Children in Time
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結局、なくしたカメラの一部は見つからなかった。中庭を這いつくばっているところにゼルと鉢合わせ、二人がかりで探したのだ。
修理は無理かと思われたが、しかし何かしらの勝算が彼にはあるらしかった。気になって詳しく聞こうとしても「びっくりさせたいから!」の一点張りで教えようとしてくれない。なんとも具体性に欠ける答えだが、とにかく今は信じて待つほかなかった。
(誰かいる……?)
訓練施設。唯一24時間解放されているこの場所は、昼夜を問わずたくさんの生徒が出入りしている。
同時に複数の生徒が利用していることも多く、そういった場合は同じエリア内には立ち入らないなど、お互いの邪魔をしないように振る舞うのが暗黙のルールとなっている。相手の集中力を削ぐだけでなく、一歩間違えば流れ弾に当たったり、モンスターと間違えられて斬りかかられたりと碌なことにならないからだ。
とはいえ、先客の様子が気になるのも当然。ニカは銃を構え、姿勢を低く保ちながら、戦闘中であるらしい気配の方へと向かった。
複数のグラットと対峙している生徒がひとり。非常灯の下で、淡い色の髪がぼんやりと光っている。ゼルだ。
左方からふいに飛んできた攻撃を軽くいなし、カウンターで拳を打ち込む。振り向きざま、別の個体に華麗な回し蹴りを見舞うのも忘れない。
わずかに間合いを取ったと思いきや、そこから一気に飛び込む。まるで噛み付くような一撃だ。小柄でしなやかな体躯は、猫科の獣を連想させた。ほとんど本能で戦っているのか、深く考えずとも自然に体が動く……そんな戦い方だった。
モンスターの群れを片付け、崩れて額におちた前髪をかきあげる。俊敏な動きに見惚れて動けないでいたニカはやっと我に返り、彼に声を掛けた。
「……ゼル?」
「お、ニカ! 訓練か?」
「うん、偶然だね。───っと!」
人の気配におびき寄せられたのか。ふらりと現れたモンスターを射撃で仕留める。
「お、さすがだな! なあ、ちょっくら一緒に回んねえか? ニカが戦ってるとこ、ちゃんと見たいって思ってたんだ」
願ってもない提案だった。二つ返事で了承し、連れ立って人工的な密林の最深部へと進んでゆく。
早くも草陰から出現した二体のモンスターの間に、ゼルが躍り出た。一連の動きには、ほんの僅かなためらいすらない。素早い動きで敵を翻弄する彼に、ダメージを軽減する魔法を放った。
獲物を狙って振り上げられる二本の触手。生意気なそれを撃ち抜いて排除する。銃撃を受けてひるんだ標的にゼルが踵落としを決める。キィ、と弱々しく鳴いて、グラットはあっけなく絶命した。
発砲音を聞きつけてか、周囲の敵の気配が濃厚になった。久々に手応えのある訓練になりそうだ。そんな予感に、ニカは自分が嫌でも高揚するのを感じた。
「3時の方向に2、10時の方向に2……いや、3! ゼル、気をつけて!」
「了解っ」
再び始まった戦闘。ゼルの立ち回りは型破りなところも多く、その度にニカを驚かせた。
荒削り感は否めないが、それすらも新鮮に感じる。予備動作もほとんどないため、常に集中していなければ、彼自身を誤射してしまいそうなくらいだ。
それでも背後のニカを信用してくれていることが背中越しに伝わってくるから、自信を持って銃撃や魔法での支援に徹することができた。
気がつけば、相当な数を倒したらしい。付近の敵はあらかた片付けたのか、辺りはしんと静まり返っていた。ニカはふうっと息をついて、整理運動がてらに肩を回すゼルに歩み寄った。
「ゼル、やっぱり強いね! 格闘クラスでも、これだけ戦える人はそうそういないよ」
「へへっ、そうか? でも、こんなに自由に動けるのもニカのお陰だぜ?」
「え?」
「実力が高くなるほど、仲間からの支援を軽視するやつも多い。けどな、誰だって、ひとりで戦ってる訳じゃねえ。今だって、完璧なアシストがあったからこそ、自由に戦えたんだ」
彼は自分の力を信じているが、過信している訳ではないのだ。これだけの力量を持っていながらも、きちんと人を気遣うこと、頼り頼られることを知っている。
「っていうか、単純にニカがいるとやりやすい! あと一本腕があったらなーとか脚がもっと長けりゃなーって思うと、そこに丁度よく銃弾が飛んでくんだもん。な、ひょっとしてオレたちがSeeDになってタッグ組んだら最強なんじゃね?」
「ふふ、そうなれたらいいな」
任務に赴いて、共に戦う姿を頭に浮かべてみる。その想像は非常に魅力的で、本当にそうなったらどんなに素敵だろうと思わずにいられなかった。
「オレ、好きだな。ニカの戦い方」
嘘のような台詞に、思わず顔を上げる。一点の曇りもないブルーの瞳が、きらきらと輝いていた。
「行動パターンとか陣形とか。いつも頭使って動いてるだろ。客観的に周りを見て、状況に応じた動きをしてる」
「そんな、買い被りすぎだよ。ほとんど本に書いてあることの応用ばっかりだもん」
「だとしても、そんだけ勉強したってことだろ? オレは考えるのは苦手だからよ。勢い余って突っ走ることも多いけど……ニカが後ろについてくれたら、安心して戦える気がするんだ」
「安心、して……」
「さっきの、オレらがタッグ組んだらって話。あれ、冗談抜きでそう思うんだ。ニカさえ良ければ、また一緒に頼むぜ」
じわりと、あたたかい気持ちがこみ上げる。そんな風に思ってもらえるなんて、これ以上ないくらいに光栄だ。その言葉がただただ嬉しくて。舞い上がってしまいそうな気持ちを抑えて、ピシッと敬礼をしてみせた。
「私こそ、今日はたくさん勉強させてくれてありがとう。またぜひ、お願いします」
今、この胸の内にあるのは純粋な尊敬だ。いつか、この人と共に戦えたら。
親しくなってまだ日は浅いけれど、そんなことを思うようになっていた。
筆記試験まで、約1ヶ月半。目標のためにできることは、きっと山ほどある。