第7話 三匹が逝く!
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某日。今日は閻魔の計らいにより鬼灯は休みである。その代わりに、いつもは二人で分配している大量の仕事を私一人でこなさなければならない。もうこの仕事に就いてからしばらく経つものの、やはり鬼灯がいないと不安ではあるし、結構な負担である。だが、ここ二日徹夜続きで満身創痍だった彼の姿を思い出せば、私の今日の仕事など楽なものである。
「閻魔大王、地獄の視察終わりました。不喜処の方も従業員不足も解消されましたし、黒縄地獄も財政安定とのことです。ただ、衆合地獄の方は逆に従業員が多すぎて他に回してくれ、との声も上がっております。」
あとは針地獄の数本が折れているので直す経費を落とす件、大釜の付喪神がうるさいので何とかしてほしいなどの苦情が出ている件など、視察中に見られた問題点の報告を終えると、背伸びを
して閻魔の机の上に資料をおいた。
「ありがとう、お疲れ様。いやぁ、鬼灯君がいなくてもしっかりした第二補佐官がいれば安心だね。いつどちらかが欠けても安泰だ。」
「どちらとも欠けるとは思いませんけどね。」
両者とも心身ともに丈夫だから、と言いかけたが、目の下に真っ黒な隈をこさえた昨日の鬼灯の姿を思い出して、言葉を飲み込んだ。そんな談話をしていると目の端に白い塊が横切ったので、咄嗟にそちらを向いた。
「あれ、シロさん、柿助さん、ルリオさん。どうしたんでしょう。」
「あぁ、なんか。鬼灯君と話がしたいんだけど、鬼灯君寝ちゃってて。」
閻魔の顎髭をさする姿を見ながら、私は苦笑いを零す。寝ている鬼灯の所にいこうとするその勇気に拍手を送りたい。私ならそんな危険は冒したくないと思うも、彼らの後ろ姿がビクビクしているように見え、放っておくこともできない。鬼灯はたとえ寝起きでも動物に手を上げたりはしない。わかっているものの、三匹の獣が肩を小さく丸めながら歩く後姿に、私は小さくため息を漏らした。
「閻魔大王。休憩頂いて良いですか?」
「うん、いいけど…。」
「君も行くの?」と言いたげに私の顔を伺う閻魔に、ニコリと一つ笑みを残して、私はビクビクと鬼灯の部屋に入っていく動物たちの背を追った。
ここで改めて説明をしておくと、鬼灯の部屋は廊下の突き当たりにある。私の部屋はと言うと、その突き当たりを右に曲がって、ぶ厚い頑丈な壁を一枚はさんだ鬼灯の部屋の右隣にある。閻魔殿の中には、いつでも地獄内で問題が起こったときに瞬時に駆け付け、判断できるよう閻魔大王を始め、官吏が在中している。つまり、私と鬼灯は一つ屋根の下、日々一緒に寝泊まりをしていることになる。
見慣れた鬼灯の部屋の中にこっそりと入っていく犬猿雉の後ろを追っていく。
「結構収集癖があるタイプなんだな」
「わ、何これ」
三匹は初めて見た鬼灯の部屋の中を見回すと、彼の散らかった部屋と収集癖に驚きを隠せないでいる。鬼灯を起こさないようにコソコソと息を潜めて話をしている彼らに気付かれないように、開きっ放しされた扉の隙間からそっと部屋の中へ入ると、物音を立てないように彼らの後ろに近づいた。そして声色と音量をできるだけ低くして囁いた。
「何やってるんですか?」
「……っっっ!」
私の声に見事にビクンと跳ね上がった三匹は声のない悲鳴を上げた。
「しー」
慌てて今にも叫び出しそうなシロの口を後ろから押さえつけて、人差し指を口元にあてた。
「なんだ、白鷺様か」
「脅かさないでよぉ…」
今にも心臓の音がこちらにも聞こえてきそうなほど、驚いた表情をした柿助がため息をつくと、それに合わせてシロもため息交じりに呟いた。「ごめんなさい」とクスクスと笑うと腰を上げて部屋を見渡した。
久々に彼の部屋に足を踏み入れたが、それにしても相変わらず汚い。以前鬼灯がオーストラリアに行ったあの時に私は徹底的にこの部屋を掃除したと言うのに、全くもって維持されていない。漢方や他にも多種多様な物事を調べることが好きなのは結構だが、それとこれとは違う。自分の隣の部屋が、これほど散らかっているとなんとも複雑な気持ちである。
そんな風に思っていると急にベッドの上の鬼灯がゴロンと寝返りをうった。
「…っ!」
「…っ!なんだ、寝返りか。ビックリした。」
三匹と一緒に息を飲んだが、彼の目を覚ます気配のないその寝顔に安心して、ベッドの端に腰掛けた。
「黙ってたら、素敵な人なのに。」
無防備に寝顔を見せる彼に少しの愛らしさを感じながら、頬に張り付いた髪の毛を一束とってやった。
「見て見て!アハハ、頬に跡ついてる。」
シロが鬼灯の頬についた枕の跡を小さな肉球で触れた。
「そうか、うつ伏せにはなれないんだな」
「え?なんで?」
「そりゃ、構造的に」
ルリオが自分の額を見るように上を向く。確かにこの額の角では枕に穴を開けてしまう。私は左右についているのであまり問題がないが一本角の彼のはうつぶせが出来ないのだと改めて考えたが、そういえば私の角は取り外しが可能であることを思い出し、私と比べてはいけないと肩をすくめた。
「そうか、じゃあ「覗き穴からスパイ」とかできないのか…」
「まず、そんな機会ないですから」
「あ、でももうひとつ穴を開ければ頭が固定されて、むしろ楽じゃない?」
「うん、もう一つ開けてる時点でターゲットにバレるけどな…」
やはり鬼灯のこの角は、一本角のない我々にはどうも不便なようだ。
規則正しく寝息を立てる鬼灯の顔をじっくりと眺めていると、つられたように三匹も一緒に見つめ始める。目の下の隈は寝ていても取れはしないようだ。僅かにやつれた顔を私はそっと撫でた。寝ているからか顔は熱い。跳ねた髪の毛が彼の熟睡さを物語っている。
「お疲れ…なんだね…」
「やっぱり起こすのよそうよ…」
「そうだな…」
三匹にも良心はあるようで、彼を無理矢理起こすことを断念したようだ。うん、それがいい。私もそう思う。
→
「閻魔大王、地獄の視察終わりました。不喜処の方も従業員不足も解消されましたし、黒縄地獄も財政安定とのことです。ただ、衆合地獄の方は逆に従業員が多すぎて他に回してくれ、との声も上がっております。」
あとは針地獄の数本が折れているので直す経費を落とす件、大釜の付喪神がうるさいので何とかしてほしいなどの苦情が出ている件など、視察中に見られた問題点の報告を終えると、背伸びを
して閻魔の机の上に資料をおいた。
「ありがとう、お疲れ様。いやぁ、鬼灯君がいなくてもしっかりした第二補佐官がいれば安心だね。いつどちらかが欠けても安泰だ。」
「どちらとも欠けるとは思いませんけどね。」
両者とも心身ともに丈夫だから、と言いかけたが、目の下に真っ黒な隈をこさえた昨日の鬼灯の姿を思い出して、言葉を飲み込んだ。そんな談話をしていると目の端に白い塊が横切ったので、咄嗟にそちらを向いた。
「あれ、シロさん、柿助さん、ルリオさん。どうしたんでしょう。」
「あぁ、なんか。鬼灯君と話がしたいんだけど、鬼灯君寝ちゃってて。」
閻魔の顎髭をさする姿を見ながら、私は苦笑いを零す。寝ている鬼灯の所にいこうとするその勇気に拍手を送りたい。私ならそんな危険は冒したくないと思うも、彼らの後ろ姿がビクビクしているように見え、放っておくこともできない。鬼灯はたとえ寝起きでも動物に手を上げたりはしない。わかっているものの、三匹の獣が肩を小さく丸めながら歩く後姿に、私は小さくため息を漏らした。
「閻魔大王。休憩頂いて良いですか?」
「うん、いいけど…。」
「君も行くの?」と言いたげに私の顔を伺う閻魔に、ニコリと一つ笑みを残して、私はビクビクと鬼灯の部屋に入っていく動物たちの背を追った。
ここで改めて説明をしておくと、鬼灯の部屋は廊下の突き当たりにある。私の部屋はと言うと、その突き当たりを右に曲がって、ぶ厚い頑丈な壁を一枚はさんだ鬼灯の部屋の右隣にある。閻魔殿の中には、いつでも地獄内で問題が起こったときに瞬時に駆け付け、判断できるよう閻魔大王を始め、官吏が在中している。つまり、私と鬼灯は一つ屋根の下、日々一緒に寝泊まりをしていることになる。
見慣れた鬼灯の部屋の中にこっそりと入っていく犬猿雉の後ろを追っていく。
「結構収集癖があるタイプなんだな」
「わ、何これ」
三匹は初めて見た鬼灯の部屋の中を見回すと、彼の散らかった部屋と収集癖に驚きを隠せないでいる。鬼灯を起こさないようにコソコソと息を潜めて話をしている彼らに気付かれないように、開きっ放しされた扉の隙間からそっと部屋の中へ入ると、物音を立てないように彼らの後ろに近づいた。そして声色と音量をできるだけ低くして囁いた。
「何やってるんですか?」
「……っっっ!」
私の声に見事にビクンと跳ね上がった三匹は声のない悲鳴を上げた。
「しー」
慌てて今にも叫び出しそうなシロの口を後ろから押さえつけて、人差し指を口元にあてた。
「なんだ、白鷺様か」
「脅かさないでよぉ…」
今にも心臓の音がこちらにも聞こえてきそうなほど、驚いた表情をした柿助がため息をつくと、それに合わせてシロもため息交じりに呟いた。「ごめんなさい」とクスクスと笑うと腰を上げて部屋を見渡した。
久々に彼の部屋に足を踏み入れたが、それにしても相変わらず汚い。以前鬼灯がオーストラリアに行ったあの時に私は徹底的にこの部屋を掃除したと言うのに、全くもって維持されていない。漢方や他にも多種多様な物事を調べることが好きなのは結構だが、それとこれとは違う。自分の隣の部屋が、これほど散らかっているとなんとも複雑な気持ちである。
そんな風に思っていると急にベッドの上の鬼灯がゴロンと寝返りをうった。
「…っ!」
「…っ!なんだ、寝返りか。ビックリした。」
三匹と一緒に息を飲んだが、彼の目を覚ます気配のないその寝顔に安心して、ベッドの端に腰掛けた。
「黙ってたら、素敵な人なのに。」
無防備に寝顔を見せる彼に少しの愛らしさを感じながら、頬に張り付いた髪の毛を一束とってやった。
「見て見て!アハハ、頬に跡ついてる。」
シロが鬼灯の頬についた枕の跡を小さな肉球で触れた。
「そうか、うつ伏せにはなれないんだな」
「え?なんで?」
「そりゃ、構造的に」
ルリオが自分の額を見るように上を向く。確かにこの額の角では枕に穴を開けてしまう。私は左右についているのであまり問題がないが一本角の彼のはうつぶせが出来ないのだと改めて考えたが、そういえば私の角は取り外しが可能であることを思い出し、私と比べてはいけないと肩をすくめた。
「そうか、じゃあ「覗き穴からスパイ」とかできないのか…」
「まず、そんな機会ないですから」
「あ、でももうひとつ穴を開ければ頭が固定されて、むしろ楽じゃない?」
「うん、もう一つ開けてる時点でターゲットにバレるけどな…」
やはり鬼灯のこの角は、一本角のない我々にはどうも不便なようだ。
規則正しく寝息を立てる鬼灯の顔をじっくりと眺めていると、つられたように三匹も一緒に見つめ始める。目の下の隈は寝ていても取れはしないようだ。僅かにやつれた顔を私はそっと撫でた。寝ているからか顔は熱い。跳ねた髪の毛が彼の熟睡さを物語っている。
「お疲れ…なんだね…」
「やっぱり起こすのよそうよ…」
「そうだな…」
三匹にも良心はあるようで、彼を無理矢理起こすことを断念したようだ。うん、それがいい。私もそう思う。
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