第2話 シロ、日々勉強
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「鬼灯様。叫喚地獄から請求書が。」
かなりバタバタとした出世ではあったが、この仕事にもすっかり慣れた。補佐官の補佐とは一体何なのかと思っていたが、閻魔大王の補佐という点では鬼灯との仕事はさして変わらず、超重要な仕事のみは鬼灯に任せ、裁判の準備、手伝い、片付け等は鬼灯と手分けして行い、私自身の仕事としては地獄の各部署と閻魔大王を繋ぐ架け橋となる役割である。
「白鷺さん。この資料目を通されましたか?」
先ほど受け取った請求書に目を通していた彼が目を上げた。流すように見ただけであったので、詳しく見ていないと小さく顔を横に振って応える。
「欠陥が多すぎます。」
彼の苦汁を舐めたような顔を見て慌てて駆け寄ると、私も彼の横に並んで横から請求書を覗き込んだ。不備の部分を順番に差していく鬼灯の指に沿って確認していくと、確かに請求書なのに抜けているところや大雑把なところが良く見える。最近は私たちだけではなく地獄の各所も忙しいらしく事務も細かいところまで気が回らないだろう。
「叫喚地獄も忙しいんだなぁ。」
「前はこんな事なかったんですけどね。」
「以前は私が隅から隅までしっかりと見ていましたから。生温いものは破り捨ててました。」
私の言葉に鬼灯が勢いよく振り返り、彼の細い目が唖然として私を見つめた。
「……鬼ですね」
「鬼ですよ?今は。」
「だから、毎度完璧な資料が届いていたのですね。」
今更納得したと言うように資料に目を戻す。
「昔は事務も拷問も私が積極的にやってました。」
「昔からアクティブな方だったのですね」
けれど私が大釜を出てから不備などのだらしないことが増えるのだったら、もう一度戻って叩き直した方が良いかもしれない。
それとも私が様々な業務を一身にこなしていたから、その反動で部下を育てることが出来ていなかったのかもしれない。今更ながら自らの行いを悔やむ。
「それではこれは返しておきますね。」
そう言って横から手を伸ばし、鬼灯から紙の束を受け取ろうとした、そんな時。急にサイレンが大きな音を立て始めた。その緊急と比例するかのように、大音量のサイレンが地獄の地面を揺らす。
私たちは顔を見合せると急いで外へ飛び出した。
【非常警報!非常警報!等活地獄より亡者一名が逃亡。直ちに全獄門を封鎖してください。繰り返します……】
唸るようなサイレントと同様に、アナウンスも大音量で流れる。
緊急事態に戸惑い、身動きが取れない獄卒たちに指示を出しながら、私たちも閻魔殿から走り出ると、地獄は大混乱。道という道を獄卒たちが走り回っている。
「鬼灯様…。」
心配する私をチラリと見ると、キッと遠くを睨みつけるように彼は目を細めた。
「鬼灯様ァァァァァァ」
サイレンの鳴り響く中、二人の獄卒が駆け寄ってきた。
「この新人がうっかりワンセグを持ち込んで…悪霊サダコが逃げました!」
その新人は言わずとも知れた茄子であった。白い髪をなんとも申し訳なさそうに手で押し上げている。
そんな彼の顔を鬼灯は何の躊躇いもなく、刀でも簡単に折れる金棒で殴りつけた。
「新人研修でちゃんと注意したはずですよ!
そうでなくても何かするときはホウ(報告)・レン(連絡)・ソウ(相談)!」
彼はグリグリ金棒で茄子の頬を弄る。
「も…申し訳ございません…。」
鬼灯に十分にお仕置きされた茄子に駆け寄ると鼻やら口やらから垂れ流している血を手拭いでふき取る。
「もう少し優しくしてやってもよろしいのではないですか?」
「新人だからと言って容赦はしません」
彼がさも当たり前のように胸を張る。
「社会って厳しいなぁ…」
茄子がポツリと漏らす。社会は確かに厳しいけれど、これは厳しすぎる。というか、これは労働基準法的には大丈夫なのか、と問いただしたいところだがあえて黙っておく。
「あぁ、服まで汚れちゃってる。帰ったら、しっかり洗ってね。」
「シラ様、ありがとう。」
更に鬼灯は続ける。
「あとワンセグから逃げるって……どんだけガッツのある亡者なんですか!」
「いや、もうそれはすっごいがんばったみたいです!」
今やスマートフォンの時代ではあるが、今でもワンセグは一定の需要があると聞く。しかしその画面の大きさは、トランプのカードよりも小さい。そのワンセグから大人一人が逃げ出すとなると本当に頑張ったのだろう。
頭の中でサダコが、必死にワンセグをこじ開ける様を想像して苦笑いが零れてしまった。
鬼灯はワンセグから逃げ出したという情報を聞くと、顎に手を当てて、深く考え込み始めた。
「サダコ…あの亡者はテレビさえあれば逃げるのです…」
日本国民を震恐させたサダコは等活地獄に落ちたという事実に、私としてはすこしビックリなのだが。と悠長なことを考えていると、鬼灯が声を上げた。
「今すぐこの近隣のテレビ画面全てお札で封印しなさい!」
獄卒たちははてと首を傾げている。
「早く!」
が鬼灯の迫力に負けて急いで走り去ってしまった。
「白鷺さんは、ブルーレイ内蔵の52型テレビをここに設置してください」
「えっ…!?」
一瞬戸惑うも彼には何か考えがあるのだろうと、私も彼に背を向けて、急いで近隣の電気屋へと走った。
→
かなりバタバタとした出世ではあったが、この仕事にもすっかり慣れた。補佐官の補佐とは一体何なのかと思っていたが、閻魔大王の補佐という点では鬼灯との仕事はさして変わらず、超重要な仕事のみは鬼灯に任せ、裁判の準備、手伝い、片付け等は鬼灯と手分けして行い、私自身の仕事としては地獄の各部署と閻魔大王を繋ぐ架け橋となる役割である。
「白鷺さん。この資料目を通されましたか?」
先ほど受け取った請求書に目を通していた彼が目を上げた。流すように見ただけであったので、詳しく見ていないと小さく顔を横に振って応える。
「欠陥が多すぎます。」
彼の苦汁を舐めたような顔を見て慌てて駆け寄ると、私も彼の横に並んで横から請求書を覗き込んだ。不備の部分を順番に差していく鬼灯の指に沿って確認していくと、確かに請求書なのに抜けているところや大雑把なところが良く見える。最近は私たちだけではなく地獄の各所も忙しいらしく事務も細かいところまで気が回らないだろう。
「叫喚地獄も忙しいんだなぁ。」
「前はこんな事なかったんですけどね。」
「以前は私が隅から隅までしっかりと見ていましたから。生温いものは破り捨ててました。」
私の言葉に鬼灯が勢いよく振り返り、彼の細い目が唖然として私を見つめた。
「……鬼ですね」
「鬼ですよ?今は。」
「だから、毎度完璧な資料が届いていたのですね。」
今更納得したと言うように資料に目を戻す。
「昔は事務も拷問も私が積極的にやってました。」
「昔からアクティブな方だったのですね」
けれど私が大釜を出てから不備などのだらしないことが増えるのだったら、もう一度戻って叩き直した方が良いかもしれない。
それとも私が様々な業務を一身にこなしていたから、その反動で部下を育てることが出来ていなかったのかもしれない。今更ながら自らの行いを悔やむ。
「それではこれは返しておきますね。」
そう言って横から手を伸ばし、鬼灯から紙の束を受け取ろうとした、そんな時。急にサイレンが大きな音を立て始めた。その緊急と比例するかのように、大音量のサイレンが地獄の地面を揺らす。
私たちは顔を見合せると急いで外へ飛び出した。
【非常警報!非常警報!等活地獄より亡者一名が逃亡。直ちに全獄門を封鎖してください。繰り返します……】
唸るようなサイレントと同様に、アナウンスも大音量で流れる。
緊急事態に戸惑い、身動きが取れない獄卒たちに指示を出しながら、私たちも閻魔殿から走り出ると、地獄は大混乱。道という道を獄卒たちが走り回っている。
「鬼灯様…。」
心配する私をチラリと見ると、キッと遠くを睨みつけるように彼は目を細めた。
「鬼灯様ァァァァァァ」
サイレンの鳴り響く中、二人の獄卒が駆け寄ってきた。
「この新人がうっかりワンセグを持ち込んで…悪霊サダコが逃げました!」
その新人は言わずとも知れた茄子であった。白い髪をなんとも申し訳なさそうに手で押し上げている。
そんな彼の顔を鬼灯は何の躊躇いもなく、刀でも簡単に折れる金棒で殴りつけた。
「新人研修でちゃんと注意したはずですよ!
そうでなくても何かするときはホウ(報告)・レン(連絡)・ソウ(相談)!」
彼はグリグリ金棒で茄子の頬を弄る。
「も…申し訳ございません…。」
鬼灯に十分にお仕置きされた茄子に駆け寄ると鼻やら口やらから垂れ流している血を手拭いでふき取る。
「もう少し優しくしてやってもよろしいのではないですか?」
「新人だからと言って容赦はしません」
彼がさも当たり前のように胸を張る。
「社会って厳しいなぁ…」
茄子がポツリと漏らす。社会は確かに厳しいけれど、これは厳しすぎる。というか、これは労働基準法的には大丈夫なのか、と問いただしたいところだがあえて黙っておく。
「あぁ、服まで汚れちゃってる。帰ったら、しっかり洗ってね。」
「シラ様、ありがとう。」
更に鬼灯は続ける。
「あとワンセグから逃げるって……どんだけガッツのある亡者なんですか!」
「いや、もうそれはすっごいがんばったみたいです!」
今やスマートフォンの時代ではあるが、今でもワンセグは一定の需要があると聞く。しかしその画面の大きさは、トランプのカードよりも小さい。そのワンセグから大人一人が逃げ出すとなると本当に頑張ったのだろう。
頭の中でサダコが、必死にワンセグをこじ開ける様を想像して苦笑いが零れてしまった。
鬼灯はワンセグから逃げ出したという情報を聞くと、顎に手を当てて、深く考え込み始めた。
「サダコ…あの亡者はテレビさえあれば逃げるのです…」
日本国民を震恐させたサダコは等活地獄に落ちたという事実に、私としてはすこしビックリなのだが。と悠長なことを考えていると、鬼灯が声を上げた。
「今すぐこの近隣のテレビ画面全てお札で封印しなさい!」
獄卒たちははてと首を傾げている。
「早く!」
が鬼灯の迫力に負けて急いで走り去ってしまった。
「白鷺さんは、ブルーレイ内蔵の52型テレビをここに設置してください」
「えっ…!?」
一瞬戸惑うも彼には何か考えがあるのだろうと、私も彼に背を向けて、急いで近隣の電気屋へと走った。
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