『アカギ』 赤木しげる(青年)
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※「No!って言いなよ」の続編です。
これは良くない…
非常に良くない…
では、どうすべきか?
No!って言いなよ 3
これは「沼田玩具」に勤務する工員、赤木しげると、
その同僚で事務所に勤務するyouの残業事情の話…。
ほぼ毎日といっていいほど、同じ事務所の事務員女性らから残業を代わる依頼をされ、
NOと言えずに(本人いわく別に残業してもいいかくらいに思ってた)居残る彼女に、
ひょんなことから話す機会ができたため、残業をすることは悪いと言わないが、
身体が悲鳴を上げているのに、やりたくもない残業の依頼を享受し続けるのはやめるべきだと伝えたアカギ…。
彼に言われて初めて、体力の限界が近付いていたのだと知り、
ちゃんと自分の許容できる範囲で残業すべきと…考えを改めたものの、
なかなか上手に実行できずにいたところ、再びアカギが助け舟を出してくれた。
その際に2人で共に定時で上がり、夕飯を摂る事にすれば、
youは押し付けられる残業を回避でき、アカギは美味しいご飯が食べれるので、
これは最適解ではないか…と、そのような話に落ち着いた。
結論としては、実際に実行してみると、かなり良い…というのが互いの本音である。
「オムライスって、家で食えるモンなの?」
「え、全然食べますよ。流石に洋食屋さんのようにあの卵のふわとろ感は出せませんが。」
「へー…そうなんだ…洋食屋にあるメニューって家じゃ作れないモンかと思ってた。」
「メニューによると思いますけどね。」
「じゃあ、早速だけど…。」
「はい、明日はオムライスですね?」
「いや、ハンバーグ。」
「オムライスちゃうんかい!」
「肉食いてェ。」
などと話しながら家路に着くのは、今日も今日とて「帰るよ」の声掛けで定時で帰宅することが叶った苗字youと、彼女に声を掛けた赤木しげる。
仕事の話よりは、どちらかと言うと翌日のメニューのリクエストなどが多く、
その他は「明日は雀荘に行くから飯食えない」など、基本的には夕飯に関わる話をする。
今日も今日とて、夕飯のメニューについて話しながら辿り着くyouの家…。
まだ、夕飯を彼女の家で食べることになってから1ツキと経過していないのだが、
そこは流石我が道を行く赤木しげる…。
勝手知ったる何とやら…。
一応「お邪魔します」とは言うものの、短い廊下を抜けて居間へ出ると、
どっかりと畳の上に胡坐を掻いて、youの出してくれるお茶を待つ。
お茶を飲み終えたら、彼女が夕飯の準備をする中、外へ出て夕焼けを眺めながら煙草を一服…。
夕飯の準備ができて彼女が声を掛けるまで、それはそれは自由に過ごし、
きっちりテーブルに整えられた夕飯を囲って2人でいただきますをする…。
そんな日が続いて数週間程経過した頃…。
矢張り、狭い会社では噂の回りも早いようで…。
「ね、ね、苗字さん、ちょっと聞いてもいい?」
「ん?何でしょう。」
昼の休憩も終わり、午後の仕事に取り掛かって数時間…。
もうそろそろ仕事の終わりが見え始めて、集中していた意識が少しずつ散漫になり始めるような頃合い…。
隣のデスクに座る同僚の事務員に声を掛けられたyou。
「最近ずっと工場勤務の…えっとあの人…白髪の…赤木さん…?」
「アカギさん?」
「あ、そうそう。」
「アカギさんがどうかしたの…?」
てっきり仕事や残業の話か何かだと思っていたので、
思わぬ人名に驚いた表情を浮かべるyou…。
「どうかしたっていうか……苗字さん、最近よく一緒に帰って仲良いから、付き合ってるのか気になって。」
「え。」
「え?」
「誰が?」
「苗字さんが、赤木さんと付き合ってるのかなって。」
「ないです。」
「え、恋人じゃないの??ほぼ毎日一緒に帰ってるから、てっきり付き合ってるのかと思ってた。」
「違うよ。」
「えー、じゃあどうしてあんな仲良いの?羨ましい。」
「う、羨ましい??」
「いや、苗字さんが急に赤木さんと一緒に帰り出したのはビックリしたんだよね。でも、それをきっかけに皆、赤木さんを気にして見るようになってさ、皆一様に「赤木さんって実はカッコいい」って言い出して。」
「は、はぁ…。」
「かくいう私も、気にして見てみたら確かに美形だって気付いたんだよね。だから、苗字さん一緒に話したり帰れたりして、羨ましいって思ったの。ね、どういう経緯で仲良くなったの?私もあやかりたい~!」
そもそもアンタらがわたしに残業押し付けてくることがきっかけで仲良くなったんじゃい!!とは言い切れず…。
それはそっと心の内に秘めて「残業で梱包を手伝ったことがきっかけだよ」と、綺麗な笑顔で嘘を吐いたのだった…。
「ふーん、残業で手伝ったから、ね…。」
「う、うん…。」
「そっか……あ!きっかけ作ってもらおうと思ったけどさ、そういえば今度会社の歓迎会あるって言ってたから、その時に声掛けてみたらいいよね!?」
「あ、来週だっけ…。」
「そうそう。」
「(アカギさん行くかなぁ…何か行くイメージないんだけど…。)」
「付き合ってたら遠慮するけど、そういう関係じゃないなら、遠慮なく声掛けて大丈夫だよね?」
「わ、わたしには許可や拒否の何の権限も無いので…。」
「だよね、分かった。教えてくれてありがと!皆にも伝えとこ、抜け駆けとかしたら怒られそうだし…。」
「・・・。」
果たしてアカギがその歓迎会に参加するのかどうかは分からないが、
何とも言えない焦燥感を抱く…。
何より、友人を売り払ったような罪悪感が重く圧し掛かってきたため、これは本人に伝えよう…と
心の中で盛大な溜息と、アカギへの謝罪をするyouなのであった…。
一方こちらは、工場内のアカギ…。
彼にもまた、youと同様の現象が起こっていた…。
「なぁ、アカギ。」
「…はい?」
工場の外に設置されている喫煙所で煙草休憩を取っていると、
同じ空間に居合わせた工場勤務の同僚達数人から声を掛けられるアカギ…。
「最近お前、事務員の女子と仲良いらしいな。」
「?」
「とぼけても無駄だぜ、オレも古谷も何度か一緒に会社出るとこ見てるし、川島が近所の商店街でも見たって言うんだから、言い逃れはできないぜ。な、川島?」
アカギの同僚で、先輩にあたる田原が、丸眼鏡が特徴的な男性に同意を求める。
「川島」と呼ばれたその男が「ああ」と答えてアカギに問うた…。
「お前、うちの会社に来てまだ日も浅いのに、よくやるよな。」
「何の話ですか?」
「だーかーら、とぼけんなって……付き合ってるんだろ、その事務員のええと…誰だ?あのいっつも残業してる子だよ。名前何つーんだ?」
「・・・。」
「チッ、だんまりかよ、本ッ当、いけ好かねェ…!」
何も答えようとしないアカギの態度が癪に障ったのか、川島は舌打ちの後、ペッと唾を地面に吐き捨てた。
「まぁまぁ、そう怒るなって川島……ちゃーんとオレが調べてるよ。」
「おっ、流石田原!やるじゃねェか…。」
「名前は苗字you。確か1,2年くらい勤務してるハズだぜ?まぁ、俺ら工場勤務と事務所勤務で、ほぼほぼ接点無いから顔は見た事あっても名前分からないなんてざらだよな。多分、こうして調べない限りは、事務の方も俺らの顔と名前一致しないだろうと思うし…。」
「確かになぁ……ずっと残業してるって事くらいしか知らねー。」
「で、それが最近アカギが声掛けるようになって、2人して定時で早々帰るようになった…と。」
「何がきっかけでそうなったか知らねェが……結局付き合ってるって事なんだろ?」
名前も明かされてしまったため「誰の事ですか?」という言い逃れはできないぞ、と…。
無言の圧力でアカギに迫る川島達…。
アカギは煙草の紫煙を吐き出すことで誤魔化して、心の底から深い溜息をはーーーーーっと吐き出した。
「付き合ってませんよ。」
「じゃ、何で毎日一緒に帰ってんだよ。つーかお前、一緒に帰るって……寮住まいだろ。」
「そうですよ。」
「じゃ何処行ってんだよ。」
「飯食いに行ってます。」
「毎日一緒にか?!毎食外で?!」
そんな金が何処にある?!と、自分のとそう変わらないであろうアカギや、事務員の給料では
毎食外で食べるのは無理があるだろう、と叫ぶ川島…。
「いえ……まぁ、外の時もありますけど……今のところは食わせてもらってますね…。」
「い……女の家で食わせてもらってるって事か…?」
「そうですね。」
「それで…付き合ってないのか?」
「…ええ。」
「・・・。」
アカギの言葉に何やら深刻に考えるような仕草をし、一度ゴクリと喉を鳴らして川島は口を開いた…。
「お前……もしかして金、払ってたりするのか?」
「金?」
「そうだ。」
「金……まぁ、……たまに。オレは毎回払うって言ってるけど、困った時に助けるくらいでいいって。」
「そっ…おま…っ!?!」
アカギの返答に、川島のみならず同席していた田原や古谷もざわつく…。
「それで「付き合ってない」ってワケか……成程な…。」
「じゃ、オレはそろそろ戻ります。」
「ちょっ、待てアカギ!もう1つ聞きてェ!」
「何ですか。」
「う……「うまい」のか?やっぱり…毎回金払っていいって思うってことは…!」
「美味いですよ。」
「!!」
会社で用意されている水の入った吸い殻入れに煙草を放り、工場へと歩き出したアカギ。
残された3人は顔を見合わせてゴクリと生唾を飲んだ。
「つまり…苗字はそういう相手って意味だよな、今の…。」
「い、意外だな……人の代わりにいつも残業してるから……もっと清楚で控えめな感じかと…。」
「いや、残業も頼まれたら断れないっていうのは、逆に言えば其処にも繋がってくるってことなんじゃ…!」
そうして言葉足らずなアカギの所為で、ベタな勘違いが生じてしまったことにより、
数日後…大変な事態が発生することとなるのだが、今はそのことをまだ、アカギもyouも知り得ないでいた…。
・
・
・
・
そんなこんなで同じような問いかけを、各々の部署で投げかけられた後、
定時を迎えて共に帰宅中の2人…。
「あ、そうだアカギさん。」
「ん?」
「来週土曜の歓迎会、行かれますか?」
「ああ…何かそんなこと治が言ってたような……アンタは行くの?」
「会社全体の飲み会って珍しいので、行こうかなと思ってます。」
「そう……じゃあ、オレも行こうかな。」
「えっ!?!」
「何で驚くの。」
「すみません、だって何か…そういう騒がしいのって好きじゃなさそうに思ってたので。」
「好きでも嫌いでもないけど、溶け込めないから得手ではない。」
「やっぱり!」
「・・・。」
「す、すみません。」
「いい。」
「でも何で……得手じゃないのに…。」
「だって、アンタが参加するって事は飯食えないでしょ。」
「雀荘に行かれるとか…?」
「それも考えたけど……そのために敢えて雀荘に逃げるってのもどうかと思ってさ。」
「そうですか………。」
「・・・。」
アカギの参加の理由に納得はできているものの、何とも嬉しくはなさそうな反応をするyou…。
彼は即座に何かを察し、彼女に尋ねる。
「何、オレに行ってほしくなさそうじゃない。」
「えっ?!そ……そんなことは……ない……というか…ある…かも…なんですけど…。」
「ふーん、何で?」
「…実は…。」
そうしてyouは、本日事務所であった出来事をアカギに話す…。
最近よく一緒に帰るようになったため、皆が一様に「赤木しげる」という人物に注目するようになり、
顔(かんばせ)が整っていると気付いて、仲良くなりたいと思い始めているようだということ。
それで今回「付き合っているのか?」と尋ねられて、違うと答えたところ、
それなら自分に遠慮は要らないだろう…と、事務員の女性達が今度の飲み会でアカギに話し掛けに行こうと言っていたこと…。
「…という経緯でして…もし歓迎会に出られるようであればその…いっぱい話し掛けられるかもしれないので、アカギさんそういうの苦手だったら申し訳ないなって…。」
「なるほどね。」
「勿論、女の子が大好きで全然ウェルカム!ってことなら問題ないと思います。」
「オレ、そんな風に見える?」
「いいえ、全く…。」
「まぁ、飲み会ってそういうものって割り切って行くしかないね。いいよ、別に。誰と話すことになっても、オレはオレのペースでいくだけの話…。」
「そうですね、わたしもそうするつもりです。」
「・・・。」
ふいにアカギの脳内に本日の川島達との会話が過り、
「そういえば自分も今日同じように数人の先輩から同じようなことを尋ねられたので、同じ状況になるかも」と伝えようかとも思ったが、
彼女が「自分も誰に話し掛けられても同じように対応する」という答えを正に出されたため、
敢えて言うまでもないだろうと…何も言わずにおくことにしたアカギ…。
しかしながら、それは間違いであったと…。
後に気付く事となる…。
・
・
・
・
そんなこんなで歓迎会の当日…。
この日は全員定時で仕事を終わらせ、予約した大きな居酒屋に一同で向かう事となった。
非番だった者や毎日着替えて出退勤する者は男性でも私服だが、ほとんどの男性はそのまま作業服のまま。
そして女性は勿論全員私服に着替えての参加という状況。
宴会の開始時には女性は女性で固まって、男性は喫煙者と禁煙者にある程度分かれ、
その中でもよく話すグループなどである程度着席していたものの、
時間が経過するにつれ、酒の量が増えて歓談が盛り上がってくると、皆思い思いに席を移動して、
新人に挨拶しに行ったり、普段話したことのない者に声を掛けたり、と最初の席を離れるようになっていった…。
数分前に頼んだ新しい酒を店員から受け取ったところで、はた…とyouが周りを見渡して見れば、
予告通り、ある一定の事務員の女性たちがアカギを囲んでいるのを目にする…。
尋ねられた事に答えただけではあるが、それが引き金となってアカギに彼女らの強制接待をさせているようで少し心苦しくなり、
楽し気な飲み会の会場で思わずハァ…と、大きな溜息を吐いてしまった。
「どうしたの、すごい溜息じゃん?もしかして楽しくない?飲み会。」
「わっ!」
急に背後から声を掛けられ、ビクッと肩を跳ねさせたyou。
振り向けばそこには作業着の男性が数名…。
勤務場所が事務所と工場内で全く異なるため、ハッキリ言って顔と名前が一致しないのだが、それは恐らくお互いのことだろう…。
元々、これはそんな垣根を超えるための合同の歓迎会であり飲み会なのだから、
こうして色んな部署や場所の面々と話すことは理にかなっているといえる。
そのため、彼らが「隣いいかな?」と言ってきても、断る理由も無く…。
youは「どうぞ」と快く彼らの着席を迎え入れた。
「いきなりゴメン、事務所の子と話す機会ってなかなか無いから、これを機にと思ってさ。」
「そうですよね。こういう飲み会でしか話す機会ないから、なかなか顔と名前一致しなかったり…。」
「オレは田原。こっちの眼鏡が川島で、こっちの角刈りが古谷。それで、このソバカスが野崎。野崎だけは「治」でいいんだぜ?な、治!」
そう、先日アカギに彼女について詰め寄っていた面々が揃って有言実行、youの元へと訪れたのだった。
1つだけ違うとすれば、そこにソバカスの青年が加わっているということ…。
「な、何でおれだけ呼び捨てにさせるんですか~!」
「あ?いいだろ別に…治は新人が入ってきたって、オレ達が新人に治って呼ばせるしな!」
「もぉ…!やめてくださいよ…!」
田原に代わって治をいじり始めた川島…。
治は怒っているのか、困っているのか…ただ、ハッと気付いたような顔になり、youに弁解を始める。
「あ、別に苗字さんはいいですよ、気にせず気軽に「治」って呼んでください。」
「おっ、何だ、早速アプローチ掛けやがって!治のくせに!」
「そ、そんなんじゃないですよ!それに、苗字さんはアカギさんと付き合ってるのに…そんな…。」
先程より一層困った顔を浮かべて、言葉を小さくすぼめていく治…。
youはくすっと1つ笑ってみせた。
「アカギさんとは仲良くさせてもらってるけど、付き合ってるワケじゃないから…。」
「えっ!?そうなんですか?」
「うん、色々あってお世話になってるし、お世話してたりするかな、今は…。」
「な、何か不思議な関係なんですね。」
治とyouの会話で、何らかの確信を得た!という顔付きになった川島達…。
3人で顔を合わせてニヤリと口角を上げた…。
そして同じ頃…。
アカギもまたyouと同様に他部署の異性に囲まれる体験をしている最中だった…。
「ほぼほぼ初めましてだよね、赤木君って。」
「でも何か私、最近事務所で見掛ける度に赤木君のこと目で追っちゃうんだよね~!」
「分かる~!私もわたしも!他の作業員の人はあんまりタイムレコーダー打刻しに来ても全然視界入らないんだけどー…。」
「あっ、そだ、自己紹介しようか!」
事務員の女性陣数名に声を掛けられ、その後すぐに怒涛の自己紹介が始まった。
一人ひとりの名前は兎も角…。
赤木としては話が面白ければそれに乗るだけで、つまらないようなら当たり障りない返答を2,3して
トイレの後煙草休憩に逃げようという算段でいたのだが…。
「何処に住んでるの」「休みの日は何してるの?」「その髪は地毛?」「好みの女性のタイプは?」等々…。
アカギに対しての質問攻めが終わったかと思えば、その後に始まったのは、
面白くも、つまらなくもなく…どちらかと言えば不快寄りになっていく会話…。
工場勤務ならではの納期や出荷、部品の納品に関してなどの問題提起に始まり、
上司やその場に無い同僚への愚痴…。
そろそろ限界かな…と、離席しようとした時…。
「あと、「残業多い」って言えばさ、苗字さんだよね!」
恐らく話に上がってくるのではないかと思っていたが、
実際名前を聞くとその内容が気にはなってしまうのもので…。
アカギは離席するタイミングを少し先延ばすことになってしまった…。
「ていうか赤木さんは、苗字さんとは付き合ってないんだよね?」
「ああ。」
「でも、一緒に帰ったりして、凄い仲良いのって何で~?」
「仲良いっていうか……家で飯食わせてもらってるから。」
「え、それって赤木君餌付けされてるじゃーん、何だそんな理由なんだー?」
「ハハ…餌付けか、そうかもね。」
「それなら私もご飯作ってあげるよ?今度家遊び来てよ!」
一人の娘がそう言うと、周りの女性達も「私も!」と続々挙手してアピール。
アカギは少し目を丸くしたのち、小さく呆れたような溜息を吐く…。
「オレなんか家に上げて何のメリットがあるんだか…。」
「そんなの、ねぇ、もし付き合ったりしたら色々嬉しいことあるじゃん!」
「は?」
「ていうかぁ、赤木君とそうなりたいから、苗字さんも家でご飯出してるんじゃない?」
「そうかな…。」
「そうだよ、絶対!「残業で梱包を手伝ったことがきっかけだよ」とか言ってたけど、最初から赤木君狙いだったんじゃない?」
「え…。」
女性の言葉にピクリと耳を反応させ、一瞬眉間に皴を寄せて押し黙ったアカギ…。
そんな彼の変化には気付かず、彼女達は話をどんどん盛り上げていく…。
「ありえるー!残業任されるうちに赤木君のカッコよさに気付いて、仲良くなるきっかけ探すためにそれ以降私達の残業代わってくれてたんじゃない?!」
「うわなにそれ!あざとーい!!そんな邪な理由で残業するとか最低じゃん。」
「赤木君よかったね、苗字さんの狙い判明して。」
そうして「「ねぇ?」」と、同意を求める声と目が一斉にアカギの方へと向けられた…。
「ククク……成程、そういうこと…。」
「うん、そうだよきっと、ていうか絶対そう!」
「こんな事、あんまり女性に対して言いたくないけど……いるんだな、本当に、汚い女って。」
「え。」
それは呟くような声だったため、この騒がしい宴会場の中ではほぼ全員の耳には届かない言葉だった。
ただ、彼の口が動き、何かを喋ったことは理解できたため、
彼女たちが一斉に言葉を拾おうと身を乗り出したところで、アカギは勢いよく立ち上がる…。
「忠告ありがとう、見事な墓穴のお陰であんたらの本性が分かって良かった。」
「え…?」
「オレはアイツに残業で梱包を手伝ってもらったことなんて一度も無いよ。」
「!!」
「そもそも、残業でオレより先にアイツが終わってるところに遭遇したことないしね。だから自分の仕事終わらせてオレのを手伝うとか土台無理な話…。」
「え…じゃ…あ…。」
「やっぱりオレがyouを助けてやったのは間違いじゃなかったらしい。」
「え、youて……苗字さん…?」
「オレとアイツが飯食う仲になったのは、アンタらがyouに押し付けた残業がきっかけだよ。」
アカギが、彼女と話をする真のきっかけが何だったかを告げた瞬間、二の句が継げぬ状態となった女性達…。
「あんまり顔色が悪くて倒れそうになってたから無理すんなってオレが声掛けた。ぶっ倒れて救急車で運ばれる寸前まで同僚に残業押し付けといてさ……その相手に対してよくそこまで言えたもんだな、アンタら…。」
「…!」
「香水の所為かな、気分が悪い、吐きそうだ。悪いけど席外すね、ここじゃなくて外で煙草吸ってくる。」
こうも顕著に、憤りの感情を解消すべく煙草を吸いたいと思ったのは初めてかもしれない…。
そんなことを思いながら後ろを微塵も振り返る事なく宴会場を出たアカギ…。
煙草を吸う前に一度トイレに行き、店の外へいったん出るべく廊下を歩いていると、
「アカギさんッ!!」と、大きな声で名前を呼ばれて振り返る…。
今度は一体何なんだ…と、声を掛けた相手を確認すると、
それは、同じ工場内で共に働く野崎治という青年だった。
「いた!待って、帰らないでくださいアカギさんッ!大変なんですっ!」
「治か…どうした、そんなに慌てて…。」
「苗字さんが!苗字さんが大変なんですッ!」
「苗字が…?何で?」
「かっ、川島先輩たちが…今苗字さんと話してるんですけど、何かすっごい失礼なこと言ってて!」
「はぁ…?」
いまいち的を得ない会話を繰り広げる治に、怪訝な顔を向けるアカギ…。
「何、失礼なことって。」
「何かその……何て言うか…あ、アカギさんと付き合ってないのに家に行ったりするってことはつまり…苗字さんって、お金払って頼めば「そういうこと」してくれるんだろうって…聞いてて…。」
「はぁ?!」
「川島先輩「治にも筆おろしさせてやってくれ」とか言うし、あ、いやおれが別に童貞とかじゃなくて、いや、じゃないワケでもなかったりしたりするんですけど…!」
「お前が童貞なのはどうでもいい。今、youは?」
「ま、まだ宴会場の中です!「そんなんじゃない」って顔真っ赤にして泣きそうになってたから、これ絶対違うって思って…!一人にしておくのもどうかと思いましたけど、おれじゃ川島先輩達止められなくて…アカギさん探そうって!!」
「分かった。」
治の伝えた話で、先日の川島達との会話を思い出すアカギ…。
『お前……もしかして金、払ってたりするのか?』
『金?』
『そうだ。』
『金……まぁ、……たまに。オレは毎回払うって言ってるけど、困った時に助けるくらいでいいって。』
『そっ…おま…っ!?!』
『う……「うまい」のか?やっぱり…毎回金払っていいって思うってことは…!』
『美味いですよ。』
『!!』
今思い返せば何て阿呆な会話なのだと…そんな内容の話に勘違いして取る方の脳内がどうかしている…と、
アカギは煩悩塗れの同僚の思考回路に呆れるのと同時に、本当に若干ではあるが、自分の言葉の足りなさを少しばかり呪った…。
踵を返して再度宴会場へと向かうと、ざわつく会場内で見知った女性を探す…。
キョロキョロと左右を見渡せば、一番端の列のテーブルの一角で俯く該当の人物の姿を見つけ出し、歩き出す…。
「いやいや、ダメだからね苗字チャン、俺達ちゃーんとアカギ本人から話聞いてるからさ、隠しても意味ないって!」
「田原の言う通りだぜ。ま、気心知れたアカギにはあんまり金の催促しないってのは分かる。おれ達はいわば新参者だからな…各々ちゃんときっちり出すって。だから、な?アンタの言い値をまずは教えてくれって…。」
田原と川島の間に挟まれ、向かいの席には2人の仲間である古谷が陣取っており、
逃げ場の無いトライアングルの中に囲われていたyou…。
先程までは治が話題を変えようとフォローしてくれていたが、手に負えないと諦めたのか、彼の姿もいつの間にか消えていた。
ずっと至近距離で自分達と私娼の関係になれと迫られ、そんなことはしないと何度言っても「アカギとはそういう関係だと本人に聞いた」の一点張り…。
これはもう強制的に振り切って逃げるしかないと思い、立ち上がろうとしたのだが…。
「っと、待てよおい…どーこ行くって言うんだよ……話はまだ途中じゃないか…。」
「ちょっと…お手洗いに…!」
「ダメダメ…ストップ、行かせねぇ。」
「っ…?!」
「おれ達の話に合意してくれたら、解放してやるって言ってんだよ……な、苗字…?」
「!!!!」
座敷の宴会場のため、低いテーブルに隠れて見えにくいのをいいことに、
川島がyouの膝にいやらしく手を滑らせた…その刹那…。
「何してるんですか、川島先輩。」
「あっ……アカギ…っ…!」
いつの間に現れたのか…。
まるで、何か汚らわしいものを見るかのように冷たい目で川島を見下ろすアカギから、
それ以上の彼らの愚行に対してストップが掛かった。
「悪かったな、you…オレの所為で…。」
「アカギさ…っ…!?」
「行こう。」
「っ…!」
アカギに差し伸べられた手をyouが掴もうとしたが、川島がそれを阻止する…。
「おい、アカギてめぇ……邪魔すんじゃねぇよ…。」
「・・・川島先輩。」
「お前が言ったんだろ、苗字が身体売ってくれるって。」
「誰がそんな事言った?煩悩だらけのアンタらが勝手に都合いいように勘違いしただけだろ……。」
「何だテメェ!先輩に向かってその口の利き方…っ!!」
「先輩達こそ、失礼な勘違いしたことをオレの女に謝罪してくれませんかね。」
「は?え…おま……おんな…?」
「オレ達、付き合ってるんで。」
「いやでもお前、こっ、この間…「付き合ってない」って…!!」
「否定しとかないと、色々面倒でしょ…だから嘘吐いただけの話…。」
「アカギてめ…っ!」
「そうカッカしないでくださいよ先輩、youが怖がってるんでやめてください。」
「ッ…?!」
アカギに殴りかかるべく、グッと拳を握って膝を浮かせる姿勢を取った川島だったが、
このような楽しい空間であるべき場所で、しかも女性の目の前で暴力を奮う姿を見せるわけにもいかないだろう…
ということも相俟って、短気な川島も流石にぐっと堪えて腕を下ろす…。
「you、こっち。」
「っはい…ッ!」
2人に対して、川島らがもうそれ以上何らかのアクションを起こす様子が消え失せたことで、
今一度その場に立ち上がり、アカギの手を取ったyou…。
ぐっと腕を引かれて、川島の上を大股で抜けたところを、アカギが抱きとめる…。
「帰るぞ。」
「え、え…?」
「・・・。」
「あの、アカギさん?!ちょ…ちょっと!」
スタスタというよりは掴んだ手をグイグイ引っ張ってその場から撤退するアカギ…。
自分への名前の呼びかけ方の変化だったり、川島達に話した自分との関係性の話だったり、
先程まで事務員の女性達に囲まれていたハズだったなのに何故ここにいるのかなど…。
未だに状況がよく掴めていないyouが頭に大量の疑問符を浮かべながらも店の外に出て口を突いた言葉は
「歓迎会の会費先に徴収してもらって良かった」などという、全く抱いている疑問に掠りもしないもので、
彼女は自分自身が相当混乱している状態なのだと自覚する…。
「あ、アカギさんはもう会費…。」
「払ってるよ、ていうか今それ気にすることか?」
「いえ……全く…すみません、何か凄い混乱してる、みたいで…わたし…。」
「・・・。」
「・・・。」
「ハァ………とりあえず、帰りながら話そうか。」
「う、はい…。」
そうしてゆっくりと家への道を歩き出せば、その歩数ごとに平静を取り戻していくような感覚…。
羽虫が数匹群がる夜の街灯を何本か過ぎたあたりで、ようやく片方が口を開いた。
「悪かったな。」
「え?」
「アンタに迷惑掛けた。」
「えーっと…それは…先程の…。」
「ああ、あの三馬鹿がアンタのところにけしかけることになったのも、失礼な勘違いしてたのも、多分……オレの所為…。」
「それはどういう…。」
「「付き合ってるのか」って聞かれて、付き合ってない、家で飯食う関係、たまに金払ってる、って伝えたのを向こうが勝手に妙な解釈したみたい。」
「妙な解釈…?」
「あー……つまり、オレが金でアンタを買ってるって思ったみたい…ってこと。」
「えっ!なんでそんな解釈に?!」
「それはアイツ等が煩悩に塗れてるから……とも言い切れねェか…。」
「えぇっ?!」
「しっかり裏取らないで勝手解釈するのは確かに論外なんだけど……よくよく考えるとアンタも悪いし、オレも悪いな。」
ここは完全に邪で下衆な考えを押し付けてきた川島達が完全悪だとばかりに言うところだと思っていたため、
アカギの言葉にyouは驚いて目を丸くした。
「わ、わたしも悪いんですか?あ、アカギさんも?」
「そうなんじゃない?だって、普通はするでしょ。」
「するって……何を?」
「セックスだよ。」
「はっ……はいぃいっ?!」
「いい歳の男が、女の家に毎日のように通うって、他から聞きゃ確かにそう思われても不思議じゃない…というか、寧ろそう思われるのが普通…。」
「そ…そう、なのかな…。」
「それで「付き合ってない」なんて言われりゃ……何かやましい事情があるだろうって勘違いもされる。」
「・・・。」
「まさか本当に純粋に飯食ってるだけなんて、思わないだろ。」
「じゃ、じゃあ……皆そう思ったかな…。」
「さぁね。そう勘違いするかもしれないし、否定しても実は付き合ってるんじゃないかって疑うか、はたまた全て信じるか……それは受け取り手次第…。」
アカギの解説はとても説得力があり、youも改めて自分たちの立場を顧みて、
アカギと自分の関係性は、一般的な観点からは逸脱しているのだろうと、ここにきてようやっと気付く…。
「ごめんなさい、アカギさん…。」
「なにが?」
「何か、わたしが残業回避のために一緒に定時で帰ってほしいってお願いした所為で……会社の人にわたしとそんな関係なんじゃないかって思われてるってことだよね…。」
「まぁ、全員じゃないだろうし……それはアンタもだろ。」
「わたしはアカギさんが好きなので、構いませんけど……アカギさんはそうじゃないから申し訳ないです…。」
「?!」
「一緒にご飯食べられなくなるのは寂しいな……でも、これ以上アカギさんに迷惑は掛けられないから、もう一緒に帰るの、やめないとですね…。」
ハァっと切なげな溜息を吐き出し、youが横にいるアカギを見遣れば、
彼はそれこそ目を点にして、めずらしく口を開けて呆けているではないか。
「…アカギさん?」
「は、もう、ちょっと待って……何それ、食って良かったの、オレ…嘘だろ…。」
「??」
「you。」
「はい?」
「オレもアンタのこと、好きだよ。だから別に迷惑掛けてるなんて思わなくていい。」
「アカギさん…!」
ぱぁっと明るくなったyouの表情を遮るように、アカギは彼女の顔面に向けてストップを掛けるように掌を向けた。
「でも、オレの好きは「アンタに惚れてる」って意味だ。そしてそこには「アンタを恋人として抱きたい」って願望が含まれてる…そういう「好き」だ。意味分かるよな。」
「・・・。」
犬猫や友人に対して抱く「好き」とは別物だと、これ以上ないくらいストレートに言葉にしたアカギ…。
「多分……2回目の「帰ろう」から、かな……あの、一緒に帰ってご飯を食べる約束した次の日…から、だと思います。」
「それは、なに?」
「アカギさんが、わたしを呼んで一緒に帰ってくれることが嬉しくて、一緒にご飯、食べてくれるのが嬉しくて、毎日少しずつ幸せになっていって、それはアカギさんがいてくれるからだって徐々に徐々に自覚して、ました。」
「ふーん、そうなんだ?」
「毎日少しずつ…多分、好きになっていって、それは「アカギさんの恋人として傍にいたい」という願望になってます、ので……ちゃんと意味、分かってます。」
「ねぇ、そこにセックスが含まれてくるけど、それはいいの?」
「う……それは……さっきそう言われてびっくりしたくらいなので、わたしの心境は察していただければとは思いますが……でも……アカギさんが恋人になる場合は、含まれていい…です。」
「結構ビックリなんだけど……。」
「わたしもです…。」
「オレに対してそういう好きって気持ちあったんだ?」
「完全に同意見です。」
何だろう、この雨降って地固まる感じは…と、お互い思いながら歩いていると、
気付けばもうyouの住むアパートへと到着していた…。
「着きましたね。」
「やっぱり苦手なら飲み会なんて参加するモンじゃないな……ゲロ吐きそうになるわ、同僚が童貞カミングアウトしてくるわ、好きな女は私娼に勘違いされるわ…。」
「あ、前2つの話聞きたいです。」
「お前な…。」
「話も聞きたいし、折角送ってくださったので、上がってお茶でもと思ったんですけど……明日はお休みですけど、あまり遅くまで引き留めるのはダメですよね…?」
初めてアパートに送ってもらった日と同じような台詞ではあったが、
もう、同じ結果にはなるはずもなく…。
「話すからさ、美味いお茶出してよ。」
「はいっ!」
「あと、明日休みなんだし、泊まってっていいか?」
「そ、それは……それは…!」
「ククク……そんなに構えなくても、何も今すぐ取って食おうなんて考えちゃいねェよ。」
「ぁぅ……でも…。」
「まぁ、好きな女の家に泊まるとなると……流石に理性持つか怪しいけどね。」
「!!!!」
「冗談だよ。」
フフ…と最後に含み笑いを零しながら、鍵も持っていないのに家主より先に前を進んでいくアカギ…。
お互い秘めていた…というか無自覚に自然と好きになっていたことが分かり、
気持ちが通じ合ったことは嬉しく思うところではあるのだが…。
恋人という存在になった途端、草食だった動物が肉食へと変貌した様子のアカギに、
本当に冗談なのか不安になる草食動物のままのyouなのであった…。
だけどもう
キスくらいはいいよね?
(…という感じで、嘘が明るみに出たからオレも耐えられなくなって…香水臭くて吐きそうだから外行くって言って抜けた。)
(な…なるほど…。)
(それで、外行く前に便所行って、外出ようとしたら同僚の野崎治に引き留められて…。)
(野崎治くん?今日初めて話しましたよ!)
(その治が川島達にアンタが絡まれてるから助けてくれって言ってきた。)
(治くん…が…ですか!(そっか…あの時逃げたんじゃなくてアカギさんを呼びに行ってくれてたんだ…ありがとう…治くん。))
(何か川島達がからかって「治の筆おろしさせてやって」ってyouに頼んだらしいじゃない。あ、これが同僚が童貞カミングアウトした話ね。)
(そんな情報知りたくなかったです!)
(ハハ、それもそうだよな。)
(ん、そういえばアカギさん……今日、途中からいつの間にかわたしのこと……名前で呼んでません??)
(そういえばそうだな……イヤ?)
(ううん、凄く嬉しいです…すごく。)
(・・・。)
(?)
(ひ……いや、何でもない。)
(ふぁ……そろそろ寝ましょうか……すみません、お布団1枚しかないので…狭いんですけど…。)
((あーーーくそ……避妊するからやっぱりえっちしたいって言いたい…切実に。))
words from:yu-a
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