『アカギ』 赤木しげる(青年)
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※「No!って言いなよ」の続編です。
「そんなんでいいの?」
「いえ、寧ろ嬉しいです!!」
そう言って笑った顔は、少し顔色が良くなっていた気がした。
No!って言いなよ 2
これは「沼田玩具」に勤務する工員、赤木しげると、
その同僚で事務所に勤務する苗字youの残業事情の話…。
ほぼ毎日といっていいほど、同じ事務所の事務員女性らから残業を代わる依頼をされ、
NOと言えずに(本人いわく別に残業してもいいかくらいに思ってた)居残る彼女に、
ひょんなことから話す機会ができたため、残業をすることは悪いと言わないが、
身体が悲鳴を上げているのに、やりたくもない残業の依頼を享受し続けるのはやめるべきだと伝えたアカギ…。
彼に言われて初めて、体力の限界が近付いていたのだと知り、
ちゃんと自分の許容できる範囲で残業すべきと…考えを少し改めたyou。
考えを少し改めた…。
はずだったのだが…。
「アンタ……何でまた…。」
「あー…今日はアカギさんも残業ですか?遅くまでお疲れ様です。」
現場の工場を出て、夜になり暗くなった屋外を通り、電気の点いている事務所へ勤怠表を変更しに入ったアカギを迎えた見知った光景…。
「まだこないだ飯食いに行ってから1週間しか経ってないんだけど……。」
「ソウデスネ…。」
「オレはそれから初めての残業。アンタは?」
「……えっと……3…いや、4…5…。」
「もういい、ていうか休み考えたら4とか5日はほぼ毎日じゃない、何してんのアンタ。」
「だって、ここ数日は緊急性の高い案件が立て込んでて!わたし以外も結構残業してて……。」
「自分の分が終わらなくて残業せざるを得なくなったの?」
「それもあります。」
「ならいい。それ以外は?」
「…あり、ます…。」
「割合。『自分:誰か』で答えて。」
「え…と『3:7』……?」
「・・・。」
「よ、4:6かも…しれませんよ?」
「どっちにしても自分より多いんだろ、阿呆。」
「あっ?!アホって…!」
「じゃあ、最後の質問。」
「は、はい…。」
自分を小馬鹿にしてくるアカギに少し頬を膨らませて怒気を表現したものの、
それは丸っと無視され、有無を言わさず質問が放たれる。
「自分以外の案件で残ってもいい、帰りたいと思った割合。」
「…『4:6』…。」
「微妙な数字で誤魔化しやがって……まぁいい、とりあえず帰りたいんだな、分かった。」
「わ、分かった??」
「明日、飯奢ってよ。」
「!」
とどのつまり、また同じようなドツボに嵌りそうな自分に助け舟を出してくれる…というアカギ。
彼との問答の意図を知り、youは思わず目を見開いた。
「この間言ってただろ?給料入ったら「今度はわたしがすき焼きと寿司奢る」って。」
「ちょ!す、すき焼き「と」じゃないです!!あと、その辺の定食屋じゃないと無理って言った!」
「違うよ。」
「違わないです!」
先日、残業の受け方に関して語り合った際、夕飯をアカギに奢ってもらったので、
「次は自分が(安価な食事ではあるが何か)ご馳走する」と提案したyou。
それは間違いではなく、提供できる金額の誤差を改めて指摘するも、彼は今一度「違う」と言う。
「違うって。だってオレ、外食よりアンタの手料理の方が食ってみたいって言った。」
「!!」
「違う?」
「それは違わない…かも。」
「だろ?明日、いいか?」
「あ、明日ですか…。」
「明日じゃマズい?」
「ご飯何にするかによりますけど……。」
「何でもいい。」
「何でもいい、困る…。」
「本当に何でもいよ。米と味噌汁でも。食わせてもらうのに文句は言わないって。」
「分かりました……ちょっと考えるんで、明後日でもいいですか?」
「分かった。」
ひとまず今日帰ってから今ある食材を確認し、作るものを考えて足りなければそれを買いに行くことにしよう…と考えを巡らせる。
そんな様子で少し遠い目をするyouを見て、その思考を何となく察したアカギ。
フッと口角だけを僅かに上げて、勤怠表を変更しに行く。
「じゃあ、明後日ね。」
「はい、お疲れ様です。」
「お疲れ。アンタも早く帰んなよ。」
「は、はい…。」
そうでした…と、何故か申し訳なさそうに目を伏せていると、静かな事務所内にバタンという音が響く。
そうしてアカギは挨拶をした後は余韻も残さずあっという間に出て行ってしまい、
彼のそのサバサバした潔さや判断と即決力は是非見習いたいな…と思ってしまうyouなのであった…。
・
・
・
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翌日…。
繁忙期は過ぎているものの、連日の緊急案件の所為でその日も残業になるかと構えていたが、
それは幸いにも避けられたため、その日は事務員女性は全員定時で上がる事ができた。
youも退勤後に食材調達のため商店街へと向かい、普段より長く見て回る…。
するとどうだ…、普段の時間では閉店して見れない店や、いつもは売り切れている調味料や、
売れ残った食材や総菜ではなく「選べる」状態のそれらを吟味することが叶ったため、
定時上がりの重要さを改めて噛み締めることとなった…。
そうして下準備を済ませて迎えたアカギとの約束の日…。
「(定時まであと30分……今日ちょっと忙しかったけど、10分くらいの居残りで終わりそう……いや、集中!頑張って30分で終わらせるぞ!)」
今日は約束をしているのだから!と、フン!と意気込む。
それから集中モード全開で仕事に取組み、いつもよりも字が汚くなりながらも何とかギリギリ定時内に書類を作成し終えたyou。
パッと顔を上げて時計を見て、定時の数分前を確認……思わず無言でガッツポーズを作る。
思えば咋(あからさま)なその動作が良くなかったのかもしれない…。
残りの数分で業務日報と個人日報を書き上げたところで、ぴったり定時のチャイムが事務所に響いた。
すぐに立ち上がり、タイムレコーダーを打刻すべく席を離れようとしたyouの元に、
同僚の事務員女性がやってきて、声を掛けてくる…。
「苗字さん、まだ仕事残ってる?」
「あー……うん…一応……自分の分はたったさっき終わったんだけど…。」
「そうなんだ!もし良かったら、手伝ってくれないかな……!」
「えっと……。」
「ここ最近の緊急案件の所為で、困っちゃうよね~。」
「そうだねぇ、本当に…。」
「あのね、納品書の照合なんだけど…。」
「う、あの……ごめんなさい、今日はちょっと……予定があって…残業は…。」
「え…。」
「うん…。」
「え、帰るの?」
「ごめんなさい……そのために仕事定時で終わらせたんだよね……。」
「でも、今日は皆残ってるよ?」
「そうなんだけど……。」
そもそも残るのは自分の仕事が終わっていない者が残る選択をしているだけで、
更にその仕事の一部を自分以外の人間に負担してもらうよう依頼してきた者が言う台詞ではないと思うのだが…と、喉元まで出掛かった言葉をぐっと飲み込む。
いつものように「分かった、手伝うよ」と苦い笑みを浮かべて残業を受け入れそうになる己の心に喝を入れる…。
「(いや、だめだ……今日は「約束」があるんだから…うん!)」
押し黙って俯いたyouを、少し覗くようにして事務員の女性が声を掛ける。
「どうしたの…?」
「本当にごめんなさい、今日は手伝えないです。わたしのために作ってくれた約束だから、やっぱり破れない。」
「苗字さん…。」
「今日は定時で上がらせてもらうね、ごめん。」
ぺこっと頭を下げて、タイムレコーダーの元へ向かう。
退勤時間を打刻したのち、出退勤のボードに書いてある自分の名前の横に書かれている「出勤」を消して「退勤」へと書き換え、
ロッカーへ向かうべくくるりと後ろを振り返ると、いつの間に立っていたのか、すぐそこに人の壁…。
顔を上げて、自分を見下ろすその人物を確認すると、それは約束を作ってくれた張本人、赤木しげるだった。
「あ、アカギさ……いつから…。」
「ん、さっき。」
恐らく今しがたの遣り取りを見ていたのであろう…。
彼は少しニヤついた表情を浮かべている…。
コホン…と、恥ずかしそうに咳払いし、youは小声でアカギに聞こえるだけのボリュームで言葉を伝えた。
「…えーっと……帰ります。ちゃんと。」
「そうみたいだね。」
「着替えて、帰るので…わたし…。」
「門のところで待ってる。」
「あ、はい…。」
コクリとyouが頷くと、アカギは目の前の出退勤ボードで自分の状況を書き換え、
普通の大きさの声で「お疲れ様です」と伝えて事務所を出て行った。
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「アカギさん、すみません…お待たせしました。」
「偉いじゃない、今日はちゃんとハッキリ帰るって言えたね。」
「アカギさんと約束したので…約束は守らないとって思ったので…ちゃんと言えました!」
「フフ…。」
はぁー…っと、俯いて深い安堵の溜息を吐いた後、気を取り直して顔を上げてアカギを見上げるyou。
「では、ぼちぼち行きましょうか。」
「ああ。」
1週間前に夕飯を一緒に食べた際に、夜道が危ないからと家まで送ったこともあり、
彼女の家までの凡その道順は覚えていたアカギ。
今は夕暮れ時で、周囲も明るい為今回ハッキリと道のりを覚えるに至った。
「狭い部屋ですが…どうぞ。」
「おじゃまします。」
そうして彼女のアパートに到着し、独り暮らしの年頃の女性の家に上がる事に全く抵抗無い様子で入室を果たすアカギ…。
家主であるyou自身はというと、緊張していないと言えば嘘になるが、
それは異性を家に上げるという点ではなく、部屋を見せるのが恥ずかしいといった意味合いでの緊張のよう…。
それは、このご時世では一般的な独り暮らしのワンルームといった家で、
玄関で靴を脱いで上がれば、短い廊下の先にすぐに広がる畳の居間。
風呂トイレはかろうじて共同ではないが、廊下の短さを思えばかなり狭いものだろう。
それでも、恐らく自分の社員寮よりマシな環境であると感じたこともあるのか、
アカギは部屋に関して特に狭いなどの感想は抱くことはなく…。
居間の低いちゃぶ台の前に座り込んで思ったことがあるとすれば、
部屋に漂う匂いから、彼女が喫煙者ではないのだろうという確証を得たくらいのものだった。
そんなことを考えていると、いつの間にかテキパキとお茶の用意を済ませたyouが、
アカギの前にササっとお茶を差し出した。
「粗茶ですが。」
「ありがとう。」
「では、わたしは早速ご飯の準備に取り掛かりますね。アカギさんは何か適当に寛いでてください。」
「適当に、ね……じゃあもう少ししたら、ちょっと外で煙草吸ってくる。」
「あ、はい分かりました!すみません…うち、灰皿とか無くて…。」
「うん、大丈夫。」
「昨日のうちに何作るか決めて、下拵えは終わらせてるのでそんなに時間も掛からないと思います。」
「ヘェ、そうなんだ。」
「じゃあ、できたらお知らせします!」
そう言うとyouは居間に隣接する台所へと向かい、冷蔵庫や棚を開けたり閉めたり…。
夕飯の準備が始まった。
アカギは出されたお茶をゆっくりめに飲み干して、物珍しそうに部屋を見回したりした後、
台所の彼女に一声掛けて、煙草を吸いに出て行く…。
外に出れば夕焼けのオレンジ色がちょうど消えかかるくらいの空の色…。
黄昏時という名だったか、などとぼんやり考えながらアカギはここ数日のことを振り返る。
連日彼女が残業する光景がただ少し気になったから気紛れで声を掛けただけのハズだったのに、
気付けば夕飯を奢り、その返礼に家に呼ばれて夕飯をご馳走してもらう関係にまでなっている。
「(ただ今回は、命の危険は無いみたいだけど。)」
今までのそう長くない人生、ただ彼にとっては常に気と命を張って生き残ってきた長い時間…。
いくつか訪れた生死を分けるターニングポイントでも思ったことだが、
つくづく人の縁と言うものは不思議なものだ…と、紫煙を燻(くゆ)らせ、フッと1つ微かな笑みを零した。
それは今までの自分の生き方と出会い方自嘲するようにも、
今回の出会いに戸惑いながらも、悪い気はしないなと微笑むようにも思えるもの…。
そんなことを考え、2本目の煙草に火を点けようとライターを取り出したところで、
ガチャリと玄関のドアが開いて、家主が顔を出した。
「あ、アカギさん!夕飯の準備できましたよ。」
「もういいの?早かったね。」
「うん、ほぼ温めて盛り付けるだけだったので。」
「そう。」
「アカギさんは?まだ煙草吸われますか?」
「いや、いい。」
そう言って口に咥えた煙草を箱に戻し、手に持ったライターと一緒に慣れた手つきで自分の胸ポケットに仕舞うと、
アカギはyouの後ろに付いて、再び彼女の家に入って行った。
先程と同様の玄関と短い廊下だが、そこに漂う匂いは此処へやって来た時と異なり、
思わず「いい匂いがするね」と率直な感想がアカギの口から零れる。
居間へ着くと、小さなちゃぶ台の上に大小さまざまな食器と、
それに合うよう盛り付けられた料理が並んでいる。
それらを今から食べれるのかと思えば、食欲も湧くもの…。
アカギは「美味しそうだね」と、彼女に緩やかな笑みを向けた。
「普段よりもちょっとだけ、頑張って作りました。」
「ちょっとだけなんだ?」
「無理して自分の手に負えないものを作って失敗するのは避けようかと思いまして。」
自分が「今度はわたしがご馳走します!」と豪語した手前、
「失敗しましたんでご馳走できません!」という結果はいかがなものかと…そう判断したと言うyou。
「失敗してもいいじゃない。マズくてもオレの為に挑戦してくれたんなら、有難く腹に収めるよ?」
「えー…でも、わたしは失敗したマズイご飯食べたくないです…。」
「あー……まぁ、それは確かに…。」
「自分の限界見極めて、無理しないようにしました。」
「成程、残業の一件からちゃんと学んでんな。」
「ですです!あー…でも、アカギさんはその辺、限界突破チャレンジしそうですね。」
「フフ……どうだろう、当たってるかもね。」
「まぁ、そんな感じで…いつもよりちょっと頑張った夕飯です!よかったら召し上がってください!」
「ありがとう。」
話している間に着席は済ませており、2人で手を合わせて「いただきます」と告げて食事を始めるが、
まずはアカギの反応を見てから…と、youは固唾を飲んで彼の一口目を見守る…。
ぱくり、と料理を口に運んでそれを嚥下した後、自分がじっと見られていたことに気付き、アカギは少しだけ目を見開いた。
「フフ…何か視線感じると思ったら…。」
「どうでしょう……お口に合いますか?」
「口に合うもの何も……美味いよ。ちょっと頑張ってこれなんだから、普段も美味いし、もっと頑張ったらもっと美味いんじゃない?」
「本当ですか?よかった…何か一安心です…!」
「オレは自炊しないからさ、余計に凄いって思うよ。」
「そっか、外食かお惣菜って言ってましたね。」
「ああ。」
「あれなら、これから夕飯はウチに来ますか?」
「え。」
「1人分も2人分も同じだし。あーでも、ちょっと金欠気味になったら食費のカンパお願いしちゃうかもですけど…。」
ポカンと口を開けて見つめていたアカギだったが、そう言ってモグモグと食事を続け始めるyouを見る目が徐々に奇異の目へと変化する…。
「アンタ、それ本気で言ってるのか?」
「え?ええ……本気というか本心ですけど…??」
「オレを家に上げるんだぞ?」
「今も上がってますけど…。」
「今回は特別だろ……毎日上がっていいって言ってるでしょ、アンタ正気?」
「い、一応……。」
前回も似たような話題になり、その際も危機管理能力が欠如していないか?という返答が彼女から返ってきた気がする…と、アカギは大きなため息を吐く…が、ふと何かに気付いた様子で顔を上げた。
「もしかして…逆…か?」
「?」
「報酬が欲しいってこと?」
「ほうしゅう…??何のですか?」
「だって、ただの会社の同僚に夕飯毎回振る舞ってやるって……そんな慈善事業、普通やんないでしょ。」
「じ、慈善事業…。」
「けど、どうしたモンかね……アンタの飯は食いたいけど、生憎とオレには渡せるものが無くてさ。精々、身体くらいしかあげらんないよ。もしくは博奕で勝った時にまとまった金を払うか、かな。」
「は…?」
「どっち?つまりそういう希望ってことデショ。」
「どっち?希望……とは???」
夕飯の報酬は金か身体で払うと提示してきたアカギ。
男の言っている意味が理解できず、彼女は眉間に皺を寄せる…。
「つまりその逆、無防備だから襲っていいってコトじゃなくて、合意の上でそういうことしたいって意味?」
「な、何の話ですか?!」
「何って……セ…いや、この場合ギブアンドテイクだから買春?」
「・・・。」
正に絶句と言った顔でポカンと口を開けてアカギを見つめるyou。
そんな彼女の反応を見て「あれ、違った?」と小首を傾げるアカギ…。
次第にはくはくと金魚のように口を開閉させ、youは顔を真っ赤に染め上げていく…。
「なっ、な……何言ってるんですかアカギさんッツ?!誰が誰をばっ…売…!!!」
「アンタがオレを。」
「わ、わたしが…あ、アカギさんをぉ?」
「買いたいのかなと思って。」
「買いませんッツ!!何ですかそれ!買うワケないじゃないですか!い、い、意味分からないですッツ!!!」
「そうなの?でもさ、タダ飯ってワケにもいかないでしょ。」
「ご、ごはん?」
「そうだよ、毎回の飯代として、オレは何を差し出せばいい?」
「い、要りませんよそんなの!さっきも言った通り一人分も二人分もそう変わらないと思いますし、どうしても食費がかさむようであればその時に食材費をいただければ嬉しい、くらいです!!」
「冗談だろ……そんな、アンタどんなお人好しだよ…。」
「人を珍獣を見るような目で見ないでくださいッツ!!」
ゴクリと固唾を飲んで最大級の怪訝な目でyouを見るアカギに、失礼ですよ!と憤慨するyou…。
「仮に…そうだとしても……アンタみたいな真面目な人間から、貰いっぱなしってのは性に合わない。」
「何ですかそれ、不真面目な人からは貰いっぱなしでもいいって事?」
「そうだよ。少なくともオレが今まで関わってきた人間は老若男女問わずそういうのばっかだったから。まぁ、オレが不真面目だからね……類を以て集まるってヤツかな。そういう相手には自分も相手も騙して奪ってなんぼの世界だし、裏の無い善行されるなんて皆無…。」
「アカギさんが生きてる世界って、よく分からない感じですね…。」
「ハハ、まぁ、そんな感じだからさ……無償でそんなことしてもらうのをちょっと、疑っちまったオレがいるって事。」
「うーん…成程?つまり……何かを提供する方が逆に安心するから、という感じだったんですね…そっか…。」
赤木しげるという人間が今までどういった生き方をしてきたかなどは、一切知る由もないが、
少なくとも自分が生きてきた環境とは全く異なる世界に身を置いてきたのだということは何となく察したyou…。
暫しうーん…と考え、youは「あ!」と小さく声を上げた。
「そうだ、じゃあ…アカギさんが残業しない日はわたしと一緒に帰ってくれませんか?!」
「え…。」
「そうですよ、そしたら残業回避できますし!」
「・・・。」
「それが報酬……では、だめですか?」
「そんなんでいいの?」
「はい!寧ろ嬉しいです!!」
「今日の啖呵を見た限りじゃ、もうオレなんかに頼らなくても、しなくていい残業は自分の判断で断れそうな気がしたけどね…。」
「まぁ、それもあるかもですけど、一人で食べるご飯はとても味気なかったので…、夕飯ご一緒できると嬉しいメリットは、どちらかと言えばこっちかも。」
そう言って嬉しそうに笑うyouの表情は今まで見た事もないもので、
それを目にしたアカギは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。
「あ、でもアカギさんは寮住まいですし、もしこちらに赴くのが面倒であれば断っていただいても…。」
「たかだか十数分歩いただけで美味い飯が食えるんだ、そんなの全然気にならないよ。」
「そうですか?」
「ああ。」
「あと、頻度は減ると信じたいですが、やっぱり残業があったり、アカギさんが何処か行かれる時とかあると思うんですけど、その時は…。」
「その時は遅かれ早かれ事務所に寄ったタイミングで話せばいい。」
「わかりました、では、そんな緩い感じで…。」
「いいね、ユルい感じ。」
なんだ、ちゃんとお互いの意思疎通ができれば問題なく終わる話だったじゃないかと、
youもアカギも軽く笑い合う。
そうして、中断してしまった夕飯を再開し、後は仕事やら何やら、取り留めもない話を交わしながら…。
「ご馳走様。美味かった。」
「お粗末様でした。」
「食器、洗うよ。」
「いえ、わたしが洗いますよ。」
「いい、食わせてもらったし。」
「アカギさんは『今日は』お客様なんで!」
「・・・なるほど。」
「ふふ、明日からはお願いしますね。」
「ああ。」
早速もう1つの取り決めが生まれ、約束が現実味を帯びた。
それから、youが食器を洗う間に再びアカギが外に出て一服し、
食後に少しお茶を飲みながら食休みした後、解散することとなった…。
・
・
・
・
翌日…
「(よし、終わった。)」
事務所にある掛け時計の時刻を確認すると、定時の少し前。
もう少し時間があるため、明日も早めに仕事を終わらせることができるかもしれない…と、
youは明日の分の仕事をせっせとし始めた。
皆一様に定時まで仕事に勤しみ、解放のチャイムが響き渡ったところで、
ある者はバタバタと片付けを、ある者は終わらない仕事に尚も向き合うべく、ひとまずのタイムレコーダーの打刻へと向かう…。
youは至ってマイペースに…。
上司に提出する業務の日報を書き終え、個人日報を仕上げた後、デスク周りを片付け始める…。
「苗字、今日って残業したりする?」
「今日はする予定無いかな……やらなきゃいけない仕事は終わってるし…。」
「そうなんだ、流石~…!あ、でね、もし良かったら…。」
と、そこまで同僚の事務員の女性が言ったところで、工場内の作業員達がワラワラと一斉に
タイムレコーダー打刻と勤怠表ボードの変更の為に事務所に押し寄せてきた。
毎度の光景とはいえ、工員の人数もかなり多いため、彼等がある程度去っていくまで、
事務員たちの話はいったん中断されてしまうほど、事務所内は騒がしくなる…。
youと、彼女に声を掛けてきた事務員の2人も同様に、いったん話を止めて停止…。
事務所内がある程度静かになった頃合いで、話を再開させようとしたのだが…。
「苗字サン、帰ろう。」
突然声を掛けられたためデスクから目を離して顔を上げると、事務員女性の隣にアカギが立っていた。
「アカギさん…!」
「オレはもう会社の玄関まで先に出とくから、アンタも早く用意して出て来いよ。」
「は、はい…ッ!!」
淡々と言いたい事だけ告げて、その後はスタスタと無言で事務所を出て行ったアカギ。
今、一体何が起こったのか…と、困惑するように口をポカンと開けて呆ける事務員女性に、
youは少し嬉しそうな顔をして声を掛けた。
「えっと、じゃあ、お先に失礼します!」
それからすぐにタイムレコーダーを打刻し、勤怠表のボードを「出勤」から「退勤」へ変更したyou。
ロッカールームで着替えと荷物の回収を終えて、正門へ向かう。
そうして、門の柵に寄りかかり、煙草をふかしている白髪の救世主の名を嬉々として呼ぶのだった。
お待たせしました!
アカギさん!
(今日の飯って何?)
(今日はカレーの予定です。)
(じゃあ明日もカレーか。)
(そうですねぇ、明日はお惣菜買って帰ろうかと思ってます。)
(ヘェ、いいんじゃない?)
(揚げ物面倒なんで…。)
(買う総菜は揚げ物なの?)
(はい!わたしはチキンカツにしようかな~……アカギさんも1品選んでくださいね。)
(ああ、成程…いいね、じゃあオレはカツカレーにする。)
(いいですね、王道~!!)
words from:yu-a
*。゜.*。゜.*。゜.*
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