Children in Time
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大きくせり出した岬の先端に、一組の少年と少女が立っている。
二人の間に会話はない。しかし、その沈黙は言葉以上に大きな意義を成し、互いの胸をあたたかく満たしていた。
日は傾きかけ、黄昏の気配が静かに忍び寄る。それでも、二人はその場を離れようとはしない。二度と訪れないこの瞬間を少しでも長く味わい、記憶に留めたい───そんな思いが、彼らの足をこの地に縫い留めているようだった。
髪や衣服を巻き上げる風がなければ、時さえ止まって見えただろう。そんな永遠とも思えるような時間の中、沈黙を破ったのは、少女の「あっ」という小さな声だった。
「そういえば……私、SeeDになったんだった」
「え!? な、なんでまた」
目を丸くする少年に、少女は事の経緯を掻い摘んで説明する。すべてを聞き終えた少年は納得して頷いたが、その顔には困惑、あるいは心配と呼ばれる類の色が浮かんでいた。
「事情は分かった。けど……ニカはどう思ってるんだ?」
彼にとって最も重要なのは、少女が今、どのように感じているかということだった。それが判明するまでは、この結果を祝福することも、落胆することも出来なかった。
「私は……」
自身の胸に手を当て、少女は思案する。
「……こんな成り行き任せじゃなくて、ちゃんと試験を受け直して、正式にSeeDになりたい。今度こそ、胸を張って名乗れるように」
「他の誰かを傷付けることになっても、か?」
辛辣なように聞こえるが、それは少年の優しさから発せられた言葉だった。しかしそんな心配を他所に、少女はわずかな逡巡も見せずに頷いた。
「もしかしたら、後悔することになるかもしれない。でも……それすらも、経験しなきゃ分からないと思うから」
それに、と言葉をつないで彼女は続ける。
「今回のことで、離れているから出来ることもあるって分かった。でも、次はやっぱり私も一緒に行きたい。SeeDになれば、選択肢は広がる……そうだよね?」
小さく微笑んで、首を傾げる。その瞳に、いたずらに奪うことへの迷いを見せていた日の名残はない。実際は今も葛藤し続けているが、それでも……いや、葛藤しているからこそ、少女は踏み出すことを選ぶ強さを得た。
「やべえ、どうしよう……」
「え?」
少し前まで気恥ずかしさに狼狽えていたことも忘れて、少年は少女をぎゅうと抱き寄せる。
「一緒に戦えなくてもって、オレ言ったけど……同じ任務行けるかもって思ったら、めっちゃ嬉しくて」
息が詰まりそうなほどの抱擁に驚いたのも束の間、少女は弾けるような笑顔と共に、少年の背にしっかりと両腕を回した。
「……私も!」
海から生まれた祈りのような風が、二人の笑い声を乗せて果てへと還る。
共に戦いたい───そんな願いを抱くこと自体、世間の目には異常に映るのかもしれない。だとしても、彼らはどこにでもいる普通の子供たちだった。嬉しければ笑い、悲しければ泣く。そんな、やわらかな心を持った人間だった。
寄せては返す波濤。その大きな営みの中で、彼らの存在は流れを構成する粒子の一つにすぎない。世界は不条理で、単純に白や黒で切り分けられない煩雑さをはらんでいる。
そんな激流に揉まれ、他者を傷付けながらも、彼らは互いに手を取り合い歩んでゆく。心に灯る光が消えてしまわないよう、大切に胸に抱えながら。