第3話 地獄不思議発見
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少し感性がずれている人ほど変な趣味に走りやすいとはいうが、人の趣味なんだから口出しするのもおかしい話である。ただその趣味が人に迷惑をかけないものならの話である。
うちの上司には変な趣味がある。あの世にしかない動植物をひどく愛好しているのだ。それも閻魔殿の裏には一体を使って、繁殖させているのだから、正直「変な趣味」だと足蹴にしてもかまわない気もしている。
私には彼の趣味を受け入れる器も、共に楽しむ感性もない。
「鬼灯様…好きですね…」
「可愛いらしいでしょ?」
「えっ…まぁ。」
楽しそうに趣味に勤しむ彼の背中を見ながら、私はその場にしゃがみ込むとそっとその物体に触れた。ビチビチと体を震えさせながら前後に大きく揺れる。
金魚草、その不思議な生物に鬼灯は休日や休み時間などを割いて手をかけるのだ。見た目は金魚そのもので、赤と白のコントラストが綺麗な出目金のような丸々とした金魚なのだが、何が問題かというと、陸に打ち上げられている…というよりも陸で自生しているのだ。それも立派な茎と根を張って、立派な葉を天に向けて生えているのだ。
改めてその謎の生物の生態を考えて、浮世では存在し得ない生物にぞっとする。顔が引きつるのを感じながら、その正気の感じられない瞳を覗く。
「貴方もお一つ如何ですか?」
「いっいや…」
「意外と飼って見ると可愛いものですよ?」
私が断っているのにも関わらず、鬼灯は「どうですか?」と何度も聞いてくる。何故こんなに推しが強いのかわからない。
彼はお手製の水やり機を掲げて、あちこちに水を撒いている。先ほども述べたが、鬼灯は閻魔殿の裏庭を自ら開墾して、金魚草を繁殖させた。その数は百を遥かに超え、広さはよく知らないが何らかの球技のコートの広さと同じくらいだと聞いた。こんなに広くあるのだったら手入れも大変だろうに、と頬杖をつきながら、楽しそうに水を撒く鬼灯を眺める。豪邸を手に入れたけど、掃除が大変…みたいな感覚と同じだろうか。ただ本人がそれを良しとして楽しんでいるのなら、口は挟まないでおく。
せっせと趣味に勤しむ鬼灯と、それをしゃがみ込んで呆然と眺める私に通りすがりの獄卒が話しかけた。
「いっぱい増えましたねぇ。鬼灯様が品種改良なさった金魚草」
品種改良までしたのか、と口に出そうになって飲み込む。
「今じゃ愛好家も多くて…大きさを競う大会もあるんでしょう?僕のイトコも没頭しすぎて嫁さんに怒られてますよ~」
ケラケラと笑う獄卒。そんなに愛好家が増えているなんて初耳である。こんな不細工な生物に没頭する人が後を絶たないと聞くと世も末だと思ってしまう。
私がそんな風に貶すようなことを考えていたのを感じ取ったのだろうか、金魚草は顔を一斉に此方に向け、そして口を同じタイミングでパクパクと開閉する。何百という金魚草が一同にこちらを見ているのはなかなかのホラーである。夢に出そう。
「何せ忙しくて旅行に行く予定も立てられない身ですので、つい趣味にのめり込んでしまいますね。」
「ははは、あまりにハマりすぎて、白鷺様を逃がしてはいけませんよ。女は気がつけば、手元から離れていますからね」
なんだか、悟っているな。何があったこの獄卒、と探りを入れたくなるのをぐっとこらえる。
「御心配ありがとうございます。ですが、白鷺さんは私の元からは逃げませんよ。」
「まず、捕まった覚えすらありません。」
金魚草が風になびかれているのか、それとも己の筋肉を駆使しているのかわからないが、前後に大きく揺れる姿に、私は何にも言えなくなり、ただその謎の生物とそれを愛でる鬼灯を延々と見つめるだけの休み時間を過ごすのであった。
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うちの上司には変な趣味がある。あの世にしかない動植物をひどく愛好しているのだ。それも閻魔殿の裏には一体を使って、繁殖させているのだから、正直「変な趣味」だと足蹴にしてもかまわない気もしている。
私には彼の趣味を受け入れる器も、共に楽しむ感性もない。
「鬼灯様…好きですね…」
「可愛いらしいでしょ?」
「えっ…まぁ。」
楽しそうに趣味に勤しむ彼の背中を見ながら、私はその場にしゃがみ込むとそっとその物体に触れた。ビチビチと体を震えさせながら前後に大きく揺れる。
金魚草、その不思議な生物に鬼灯は休日や休み時間などを割いて手をかけるのだ。見た目は金魚そのもので、赤と白のコントラストが綺麗な出目金のような丸々とした金魚なのだが、何が問題かというと、陸に打ち上げられている…というよりも陸で自生しているのだ。それも立派な茎と根を張って、立派な葉を天に向けて生えているのだ。
改めてその謎の生物の生態を考えて、浮世では存在し得ない生物にぞっとする。顔が引きつるのを感じながら、その正気の感じられない瞳を覗く。
「貴方もお一つ如何ですか?」
「いっいや…」
「意外と飼って見ると可愛いものですよ?」
私が断っているのにも関わらず、鬼灯は「どうですか?」と何度も聞いてくる。何故こんなに推しが強いのかわからない。
彼はお手製の水やり機を掲げて、あちこちに水を撒いている。先ほども述べたが、鬼灯は閻魔殿の裏庭を自ら開墾して、金魚草を繁殖させた。その数は百を遥かに超え、広さはよく知らないが何らかの球技のコートの広さと同じくらいだと聞いた。こんなに広くあるのだったら手入れも大変だろうに、と頬杖をつきながら、楽しそうに水を撒く鬼灯を眺める。豪邸を手に入れたけど、掃除が大変…みたいな感覚と同じだろうか。ただ本人がそれを良しとして楽しんでいるのなら、口は挟まないでおく。
せっせと趣味に勤しむ鬼灯と、それをしゃがみ込んで呆然と眺める私に通りすがりの獄卒が話しかけた。
「いっぱい増えましたねぇ。鬼灯様が品種改良なさった金魚草」
品種改良までしたのか、と口に出そうになって飲み込む。
「今じゃ愛好家も多くて…大きさを競う大会もあるんでしょう?僕のイトコも没頭しすぎて嫁さんに怒られてますよ~」
ケラケラと笑う獄卒。そんなに愛好家が増えているなんて初耳である。こんな不細工な生物に没頭する人が後を絶たないと聞くと世も末だと思ってしまう。
私がそんな風に貶すようなことを考えていたのを感じ取ったのだろうか、金魚草は顔を一斉に此方に向け、そして口を同じタイミングでパクパクと開閉する。何百という金魚草が一同にこちらを見ているのはなかなかのホラーである。夢に出そう。
「何せ忙しくて旅行に行く予定も立てられない身ですので、つい趣味にのめり込んでしまいますね。」
「ははは、あまりにハマりすぎて、白鷺様を逃がしてはいけませんよ。女は気がつけば、手元から離れていますからね」
なんだか、悟っているな。何があったこの獄卒、と探りを入れたくなるのをぐっとこらえる。
「御心配ありがとうございます。ですが、白鷺さんは私の元からは逃げませんよ。」
「まず、捕まった覚えすらありません。」
金魚草が風になびかれているのか、それとも己の筋肉を駆使しているのかわからないが、前後に大きく揺れる姿に、私は何にも言えなくなり、ただその謎の生物とそれを愛でる鬼灯を延々と見つめるだけの休み時間を過ごすのであった。
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