第6話 鬼のパンツとカニ
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「ワシが貴殿に下す判決は…衆合地獄!下着ドロ等低俗の極み!よって「99年はき古された鬼のパンツまみれの刑」に処す!」
「慈悲を…慈悲をォォォォ!」
「慈悲はない!」
閻魔大王によって一人の罪人に判決が下された。慈悲を求める悲しい叫び声の響く裁判所は本日最後の裁判を終え、片づけが着々と進められている。罪人が泣き叫びながら連行される丁度その時に、今日の分の仕事を終わらせた私たちは裁判所へと足を踏み入れた。
「全くどいつもこいつも下着ドロだのなんだの…なげかわしい。つーか中身に興味もてよ。」
「閻魔大王」
「おぉ、鬼灯君、白鷺ちゃん。おかえり。」
閻魔大王らしくない発言は聞かなかったことにして私は小さく会釈をした。
「「三途の川の掃除終わりました!」」
丁度茄子と唐瓜も三途の川から帰ってきた。それにしても先程から背後がうるさい、と振り返るとまだ先ほどの亡者が柱にへばりついて、ピィピィと駄々をこねている。
「あの亡者は何をしたのです。」
「生前女性の下着を盗み…あまつさえそれを誇らしくかざして捕まった変態だ。」
頭の中で英雄ジャンヌダルクのように誇らしく下着を掲げる男の姿が浮かび、汚らわしい想像に頭を振った。女性の敵というのか、すごい性癖の持ち主であることに間違いはない。一言で簡潔に言えば「ど変態」だ。
「早く連れて行ってください。そろそろ鬱陶しい…。」
慈悲を慈悲を、と騒ぎ立てる亡者を睨みつけて私は腕を組んだ。そろそろ私が直々に衆合地獄まで連れて行ってやろうかしらと呟くと、そんな私の言葉に触発されてか、鬼灯が自らの金棒を野球選手の投球速度に引けを取らぬ速さで、亡者向けて投げ出した。見事にその金棒は、亡者の頭にぶつかり一撃で亡者は伸びてしまった。
「ありがとうございます鬼灯様。もし貴方がしていなければ私がしていました。」
「いえいえ」
鬼灯は素っ気なくそう言うと金棒を静かに拾いにいき、亡者を一蹴りして帰ってきた。流石鬼の中の鬼、やることなすことが、遠慮ない、えげつない。
「それにしても今日はパンツの話題ばかりです。」
鬼灯が深くため息をつくので、確かに今日はそれに縁があるのか疑ってしまいそうなほどパンツの話題が多いと頷く。
「パンツ?「ズボン」って意味でのパンツ?」
閻魔が鬼灯の言葉に反応すると、鬼灯が額に青筋を浮かべながら棘のある声で返す。
「何、若者言葉にアンテナ立ててんですか。文字通り、パンツですよ。ふんどしの代わりの。」
私の中で、洋服で下半身に装着する履物の意味のパンツは、「パンツ↑」、先ほどから話題となっているふんどしの代わりのパンツは、「パ↑ンツ↓」という発音の違いがあるのは私だけだろうか。
しかし閻魔のような年寄りには理解し難い違いであるのだろう。という私も現世ではお婆ちゃんの類になるのだと思うのだが。
「鬼~のパンツは~」
「わっ!また歌い出した!自由なやつ…」
また腰を振って歌い出した茄子に唐瓜が制止に入るがスイッチの入った茄子はなかなかとめられない。
「あ、その歌ってなんか鬼のパンツ販促ソングみたいだよね」
「お前もか」
閻魔もまた同じ反応に鬼灯が頭を抱える。なぜ、みんな同じ思考をしているのだろう。
それにしても今日は本当にパンツの話ばかり。今日は別に8月2日でもなければ、パンツ感謝祭でもない。
「男が虎皮一丁っていいと思うんだよな…」
ぽそりと茄子が零す。
「どうして?」と私。「ダセェじゃんアレ」と唐瓜。
「だって、考えてもみろよ、男子がパン一ということはさぁ…女子は…。」
言わんとせんことはわかる。女性陣も隠すところは隠してはいるものの薄橙色が多くなってしまう。確かにそれは華やかだが、ただそれは男の亡者にはご褒美でしかない。
「いや、でもその姿は完全に」
女性の下着姿を想像して鼻の下を伸ばす唐瓜、茄子、閻魔の中で平然と表情を変えない男がただ一人いた。
「アウトです。」
言わずともわかる某有名アニメ。1980年代の人気キャラランキング上位に必ず君臨するあの美少女と被る。完全に、かぶる。完全に、アウト。
「それにそういう格好はすぐに見飽きてしまうものですよ。」
「残念でしたね、お三方。夢は見ているだけが一番幸せなんですよ。」
女性側から言わせてもらうと、そんな格好していたらお腹を冷やしてしまいそうなので絶対に嫌だ。私ががっくりと肩を落とす男三人に苦笑いを零している横顔を見て、鬼灯が何かを思い出したように手を打った。
「女性のパンツと言えば、白鷺さんは基本淡い色が好みですもんね。」
「なんで私のパンツ事情を知ってるんですか。気持ち悪い。」
軽蔑の目で鬼灯を睨む。私の洗濯物でも漁っているのか。私もパンツの話と言えばと、ハッと気がついたことがある。
「そう言えば最近、パンツの量が減ったんですけど。」
その言葉に、その場にいた一同がハッと息を飲んで、鬼灯をじっと見つめた。誰しも、疑いの目を向ける。
「どうして私を見るんですか。」
「貴方しか可能性が見つからないからです。」
「そんなことありませんよ?現に貴方の親衛隊だって山のようにあるんですから。」
「だったら視線合わせてくださいよ。」
「貴方があまりにも小さいので視界に入らないんです。」
「殴りますよ。」
あまりの白々しさに、思わず胸ぐらを掴むが身長差につま先がたつ。
「私のパンツ」
「知りません。」
「嘘でしたら、明日から大釜に戻らせていただきます。」
「3枚程拝借してます。」
結局お前じゃねぇかと手が出そうになるのをぐっとこらえる。よくもそんな無表情で居られることだ。ちょっとは申し訳なさそうな顔をして欲しい。
「返してください。」
「え、嫌ですよ。」
「お願いですから死んでください。」
「すみません。死んでます。」
私たちの言い合いをよそに、閻魔も唐瓜も茄子も顔を見合わせて苦笑いをしている。鬼灯の変態行動への軽蔑の苦笑いであってほしいが、もしかしたら私たち二人の言い合いに対しての苦笑いかもしれないと思うと、余計に腹立たしい。
それにしても、盗まれた下着はどのように使われているのかわからないので、返してもらったところで、もう履くことはないだろう。また友人に頼んで買って来てもらわなくては。最近は地獄にも下着屋は増えて来ているが、やはり現世の下着屋の品揃えと品質は比べ物にならないほど良い。やはり下着は現世のものでないと。
そんな私たちが睨み合っている間に入り込むように一人の女性が鬼灯を呼んだ。衆合地獄の幹部、お香さんである。彼女はその美しい顔を傾けると困ったように目尻を下げた。
「どうしました?」
「武器庫の用具数が記録と違うんですけど」
武器庫の記録は基本獄卒が交代制で行う。このような職であるが故、武器は必要不可欠な仕事道具である。その武器の記録が一つでもずれていたら大問題だ。
「…?変ですね」
「ん……?何故でしょう?」
私と鬼灯が、お香さんの手で広げられた武器庫の台帳を覗き込み、二人で首を傾げる。
「コレ記録したの誰かしら。」
三人で額を合わせていると、その話を聞いていた唐瓜が「あっ!」と声を上げた。
「すいません!コイツです!」
と茄子の首根っこを掴んで引きずると、茄子は状況がわかっていないのか首を傾けている。しかし、いくら空気が読めない人物であると言っても、今官僚の三人が頭を合わせて武器庫の台帳を覗き込み、眉間に皺を寄せている様子を見れば、何かをしてしまったと理解しないわけもない。唐瓜と一緒に頭を下げる。
「あ、確か新卒ちゃんよね?」
「はいっ!いまから直しますんで…」
お香さんは何度も何度も頭を下げる唐瓜と手元の武器庫の記録を何度か見比べたあと、クスリと笑って唐瓜に記録を手渡した。
「次から気をつけてねェ。直し頑張って。」
優しく微笑み、唐瓜を慰めると、私に振り返って、
「白鷺ちゃんとは、また遊びたいと思ってるの。また、日にち開けておいてくださる?」
「は…はい!ぜひ!」
私の慌てた様子を見て上品に笑うと、彼女は美しく踵を返して去って行った。
「綺麗だなぁ、お香さん。」
「ですねぇ…」
「え?」
私の恍惚とした独り言に唐瓜がうっとり同意した。一瞬耳を疑ったがそれを確認する前に、唐瓜は茄子のお説教を始めていた。
「ははぁん、唐瓜さんはお香さんのようなタイプが好きなのか。」
何か新しいことに気が付いた私はニヤリと笑うと、鬼灯に「悪い顔をしている」と諫められてしまった。
そんな私たちをよそに、唐瓜は茄子を厳しく叱る。
「うかうかしてると本当に大事なこと見落とすぞ」
「案外、こういう方のほうが意外な発見をすることもありますがね。」
鬼灯が唐瓜の説教を辞めさせるように、唐瓜の言葉を遮ると、自らの腰に手を当ててグッ と背筋を伸ばした。
「まぁ、まず夕食でも食べて今日は残業しなさい」
厳しい口調で言うので、私はあえて優しい声で、
「そうですね。頑張っていただきましょう。」
と言って茄子と唐瓜の頭を交互に撫でた。飴と鞭、私と鬼灯のそれぞれの役割である。
「頑張ってください、茄子さん」
「はい!」
小鬼とはいえ、十分な大人であるはずの茄子のその純粋無垢な反応に癒される。可愛らしい様子に、更に頭をぐりぐりと撫でてやる。なるほどこれが母性本能というやつか、と子を為したことのない私が抱く擬似母性本能を感じた。
「白鷺さん。私にも」
「180cm以上もある大男に母性本能を抱けというのは無理があります。」
少し膝を曲げて頭を差し出してくる上司を冷たくあしらって私たちは夕食を食べるために食堂へとむかった。
そこで茄子はテレビで流れていた三途の川の主が喉に怪我を負い重傷であるというニュースを見て、指差してこう言うのだった。
「あ、俺コレ見たよ!原因カニだよ!」
「「え…?」」
→後日談
「慈悲を…慈悲をォォォォ!」
「慈悲はない!」
閻魔大王によって一人の罪人に判決が下された。慈悲を求める悲しい叫び声の響く裁判所は本日最後の裁判を終え、片づけが着々と進められている。罪人が泣き叫びながら連行される丁度その時に、今日の分の仕事を終わらせた私たちは裁判所へと足を踏み入れた。
「全くどいつもこいつも下着ドロだのなんだの…なげかわしい。つーか中身に興味もてよ。」
「閻魔大王」
「おぉ、鬼灯君、白鷺ちゃん。おかえり。」
閻魔大王らしくない発言は聞かなかったことにして私は小さく会釈をした。
「「三途の川の掃除終わりました!」」
丁度茄子と唐瓜も三途の川から帰ってきた。それにしても先程から背後がうるさい、と振り返るとまだ先ほどの亡者が柱にへばりついて、ピィピィと駄々をこねている。
「あの亡者は何をしたのです。」
「生前女性の下着を盗み…あまつさえそれを誇らしくかざして捕まった変態だ。」
頭の中で英雄ジャンヌダルクのように誇らしく下着を掲げる男の姿が浮かび、汚らわしい想像に頭を振った。女性の敵というのか、すごい性癖の持ち主であることに間違いはない。一言で簡潔に言えば「ど変態」だ。
「早く連れて行ってください。そろそろ鬱陶しい…。」
慈悲を慈悲を、と騒ぎ立てる亡者を睨みつけて私は腕を組んだ。そろそろ私が直々に衆合地獄まで連れて行ってやろうかしらと呟くと、そんな私の言葉に触発されてか、鬼灯が自らの金棒を野球選手の投球速度に引けを取らぬ速さで、亡者向けて投げ出した。見事にその金棒は、亡者の頭にぶつかり一撃で亡者は伸びてしまった。
「ありがとうございます鬼灯様。もし貴方がしていなければ私がしていました。」
「いえいえ」
鬼灯は素っ気なくそう言うと金棒を静かに拾いにいき、亡者を一蹴りして帰ってきた。流石鬼の中の鬼、やることなすことが、遠慮ない、えげつない。
「それにしても今日はパンツの話題ばかりです。」
鬼灯が深くため息をつくので、確かに今日はそれに縁があるのか疑ってしまいそうなほどパンツの話題が多いと頷く。
「パンツ?「ズボン」って意味でのパンツ?」
閻魔が鬼灯の言葉に反応すると、鬼灯が額に青筋を浮かべながら棘のある声で返す。
「何、若者言葉にアンテナ立ててんですか。文字通り、パンツですよ。ふんどしの代わりの。」
私の中で、洋服で下半身に装着する履物の意味のパンツは、「パンツ↑」、先ほどから話題となっているふんどしの代わりのパンツは、「パ↑ンツ↓」という発音の違いがあるのは私だけだろうか。
しかし閻魔のような年寄りには理解し難い違いであるのだろう。という私も現世ではお婆ちゃんの類になるのだと思うのだが。
「鬼~のパンツは~」
「わっ!また歌い出した!自由なやつ…」
また腰を振って歌い出した茄子に唐瓜が制止に入るがスイッチの入った茄子はなかなかとめられない。
「あ、その歌ってなんか鬼のパンツ販促ソングみたいだよね」
「お前もか」
閻魔もまた同じ反応に鬼灯が頭を抱える。なぜ、みんな同じ思考をしているのだろう。
それにしても今日は本当にパンツの話ばかり。今日は別に8月2日でもなければ、パンツ感謝祭でもない。
「男が虎皮一丁っていいと思うんだよな…」
ぽそりと茄子が零す。
「どうして?」と私。「ダセェじゃんアレ」と唐瓜。
「だって、考えてもみろよ、男子がパン一ということはさぁ…女子は…。」
言わんとせんことはわかる。女性陣も隠すところは隠してはいるものの薄橙色が多くなってしまう。確かにそれは華やかだが、ただそれは男の亡者にはご褒美でしかない。
「いや、でもその姿は完全に」
女性の下着姿を想像して鼻の下を伸ばす唐瓜、茄子、閻魔の中で平然と表情を変えない男がただ一人いた。
「アウトです。」
言わずともわかる某有名アニメ。1980年代の人気キャラランキング上位に必ず君臨するあの美少女と被る。完全に、かぶる。完全に、アウト。
「それにそういう格好はすぐに見飽きてしまうものですよ。」
「残念でしたね、お三方。夢は見ているだけが一番幸せなんですよ。」
女性側から言わせてもらうと、そんな格好していたらお腹を冷やしてしまいそうなので絶対に嫌だ。私ががっくりと肩を落とす男三人に苦笑いを零している横顔を見て、鬼灯が何かを思い出したように手を打った。
「女性のパンツと言えば、白鷺さんは基本淡い色が好みですもんね。」
「なんで私のパンツ事情を知ってるんですか。気持ち悪い。」
軽蔑の目で鬼灯を睨む。私の洗濯物でも漁っているのか。私もパンツの話と言えばと、ハッと気がついたことがある。
「そう言えば最近、パンツの量が減ったんですけど。」
その言葉に、その場にいた一同がハッと息を飲んで、鬼灯をじっと見つめた。誰しも、疑いの目を向ける。
「どうして私を見るんですか。」
「貴方しか可能性が見つからないからです。」
「そんなことありませんよ?現に貴方の親衛隊だって山のようにあるんですから。」
「だったら視線合わせてくださいよ。」
「貴方があまりにも小さいので視界に入らないんです。」
「殴りますよ。」
あまりの白々しさに、思わず胸ぐらを掴むが身長差につま先がたつ。
「私のパンツ」
「知りません。」
「嘘でしたら、明日から大釜に戻らせていただきます。」
「3枚程拝借してます。」
結局お前じゃねぇかと手が出そうになるのをぐっとこらえる。よくもそんな無表情で居られることだ。ちょっとは申し訳なさそうな顔をして欲しい。
「返してください。」
「え、嫌ですよ。」
「お願いですから死んでください。」
「すみません。死んでます。」
私たちの言い合いをよそに、閻魔も唐瓜も茄子も顔を見合わせて苦笑いをしている。鬼灯の変態行動への軽蔑の苦笑いであってほしいが、もしかしたら私たち二人の言い合いに対しての苦笑いかもしれないと思うと、余計に腹立たしい。
それにしても、盗まれた下着はどのように使われているのかわからないので、返してもらったところで、もう履くことはないだろう。また友人に頼んで買って来てもらわなくては。最近は地獄にも下着屋は増えて来ているが、やはり現世の下着屋の品揃えと品質は比べ物にならないほど良い。やはり下着は現世のものでないと。
そんな私たちが睨み合っている間に入り込むように一人の女性が鬼灯を呼んだ。衆合地獄の幹部、お香さんである。彼女はその美しい顔を傾けると困ったように目尻を下げた。
「どうしました?」
「武器庫の用具数が記録と違うんですけど」
武器庫の記録は基本獄卒が交代制で行う。このような職であるが故、武器は必要不可欠な仕事道具である。その武器の記録が一つでもずれていたら大問題だ。
「…?変ですね」
「ん……?何故でしょう?」
私と鬼灯が、お香さんの手で広げられた武器庫の台帳を覗き込み、二人で首を傾げる。
「コレ記録したの誰かしら。」
三人で額を合わせていると、その話を聞いていた唐瓜が「あっ!」と声を上げた。
「すいません!コイツです!」
と茄子の首根っこを掴んで引きずると、茄子は状況がわかっていないのか首を傾けている。しかし、いくら空気が読めない人物であると言っても、今官僚の三人が頭を合わせて武器庫の台帳を覗き込み、眉間に皺を寄せている様子を見れば、何かをしてしまったと理解しないわけもない。唐瓜と一緒に頭を下げる。
「あ、確か新卒ちゃんよね?」
「はいっ!いまから直しますんで…」
お香さんは何度も何度も頭を下げる唐瓜と手元の武器庫の記録を何度か見比べたあと、クスリと笑って唐瓜に記録を手渡した。
「次から気をつけてねェ。直し頑張って。」
優しく微笑み、唐瓜を慰めると、私に振り返って、
「白鷺ちゃんとは、また遊びたいと思ってるの。また、日にち開けておいてくださる?」
「は…はい!ぜひ!」
私の慌てた様子を見て上品に笑うと、彼女は美しく踵を返して去って行った。
「綺麗だなぁ、お香さん。」
「ですねぇ…」
「え?」
私の恍惚とした独り言に唐瓜がうっとり同意した。一瞬耳を疑ったがそれを確認する前に、唐瓜は茄子のお説教を始めていた。
「ははぁん、唐瓜さんはお香さんのようなタイプが好きなのか。」
何か新しいことに気が付いた私はニヤリと笑うと、鬼灯に「悪い顔をしている」と諫められてしまった。
そんな私たちをよそに、唐瓜は茄子を厳しく叱る。
「うかうかしてると本当に大事なこと見落とすぞ」
「案外、こういう方のほうが意外な発見をすることもありますがね。」
鬼灯が唐瓜の説教を辞めさせるように、唐瓜の言葉を遮ると、自らの腰に手を当ててグッ と背筋を伸ばした。
「まぁ、まず夕食でも食べて今日は残業しなさい」
厳しい口調で言うので、私はあえて優しい声で、
「そうですね。頑張っていただきましょう。」
と言って茄子と唐瓜の頭を交互に撫でた。飴と鞭、私と鬼灯のそれぞれの役割である。
「頑張ってください、茄子さん」
「はい!」
小鬼とはいえ、十分な大人であるはずの茄子のその純粋無垢な反応に癒される。可愛らしい様子に、更に頭をぐりぐりと撫でてやる。なるほどこれが母性本能というやつか、と子を為したことのない私が抱く擬似母性本能を感じた。
「白鷺さん。私にも」
「180cm以上もある大男に母性本能を抱けというのは無理があります。」
少し膝を曲げて頭を差し出してくる上司を冷たくあしらって私たちは夕食を食べるために食堂へとむかった。
そこで茄子はテレビで流れていた三途の川の主が喉に怪我を負い重傷であるというニュースを見て、指差してこう言うのだった。
「あ、俺コレ見たよ!原因カニだよ!」
「「え…?」」
→後日談