはしたないことを、今までしたことはない。淑女として気が抜けているのかもしれない。気を引き締めなくては、と自身の行動を省みる。
「で、桃タローくん。どうだった?柔らかい?」
「え…ええ⁉」
「大きさは!小さいですか!大きいですか!」
「え…その…思ったよりは…」
耳を塞ぐと指の間から桃太郎に詰問する白澤と鬼灯の下品な声が聞こえた。
「やめてください!もう胸の話はこりごりです!!!」
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柱の装飾を見てシロが声を漏らした。
「あれは監視カメラの役割ですよ。門番がいるくらいですから、亡者が逃げたしたり、仮死状態でまだ生きることのできる人などが迷い込んだりしないようにするんです。」
指を指した先の私の顔ほどある大きな瞳がギョロリとこちらを見た。
「へぇー。すごいね。」
「私はこの装飾が結構お気に入りですよ?地獄らしいというか、なんというか。」
柱の一本一本につけられた大きな眼球は前を通る度に、ギョロリギョロリと私たちを追った。規格外の巨大な眼球は一体誰のものなのか、どこから持ってきたのか、考えれば考える程おぞましく、それが逆に地獄らしさを感じさせる。
「地獄は独特の風潮があって、このようなインパクトのある装飾は多くあります。観光スポットにもなるくらい有名な所もありますよ。」
鬼灯の豆知識を聞きながら、一本一本の柱に意味もなく掌を当てて歩いた。太くて丈夫な柱は手が当たっても空洞のない無機質な音がした。
「…クンクン…あっ!」
シロが急に辺りを嗅ぎ始めると急に走り出した。私と鬼灯は顔を見合わせるとゆっくりと肩を並べて彼の後を追った。
「ハッハッ…桃太郎!」
シロが声高々とそう叫んだ。まさかと思ったが、まさに向かいから見えてきたのは二人の見覚えのある顔だった。
「おぉ!シロ!」
その一人桃太郎がシロにかけよる。桃太郎の大きな手がシロの頭や顎を撫で、それに合わせるようにシロもまたくるりとお腹を天に向け、その親密さを体で表現している。やはり共に鬼退治をしたからなのか、彼らの絆は何年経っても変わらない。微笑ましいその光景に私は小さく笑みをこぼした。
その隣で足の踏みしめる音がした。
「え?」
「ソイヤッ」
ゴキャッと骨と骨がぶつかる鈍い音がしたと思うと、もう一人の男、白澤の顔面に鬼灯の逞しい右の拳が叩き込まれた。白澤の身体は弧を描くように華麗に宙を舞い、少し離れた先に見事に顔面から床に落ちた。
「なんの挨拶もなくそれかコノヤロウ!」
鼻から大量の血を吹いているというのに、騒げるほどの力があるところが、やはり神獣なんだなと思う。鼻がぶつかりあうほどの近さでにらみ合う鬼灯と白澤。
「いや、どうせ貴方と会ったら最後こうなるんですから、先に一発かましとこうと思って…」
「80年代のヤンキーかお前は!」
何でわざわざ絡むんだろう…。
シロも桃太郎も同じことを思ったのか、三人(二人と一匹)で顔を見合わせて苦笑いをこぼした。
「というか、白鷺ちゃんだー!」
鼻血を振りまきながら、白澤は鬼灯の側を通って私のそばまで来ると、思い切り私を抱きしめて頬ずりをした。
「い…痛いです。あと、血が…」
真っ白な白衣に血のシミがつきそうだ。あと、このままだと私の着物にまで彼の鼻血がついてしまう。急いで手拭いを取り出すと鼻と口を覆った。全力で。
「いや、死ぬから」
「神獣ですから、簡単には死にませんよね。」
白澤は手拭いを片手で抑えて首を傾げた。
「また、借りて良いの?」
「はい。構いません。」
「また返すよ。前の分もまだ返せてないもんね。またうちにおいで。」
そして彼は私の耳元に口を近づけるとこう続けた。
「泊まっていくといい、もちろん寝かしはしないけどね。」
彼の言葉にほんのり熱を持った私の耳たぶに、白澤はチュッと唇をつけた。が、その瞬間また白澤の体が舞った。鬼灯が拳を振りかざして、もう一度腹立たしい男に制裁を加えようとしている。
「ストップ、ストップ!鬼灯様!もう良いですから、これ以上の血祭りは勘弁してください!」
必死に制止を促すと、鬼灯は渋々拳を下ろした。白澤も相変わらず学習しないというか。呆れてしまう。
「ったぁ…なんだよ…。ったく…胸糞悪いよ。さっさと用済ませて地獄名物の花街にでもいこうよ。」
「そんな所があるんスか?」
立ち上がり、白衣の土をはたきながら白澤がぼそぼそと文句を垂れる。桃太郎は聞き覚えのない言葉に首を傾げた。
「あるよー、そりゃもう、ぱっつんぱっつんのおねーちゃんがいっぱいの」
「へぇ…」
花街…地獄名称では衆合地獄。衆合地獄の性質上、女獄卒が多いからか、なぜか徐々に水商売や風俗の店が集まってしまった。
「貴方、女性なら手当たり次第ですか」
白澤の嬉しそうな表情に、鬼灯が冷たい視線を送る。
「人聞きが悪いな。ストライクゾーンが広大って言ってよ。」
それは無理がある、と口から漏れそうになった言葉をぐっと噛み締めて飲み込む。白澤は悪気もなく肩をすくめた。
「まー、乳はあるに越したこたァないね。」
「乳」
白澤の言葉に私がつぶやいた時、鬼灯と白澤が一度にこちらを見た。同じ顔がこちらを向くのはもはや一種のホラーだ。白澤はしばらく私に穴を開けるかのよう見つめると、半笑いで私の肩に手を置いた。
「どんまい。」
「なんのどんまいですか。バカにしてるんですか。」
「昔は微乳が美とされてましたから。落ち込まないでください。」
「フォローですか?それが貴方のフォローなんですか⁉」
ちくしょう・・・二人ともがっつり私の胸を見ている。確かに小さい乳に間違いはないが、そう妙に慰められると心底腹立つ。二人のいやらしく、かつ哀れなものを見るような眼から逃れるように、私は自身の胸を守るように自分の肩を両手で抱いた。
「まあね、おっきいのも、ちっちゃいのもどっちも大好きだよ。」
手をワキワキさせながらジリジリと近づいてくる白澤から逃れると、桃太郎の後ろに隠れた。
「大丈夫ですよ。乳の大きさは関係ありませんから。」
桃太郎が囁く。この中で一番良い人かもしれない。
「もしかしたら着痩せするタイプかもしれないもんね」
白澤がニヤニヤ笑う。手のひらがこちらを向いていて、少し丸みを帯びたものを包むように手のひらをすぼめているので、そっと胸の前を腕で隠す。
「ね、少しだけ確認させてよ。一揉み、一揉みでいいからさ!」
「やめてください!あっち行って!」
白澤の魔の手から逃れようと、桃太郎の背中にさらに隠れる。桃太郎の大きく広い背中を盾にするために、更にその背に近づき、体を密着させた。
「あっ…」
急に桃太郎が艶やかな声を上げた。白澤を睨みつけていた目を彼の横顔に向けると、桃太郎の顔は耳まで赤くなっている。
「あー!桃タローくん、ずるい!僕も!僕も!」
「桃太郎さん!そこを退きなさい!今すぐに!」
鬼灯と白澤が必死になっている様子を見て、瞬時に自分の仕出かしたことに気がついた。白澤から逃れようと桃太郎の後ろに隠れようとすればするほど、私の胸が彼の背中に押し付けられていることを。
「ごめんなさい!」
慌てて桃太郎から離れるように、飛び退く。
「こちらこそッ!ごちそうさまです…!あっ違う!すいません!」
桃太郎の顔が真っ赤に染まっている。私も顔から火が出るくらい真っ赤になった顔を着物の袖で隠しながら、「やっちゃった」とその場にしゃがみこんでしまった。こんなはしたないことを、今までしたことはない。淑女として気が抜けているのかもしれない。気を引き締めなくては、と自身の行動を省みる。
「で、桃タローくん。どうだった?柔らかい?」
「え…ええ⁉」
「大きさは!小さいですか!大きいですか!」
「え…その…思ったよりは…」
耳を塞ぐと指の間から桃太郎に詰問する白澤と鬼灯の下品な声が聞こえた。
「やめてください!もう胸の話はこりごりです!!!」
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