第0話 始まりは大釜から
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熱湯の大釜の仕事を始めて早150年。朝になれば火を起こし、昼になれば亡者を押し込み、夜になれば静かに鎮火する。
そんな生活を150年以上も続けているのにも関わらず、一向に嫌気がささないのは、きっとこの仕事で充分満足しているという事だ。
「白鷺さん、こいつ俺たちの手には負えなくてッ!」
従順で、仕事に熱心な部下たちからの信頼は厚く、上司からの期待も得ている。ついこの間まで一番下っ端だったと思っていたのに、いつの間にか立派に一人で仕事をこなせるようになっているのだから、時間の経過と人の成長は早いものである。
「こいつの罪は?」
「恐喝・強姦・殺人です。」
約150年という時間の中で培ったのは信頼だけでなく、確かな能力と強い精神力、そして重いものも持ち上げられる馬鹿力。
「それは、それは…腕が鳴るわね。」
他の獄卒の手には負えないとまで言われた男の首根っこを掴み、ずるずると熱々に熱された鉄の塊に歩みよる。
「さぁ、汚らわしい貴方に傷つけられた人々の苦しみ、とくと味わいなさい。」
軽々と小太りの亡者を持ち上げると熱々の湯にぶち込む。湯に落ちた瞬間、舞い上がる熱湯の滴と響き渡る断末魔に近い悲鳴に背筋がぞくりと震える。爛れていく身体中の皮膚に歪んでいく表情。毎度その光景には全身の毛穴が収縮し、頭の先から爪先にかけて一気に鳥肌が立つ。心躍らせながら亡者の頭を大きな棒でぐいぐいと熱湯の中に押しこむ。
「おぼぼぁ…し…死ぬっ」
「大丈夫、死んでるから。気にしないで、お風呂に入っているような気分でしっかりつかりなさい。」
嬉々とした表情で拷問するその姿は鬼にも恐れられるほどのものとして、いつしか私は”大釜の白鷺”と呼ばれ、地獄界でもある程度知名度がある獄卒となった。「仕事様が清々しい。」と同僚からは妬まれることも僻まれることもない。人望に飢えてもいない、仕事で悩むこともあるが充実している。
そんな私に人生の節目が近づいていることをこの時の私は微塵も感じていなかった。終わりのないレールをただガタゴトと音を立てて走るだけだと、この手がよぼよぼになって、物を持てなくなるまで私はここで一生を過ごすと思っていた。
そう思っていた。
それで満足だったのに。
→
そんな生活を150年以上も続けているのにも関わらず、一向に嫌気がささないのは、きっとこの仕事で充分満足しているという事だ。
「白鷺さん、こいつ俺たちの手には負えなくてッ!」
従順で、仕事に熱心な部下たちからの信頼は厚く、上司からの期待も得ている。ついこの間まで一番下っ端だったと思っていたのに、いつの間にか立派に一人で仕事をこなせるようになっているのだから、時間の経過と人の成長は早いものである。
「こいつの罪は?」
「恐喝・強姦・殺人です。」
約150年という時間の中で培ったのは信頼だけでなく、確かな能力と強い精神力、そして重いものも持ち上げられる馬鹿力。
「それは、それは…腕が鳴るわね。」
他の獄卒の手には負えないとまで言われた男の首根っこを掴み、ずるずると熱々に熱された鉄の塊に歩みよる。
「さぁ、汚らわしい貴方に傷つけられた人々の苦しみ、とくと味わいなさい。」
軽々と小太りの亡者を持ち上げると熱々の湯にぶち込む。湯に落ちた瞬間、舞い上がる熱湯の滴と響き渡る断末魔に近い悲鳴に背筋がぞくりと震える。爛れていく身体中の皮膚に歪んでいく表情。毎度その光景には全身の毛穴が収縮し、頭の先から爪先にかけて一気に鳥肌が立つ。心躍らせながら亡者の頭を大きな棒でぐいぐいと熱湯の中に押しこむ。
「おぼぼぁ…し…死ぬっ」
「大丈夫、死んでるから。気にしないで、お風呂に入っているような気分でしっかりつかりなさい。」
嬉々とした表情で拷問するその姿は鬼にも恐れられるほどのものとして、いつしか私は”大釜の白鷺”と呼ばれ、地獄界でもある程度知名度がある獄卒となった。「仕事様が清々しい。」と同僚からは妬まれることも僻まれることもない。人望に飢えてもいない、仕事で悩むこともあるが充実している。
そんな私に人生の節目が近づいていることをこの時の私は微塵も感じていなかった。終わりのないレールをただガタゴトと音を立てて走るだけだと、この手がよぼよぼになって、物を持てなくなるまで私はここで一生を過ごすと思っていた。
そう思っていた。
それで満足だったのに。
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