春眠暁を覚えず
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実際のところ、同性と付き合うのは初めての事だった。何もかも手探りで、過去の男達とは全く違うのだと、すぐに気付くことになった。
彼らの様に、何かにつけて性的な目で見られたり、触られたりという事はない。
ただ穏やかに同じ時を過ごす事が、これ程の幸福だとは露程にも思っていなかった。
名のある身分の男性と結婚して、富のある不自由のない生活こそが幸せだと、そう信じていた。
先生と出会うまでは。
冗談で「養って」とは言ったものの、まさか本気にしているなんてこれっぽっちも思ってはいなかった。
こちらの本心を見抜く様な眼差しが居た堪れなくて、つい茶化して喋って、それすらもわかった様な顔をしていた。
……実際は本当に何もわかっていなかったんだけど。
あの時、女神の塔で話した時間が、私にとってものすごく新鮮で瑞々しく、柄にもなく高揚し、いつまでもそこに居たいという様な気持ちにさせられた。未だに色褪せることの無い記憶。
思えば、初めて会った時からずっと、私の中に先生がいる。
修道院を駆け回り、はたまた一日釣りに没頭していたり、そのくせ食堂でも頻繁に見かけ…何とも忙しないひとだった。
そして戦時中でも、それは全く変わらなかった。
軍師として皆を率い、助けを求められれば何処へでも行ってしまう。本当に何処までも。
いつか、本当にこのまま帰って来ないのでは、と不安になった日もあった。
そんな心配をしていた矢先、先生が消えた。
先生の行方がわからなくなってから、皆酷く荒れていた。ある者は泣き、ある者は怒り……原因は先生の事だけでは無いけれど、やはり大きな要因であったと思う。いつ終わるのかも分からない戦に、不安を募らせていた。
それでも自らを奮い立たせ、皆を励まし、今出来ることを精一杯する。動いていないと、不安に押し潰されそうで仕方なかった。
皆で先生と約束した。それだけの理由で待ち続け、千年祭の日に修道院へと向かった。必ず生きていると信じて。