『アカギ』 赤木しげる(青年)
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「テメェ、ナメやがってこのガキ!!」
これは偶然通りかかった
市街地の裏路地で巻き込まれた
わたしの厄災と邂逅の日の話
Total Reward
「あっ!!」
「え。」
「なっ?!」
「あ。」
それぞれ、その場に居合わせた別の人物が放った短い言葉…。
登場人物は4人。
サングラスに派手な柄のシャツにスーツの男が2名と、その2名に殴り掛かられている白髪の青年。
そして彼女、you。
正確には2名のうち1人に殴り掛かられている…のだが…。
更に言えば、その殴り掛かられた白髪の青年がヒラリと軽い身のこなしで躱したことで、
その向こうに歩いていたyouにその拳が向かってしまったのだが…。
そのため、2名のチンピラのうち1名がそれに気付いて「あっ!!」と叫び、
青年が避けたことで急に自分の方に拳をグーにした男が向かってきたのに気付いたyouが「え。」と…。
そして青年に避けられたが、勢いが良すぎて振りかざした拳と進行方向を変えられずにそのまま女性に突っ込んでいくチンピラの男性が「なっ?!」と驚嘆し…。
自分の背後に女性がいることに気付かず避けた青年が「あ。」と発した。
一瞬の出来事だったが、各自その動作はスローモーションのようにゆっくりと動いていたように思えたのだと後に全員が語る…。
これはもう避けきれず、凄まじく痛そうな拳をその身をもって食らう羽目になるな…と、
脳内で理解したが、咄嗟に身を屈めたり腕でガードなどできなかったyou。
成せたことと言えば、せいぜいぎゅっと目を瞑ることくらいのもの。
そうして覚悟無く、次に来る衝撃と痛みに備えた彼女だったが、
次にやって来た衝撃は痛みではなかった。
強く腕を引かれ、無理矢理に足が動き出す。
そうしないと転んでしまう程のスピード…つまりは誰かに腕を掴まれて走り出している、という状況だった。
当然驚いて目を開けば、先程の白髪の青年の後頭部と背中が視界に現れ、
自分は彼に腕を掴まれて共に走っているのだと知る。
「なっ、え!?」
と、驚いて声を上げるも彼は振り返らず、そのまま走り続ける。
黙ったままの彼に相反して声を発したのは、先程のチンピラ2名。
後方から「あ、兄貴ィ!!」という大声が響いたが、追ってくる気配は感じない。
走り続ける最中に、顔だけ後ろを振り返れば、
道に大の字で倒れている男と、彼に駆け寄る残りの1人の姿が視界に映った。
…ので、咄嗟に彼女は目の前の男に声を掛ける。
「あっ、あの!ちょっとお兄さん!?」
「悪ィ、もうちょっとだけ走ってくれる?追ってこられると面倒だからさ。」
「や…えぇ?!」
その後どのくらいだろうか…結局、結構な距離を走らされたyou…。
やっと停止したのはどこかの公園のようで、ゼーゼーと、
ちょっとばかり(いやかなり)酸欠になりながら、肩で息をして呼吸を整えた…。
脚がガクガク言い出したので、その場でしゃがみ込んでしまった彼女に、
青年が疲れなど感じさせないような飄々とした声で呼びかける。
「あらら、大丈夫?」
「ぜーー…はーーー…。」
「あっちに座るとこあるから、そこまで移動しようか。ほら、立って。」
「はー……はぁ、はい…。」
差し出された大きな手を掴めば、力を込められて、立ち上がるのを補助してくれた。
促されるままベンチに座ると、青年は「ちょっと待ってて」と呟いてその場をフラリと離れてしまう…。
一体何なのだと、先程からの怒涛の状況を思い返そうとしてみるも、
脳に酸素が行き届いていないのか、まったく考えを整理できず…。
youはただただベンチに座って呼吸を整える為に大きく空気を吸い込んで、吐くという動作のみを続けた。
「大丈夫?はいこれ。」
「え……。」
「ラムネでいい?近くに駄菓子屋しかなくてさ。」
「いいんですか…いただいて…?」
「…この状況で金払えっていうヤツ、いると思うか?」
「すみません、頂戴します…。」
数分後にその場に戻ってきた青年から差し出された、冷えたラムネの瓶を受け取り、
本当に有難そうな表情をして開封すると、youは一気に三分の一程飲んでしまった。
彼女が瓶を開けて飲む中、青年も自分の分のラムネを開封し、彼女の隣に着席してそれを飲む…。
プハっと子気味良い声を上げて瓶口から唇を離したyouに、
隣に座った白髪の青年が声を掛ける。
「悪かったな、急に引っ張っていっちまって。」
「はぁ……いや、色々と何が起こったのか理解できていないんですが……貴方は一体…。」
「ん、オレ?オレはアカギ。赤木しげる。」
「アカギさん……あ、わたしは苗字youです。」
「ふーん、youね。」
「・・・。」
いきなり下の名前で呼び方を固定され、少しだけ眉を動かしてしまうyou。
そんな彼女の心理は気にすることなく、彼は話を続ける。
「さっきはオレが避けたから、アンタが殴られそうになっちまってたからさ…。」
「あ、はい…それは覚えてます。ギリギリ…。」
「だから咄嗟にアンタの腕を引っ張って、その後あいつを力一杯蹴った。」
「え……。」
「ウン。」
「だ、だからあの人大の字で倒れてたのか!!」
「あ、そうなの?」
「あ、はい……チラっと見ただけですけど…。」
「じゃあ別にこんな長い距離走って逃げなくても良かったのか……アンタに悪いことしちまったな。」
「や……はぁ……もう、今更なんで…。」
「そう、ゴメンね。」
軽く謝罪を入れ、アカギと名乗った男は自分の分のラムネをぐびっと大きく飲み込んだ。
それからyouが息を整える間も、特に何も語るでもなくただベンチで2人で座ったまま…。
ようやく呼吸が落ち着いて動けそうになったため、とりあえずこの場から去ろうかとyouはアカギに声を掛けた。
「あの…ラムネ…ありがとうございました。お陰で動けそうです。」
「ハハッ、何かラムネが動力源みたいな言い方だな。」
「う…確かに…。まぁ、とりあえず少し回復しました…という意味合いです。」
「うん、良かった。」
「・・・。」
「・・・。」
そして沈黙…。
てっきり「じゃあね」と見送られたり、自分も「ではこれで失礼します」と言ってお互い去る場面だと思ったのだが、何故かそうはならず…。
解散のタイミングを失ってしまったyouは、その沈黙の後に仕方なく話題を振ってみることにした。
「あの……アカギ、さん…?」
「ん?」
「えーっと……(どうしよう)あの…差し支えなければ先程の事の経緯など…お尋ねしてみたり……しても?」
「ああ、あれ?あれは……お願い事を断ったらああなった。」
「お、お願い事…?」
「そ。組の代打ち。気分じゃなかったから断ったら「ふざけるな」とか何か怒鳴られてさ。ただ断っただけなのに、理不尽だよな、ハハ。」
「くみのだいうち…ですか?とは?」
「ああ、そうだね、普通はそうか。」
「??」
「怖い人達からの博打の依頼ってトコかな。」
「怖い人達って……組って……あのお兄さん達って……あの格好って…組って…ヤク……!!」
口にしてハッと目を見開いて、自分の手で自分の口を覆ったyou。
そのまま横を見ると、隣のアカギも自分の方を見ており、視線が合ってニヤリと笑われる。
「フフ…。」
「あ…貴方…アカギさん、も…そうなんですか?」
「オレ?オレは違うよ。ただの風来坊でその辺にいるただのチンピラと同じさ。」
「た、ただのチンピラ…には見えませんが……まぁ、確かにちょっとアウトローな雰囲気…。」
「無法者か……なかなか言うね、アンタ。」
「わ、わぁ……すみません……何だろう、髪色のせいかな…。」
「フフ、正直だねアンタ…。」
「うう、重ね重ねすみません……気に障りました…?」
「いや、全然。」
本当に気にしていなさそうなアカギの雰囲気に、ホッと安堵の息を吐くyou。
「アカギさんはその……よくそういう方と関わられたりされるんですか?」
「どうだろうね、自分から関わりにいくことは無いけど…向こうから来ることはたまにあるかも。」
「よくされるんですか、そういう……博奕…。」
「されますね。」
「そうなんだ……やっぱりアウトロー…。」
「ハハ、そうだね。」
「でも楽しそうですね。」
「何、興味あるの?」
「いや、そうじゃなくて…アカギさんが、楽しそうだなって。だから博奕好きなのかなーと思って。」
「あー……うん、好きかも。好きだね。」
「博奕にのめり込むのは良くないっていいますけど……楽しくて好きなものがあるのは…良いことですね。」
「フフ…忠告と肯定、ありがと。」
「アカギさんって何か不思議な人ですね。」
「そう?アンタもなかなかかも。」
「近付き難い感じなのに、お話してると普通っていうか……寧ろ普通以上に、それこそアウトローなお話…色々と…楽しいです。」
「そうなの?それは初めて言われたかな。」
「正直本当はもっとお話ししたいけど……あまり根掘り葉掘り聞いても失礼でしょうし、この辺にしとかないとかな…。」
「オレは別に気にしないけど……まぁ、巻き込んだアンタをずっと拘束するのも気が引けるしな。」
お互いにもう少し話をしたいけど、初対面でハプニングが原因で邂逅を果たしたということもあり、
そんな友達でもない完全なる他人同士がこれ以上話を続けるのもおかしいよな…と、暗黙の了解でお互いに解散をしようと提案する。
そうしてベンチから立ち上がった2人は、改めて別れの挨拶をすべく向かい合う…。
「じゃあ、そろそろ解散ですね。」
「そうだね、色々悪かったな。」
「いえ全然……アカギさんの話、特殊で楽しかったです。」
「そう?」
「はい、また機会があればお話し聞かせてください。」
「また会えたらね。」
「ですね。」
恐らくもうそれはないだろう…と、少しだけそれを寂しく思うyou…。
「では、わたしはこの辺で。これから夕飯の買い物に行って帰ります!」
「へぇ、何作るの?」
「んー……本当は野菜炒めとかでいいかなって思ってたんですが、長い距離走ったのでスタミナ付くように豚カツにしようかなって。」
「お、美味そうだね、豚カツ。」
「ふふ、何ならアカギさんも一緒に食べますか?」
「社交辞令じゃなくて、本当にいいならご馳走になるけど?」
「え…っと……え…?」
「まぁ、そうなるわな。」
「ええと…。」
「困らせるようだったらいい、忘れて。それじゃあね、you。無理矢理走らせて悪かった。」
youの反応を見て、「当然の反応だから気にするな」とばかりにクスっと笑い、
後腐れ無い様子でくるりと方向転換…そのまま彼女に背を向けて歩き出し、ヒラヒラと手だけで別れの挨拶を行うアカギ…。
普通であれば、一人暮らしの自宅に仲良くなったとはいえ、初対面の男性を家に上げるなどありえない話…。
なのだが、この赤木しげるという男と話をして感じた印象を思えば、
まるで風に吹かれる木の葉のようで、兎に角掴みどころがないというもの…。
悪い事もするが、それは悪意あってのものではなく、全ては相手の出方次第…。
故に、自分が家に招いたところで悪事を自ら働くことは無い…そう人知れずyouに確信させるのだ。
それが確信になっているため、今去り行く男の背を見つめていると、
何かとっても悪いことをしているような、失礼なことをしているような気分になる…。
それが本人が意図せずに相手に伝わってしまうのがこの「赤木しげる」という男の魅力なのだろうか…。
そうして、気付けば彼女は名を呼び、引き留めてしまっていた…。
「あ、アカギさん…!」
「?」
呼び止められて振り向けば、パタパタと短い距離をyouが駆け寄ってきた。
「急で申し訳ないんですけど!!今思いついた事があって!!さっきのお兄さん達じゃないですけど……わたしもアカギさんにお願いしたいことがあるんですけど…!」
「……なに?代打ち?」
「代打ちじゃないかな……えっと、同行?」
「同行…?」
「と、荷物持ち…。」
その依頼が示唆するものは、今しがたの話の延長であるとすぐに察して、目を点にするアカギ。
「スーパーへの買い物同行と…家までの荷物持ち…です。」
「…いいよ。報酬は?」
「今日の夕飯にとんかつ……ではどうでしょうか…。」
「ククク…それはいいね。」
もう少し、夕飯を食べながら、住む世界の違うお互いの話を交換し合うのも悪くないね、と…。
赤の他人が依頼者と依頼主という立場になり、友人になるまでが約束されたところで、
2人は近所のスーパーへの道を歩き出すのだった…。
その依頼なら、喜んで。
(アンタの家って……ここ?)
(そうです……すみません、狭いし散らかってますが…。)
(じゃぁまた飯食いにきてもいい?)
(え?)
(オレ、向かいのアパート。)
(えぇええ?!ご近所さんだったんですか?!!)
words from:yu-a
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