『アカギ』 赤木しげる(青年)
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「あんた……働きすぎ…。」
「え…。」
残業中…不意に声を掛けられたのは
今までほぼほぼ話したことの無い会社の同僚だった
No!って言いなよ
現在、赤木しげるが勤務しているのは「沼田玩具」という町工場…。
その工場に勤務する人員の顔や名前もある程度一致するようになり、仕事内容や社員寮生活にもそろそろ慣れるかという頃…。
最近見慣れてきた光景がもう1つ…。
「いつもゴメンねェ苗字さん~!どうしても外せない用事があって…!」
「あ、うん…大丈夫…わたしは特に用事も無いし……この在庫表の確認だけでいいんだよね?」
「うん、本当助かる、ありがとう~!明日の午前中いっぱいだから朝一でもギリギリ間に合うんだけど…心配で…。」
「そうだね、それは…今日中の方がいいかも。」
「でしょ~?!」
「じゃあ、確認終わったら引き出しの中に入れておくね。」
「うん、よろしくお願いしまーす!」
今日はあの子に、昨日はあっちの子に、その前は…。
まぁ、兎に角色んな同僚に仕事をちょこちょこ任されて、自分以外の仕事で残業している事務の女性がいる。
名前は苗字you。
残業代が付くから敢えて代わりに残っているのでは?などとは到底思えない。
高度経済成長期の真っただ中では、この会社だけでなく、
今はどこの会社も仕事が定時に完了しなければ、先に打刻し、あとは全て無言の同調圧力。
日本人特有の人の好意に付け込んだ「残業」=「タダ働き」というシステムなのだから。
そんなこんなで、基本的に残業とは「そういうものだ」と刷り込まれているこのご時世…。
その状況下で、たまに自分も残業することになった際、定時に事務所に打刻をしに行くのだが、
最近は高確率で先のような事務員の女性たちの遣り取りに遭遇するのだ。
アカギ自身は工場内の作業員なので、事務所には日中殆ど出入りすることはなく、
其処は出退勤の打刻や、勤務表の提出、ハサミやカッター、鉛筆やペンなどの事務用品を借りたり、補充するためにたまに入るくらいの場所…。
なので、それこそ、渦中の彼女と言葉を交わしたとしても「梱包用のガムテープ1個ください」「はいどうぞ」くらいのもので、
互いに顔と名前は知っていたとしても、ほぼほぼ会話らしい会話などはしたことのない間柄である。
アカギは毎度、一瞬だけ横目で彼女たちの遣り取りを視界に入れ、タイムレコーダーを打刻したら、後は我関せずと現場に戻り、
それから自分の作業場で残業分の仕事を終え、最後に事務所にある出退勤の状況を確認するボードを「出勤」から「退勤」に変更する。
そこでいつも、最終的に一人事務所に残って作業をする苗字youに「お疲れ様です」と告げて退勤し、社員寮へと帰る…という流れなのだが…。
他人に対してあまり興味を抱かないアカギでも、
そんな場面に1ツキのうち何度も遭遇すれば、流石に気にもなるというもので…。
結局、とうとう、その日がやってきた。
残業が決まったとある日…。
既に定時でタイムレコーダーは打刻済みのため、定時から数時間後、残業完了後に出退勤のボードを変更すべく事務所へやってきたアカギ。
事務所に入って彼女の姿を捉え、彼女もまた、事務所のドアが開く音で顔を上げたため、お互いに視線が合う…。
「お疲れ様です…。」
「あ…今日は赤木さんも残業ですか?遅くまでお疲れ様です。」
「・・・。」
フっと口角を上げて笑顔を作ったものの、恐らくは連日残業をしている所為なのか、
女性に対して失礼かとは思うものの、それはあまり顔色の良い、綺麗な笑みとは言えないもので…。
このような光景を自分以外の人間も頻繁に目にしているハズなのに、
何も変化が無いのは、皆一様に我関せずと、見て見ぬフリをしているのだろう…。
このままいくと、そう遠くないうちに身体が悲鳴を上げて勤務中にでも倒れることは必定…。
気付けば事務所で一人、作業を続ける彼女に溜息混じりに声を掛けていた。
「あんた……働きすぎ…。」
「え…。」
「…前も遅番の時残ってるの見掛けた。その前の残業ん時も。」
「あーっと…えっと…。」
「人に押し付けられてた。」
「・・・。」
ズバリ、指摘をしてきたアカギに彼女は黙る…。
その様子を見て彼はフゥ…と小さな呆れの溜息を吐く…。
「残業したって金貰えるワケでもないし、自分の得にならない事なんてしなきゃいいのに。」
「あ、はは……ですね。でも、家に帰っても一人ですし、趣味も無いし、お酒も飲みに行かないし…。それなら仕事して誰かの役に立ったり、子ども達の元に1個でも多く玩具届けられるように仕事した方がいいのかもなーって…。それくらいの感覚でした…。」
「アンタ………変わってる。変。」
「う……そ、そうですか…。」
「まぁ、あんたがこのままこれ続けて、倒れて構わないなら別にいいんだけど…。」
「え…。」
「鏡見た?凄い顔だよ。たまには定時で帰ってゆっくり寝れば?」
「…っ!」
呆れ顔はそのままに、フイっと彼女から顔を逸らして事務所の入り口から勤怠のボートのある場所へと移動するアカギ。
壁に固定された大きな黒板式のボードには当月、翌月の納期の予定やお知らせが書かれている…。
その一部にある社員の勤怠状況を確認する名簿の「赤木」に書かれた「出勤」を、態々黒板消しを使うまでもないとばかりにビッっと指で掻き消して「退勤」と上書きした。
「まぁ…どうでもいいけど……早く帰りなよ。この辺夜は危ないしさ。」
「あ…はい……何かチンピラの辻斬りがどうとか??そうですね……日報書いたら帰ります。」
「じゃ、お疲れ。」
事務所での用事も完了…あとは寮へと帰るだけ…と、軽い挨拶をして事務所のドアに再び手を掛けたところで、
アカギは今一度彼女に…苗字youに声を掛けられた。
「あの…赤木さん…。」
「?」
「気遣ってくれてありがとうございます。」
「…別に気遣ったワケじゃない……少し気になったから声掛けただけ。」
「それでも嬉しかったです。」
「そう……じゃあね。」
「はい、お疲れ様でした!」
恐らく本当に体調を気にして声を掛けられたのが初めてだったのだろう、
顔色は相変わらず悪いが、彼女は大変嬉しそうな表情をアカギに向けたのだった…。
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翌日…。
「梱包用のガムテープ、もらっていい?」
業務中、ストックの切れた事務用品をもらいに事務所へ赴いたアカギ…。
誰に声を掛けても良かったのだが、昨日、思いがけず言葉を交わしたこともあって、
(顔色の確認も兼ねて)真っ直ぐにyouへと声を掛けた。
「あ……取って来るから少し待っててね。」
「ああ。」
昨日まではガチガチに抑揚の無い、堅苦しい雰囲気の敬語だった彼女の言葉が少し砕けているようで、
僅かばかりだが距離感が近くなった気がするのは気のせいではないだろう。
備品の棚からガムテープを取って戻り、それをアカギへ手渡す。
「はい。」
「どうも。」
「昨日はありがとう。」
「別に、オレ何もしてないし。」
「赤木さんが注意してくれたお陰で、家に帰って鏡見て「うわ…」ってなったから…。」
「ああ……成程ね。」
「今日は定時で帰ろうと思います。」
「そうだね、そうしな。」
「はい!」
「ガムテープありがと、もらってく。」
「はい、お疲れ様です。」
そうしてニコリと笑って、youがガムテープをアカギに手渡そうとした時…。
「それ、私じゃないです。多分、苗字さんの所為です!!」
「え…。」
急に自分の名前が事務所内で呼び上げられ、ピシッと固まるyou…。
恐る恐る振り向いて「わ、わたし…ですか?」と小さく声を出せば、
その後に怒涛の説明と詰問が押し寄せることとなる…。
「あ、あの日!用事があるからって苗字さんに代わりに残業してもらったじゃないですかぁ!」
「え、いつ…?いつの分ですか?」
「一昨日です!」
「何かあったんですか?」
「発注ミスですっ!!」
「えぇっ?!」
同僚の女性事務員いわく…。
一昨日の発注にミスがあり、組み立て部品の一部で納期通りの納品ができないという事態が発覚したのだという…。
「苗字君、キミが彼女の代わりに残業時に請け負った仕事分…ということかな?」
「確かに残業はしましたけど…。」
「では顛末書と始末書は苗字さんになるね?」
「すみません、残業はしましたけど、請け負った仕事に発注は無かったかと思います。」
「え、そうなの?」
原因追及で事務所の男性上司からyouにヒアリングがなされたが、彼女も「自分ではない」と発言する…。
ここで驚いた顔をしたのは、彼女に残業を代わってもらった女性事務員…。
少し慌てた様子でパタパタとyouの元へと駆け寄ってきた。
「苗字さん、あの時私、残った仕事は全部お任せしましたよね?!」
「…確認します。」
「私、お願いしましたよね、苗字さん…!」
最後には懇願するような様子の女性事務員…。
アカギも同様の事を考えており、いつも無償で残業を代わってくれる彼女であれば
発生したミスの肩代わりも恐らくは享受してくれるのだろう…と。
しかしながら、youは徐(おもむろ)に自分のデスクからファイリングされた紙束を取り出すと、
ペラペラと数枚捲った後に「ごめんなさい」と呟いた…。
ホッと安堵した顔を浮かべた女性事務員だったが、
その後に続いたyouの言葉に目を大きく見開いた…。
「庇ってあげたいけど、それはできない。自分の仕事に対しての嘘は吐けないです…わたし…。」
「え。」
「やった仕事は皆と同じで業務日報で提出してるけど、自分のと、人から請け負った仕事の詳細は別で個人日報に付けてて、残ってるから。翌日依頼者に状況報告しなきゃいけないでしょ?」
「!」
「一昨日の履歴も残してるけど、依頼されたのは先月分の受注先の一覧表作成だけみたい。」
「!!」
「机にメモを置いてたでしょ、次の日メモ見て「仕事やってくれてありがとう」ってお礼言ってくれたよね?」
「そ…そう…だった…かしら…。」
「うん。だから……ごめんなさい、わたしではないので、その時の発注に関しては詳細が分かりません。」
ペコリと綺麗に一礼して、くるりと事務員の女性と男性上司に背を向けると、
youは再びアカギの方を向き直り、ポン…と、彼の大きな手の上にガムテープを乗せた。
ハッと我に返ったのはアカギだけではなく…。
男性上司は困惑しつつも、女性事務員に再び顛末書と始末書の作成を促す言葉を掛け始め、
2人はいそいそとその場を離れていった。
「お待たせしてすみません…ずっとわたしがガムテープ握ってたから…。」
「いや、いい。お陰で面白いモン見れた。」
「お、面白くないです……ヒヤヒヤした。」
「いいね、アンタ……ああいうの、スカッとするやつ、凄く好きだよ。」
「は、はぁ?まぁ、とりあえず、何事も記録に残した方がやっぱりいいですね。」
「クク……オレが言いたいのはそこじゃないけどね、まぁいいか。」
「?」
「じゃ、今度こそガムテープ回収してく、お疲れさん。」
「あ、はい、お疲れ様です。」
ヒラヒラと手を振り、アカギは至極愉快そうな表情で、今度こそ事務所を後にした。
ただの地味なお人好し、搾取される側の弱者だとばかり思っていたが、案外そうでもないというか…。
方法は異なれど、マイペースの延長で危機回避する術を身につけている辺りは
自分と似たような部分があるのかもしれない…などと、フフ…と心の中で小さく笑うアカギであった。
「(まぁ、オレと違って敵は作りにくいみたいだけど…。)」
自分は敬語は用いれど気付けば慇懃無礼な態度になっているし、
明らかに自分より年若い者に対しては初手からタメ口をきくこともある。
口数も少ないし、職場以外でいざこざが発生した際に回避しようとすれば、
前述した態度の所為で喧嘩になるし、最近は我慢できずにうっかり手が出る。
少しは彼女のように柔軟に回避できるよう努めてみるか?などと、
柄にもないことを色々考えたりしていると、気付けば終業の時間になっていた。
そうして、定時を迎えたアカギがいつものようにタイムレコーダーに勤退時間を打刻すべく事務所を訪れると、
これまたいつものように「あの」遣り取りに遭遇する…。
「代わりに残業してくださったのは感謝してますけど、逆に考えて苗字さんに半端に私の仕事請け負ってもらったから発注ミスが生じたっていうか…。」
「そう、じゃあ今度から「これで全部?」って聞けばいいかな?(でもあの日もそう聞いた気がするんだけど…)」
「そうですね。勿論、一番悪いのは私だから、顛末書も始末書も書いてますけど…。」
「・・・。」
「その所為で今日の仕事全部就業までに終わらせられなかったんですよね……苗字さんにも責任があったとは言いませんけど……その、完全に無いとも言い切れない気がするんですよ。」
「・・・。」
恐らくはその場で会話を聞いている者は「いや、完全に無いよ」と心の中でツッコミを入れているであろう会話…。
自分の受けたストレスを何処かで誰かに若干でも転嫁して晴らしたかったのだろう…。
結果的にただ「残業して仕事を手伝ってほしい」と伝えるだけではなく、前置きに文句を吐き出した事務員女性…。
凡その言いたいことを察し、今日こそは定時で帰ろうと思っていた自分の気持を抑えることにするyou…。
「苗字さん、申し訳ないんですけど…私、自分の顛末書と始末書書くので手一杯なんで、今日できなかった私の仕事、今から一緒に手伝ってもらってもいいですか?」
「・・・。」
ホラ来た、と…覚悟はあったが、僅かばかりでも「今日は定時で」と珍しく期待していたこともあり、
いつものようにすぐに「うん、分かった、いいよ」とは言葉が出てこず、暫し黙ってしまう。
いつもよりちょっとだけ深めの溜息を1度吐いて、依頼を請け負おうとした刹那。
「悪いけど、今日はこの人、用事あるから。」
「「え。」」
当然、自分の背後から聞こえた低い声に驚き、後ろをバッと振り向けば、
そこには作業着に帽子を目深に被った赤木しげるがいた。
「あ…赤木さん…。」
「オレと飯行く約束してるから、定時で上がるよ。」
「???」
「行こう、苗字さん。」
そう言うとパッとyouの手を取り、歩き出す…。
タイムレコーダーの打刻も、勤怠表の表示も変えずに。
そのことを気にして慌てふためいた様子を見せるyouだったが、そんな彼女の心情は恐らく丸っと無視し、
アカギはその大きな手でしっかり彼女の腕を掴みずんずんと歩き続ける。
結局、沼田玩具の敷地を出たところまでノンストップで引き摺られるように歩き続け、そこでようやく手が離された。
「あの!赤木さん!」
「なに?」
「打刻!」
「ああ、忘れたね。」
「勤怠表!」
「些細な事でしょ。」
「わたし日報書いてない!」
「明日でいいだろ。」
「着替えてない!ロッカーに鞄も財布も家の鍵も置いたまま!」
「飯食った後で戻ればいい。」
「そのご飯代が無いです!」
「奢るって。」
「そ、そもそも何で…!」
「・・・。」
「何で助けてくれたんですかぁ…。」
「あらら…。」
今まで積もり積もった感情が一気に溢れ出したのか、アカギの起こした行動により
それらを制御していた琴線がプツリと切れたようにボロボロとその場で泣き出してしまったyou。
アカギはフゥ…と小さく息を吐くと、ポンポン…と彼女の頭を数回撫でて、その手を下ろした。
「何でだろうね、見てらんなくてさ……アンタは今日は定時で帰るって、まぁオレが勝手に決めただけなんだけど…。だから、ああいう…理不尽なのはナシだろって思っちまったみたい。」
「う…赤木さん…。」
「あとさ、昼間のアレ、良かった。」
「あれ?」
「自分の仕事に嘘吐けないから、ミスは庇えないって、アレ。」
「あ…あれですか…。」
「何かスカッとした。」
「はぁ…?」
「だから、その礼みたいなモンかな。」
「礼って…。」
「まぁ、勝手に無理矢理引っ張ってきちまったのは悪かった。」
「そうですよ、凄くビックリしました…。」
「じゃぁ、残業したかった?」
「したく、ないです…。」
「でしょ。」
「アカギさ……ん。」
「ん?」
「ありがとう、ございますぅう…。」
「はいはい、それは分かったから……とりあえずここで泣かないでよ。」
「ずみませ…。」
敷地の外に出たとはいえ、出てすぐの場所であるため、
自分たちと同じく定時で上がった工員達がワラワラと帰宅しており、
チラチラと好機の目で自分たちを見てくるので、少し居たたまれなくなってきたらしい。
再びアカギはyouの手を引き、ゆっくりと転ばない速度で道を歩き出す…。
「生憎とハンカチとか持ってなくてさ、タオルしかないんだけど……使う?」
「すみません…お借りします…ぅ。」
「…多分凄く…。」
「?」
「汗臭いけど。」
言い訳はしたものの、全然恥ずかしくもなさそうに「そういうのものだから仕方ない」と、
アカギは今まで自分が首に掛けていたタオルを泣いているyouに手渡す。
化粧もしているし、そんなに顔中をゴシゴシ擦るワケでもないので、
彼女は少し笑いながら「平気です」とタオルを受け取り、涙を拭う。
そうして涙がタオルに吸水され、暫く歩き続けてようやく心が落ち着いた頃…。
「アンタ……何か食いたいモンある?今日はアンタに良いもの見せてもらったから、奢る。何がいい?」
「何って…わたし、外食あまりしないのでお店よく知らなくて…。」
「そうなの、自炊なんだ?」
「一人暮らしなので……そんなにお金も無いし。」
「ふーん…堅実でいいね。オレとか自分で用意するのが面倒だから外食か、商店街で買った総菜ばっかだからさ。」
「そうなんですか…。」
「朝まで雀荘に入浸って寮にいない時もあるし…。」
「そうなんですか?!何か、わたしよりアカギさんの方が不摂生というか……心配になりますね。」
「ハハ、違いない。」
だけどアンタ程倒れそうにはならないよ、と笑うアカギ。
「あんたはスタミナ付けなよ、今日は牛鍋にしようか。」
「牛鍋って……すき焼き?」
「そう。」
「えっ、高いですよ!給料日前なのにそんな…!」
「構わない、金ならある。博奕で儲けた泡銭だ、使ってなんぼだよ。」
スタスタと歩きながら、自分の懐事情を淡々と語るアカギ…。
内容的に普通でない気がするため、ツッコむべきか、
はたまた自分が世間知らずなだけで、給料とは別に博奕で稼ぎがあることは普通のことなのだろうか…と悶々と考えてyouは口を噤む…。
急に押し黙った彼女を不思議に思いながらも、アカギは自分の知った店に案内し、
一番質量の多く、高品質なコースを選んで夕飯にすることとした。
・
・
・
・
「お…美味しかった…すごく!!」
「良かったね。」
「あの…ごちそうさまでした…。」
「いいって、オレも満足できたし。」
豪華な食事をご馳走していただき、感謝します…と、深々頭を下げるyouに、
アカギは至って普通に…それこそ、商店街のコロッケ1つでも奢ったくらいの雰囲気で「気にするな」と言う。
普段ならこのまま夜の街に流れていき、手頃な雀荘にでも入浸ってしまうのだが、
今日は同行者もいるということでそうはできそうにない。
「他にどこか寄りたいところ、ある?」
「寄りたいところ?いいえ、特には……あ、一度会社に戻らないと……荷物が…。」
「そう、じゃあ戻ろうか。」
そう言って、早速歩き出したアカギ。
それから2人は会社へと戻り、youは自身のロッカーから鞄を回収。
再び、沼田玩具の敷地のすぐ外で解散の挨拶をすることとなったのだが…。
「アカギさん、昨日今日で色々と……ありがとうございました。ご飯もご馳走様です。」
「そこまで礼を言われることはしてない。」
「気持ちの問題ですから。」
「ふーん。」
「では、また明日。」
「送ってく。」
「え。」
「いつもどのくらい残業してるか知らないけど……流石に危ないだろ。」
「そこまで迷惑掛けれません!だってアカギさんは社員寮に住んでるって…!!」
「家、そんなに遠いの?」
「歩いて10~15分くらいですけど…。」
「・・・送る。」
「でも…。」
「どっち?案内して。」
「うう…すみません…。」
意外にも紳士的な行動を取るアカギに戸惑ったものの、自分が残業して帰宅する時間より小一時間程遅い時間帯になってしまっており、
正直一人で帰るのが不安だったyouには大変ありがたい申し出で、戸惑いながらも好意に甘える事にするのだった。
それから夜道を2人で歩いて十数分…。
youの住むアパートに到着する…。
「ここです、わたしの家…。」
「思った程は遠く無かったな……でも、街灯少なかったし、あまり夜遅いのはお勧めできないね。」
「そうですね…気を付けます。」
「じゃあ、オレはこれで。」
「えっ?」
「え?」
「あ……はい、そうか……ですね。」
「なに?」
「いや……折角送ってくださったので、上がってお茶でもと思ったんですけど……明日も仕事だし、あまり遅くまで引き留めるのはダメですね。」
「気を付けるって言った矢先にそれ?危機感無さすぎじゃない、あんた……色々と……見てると不安になってくる…。」
「え??」
「何でもない……はやく家入んなよ。」
「あっ、はい!じゃあ、アカギさん……色々とありがとうございました!」
「ああ。」
「送ってくれて感謝です……おやすみなさい。」
「また明日。」
「はい!」
大きく一礼して、ブンブンと手を振るyouに見送られ、アカギは元来た道を戻り始める…。
角を曲がって彼女の姿が見えなくなるとすぐに、徐に煙草を取り出して火を点けた。
フーッと眺めの息を吐けば、紫煙が夜に浮かぶ雲に重なるようにして溶けて消え、
それを見つめながらふっと思い返す、苗字youという女性…。
アカギとしては彼女だけでなく、恐らくは他の誰であってもその人物の全容に関しては特に興味も無いし、
特定の相手との関係性を深めたいとも特には思わないが、関わった人間を案ずる気持ちは多少なりと生まれるわけで…。
「(さて、明日は定時で帰れるかねぇ……。)」
もし、帰れそうになければ、あと数回くらいは助け舟を出してやってもいいかな…と、
戯れの一環程、しかし彼女には大いなる救済……そんな事をふと考えてしまうのであった。
Noって言えない事務員さん
(あ、アカギさん、おはようございます。)
(ああ…苗字さん……おはよう。)
(昨日はありがとうございました、すき焼き、美味しかったです!)
(そう、なら良かった。)
(また機会があれば、ご一緒させてください。今度はわたしがご馳走します。)
(ヘェ、何でも?じゃあオレもすき焼きか……寿司でもいいね。)
(なん……なんで…も………う…あの、できれば給料日後にお願いしたいです…。)
(クク…冗談だよ。)
(すみません……一般的なご飯処くらいしかご馳走できないかも…。)
(いいって、それなら外食よりアンタの手料理の方が食ってみたい。)
(えっ……そんなんでいいんですか?!)
(え。)
(それならいつでも全然!問題ないですよ!)
(やっぱりアンタ………変わってる。変。)
(どうして?!!!)
words from:yu-a
*。゜.*。゜.*。゜.*
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