My Fair Princess!
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子供の頃、大好きだった女の子がいた。それはそれはたいそうなご身分の方だったけれども、貴族であった私は彼女と一緒に遊ぶことを許されていた。
私には、ひとつの夢があった。
「ぼく、おおきくなったら、ぜったい騎士団長になるんだ!」
「きしだんちょう?」
聞き慣れない言葉。彼女が首を傾げると、二つに結ったすみれ色の髪がふわりと揺れる。あれほど可憐なものを、私は未だ知らない。
「すっごくつよい人のことだよ。いっぱい訓練して、この国でいちばんつよくなるんだ!」
「すご~い! そしたらサリサ、ナマエとけっこんしてあげる!」
舌足らずながらもやくそく、と言って、白くてちいちゃい小指を私のそれに絡ませる。エメラルド色の大きな目をキラキラと輝かせながら。
その様子を見て、私の気持ちがどれほど高揚したかご存知ですか? あなたがあの痛ましい事故に遭われたと聞いて、どんなに絶望したのかも。
「お久し振りです……サリサ、様……」
初めは、声も出すことが出来なかった。それでもどうにか喜びに打ち震える声でお呼びすると、サリサ様はこちらに背を向けたまま、ゆっくりと立ち上がる。
ああ、私は今、タイクーン一の幸せ者だ。ひょっとしたら、世界一かもしれない。
二度とお会いすることが叶わないと思っていた方と再会し、しかもその方の護衛を任されるなんて。
久々に拝見するサリサ様は、やはり美しかった。
ゆったりと振り返る動きに合わせて、高く結い上げられた髪が躍る。それはまるで、すみれの咲き誇る草原を吹き抜ける風のよう。淡いイエローのドレスに彩られた、姫君にしては日に焼けた肌も、不思議と彼女の魅力を引き立てている。何といっても素晴らしいのは、やはり瞳だ。あの頃と同じ、エメラルドグリーンの瞳。
ひとひらの花びらのような唇がうっすらと開かれる。彼女はガラスのように透き通る、凛とした声で───。
「あン? 何処かで会ったか?」
……ん? 意外とドスの効いた声。何だか、想像してたのと違うな。
いやしかし、海賊に拾われ育てられたという話だ。それなら、言動が少々粗野になってしまわれたのも仕方のないことだろう。
そんなサリサ様を立派な姫君にすべく尽力するのも私どもの仕事、そう自分に言い聞かせる。
そういえば、まだ名乗ってすらいなかった。私としたことが、とんだご無礼を……そうだ、私の名前を聞けば、少しは昔の事を思い出してくださるのではないだろうか?
「……申し遅れました、ナマエと申します。覚えていらっしゃいませんか? 子供の頃はよく一緒に遊んだものですが……」
「さあ? ガキの頃の記憶はほとんどねえんだ、悪いな」
淡い期待は一瞬で切り捨てられる。そして追い討ちとばかりに、容赦無い言葉が浴びせられた。
「用が済んだなら下がってくれないか。……少し、一人になりたいんだ」
「いけません! サリサ様の護衛をするよう、言い付けられておりますので」
「はあ……城ってのは、不便なとこだなあ。自由なんてありゃしない。お前だって本当は嫌だろう? こんな野蛮なお姫様の護衛だなんてさ」
嫌だなんて、とんでもない。サリサ様との約束を胸に、これまで血の滲むような努力を重ねてきたというのに。
それをなぜ分かって下さらない? なぜ、思い出して下さらない?
「……幼い頃のサリサ様は、もっと純真で可憐なお方でした」
「はっは~ん」
思わず口を突いて出た言葉に、サリサ様は気を悪くした様子はなかった。ただ目を細め、成る程、とでもいうように腕を組む。すらりとした手を顎に運ぶ仕草は、ドレスに身を包んでいても悔しいくらいに男前だった。
「さてはお前、おれに惚れてたな?」
「な……っ!!」
「ククッ……図星か?」
ハイ、図星です。だからもう、何も言えません。ずっと胸に秘めてきた、子供の頃の淡い気持ち。それを本人にからかわれるなんて最悪だ。
さも愉快そうに肩を震わせる様はさながら悪の親玉のよう。かつての私はどうして……こんな人を好きになってしまったんだろう。
「そうだ、良いことを思いついた」
落胆する私などお構い無しに、サリサ様は悪戯を思いついた子供のように目を輝かせて言った。私には分かる。きっと碌でもないことだ。
「なあ、ちょっくら抜け出そうか」
「へ?」
「強くなるには、広い世界っつー物を知る必要があるんだぜ、ナマエ?」
片目を眇めて口の端を上げる。見るだけで誰もがひれ伏すような、ある意味王族として相応しい笑みなのだが……間違っても王女らしくはない。むしろ覇王だ。絶対的な美と暴力性を秘めた、覇王の微笑み。
「なるんだろ? 騎士団長に」
「え……あ!?」
私は耳を疑った。思い出している、のだろうか? 幼い頃の約束を?
そんな予感を感じ取ったのも束の間。その細腕がこちらに伸びてきた。と思ったら、あっと言う間にひょいと担がれてしまった。……言っておくが、今の私はガチガチの重装備である。今日という日のために純白の鎧を新調したのだ。
「行くぞ、ナマエ!」
勇ましい掛け声と共に、どこから取り出したやら、先端に鉤爪の付いたロープを窓枠に引っ掛ける。その手際と言ったら目にも鮮やか。
…………じゃなくて!!
「あああぁぁッーーー!!?」
我が海賊姫は私を肩に担ぎ上げたままひらりと跳躍し、容易く窓枠を超えてみせる。
何となく……そう、これはただの予感なのだけど。
私は一生、この乱暴な姫君にお仕えすることになるだろう。でも、こき使われるだけというのは癪だ。だからやっぱり、約束通り騎士団長になるんだ。それで、少しは見直していただかなくては。
急速に近付いてくる地面。着地に伴う衝撃に固く目を瞑る。
胸の内に芽生え始めた、小さな喜びを噛み締めながら。
私には、ひとつの夢があった。
「ぼく、おおきくなったら、ぜったい騎士団長になるんだ!」
「きしだんちょう?」
聞き慣れない言葉。彼女が首を傾げると、二つに結ったすみれ色の髪がふわりと揺れる。あれほど可憐なものを、私は未だ知らない。
「すっごくつよい人のことだよ。いっぱい訓練して、この国でいちばんつよくなるんだ!」
「すご~い! そしたらサリサ、ナマエとけっこんしてあげる!」
舌足らずながらもやくそく、と言って、白くてちいちゃい小指を私のそれに絡ませる。エメラルド色の大きな目をキラキラと輝かせながら。
その様子を見て、私の気持ちがどれほど高揚したかご存知ですか? あなたがあの痛ましい事故に遭われたと聞いて、どんなに絶望したのかも。
「お久し振りです……サリサ、様……」
初めは、声も出すことが出来なかった。それでもどうにか喜びに打ち震える声でお呼びすると、サリサ様はこちらに背を向けたまま、ゆっくりと立ち上がる。
ああ、私は今、タイクーン一の幸せ者だ。ひょっとしたら、世界一かもしれない。
二度とお会いすることが叶わないと思っていた方と再会し、しかもその方の護衛を任されるなんて。
久々に拝見するサリサ様は、やはり美しかった。
ゆったりと振り返る動きに合わせて、高く結い上げられた髪が躍る。それはまるで、すみれの咲き誇る草原を吹き抜ける風のよう。淡いイエローのドレスに彩られた、姫君にしては日に焼けた肌も、不思議と彼女の魅力を引き立てている。何といっても素晴らしいのは、やはり瞳だ。あの頃と同じ、エメラルドグリーンの瞳。
ひとひらの花びらのような唇がうっすらと開かれる。彼女はガラスのように透き通る、凛とした声で───。
「あン? 何処かで会ったか?」
……ん? 意外とドスの効いた声。何だか、想像してたのと違うな。
いやしかし、海賊に拾われ育てられたという話だ。それなら、言動が少々粗野になってしまわれたのも仕方のないことだろう。
そんなサリサ様を立派な姫君にすべく尽力するのも私どもの仕事、そう自分に言い聞かせる。
そういえば、まだ名乗ってすらいなかった。私としたことが、とんだご無礼を……そうだ、私の名前を聞けば、少しは昔の事を思い出してくださるのではないだろうか?
「……申し遅れました、ナマエと申します。覚えていらっしゃいませんか? 子供の頃はよく一緒に遊んだものですが……」
「さあ? ガキの頃の記憶はほとんどねえんだ、悪いな」
淡い期待は一瞬で切り捨てられる。そして追い討ちとばかりに、容赦無い言葉が浴びせられた。
「用が済んだなら下がってくれないか。……少し、一人になりたいんだ」
「いけません! サリサ様の護衛をするよう、言い付けられておりますので」
「はあ……城ってのは、不便なとこだなあ。自由なんてありゃしない。お前だって本当は嫌だろう? こんな野蛮なお姫様の護衛だなんてさ」
嫌だなんて、とんでもない。サリサ様との約束を胸に、これまで血の滲むような努力を重ねてきたというのに。
それをなぜ分かって下さらない? なぜ、思い出して下さらない?
「……幼い頃のサリサ様は、もっと純真で可憐なお方でした」
「はっは~ん」
思わず口を突いて出た言葉に、サリサ様は気を悪くした様子はなかった。ただ目を細め、成る程、とでもいうように腕を組む。すらりとした手を顎に運ぶ仕草は、ドレスに身を包んでいても悔しいくらいに男前だった。
「さてはお前、おれに惚れてたな?」
「な……っ!!」
「ククッ……図星か?」
ハイ、図星です。だからもう、何も言えません。ずっと胸に秘めてきた、子供の頃の淡い気持ち。それを本人にからかわれるなんて最悪だ。
さも愉快そうに肩を震わせる様はさながら悪の親玉のよう。かつての私はどうして……こんな人を好きになってしまったんだろう。
「そうだ、良いことを思いついた」
落胆する私などお構い無しに、サリサ様は悪戯を思いついた子供のように目を輝かせて言った。私には分かる。きっと碌でもないことだ。
「なあ、ちょっくら抜け出そうか」
「へ?」
「強くなるには、広い世界っつー物を知る必要があるんだぜ、ナマエ?」
片目を眇めて口の端を上げる。見るだけで誰もがひれ伏すような、ある意味王族として相応しい笑みなのだが……間違っても王女らしくはない。むしろ覇王だ。絶対的な美と暴力性を秘めた、覇王の微笑み。
「なるんだろ? 騎士団長に」
「え……あ!?」
私は耳を疑った。思い出している、のだろうか? 幼い頃の約束を?
そんな予感を感じ取ったのも束の間。その細腕がこちらに伸びてきた。と思ったら、あっと言う間にひょいと担がれてしまった。……言っておくが、今の私はガチガチの重装備である。今日という日のために純白の鎧を新調したのだ。
「行くぞ、ナマエ!」
勇ましい掛け声と共に、どこから取り出したやら、先端に鉤爪の付いたロープを窓枠に引っ掛ける。その手際と言ったら目にも鮮やか。
…………じゃなくて!!
「あああぁぁッーーー!!?」
我が海賊姫は私を肩に担ぎ上げたままひらりと跳躍し、容易く窓枠を超えてみせる。
何となく……そう、これはただの予感なのだけど。
私は一生、この乱暴な姫君にお仕えすることになるだろう。でも、こき使われるだけというのは癪だ。だからやっぱり、約束通り騎士団長になるんだ。それで、少しは見直していただかなくては。
急速に近付いてくる地面。着地に伴う衝撃に固く目を瞑る。
胸の内に芽生え始めた、小さな喜びを噛み締めながら。
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