約束
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誰もいないリンドブルム城の客間の中、もう何度目かの溜め息を吐く。
おじさまは、すでにお母様の異変に気付いていた。自分から行動したつもりでいたのに、結局は安全なところに保護されただけ。みんな私を子供扱いする。そうよ、ジタンだって……。ううん違う、みんなのせいじゃない。無力な自分がいくら情けないからといって、人のせいにするのは間違っている。それは分かっているけれど。
さっきジタンに励まされたばかりだというのに、一人でいるとくだらないことばかり考えてしまう。だけど、ほんの少し。少しでいいから、私にも何かできたらと、考えずにはいられない。
コンコン、というノックの音に思考を中断される。きっと城の関係者に違いないのに、誰かしらと期待してしまう。
はい、と短い返事を返すと、ドアを開けたのはやはり近衛兵だった。
「ガーネット様、失礼いたします。先ほどナマエという女性の方が訪ねて来られたのですが……」
一度は肩を落としたけれど、聞こえた名前にはっと顔を上げる。
「! その方はわたくしの大切な友人です。すぐに案内してください」
「やっほー、ダガー! まったく、ここまで来るの大変だったよー。警備がどうとかさあ」
「ナマエ! 来てくれたのね」
ややあって大柄な兵士の後ろからひょこりと現れたナマエを見て、思わず笑みがこぼれる。つい昨日別れたばかりだというのに、もう随分と会っていないような気がする。
ドックから城に入ったとき、「お城なんてはじめて!」と目を輝かせていたナマエは、まだ心なしかそわそわしているようだった。手前のソファを勧めると、ほっとしたように腰を落ち着けてくれた。せっかくふたりで話せるというのに、警備のために近衛兵が着いたまままでいるのを窮屈に感じてしまう。
「あのね、ダガー何してるかなーって気になって。あっ、ねえねえ、狩猟祭には来るんでしょ? 私も出るから、応援してね」
「ええ、観にいくつもりよ。がんばってね、ナマエ!」
「ありがとうダガー。任せてよ!」
強気に微笑んで、拳を胸の前でぐっと握りしめる。そういう男の子のようなポーズも、ナマエがすると不思議と様になった。こういうふとした瞬間に、私はナマエが羨ましくなる。いつも強くて明るくて、自分で行動できる勇気を持っている。そんな彼女が眩しくて、弱い私は霞んでしまいそうになる。
そんな私には気付かずに、ナマエはポンと両手を合わせた。
「そうだ! ねえダガー、もし私が優勝したら、一緒にデートしない?」
思いがけない提案。まさかナマエもそんなことを言うとは思わなかったから、つい笑ってしまった。
「ふふ、ナマエったら、ジタンと同じことを言うのね」
「えっ! あいつってばちゃっかり……!?」
「私、デートって男性とするものだと思っていたのだけど……ナマエとだったら楽しそうね」
「女の子同士でも、デートするんだよ。仲良しの子と一緒にお茶したりお買い物したり、あとお芝居を観たりとか!」
「仲良しの子と……」
なんだかくすぐったい響き。だけどそんな風に言ってくれる人なんて、今までいなかった。
複雑な表情をしているであろう私を見て、ナマエはふと目を細める。
「……なんだかんだで、色々あったよね」
「色々?」
「そう。飛空挺が落っこちたり、変な魔物にさらわれたり、氷の洞窟ではあやうく凍っちゃいそうだったし……。そんな経験一緒に乗り越えられる仲間なんて、そうそういなくない?」
ダガーの白魔法に、何度も助けられたんだよ。そう優しい顔で言ってくれるナマエ。なんだろう、心がとてもあたたかくなる。私がナマエを助けていた? みんなの背中を追いかけるだけで必死だった私が? 彼女は私を、守るべき存在ではなく、肩を並べて苦難を乗り越えてきた仲間として見てくれているのだろうか。
「お姫様だからとか、関係ない。そうじゃない? 私たち、友達だよね? こうやってもう、気軽に話せなくなっちゃうの……嫌なんだ」
「ナマエ……」
「だから、デートの約束、してくれる? そのためなら私、がんばるから!」
この子はきっと、私のくだらない悩みも全部、分かっているのかもしれない。ねえナマエ、知ってる? 私だって、同じ気持ちだってこと。
「ええ、もちろん。楽しみにしてるわ」
王女としての私でなく。
自分の立場や周りの目を気にせずに、ひとりの友人として、堂々とナマエの隣を歩けたら。
もしナマエが優勝できなかったとしても、今度は私からこの素敵な約束を提案しよう。そう心に決めて、差し出された小指に小指を絡ませた。
おじさまは、すでにお母様の異変に気付いていた。自分から行動したつもりでいたのに、結局は安全なところに保護されただけ。みんな私を子供扱いする。そうよ、ジタンだって……。ううん違う、みんなのせいじゃない。無力な自分がいくら情けないからといって、人のせいにするのは間違っている。それは分かっているけれど。
さっきジタンに励まされたばかりだというのに、一人でいるとくだらないことばかり考えてしまう。だけど、ほんの少し。少しでいいから、私にも何かできたらと、考えずにはいられない。
コンコン、というノックの音に思考を中断される。きっと城の関係者に違いないのに、誰かしらと期待してしまう。
はい、と短い返事を返すと、ドアを開けたのはやはり近衛兵だった。
「ガーネット様、失礼いたします。先ほどナマエという女性の方が訪ねて来られたのですが……」
一度は肩を落としたけれど、聞こえた名前にはっと顔を上げる。
「! その方はわたくしの大切な友人です。すぐに案内してください」
「やっほー、ダガー! まったく、ここまで来るの大変だったよー。警備がどうとかさあ」
「ナマエ! 来てくれたのね」
ややあって大柄な兵士の後ろからひょこりと現れたナマエを見て、思わず笑みがこぼれる。つい昨日別れたばかりだというのに、もう随分と会っていないような気がする。
ドックから城に入ったとき、「お城なんてはじめて!」と目を輝かせていたナマエは、まだ心なしかそわそわしているようだった。手前のソファを勧めると、ほっとしたように腰を落ち着けてくれた。せっかくふたりで話せるというのに、警備のために近衛兵が着いたまままでいるのを窮屈に感じてしまう。
「あのね、ダガー何してるかなーって気になって。あっ、ねえねえ、狩猟祭には来るんでしょ? 私も出るから、応援してね」
「ええ、観にいくつもりよ。がんばってね、ナマエ!」
「ありがとうダガー。任せてよ!」
強気に微笑んで、拳を胸の前でぐっと握りしめる。そういう男の子のようなポーズも、ナマエがすると不思議と様になった。こういうふとした瞬間に、私はナマエが羨ましくなる。いつも強くて明るくて、自分で行動できる勇気を持っている。そんな彼女が眩しくて、弱い私は霞んでしまいそうになる。
そんな私には気付かずに、ナマエはポンと両手を合わせた。
「そうだ! ねえダガー、もし私が優勝したら、一緒にデートしない?」
思いがけない提案。まさかナマエもそんなことを言うとは思わなかったから、つい笑ってしまった。
「ふふ、ナマエったら、ジタンと同じことを言うのね」
「えっ! あいつってばちゃっかり……!?」
「私、デートって男性とするものだと思っていたのだけど……ナマエとだったら楽しそうね」
「女の子同士でも、デートするんだよ。仲良しの子と一緒にお茶したりお買い物したり、あとお芝居を観たりとか!」
「仲良しの子と……」
なんだかくすぐったい響き。だけどそんな風に言ってくれる人なんて、今までいなかった。
複雑な表情をしているであろう私を見て、ナマエはふと目を細める。
「……なんだかんだで、色々あったよね」
「色々?」
「そう。飛空挺が落っこちたり、変な魔物にさらわれたり、氷の洞窟ではあやうく凍っちゃいそうだったし……。そんな経験一緒に乗り越えられる仲間なんて、そうそういなくない?」
ダガーの白魔法に、何度も助けられたんだよ。そう優しい顔で言ってくれるナマエ。なんだろう、心がとてもあたたかくなる。私がナマエを助けていた? みんなの背中を追いかけるだけで必死だった私が? 彼女は私を、守るべき存在ではなく、肩を並べて苦難を乗り越えてきた仲間として見てくれているのだろうか。
「お姫様だからとか、関係ない。そうじゃない? 私たち、友達だよね? こうやってもう、気軽に話せなくなっちゃうの……嫌なんだ」
「ナマエ……」
「だから、デートの約束、してくれる? そのためなら私、がんばるから!」
この子はきっと、私のくだらない悩みも全部、分かっているのかもしれない。ねえナマエ、知ってる? 私だって、同じ気持ちだってこと。
「ええ、もちろん。楽しみにしてるわ」
王女としての私でなく。
自分の立場や周りの目を気にせずに、ひとりの友人として、堂々とナマエの隣を歩けたら。
もしナマエが優勝できなかったとしても、今度は私からこの素敵な約束を提案しよう。そう心に決めて、差し出された小指に小指を絡ませた。
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