Children in Time
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先の見えぬ不毛の地を、ニカは歩き続けていた。
なぜ自分がここにいるのか、そもそもここがどこなのか、何ひとつ分からない。ただ、唐突に生まれ落ちたように、あるいは初めからそうであったかのように、気付けばこの荒野の真ん中に立っていた。
小銃こそ携行していないものの、細胞に行き渡るG.F.の恩恵を感じる。しかし、本来なら心強いはずのその力が、今はひどく無力に思えた。
永遠に続くとも思える、乾いてひび割れた大地。重く立ち込める、鈍色の雲。どれほど進んでも変わることのない景色に、心が折れそうになる。だが、奇妙なのはその際限のなさだけではない。わずかな、けれど見過ごすことのできない違和感に立ち止まる。
風が、止まっている。歩行に伴うわずかな空気の抵抗すらも感じない。大気は流れることも、留まることもせず、ただ不自然な空白としてそこに在った。
途端に、喩えがたい感情が押し寄せる。
このまま出口を見出せず、じわじわと弱り力尽きるまで、この荒野を彷徨い続けることになったら。そんな底のない恐怖に、無意味と分かっていても誰かの名前を呼んでその存在を確かめたくなる。
しかし、衝動のままに開いた唇が他者の名を紡ぐことはなかった。
大切な、誰かがいたはずだった。共に笑い、泣き、出会いと別れを繰り返す中で、かけがえのない時間を与えてくれた人びと。
確かに彼らは存在していた。それなのに、朧げな輪郭が揺らめくだけでその本質を捉えることができない。それどころか、掴もうとすればするほど遠のいていく。
感じたのは、紛れもない絶望だった。しかしそれを自覚する前に、感情すらも脆く崩れ始める。記憶が、心が。自分を自分たらしめていた何もかもが失われていく。
膨れ上がった世界が、自分という小さな点を目掛けて襲いかかってくる。あらゆる人間の記憶。星々の歩む歴史。無限に続く過去と無限に続く未来が、喜びも絶望も一緒くたになって脳になだれ込む。
何百年、何千年という時間の前に、人はどうしようもなく無力だ。思考が切り刻まれ、ばらばらにされる苦痛に耐え兼ねて、ニカは糸が切れたようにがくりと膝をついた。
果てのない荒野に、少女がひとり蹲っている。
いや……『それ』は、もはや少女の姿をした人形だった。圧縮された時間によって自我を失った、哀れな抜け殻。
───ニカ
なにか、聞こえた気がする。
かすかな、けれど心地のよい音だった。それは凍りついていた空気を震わせ、草原に吹くそよ風のように優しく頬を撫でる。
───ニカ!
今度は、先ほどよりもはっきりと届いた。
"ニカ"……。
その言葉を、どこかで聞いたような気がする。
………ああ、そうだ。
それが、わたしの名前だった。
たくさんの人が……あの人が呼んでくれた名前。
最後にその声で、名前を呼んでもらえた。
だから……それだけで、もう。
…………最後?
───いや……まだだ。
閉じた瞼がわずかに震え、指先が地表をなぞる。
あの人が呼んでいる。名前も顔も思い出せないけれど、声だけは分かる。だから、こんなところで終わるわけにはいかない。
『それ』は……ニカは、投げ出していた四肢に力を込めた。枯れた大地に手をつき、ゆっくりと体重をかけながら腕を伸ばす。小石が手のひらに食い込む痛みすら、ニカとこの世界を繋ぐ杭となった。
両の足でしっかりと地面を捉え、覚束なげに震えていた関節を気力で支える。立ち上がり、顔を上げると同時、ニカは目を開いた。その表情は、もう魂の抜け落ちた人形のそれではない。
行かなければ……あの人の待つ場所へ。
踏み出そうとした足元に、ふと何かが落ちた。
それは小さな手帳だった。シンプルな革張りのデザインには、どことなく見覚えがあるような気がする。
それを拾い上げて、最初のページをそっと開いた。見返しの部分に何かが挟まっている。───写真だ。岬から臨む空と海、そのまばゆいばかりの色彩が水晶体に飛び込んで、網膜にきらめく。
瞬間、極彩色の風が吹き抜けた。
緑色はつややかに生い茂る草木に。桃色や黄色は可憐に咲く花々に。そして青色は、鮮やかに溶け合う空と海へと姿を変える。
それは、泣き出してしまいたくなるほどに美しい風景だった。どうして忘れていたんだろう。あの日、あの人に……ゼルに教えてもらった、大切な場所なのに。
真っ白な雲の向こうに、昼の月が淡い輪郭を浮かび上がらせている。その下にはすべての源たる存在が、巨大な生き物のようにうねりながら広がっていた。ふたつの星が引き合う力にしたがって、寄せては返し、そしてまた、寄せる。
そんな鮮やかな世界に向かってせり出した岬の先端に、人の姿があることに気付いた。小さな背中は幼い子供のものだ。陽光を浴びて透けるように輝く金の髪が、潮風にそよいでいる。
そんな一枚の絵画のような光景に引き寄せられ、ニカの足は自ずと前へ進んだ。
「ゼル……?」
なぜ、そう思ったのだろう。華奢な肩も、真っ白なうなじも、彼とは少しも似ていないのに。
けれど、振り返ったその子の目を見て確信した。このバラムの海のような、美しい青がニカの魂を射抜いたから。
「おねえちゃん、だれ? おばちゃん……えっと、"おかあさん"のお友達?」
少年は振り返り、その小さな頭を傾げた。
求めていた人の幼い頃の姿に、思わず感極まりそうになる。しかし、突然取り乱すなど不審者もいいところだ。せめて警戒させないよう、出来るだけ温和な口調を心掛けて語りかける。
「……おうちに帰ろう。お母さんが心配するよ。ここは綺麗だけど、怖いモンスターが出るかもしれないんだ」
「うん………」
そもそも、どうやって自宅からここまで来たのだろうか。一人で歩いてきたのだとしたら、運が良かったとしか言いようがない。
危険だということは理解しているのか、ゼルは素直に頷いた。しかし、その表情は晴れない。
「新しいおうちは、いや?」
ニカはしゃがみ込んで、ゼルと視線を合わせる。彼はゆるゆると首を横に振ったが、目元に涙の名残があることに気付いた。
「いやじゃない、けど……あのね、まませんせいたち、海のむこうにいるんだって。すっごくとおいから、会えないんだって」
だから、見晴らしの良いこの場所で海を見ていたのか。水平線の向こうに、育ての親と友の面影を思い描いて。どんなにあたたかな家庭に迎えられたとしても、大切な人たちとの離別が容易く癒やせるはずがないのだ。
「……ゼル、よく聞いて」
白く小さな手を取り、そっと握り締める。
「あなたは将来、とても強い人になる。みんなとも、今は離れ離れになってしまったけど……いつかまた、きっと会える」
「ほんと? おじいちゃんよりつよくなれる?」
「うん、なれるよ」
「おとうさんや、おかあさんも守れるかな?」
「ご両親だけじゃない。たくさんの大切な人たちを守れる、強くて優しい人になる。必ず」
気休めではなく、自信を持って言い切れる。いくつもの危機を乗り越え力に変えてきた、純粋で強かなまなざしを知っているから。
「そうだ……これ、ゼルにあげる」
手に持っていた写真を、ゼルに手渡す。彼はしばしそれを見つめ、はっと気付いたように周囲の景色と見比べた。
「きれい……これって、ここ?」
「そうだよ。もし嫌なことがあったり、悲しくなったりした時は、この場所と……この言葉を思い出して。『あなたなら、何があっても絶対に大丈夫』って。その代わり、大きくなるまではひとりでここに来ないって、約束して欲しいんだ」
「うん……わかった、やくそく」
差し出された小さな指に、自らの小指を絡ませる。その時、背後に人の気配を感じた。
「ゼル!」
息を切らしながら駆け寄ってきたのは、ゼルの母だった。ニカが知っている姿より若いが、頬が描くおだやかなラインや、意外と意思の強そうな目元は変わらない。
「あなたは……? 見たことのない制服だけれど……」
子供に近付く見知らぬ人間を警戒しないはずがない。しかし、まさか未来から来たと答えるわけにはいかず、ニカは口を閉ざしたまま深く頭を下げる。
「……すみません、どう説明したらいいのか分からなくて。きっと何をお話ししても、驚かせてしまうと思うんです。ただ……」
そこまで言って、ゼルを振り返る。
「彼を育てて下さって……かけがえのない物を与えて下さって、本当にありがとうございます。それから……ごめんなさい」
「……あなたは、この子がどこから来たのか知っているのね」
要領を得ない話の中に、何かを感じ取ったのだろう。ディン夫人はゆっくりと瞬いて、同じくゼルに向けていた視線をニカへと移す。
「ねえ、どうして謝るの? 謝らなきゃいけないようなことを、あなたはしているの?」
「……いいえ」
少し考えて、ニカは首を横に振った。
結局のところ、自分たちは社会を作る駒の一つでしかない。必要悪なんて都合のいい言葉を使うつもりはないが、ニカが拒否したところで他の誰かが代わりを務めるだけだ。そしてその善悪すらも、視点さえ変えれば簡単に覆ると知った。
「でも、私たちを許せない人も、たくさんいると思います」
私たち、と、彼女は口の中で小さく繰り返した。
「よく分からないけれど……その道を信じて歩んでいるのなら、世間がなんと言おうと誇るべきだわ。だってあなた、そんなひどいことをする子にはとても見えないもの」
何も知らないはずの彼女の言葉に、喉の奥が熱くなる。同時に、その真っ直ぐな目によく似た瞳を持つ彼に、無性に会いたくなった。
ここは居心地の良い場所だ。だからこそ、立ち止まっていたら戻れなくなるような気がする。
「私、帰らなくちゃ……。会いたい人がいるんです。でも、どうしたらいいのか……」
「まいごになっちゃったの? おうち、帰れないの?」
心配そうに見上げてくるゼルに微笑み返しながら、ニカは柔らかい金の髪を撫でた。
「そういうわけじゃないの。ただ、車や電車じゃ行けないところなんだ」
正確に言えば、目的地にはすでに辿り着いている。けれど、時代を越える方法が分からない。跳びたくとも、蹴るべき地面がなくて跳べない……そんな感覚だった。
その時、しばらく何かを考え込んでいたゼルの母親が、どこか躊躇いがちに口を開いた。
「おかしなことを言ったらごめんなさいね。でも、もしかしたら私たち、とても不思議な体験をしているような気がして」
ニカは無言で肯定する。彼女は少し肩の力を抜いたように見えた。
「あなたが帰れないのは、見送りがいないからかもしれないわね。あとに残すものがないと、人は進めないから」
「見送り……」
「確証なんてないわ。でも、こんな時にうってつけの言葉があるの。長い航海に出る人に贈る言葉がね。ねえ、あなた、名前はなんていうの?」
いずれ未来で出会う人に、名前を教えても問題ないだろうか。そんな心配が頭をよぎるが、衒いのない笑みを向けられ、自然に口を開いていた。
「……ニカ、です」
「そう……ニカちゃん、ね」
慈しむようにその名を繰り返して、ディン夫人はニカの背にそっと触れた。あの日、送り出してくれたのと同じ笑顔で。
「暗闇を照らす希望の灯が、ニカちゃんの標となりますように。そしてこの海に吹くすべての風が、ニカちゃんの味方となりますように。……大丈夫、きっと帰れるわ。自分を信じて……行ってらっしゃい」
瞬間、視界がわずかにぼやけた。滲む涙の仕業と思いきや、世界はゆるやかに輪郭を溶かし、まるで車窓から見る風景のように色彩の帯となって流れ出す。
別れの時が近いのだ。せめて家まで二人を送り届けるべきだった……そう思い至るも、唐突に始まった変化を止めることは出来ない。
「……っ、ゼル、覚えてて……!」
次第に速度を上げる景色に抗うように、ニカは叫ぶ。驚きに目を開いた幼いかんばせが、かろうじて視界を掠めた。
「何があっても、あなたなら大丈夫だから……私はいつでも、あなたのことを想ってるから……!」
その声が届いたかは分からない。ひとひらの夢は青い残光だけを残して過ぎ去り、すさまじいスピードで時が駆け抜けていく。色彩の嵐に飲み込まれ、もはや呼吸すらもままならない。
タイムラプス映像のようにせわしなく昼夜を繰り返し、いくつもの四季が巡って。そうしてやっと、目紛しく変化していた世界はゆるやかな流れへと変わり、やがてフィルムに焼き付けたかのように、だだひとつの場面だけを映し出した。
どこまでも透き通った青。
こちらに背を向け、海を眺める一人の少年。
ついさっきまで見ていたのとほとんど同じ、けれど……心の底から渇望していた風景。
「ゼル!」
振り絞るように叫んだ。振り返った少年の、青い瞳が見開かれる。
「……ニカ!」
声を聞いた瞬間、考えるより先に駆け出していた。
勢いよく胸に飛び込んできたニカの体を、成長した少年の両腕がしっかりと抱き締める。
「おかえりなさい」
「うん……ただいま」
「アルティミシアは……」
「オレたちが倒した。だから、時間圧縮は起こらない。もう誰も、未来からの侵略に怯えなくていいんだ」
すごい、と、ニカは声にならない声で返した。堰を切ったように零れ出す涙を止めることができない。見上げれば、ゼルも涙を拭うことなく溢れるままにしていた。
「これ……ニカが届けてくれたんだな」
ポケットから、ゼルが一枚の紙片を取り出す。よれて色褪せて、何が写っていたかなんてもう判別できないけれど、それが何だかすぐに分かった。
ニカを荒野から救い出した写真は、時を超えてゼルの手へと渡っていたのだ。
「あの場所に行くたびに、いつも誰かが『大丈夫だ』って励ましてくれる気がしてた。……ニカ、だったんだよな」
ゼルが瞬きするたび、睫毛にまとった雫がはじけて、小さな涙粒がぽろぽろと降ってくる。
二人ともぐしゃぐしゃで、ひどい有り様だ。けれど、構わない。今のニカにとって重要なのは、ただそこに彼の温もりがあることだけだった。
「ゼル、私……」
秘めていた想いが、限界を越えて溢れそうになる。それなのに、この期に及んで尻込みしている自分がいた。
素直な気持ちを伝えたい。けれど、そのせいで彼を傷付けたら? 彼の信頼を裏切ることになってしまったら?
そんな迷いを察してか、ゼルはニカの両方に手を置き、少し体を離す。その表情は、わずかな決意を秘めているように思えた。
「帰ったらニカに何言おうって、ずっと考えてた。いや、話したいことなんていくらでもあるし、全然まとまりゃしねえんだけどよ。でも……もう会えないかもって状況になって、やっと気付いた。ひょっとしたら、オレが伝えたいのって、すげえシンプルなことなんじゃねえかって」
どこか緊張したようなゼルの声は、同時にひどく穏やかに凪いでいた。口を挟むことはおろか、物音ひとつ立てることすら躊躇われるほどに。
「一緒に戦いたいって言ってくれたの、すげえ嬉しかった。オレも同じ気持ちだ。でも、たとえ戦えなくたって、ニカの隣にいたい。ニカの一番近くで、同じ時間を過ごしたい」
一旦言葉を切って、ゼルはニカの目を真っ直ぐに見つめる。
「ニカのことが好きだ」
なんて混じり気のない、美しい言葉なのだろう。ニカは息を詰めて、全身でその想いを受け止めた。世界でただ一人、自分だけに向けられた宝石のような言葉が、胸の内をまばゆく照らす。
「好きとかってのがどんなもんなのか、正直よく分かんねえ。けどよ、ニカとだったら、たとえどんな形だろうと………って、うわ! ご、ごめんっ、気持ち悪かった、よな……?」
止まったはずの涙が、ぽろりと溢れる。ぎょっとして離れようとしたゼルの手を、咄嗟に掴んで引き止めた。
「違うの。ただ……嬉しくて」
その手はわずかに強張っていて、彼もまた、勇気を出して伝えてくれたのだと知る。
想いを告げたら、何かが変わってしまうと思っていた。背を預け合い共に戦うことと、寄り添いながら穏やかな時間を共有すること。どちらか一方しか選べないと……あるいは、どちらも失ってしまうのではないかと恐れていた。
けれど、そんな迷いを飛び越えて、ゼルはニカと唯一の関係を築こうと考えてくれている。彼はいつだってそうだ。濁りのない目でこちらを真っ直ぐに見つめて、本当に大切なことに気付かせてくれる。そんな人だからこそ───。
「……私も、好き。ゼルのことが……好き」
自分の鼓動が聞こえそうなほど、心臓が強く脈打っている。けれど、ゼルから目を逸さなかった。彼の真摯な気持ちに応えたかった。
「す………って、ま、マジか………」
突然わなわなと震え、動揺し始めたゼルは、掴まれていない方の手で顔を覆う。まるでニカの視線から逃れるような仕草。
「ゼル?」
「い、いや……なんかさ、好きな人に好きって言ってもらうのって、こんなに嬉しいことだったんだなって……」
言葉とは裏腹に、ゼルの声はだんだんと尻すぼみになっていく。
「けどよ……な、なんかさ? 意識したら、今更めっちゃ気恥ずかしくなってきて……オレ、明日からニカの顔見れなくなったらどうしようって……」
表情は窺い知れないが、言われてみればその耳も、首元も、真っ赤に染まっている。その様子がなんだか可愛らしくて、ニカは自分の口元が緩むのを感じた。
「……ふふっ」
「わ、笑うなよ! って、ちょっ……ニカっ」
ゼルの手を引き、ニカは岬の先端に向かって駆け出す。ゼルは戸惑いながら何やら喚いていたが、眼下に広がる絶景を見て口を噤んだ。
「大丈夫。きっと、何も変わらない……変わらずにいられるよ」
同じ景色を眺めながら、ニカは自分に言い聞かせるように呟く。
時を経ても変わらないように思えるこの場所ですら、知らないうちに少しずつ形を変えている。打ち寄せる波風に岩肌を削られ、草木は枯死と再生を繰り返して。
けれど、本質的に変わらないものも確かにあるはずだ。この青い色彩が決して色褪せることはないように。
自分の気持ちに気付き、戸惑った時期がニカにもあった。けれど、今こうして彼の隣に立っていられるのは、それを上回る尊敬や友愛の念があったからだ。その想いはきっと、この先も絶えず続いていくだろう。たとえ、二人の関係が名前を変えたとしても。
「……そうだな」
ふっと力が抜けたように笑って、ゼルはニカの手を握り返した。その手のあたたかな感触も、耳朶に響く波音も、胸を占める感情も……今ここにいる、自分だけのものだ。
この先にどんな未来が待ち受けているかなんて、誰にも分からない。けれど、大丈夫。誰よりも安心して命を、心を預けられる───そんな存在が、すぐ隣に居てくれるのだから。