春眠暁を覚えず




五年後の千年祭の日、ついに先生は現れた。
あの頃と寸分違わぬ姿で、皆に囲まれ、困惑しながらも笑顔で応えていた。

どうやら、ずっと寝ていたらしい。

そんな事があるのかと、いくら冗談にしても面白くない。
「さっさと起きて姿くらい見せてくれたっていいのに」と思ったけれど、先生の顔を見たら何も言えなくなった。
皆、泣きながら笑っていた。



戦争の最中、私は冗談めかして「逃げても良いか」と先生に投げかける。
言われた方も困るだろうに、先生は間髪入れずに「良い」と放った。

このひとは、本当に、どれだけ私を甘やかしてくれるのだろう。どれだけ私の心に入り込んでくるのだろうか。


それから目まぐるしく日々が過ぎた。
誰もが生き残る事に必死だった。

私は、戦う力をつける事が恐ろしくなっていた。
仲間を守るための力。ひとを殺すための力。

なんども戦場を離れるかどうか葛藤した。
戦えない者達は避難していき、人知れず消えた者も少なくない。
ほんの少しだけ、羨ましく思った。

でも、力がなければ大切なひとを護る事も叶わない。
ただ殺されるだけの人生、そんなのは真っ平ごめんだった。
何があっても死にたくないし、今まで努力してきた自分も諦めたくはない。

敵を前に足が竦み、戦場から逃げ出したくなる。
もし負けたら──、不安で眠れぬ夜も幾度となく経験した。
それでも、先生たちとなら切り抜けられると、漠然と信じている自分がいる。

進むにつれて戦いは熾烈になり、皆疲弊していった。
かつての級友達と剣を交えることもあった。望まぬ戦もあった。
それでも進む事が出来たのは、ひとえに先生のおかげだろう。
誰もが彼女の存在を頼りにしていた。

私達は必死に戦い、数多の犠牲を出しながら進んだ。
夜明けを見るために。

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