第3話 地獄不思議発見
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「あの、金魚草ね。」
話は変わって、金魚草。閻魔が首を傾けて、鬼灯に問いかける。
「あれさ…動物なの?植物なの?」
「どっちでしょうね。動植物ですかね。」
私の脳裏にあの不細工な生物を思い浮かべる。どこに筋肉がついているのか不思議なくらいに大きく前後に揺れる姿を想像しては、その生態の不可思議さに肩をすくめる。
「あぁ、そういえば一番長寿の金魚が3mを越しまして…愉快ですよ。見ます?」
あの品種改良された裏庭の大量の金魚草の中に異様に怖くてデカイやつがいて、顔を見ようと思うと首が違えてしまう。何が一体「愉快」なのだろうか。
「じゃあ、今年の金魚草コンテストはまた君が優勝だろうね。」
「あ、いえ。私は一昨年殿堂入りさせて頂きましたので、今は審査員です。」
「君、色々やってるな。」
「コンテスト?そんな物あるんですか?」
閻魔と鬼灯の会話をご飯を咀嚼しながら聞いていたが、「金魚草のコンテスト」と聞いて、少し興味が湧き、鬼灯の顔を覗きこむようにして問いかけた。
「えぇ、大きさの他に色と模様と…目の澄み具合いと活きと…」
指を折って審査基準を上げて行く。大きさの優劣は素人目にもわかるが、色や模様、目の澄み具合なんて玄人にしかわからない世界なのであろう。
「へぇ…。すごいですね。」
「興味がお有りですか?なら、今度御一緒に?」
「えぇ、是非。」
会場いっぱいに埋め尽くす金魚草。想像するだけで、ゾッとしたが、鬼灯がそこまで熱中するのには、きっと何かその良さがあるのであろう。
「長い付き合いだけど、君のミステリーは尽きないよ。」
閻魔が呟く。確かに私も、多種多様な趣味を持ち、様々な物事をさらりとこなしてしまう彼がミステリアスに思えてしまう。
「女の子の好みとか想像出来ないし…」
「この子は割と可愛いと思います。早めにこっちへ来て欲しいくらいです。」
そう言って、テレビ画面の向こうの女性を指差す。確かに整った顔立ちが綺麗だ。こざっぱりとした綺麗さがあって、こんな人が好きなのかと味噌汁を啜りながら横目に眺める。ただ「早めにこっちに来て欲しい」は少し物騒なので頂けない。
「白鷺ちゃんは?」
急に話を振られて、食事をする手がピタリと止まってしまった。
「私ですか?考えたことがないですね…。大体私みたいな女を相手にしようなんて物好きなんていませんからね…」
「そんな物好きがここにいますよ。」
「黙ってください。」
腕を組んで考え込む。こちらに来て、もう長らく恋愛なり、恋人なりなんて経験したことも、考えたこともなかった。
「そうですね。私より強い人がいいです。」
怒ると手が付けられないほど暴れる私を身体全体で止めて欲しい。そうなると私よりも強い人がいい。
「乙女チックなのに、君の馬鹿力を思い浮かべるとゾッとするよ。」
閻魔が苦笑いを零す。鬼灯には敵わないが、亡者一人鍋の中に押し込むほどの力があるのだから、滅多に私の恋愛対象範囲内に入る人物はいない。
「あと、優しい人がいいですね。泣いてる時に黙って抱きしめてくれたらイチコロですね。」
「まるっきり私じゃないですか。」
「何をどう思ってそういう結論になったんですか。どっちかと言うと貴方、泣いてたら喜ぶでしょ。」
鬼灯の近寄る顔を押しやって私は首を横に振った。そんな二人の様子を見ながら、閻魔が首を傾げる。
「聞いちゃ悪いかもしれないけど、生前はそういう人いなかったの?」
少し申し訳なさそうに、控えめに聞くので、気にしていないという代わりにあっけらかんとして、閻魔の問いに答える。
「その件なら、いましたよ。許嫁が。」
生前に憧れた男性を思い出して、彼は本当に理想的な男性だったと熱っぽいため息を漏らすと、目の隅で箸が真っ二つに割れた。
「鬼灯様?」
彼の手から見事に割れた箸が崩れ落ちる。
「誰ですか、その人は。」
え、あ、と言葉を詰まらせる。いらないことを言ってしまった、と後悔するも先に立たず、乾いた笑いを零して、なんとかその場を乗り切ろうとする。
「詳しくは後日で…あはは」
私は誤魔化すように別の箸を差し出すと、今にも食卓をひっくり返しそうなほど鬼の形相をしている鬼灯があからさま不機嫌に受け取った。
「ほ…他にはいないの、鬼灯君。」
閻魔が助け舟を出してくれたので、鬼灯の顔が少し緩む。ありがたい、と乾いた喉を茶で潤す。
「そうですね…あと、明るい女性も好きですよ」
「君に明るい方がいいとか言われたくないだろうな…」
うんうん、と隣で頷く。
「なんてこと言うんですか。こんなに日々明朗快活に過ごしていると言うのに。」
「貴方の表情からは一欠片の明るさが読み取れないんですけど。」
常に冷酷な顔してる奴が何を言う。明るさという言葉が微塵も似合わない男はこの人以外もう出会うことはないだろう。
それにしても、生前の話は彼にはしない方がいいだろう。詮索されるのも困るので、彼が今日一晩寝て、さっきの話をすっかり忘れてくれることを祈る。
「まぁ、不満渦巻くこの現代で日々楽しいなら何よりだけど。」
「それでもたまには旅行ぐらい行きたいです。」
閻魔の言葉に鬼灯が日頃の苦労を滲ませるような言葉を返す。地獄の官吏も旅行に行くという新たな事実。
「行きたいねー。動物がいて、自然があって、刺激的な所へ。」
「地獄を御案内しましょうか?刺激的ですよ?」
それにしてもと首を傾げる。私は旅行に行ったことがない。生前もそこそこの家柄であったものの、娯楽という目的で旅に出ることはなかったし、家にいたっきりだった。死後も天国と地獄をうろちょろして、職に就き、それからは大釜一筋。
「旅行っていいですか?」
「いいよー。楽しいよー。」
閻魔が満面の笑みで答えるが、でもと続ける。
「企画してチケットとって宿予約して…って大変なんだよ?結局「いつかね」って話になっちゃう」
肩を竦める閻魔。そんな彼の姿を見て私は首を傾げる。閻魔様ってそんな巨体で現世にいって驚かれないのだろうか。そんな私の考えをよそに、不機嫌だった鬼灯が、あっと声を上げた。
彼が見つめるのはエンディングのさっきの番組。テレビの画面に人名がズラッと並ぶ中、「地獄 鬼灯さん」という文字が浮かび上がってる。その文字の上には、3泊4日でいくオーストラリア魅惑の旅の大きな文字。
「当たってる⁉オーストラリア4日間の旅⁈」
「閻魔大王!私、有休頂きます!止めても行きますから!」
「むしろワシも連れて行けよ!」
「嫌です」
机を挟んでそんな口論をする二人を他所に私は手を合わせる。
「ご馳走様でした」
→後日談
→
話は変わって、金魚草。閻魔が首を傾けて、鬼灯に問いかける。
「あれさ…動物なの?植物なの?」
「どっちでしょうね。動植物ですかね。」
私の脳裏にあの不細工な生物を思い浮かべる。どこに筋肉がついているのか不思議なくらいに大きく前後に揺れる姿を想像しては、その生態の不可思議さに肩をすくめる。
「あぁ、そういえば一番長寿の金魚が3mを越しまして…愉快ですよ。見ます?」
あの品種改良された裏庭の大量の金魚草の中に異様に怖くてデカイやつがいて、顔を見ようと思うと首が違えてしまう。何が一体「愉快」なのだろうか。
「じゃあ、今年の金魚草コンテストはまた君が優勝だろうね。」
「あ、いえ。私は一昨年殿堂入りさせて頂きましたので、今は審査員です。」
「君、色々やってるな。」
「コンテスト?そんな物あるんですか?」
閻魔と鬼灯の会話をご飯を咀嚼しながら聞いていたが、「金魚草のコンテスト」と聞いて、少し興味が湧き、鬼灯の顔を覗きこむようにして問いかけた。
「えぇ、大きさの他に色と模様と…目の澄み具合いと活きと…」
指を折って審査基準を上げて行く。大きさの優劣は素人目にもわかるが、色や模様、目の澄み具合なんて玄人にしかわからない世界なのであろう。
「へぇ…。すごいですね。」
「興味がお有りですか?なら、今度御一緒に?」
「えぇ、是非。」
会場いっぱいに埋め尽くす金魚草。想像するだけで、ゾッとしたが、鬼灯がそこまで熱中するのには、きっと何かその良さがあるのであろう。
「長い付き合いだけど、君のミステリーは尽きないよ。」
閻魔が呟く。確かに私も、多種多様な趣味を持ち、様々な物事をさらりとこなしてしまう彼がミステリアスに思えてしまう。
「女の子の好みとか想像出来ないし…」
「この子は割と可愛いと思います。早めにこっちへ来て欲しいくらいです。」
そう言って、テレビ画面の向こうの女性を指差す。確かに整った顔立ちが綺麗だ。こざっぱりとした綺麗さがあって、こんな人が好きなのかと味噌汁を啜りながら横目に眺める。ただ「早めにこっちに来て欲しい」は少し物騒なので頂けない。
「白鷺ちゃんは?」
急に話を振られて、食事をする手がピタリと止まってしまった。
「私ですか?考えたことがないですね…。大体私みたいな女を相手にしようなんて物好きなんていませんからね…」
「そんな物好きがここにいますよ。」
「黙ってください。」
腕を組んで考え込む。こちらに来て、もう長らく恋愛なり、恋人なりなんて経験したことも、考えたこともなかった。
「そうですね。私より強い人がいいです。」
怒ると手が付けられないほど暴れる私を身体全体で止めて欲しい。そうなると私よりも強い人がいい。
「乙女チックなのに、君の馬鹿力を思い浮かべるとゾッとするよ。」
閻魔が苦笑いを零す。鬼灯には敵わないが、亡者一人鍋の中に押し込むほどの力があるのだから、滅多に私の恋愛対象範囲内に入る人物はいない。
「あと、優しい人がいいですね。泣いてる時に黙って抱きしめてくれたらイチコロですね。」
「まるっきり私じゃないですか。」
「何をどう思ってそういう結論になったんですか。どっちかと言うと貴方、泣いてたら喜ぶでしょ。」
鬼灯の近寄る顔を押しやって私は首を横に振った。そんな二人の様子を見ながら、閻魔が首を傾げる。
「聞いちゃ悪いかもしれないけど、生前はそういう人いなかったの?」
少し申し訳なさそうに、控えめに聞くので、気にしていないという代わりにあっけらかんとして、閻魔の問いに答える。
「その件なら、いましたよ。許嫁が。」
生前に憧れた男性を思い出して、彼は本当に理想的な男性だったと熱っぽいため息を漏らすと、目の隅で箸が真っ二つに割れた。
「鬼灯様?」
彼の手から見事に割れた箸が崩れ落ちる。
「誰ですか、その人は。」
え、あ、と言葉を詰まらせる。いらないことを言ってしまった、と後悔するも先に立たず、乾いた笑いを零して、なんとかその場を乗り切ろうとする。
「詳しくは後日で…あはは」
私は誤魔化すように別の箸を差し出すと、今にも食卓をひっくり返しそうなほど鬼の形相をしている鬼灯があからさま不機嫌に受け取った。
「ほ…他にはいないの、鬼灯君。」
閻魔が助け舟を出してくれたので、鬼灯の顔が少し緩む。ありがたい、と乾いた喉を茶で潤す。
「そうですね…あと、明るい女性も好きですよ」
「君に明るい方がいいとか言われたくないだろうな…」
うんうん、と隣で頷く。
「なんてこと言うんですか。こんなに日々明朗快活に過ごしていると言うのに。」
「貴方の表情からは一欠片の明るさが読み取れないんですけど。」
常に冷酷な顔してる奴が何を言う。明るさという言葉が微塵も似合わない男はこの人以外もう出会うことはないだろう。
それにしても、生前の話は彼にはしない方がいいだろう。詮索されるのも困るので、彼が今日一晩寝て、さっきの話をすっかり忘れてくれることを祈る。
「まぁ、不満渦巻くこの現代で日々楽しいなら何よりだけど。」
「それでもたまには旅行ぐらい行きたいです。」
閻魔の言葉に鬼灯が日頃の苦労を滲ませるような言葉を返す。地獄の官吏も旅行に行くという新たな事実。
「行きたいねー。動物がいて、自然があって、刺激的な所へ。」
「地獄を御案内しましょうか?刺激的ですよ?」
それにしてもと首を傾げる。私は旅行に行ったことがない。生前もそこそこの家柄であったものの、娯楽という目的で旅に出ることはなかったし、家にいたっきりだった。死後も天国と地獄をうろちょろして、職に就き、それからは大釜一筋。
「旅行っていいですか?」
「いいよー。楽しいよー。」
閻魔が満面の笑みで答えるが、でもと続ける。
「企画してチケットとって宿予約して…って大変なんだよ?結局「いつかね」って話になっちゃう」
肩を竦める閻魔。そんな彼の姿を見て私は首を傾げる。閻魔様ってそんな巨体で現世にいって驚かれないのだろうか。そんな私の考えをよそに、不機嫌だった鬼灯が、あっと声を上げた。
彼が見つめるのはエンディングのさっきの番組。テレビの画面に人名がズラッと並ぶ中、「地獄 鬼灯さん」という文字が浮かび上がってる。その文字の上には、3泊4日でいくオーストラリア魅惑の旅の大きな文字。
「当たってる⁉オーストラリア4日間の旅⁈」
「閻魔大王!私、有休頂きます!止めても行きますから!」
「むしろワシも連れて行けよ!」
「嫌です」
机を挟んでそんな口論をする二人を他所に私は手を合わせる。
「ご馳走様でした」
→後日談
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