春眠暁を覚えず
◇◇◇
こうして息をつく時間があると、どうしても昔のことを思い返してしまう。
実際のところ、同性と付き合うのは初めての事で。
過去の男性達とは何もかもが違う事に、すぐに気付く事になった。
彼らのように、外見や肩書だけで値踏みされ、努力を見ようともしない視線に晒されることも、触れられることもない。
ただ穏やかに同じ時間を過ごすだけで、これ程の幸福だとは、思いもよらなかった。
名のある身分の男性と結婚し、富に恵まれた不自由のない生活こそ幸せだと、そう信じていた。
先生に出会うまでは。
◇
冗談で「養って」とは言ったけれど。
まさか本気にされるとはも思ってもみなかった。
こちらの本心を見抜く様な眼差しが居た堪れなくて、つい茶化してしまう。
それすらも、先生はわかっている様な顔をして。
……実際は本当に何もわかっていなかったのだけど。
あの時、女神の塔で過ごした時間は、私にとって新鮮で瑞々しく、柄にもなく高揚させられた。
いつまでもそこにいたいと感じた記憶は、未だに色褪せない。
初めて会った時から、私の中にはずっと先生がいる。
修道院を駆け回ったり、一日中釣りに没頭していたり。食堂でもよく見かけて、何とも忙しないひとだった。
軍師として皆を率い、助けを求められればどこへでも行く。
──本当に、どこまでも。
時には、本当にこのまま帰って来ないのではないかと不安になった日もあった。
そんな心配をしていた矢先、先生が消えた。
◇
先生の行方がわからなくなったとき、皆は酷く荒れていた。
ある者は泣き、ある者は怒った。原因は先生だけでは無いけれど、やはり大きな要因だったと思う。
いつ終わるのかも分からない戦争に、不安は募るばかりで。
それでも皆は、自らを奮い立たせ、互いを励まし、出来る限りのことをした。
動いていないと、不安に押し潰されそうで仕方なかったからだ。
あの日、私たちは皆で先生と約束した。
たったそれだけの理由でその日を待ち続けていた。
千年祭の日、私は修道院へと向かう。
必ず生きていると信じて。
