『アカギ』 赤木しげる(青年)
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「あのぅ…アカギさん……ちょっと…。」
youはアカギの名を懇願するような声色で呼ぶ。
窓から外を眺めながら煙草を吸っていたアカギが「何?」とそれに答えた。
赤木しげるの憂鬱。
youがアカギに麻雀の指導を頼むまで、彼は男の性という本能と理性に頭を悩ませ、憂鬱になることが度々あった。
その理由は偏(ひとえ)に彼女の鈍さと無意識のガードの固さによるもの。
例えばだが、ベッドに押し倒したりだとか、抱きしめてキスした後だったりとか…。
幾度と無くお互い「そういう行為」をしてもいい雰囲気に持っていった時も…。
「アカギさん…今お腹鳴りませんでした…?何か作りましょうか!」
だとか
「す、すみません……キスはその…今日のご飯はギョーザでしたし、歯磨きを!させてほしいです!」
で、その場を逃れたり……。
…とまぁ、こんな感じで流され……。
行為に至るまでの機会になかなか恵まれず、悶々とする日々が続くことがしばしばあった。
しかし、今は……
「うーん……これって、何かの役でしたっけ?」
「いや、ココが違う。」
「むぅ……難しいーー!」
頬を膨らませながら怒りを顕わにするyou。
テーブルの上の整えられた手牌をジャラジャラと崩して月並みな文句を垂れた。
そんな彼女を見て「やれやれ……」と言葉を洩らすと、
アカギが1つ1つ牌を確認しながら、それを手に取ってyouの前に並べていく……。
「確認テスト。」
「え?」
「和了形を完成させるためには何の牌がくればいい?」
「………いち……イチのやつ。えっと、一筒さんです!」
「正解。」
再びジャラリと手牌を崩して、次また違う揃いで牌を並べる。
「これは?」
「うーんと、3。萬子でも筒子でもなくて…さん…そ…棒のトライアングル配置牌です。」
「……索子の3な。」
「そうそう!ソーズの3!私の言葉でよく分かりましたね……流石アカギ先生!」
「まぁ、他の牌で正解は分かるから…。」
そんなこんなでうろ覚えで怪しいながらもyouは数題をクリア。
「(……なんだかんだ言って、結構頭ん中入ってんじゃん…牌の名称すげー怪しいけど。トライアングル配置牌って何だよ…。)」
そして……アカギは今日も罠を仕掛ける。
「you……優秀で優しいアカギ先生も疲れてきたんだけど。」
「自分で優秀で優しいとはこれ如何に。」
「違う?」
「いや、違わないですけど……。」
確かに教え方は分かりやすく、師としても雀士そのものとしても優秀であることに間違いはないし、
間違っていたり、何度教えても覚えられていないポイントがあったとしても学校教師のように叱りもせず、
「そのうち覚えるよ」や「確かに難しいかもな」と、その凪いだ声でフォローしてくれるため、
もし自分が本当の麻雀教室の生徒であれば間違いなく「優秀で優しい先生だ」と彼を称するだろう…。
だからこそ、彼が急にその「優秀で優しいアカギ先生も疲れてきた」と言い出したことに、僅かながら不安を覚える。
「えっと……つまり、私がいつまでたっても覚えの悪い生徒なので、そろそろお怒りモードというか…呆れモードに突入するという……つまりそういう…?」
「いや、そんなんじゃないけど…。」
「では…一体…。」
「単に勉強の時間を終わろうかって意味だよ。」
「なるほど!良かった…そういうことか…。」
「じゃ、最後の問題にしよう、ちょっと難しいのを出すから。」
「はーい!」
勢い良く挙手して返事をするyouを見て、思わずニヤリと口元が上がるアカギ。
顔は彼女の方を見ずに、バラバラになった牌を再び1つずつ摘まんで、彼女の目の前に表向きで並べていく。
「じゃ、これ、間違ったらお仕置きするから。」
「はい!……はい?」
「ハイ、制限時間は今から1分。この役の名前を言い当てて。」
「ちょ!まっ、えぇえ!?」
並べられた牌とアカギの顔を交互に見やって、あたふたしだすyou。
そして、ようやく顔を上げ、この上なく嬉しそうな顔で愉悦感に浸るアカギ。
この絶妙なコントラストの中、youは覚悟を決めて問題に挑む。
「(役なんてまだほぼほぼ覚えられてないんですけど?!)」
「どうしたの、ギブアップ?」
「ちょっと待ってください、もうちょっと!」
「ふーん、あと30秒。」
「ぐはっ!」
・
・
・
「………ハイ、1分経ったよ。」
「うー……もう分かりませんーッ!『すーあんこー』とか言うやつ!」
「ヘェ……一応難役も知ってはいるんだ?」
「…な…名前だけ…。」
「名前だけか。」
「もう!早く教えてください!覚悟はいいか?オレはできてる!!!」
「そりゃ潔の良いことで。」
牌を投げられるか、尻を叩かれるか、はたまたノートに役の名前を覚えるまで書きとりさせられるか…。
そんな仕置きを覚悟で身を乗り出し、アカギに答えを求めるyou。
そしてアカギはというと……。
「……ナイ。」
「へ?」
涼しい顔をしてもう一度ハッキリと……。
「ナイ。」
と言った。
当然ワナワナと震えながらも、事の真偽を確かめるために質問を試みるyou。
「アカギさん……その…「ナイ」って、どーいう意味…ですか?」
「だから、これは役でもなんでもない。ただの牌の羅列。」
「んなっ!!」
「超絶初心者のyouは絶対引っかかると思ってね。」
「ひっ、卑怯者ーー!」
無様な失敗をするよう仕掛けられたということで、腹を掻いた彼女は立ち上がり、
アカギの腕の中に飛び込んで、ぺしぺしとその胸板を叩く。
ククク…、と押し殺した声で笑いながら、アカギはyouの両腕を掴んで行為を制止させた。
そして、耳元で囁く。
「言っただろ『優秀で優しいアカギ先生も疲れてきた』って。」
「ぅ……!」
youの身体が跳ねたのを確認し、アカギは更に追い討ちをかける。
「さ、お仕置きの時間といこうか?覚悟、できてるんだろ?」
「ちょ、ま!……ぁぅッ///」
その憂鬱が解消されるのであれば、彼女限定の麻雀教室の先生も満更悪くない。
そう思うアカギなのであった。
お仕置きは優しくできないかもね。
(もう無理!もう麻雀やめるーッ!)
(俺から国士無双取れたら辞めさせてやるよ。)
(ぇ……私、一生奴隷ですか?)
*。゜.*。゜.*。゜.*
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