春眠暁を覚えず
◇
千年祭の日、先生は本当に現れた。あの頃と寸分違わぬ姿で。皆に囲まれ、困惑しながらも笑顔で応えていた。
なんでも、ずっと寝ていたらしい。
そんな事があるのかと、いくら冗談にしても面白くない。それならさっさと起きて姿くらい見せてくれたって良いのに、と怒りたかったのだけど、先生の表情を見ていたら何も言えなかった。皆、泣きながら笑っていた。
依然として続く戦の最中、冗談めかして「逃げても良いか」なんて、言われた方も困るだろうに、先生は間髪入れずに「良い」と放った。
このひとは、本当に、どれだけ私を甘やかしてくれるのだろう。どれだけ私の心に入り込んでくるのだろうか。
それから目まぐるしく日々が過ぎ、誰もが生き残る事に必死だった。
私は、戦いの為に力をつける事が恐ろしくなっていた。仲間を守るための力。そして、ひとを殺すための力。
なんども戦場を離れるかどうか葛藤した。実際、戦えない者は避難していたし、いつの間にか人知れず居なくなっていた者も少なからずいる様で、ほんの少しだけ、羨ましく思っていた。
でも、力がなければ大切なひとを護る事も叶わず、ただ殺されるだけ。そんなのは真っ平ごめんだった。
何があっても死にたく無かったし、今まで努力してきた自分を諦めたくも無かった。
敵を前に足が竦み、何度も戦場から逃げ出したくなった。もし負けたら?と不安で眠れぬ夜も幾度となく経験した。
それでも、先生達となら切り抜けられる、そう漠然と信じている自分もそこに居た。
進む毎に熾烈になる戦いに皆疲弊していき、かつての級友達と剣を交え、望まぬ戦をする事もあった。それでも尚、進む事が出来たのは、ひとえに先生のおかげだろう。誰もが彼女の存在を頼りにしている。
私達は必死に戦い、数多の犠牲を出しながら進んだ。夜明けを見るために。