誘惑しないでアカギさん!
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言われてみれば確かに、こんなことはあり得ないんだと自覚するに至るのだが
頭でも心でも納得や理解ができないのは、ここがきっと夢の中だと確信しているからだ
誘惑しないでアカギさん!
temptation:01
その日、苗字 youは大変疲れていた。
仕事は繁忙期に突入し、同時にベテラン社員の退社や新入社員の教育、
同僚と協力して開催する歓送迎会の打ち合わせ等々…。
さりとて、全て投げ出して思いのままに怠けることなどできるはずもなく…。
まぁ、兎に角、疲労するのはいつものことだが、特にこの連日は仕事量が多かったのだ。
昨今の働き方改革などで大幅な残業こそ無いものの、
就業時間内に様々な案件を終わらせる方がかえって厳しいこともあるわけで…。
そういったあらゆる方面からのストレスや疲労が蓄積…。
明日から2連休ということもあり、これはもう…すぐにでもベッドに倒れたい、と。
帰宅直後…玄関を開けて食事もお風呂も何もかも今日は後回しにして自室のベッドに潜り込んだ。
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すやすやと気持ちよく眠っていたはずなのに、まだ何も考えずにただただ眠っていたいのに…と、
彼女の眉間に皺が寄り、誰かに揺さぶられて「うぅん」呻いて起き上がったのは、寝入って数分後のこと。
否、夢の中である此処では、実際に数分後かどうかさえ分からない。
ただ、兎に角「まだ目を閉じていたい」と思っていたところを、確かに、誰かに起こされたのである。
渋々霞む目を擦りながら、その場で身体を起こすyou…。
「ただいま。」
「は?」
起き上がった場所は、先程自分が倒れ込むようにして寝入ってしまうに至った自室のベッド。
それは特に何も異質に感じることなどはなかったが、しっかりパジャマを着こんでいる自分の姿には少しの違和感を抱いた。
自分はこんな格好できちんと寝入っただろうか…?と。
ただ、それを深く考えるよりも大いなる違和感が目の前で展開されているため、
否応なしに彼女はそちらにツッコミを入れることとなった…。
「あの…貴方はどちら様でしょうか?!」
そう、起き上がったベッドサイドに、見守るようにしてしゃがみ込み、自分と視線を合わせてくる美青年がいるのだ。
きちっとしたスーツを着こなし、切れ長の目。
ブリーチを掛けたように濁りの無い白髪をきっちりスタイリング剤で固めてオールバックにしており、
全体的に見て大変清潔感のある青年だ。
ただ、きちっとしたスーツを身に纏ってはいるのもの、
胸元が開けたようなショッキングピンクのシャツに、グレーホワイトのストライプのスーツという
失礼ながら悪目立ちするような装いではあるな…とそこだけ気になってしまうyou…。
そんな目の前の美青年は唐突にyouに微笑みかけると、その髪を優しく撫でた。
「なっ、何するんですか…!」
「疲れてるみたいだな……でもちょっと怒ったお前も可愛いよ。」
「はぁぁ!?」
美青年の綺麗な笑顔と真反対に、小汚い怒号のような声で反応するyou…。
というのも、自室で寛いでいる最中に突如現れた見知らぬ男に「貴方は誰?」という質問を投げ掛けたにも関わらず、
当の本人はそれに答えることなく、急に馴れ馴れしくも笑顔で自分の髪を触ってくるのだ……。
いくらイケメンでも不気味な事この上ない…。
そうyouは判断し、キッと目の前の美青年を睨んだのだが…。
「お前は何も考えなくていい。オレが何者なのかも、気にしなくていい。だって、疲れてるだろ?」
「は?まじで…何言ってんですか…。」
「小難しく頭を働かせることなんて、今日だけ放棄しちまえ……だって此処は夢なんだから。」
「あ…(そっか……そうだよね…夢か……)」
「今日も一日、よく頑張った……偉かったな、お疲れ。」
「…うん、頑張った……何だこれ、いい夢か。」
「ハハ…。」
そうだ、彼の言う通り、これは間違いなく夢で、受け入れてしまえば確かに優しい美青年に仕事の頑張りを労ってもらえる役得な夢…。
ならば別に目の前の男に対していつまでもギスギスした態度を取るのも申し訳ないわけで…。
youは少しバツの悪そうな顔で小さく「怒ってごめんなさい」と呟いた。
「いいや、全然気にしてない。そんなことより、お前が元気になればオレは嬉しいよ。」
「うーん……そういうことならやっぱり今は寝かせてほしいかな…夢の中でも寝たいなんてどんだけ…って思うけど…。」
「いいと思うぜ…でもその代わり…オレも一緒に添い寝させてもらおうかな…。」
「は?え、ちょ、ちょっと!」
ベッドサイドで自分と視線を合わせて会話をしていた美青年が、突然立ち上がったかと思えば、
着ていたストライプのスーツを脱いで床に置くと、シャツのボタンを数個外して更に胸元を開けさせながら一緒の布団に侵入してきた。
「添い寝は許可してない、んですけど!?」
「じゃあ許可してくれ……これは夢、疲れてるお前をオレは癒してやりたいんだよ…。」
「癒し…。」
「そう……だから、何も考えず、兎に角オレに身を委ねてくれ……大丈夫。」
「身を委ね…って……っん?!!」
優しい言葉を掛けられ、それに耳を傾けている途中で急に降ってきた美青年からのキス…。
驚いたのも束の間、無理矢理唇をこじ開けられて入ってきた男の舌を拒否すべく、突き飛ばそうとした腕が動かない…。
それどころの話ではなく、腕や脚、身体の抵抗する気力が全く湧かないのだ…。
ただ、受け入れたキスがとんでもなく気持ち良くて、
先程の美青年が言った通り、本当に全く何も考えることなく、ただ身を委ねて癒されたい…と、
彼女が思わず目を閉じてしまいそうになった刹那…。
「へェ……成程、夢の中ってこうやって入るんだな……勉強になった。」
「「?!!」」
それは低く穏やかな声で、感嘆しているのにあまりその温度に起伏や抑揚を感じさせないものだった。
先程までは確実に何者の気配も無かったはずのyouの部屋の隅に、男が一人立っている…。
「お前…ッ?!AKGSGR…?!!」
「どうも、えーっと……HRYMYKO、だっけアンタ?」
男の突然の登場に驚いたのはyouだけではなく、共にいた美青年も同じだった。
ただ、すぐさまベッドを飛び出して男と会話をし始めた美青年とは違い、
youの方は驚きはしたものの、未だその場に蕩けて動けないでいるし、
彼等2人が話し出した会話内容もあまり意識を傾けられない…。
「なっ、ど……どうしてお前が此処にいる?!!」
「ちょっとした事情があってさ。」
「は、事情……そ、そんなことはどうでもいい!出ていけ!これはオレの獲物だッ!!!」
「クク……ハイハイ……と言いたいところだけど、アンタと違ってちょっと今、腹に余裕が無いんだよね、オレ。よかったらそれ、譲ってくれない?」
「そんな事知るか!」
「あー……じゃぁ、実力行使しかない?」
「奪えるもんなら奪ってみろ!!」
「フフ……じゃあそうしよう。大丈夫……オレはもっとうまくやるよ。」
それはあまりにも一瞬の出来事だった…。
突如現れた男はニヤリと口角を上げると、物凄いスピードの拳を美青年の腹に一発、食らわせたのである…。
所謂、腹パン…。
美青年は「うっ!」と呻き声を上げると、その場に蹲ると「何なんだお前……覚えてろよ」という
捨て台詞を吐いた後、その身体は空気のように透明になって空間に溶けて消えてしまった…。
さて、美青年が消えてしまい、同じ空間に残ったのは乱入者の男とyou…。
今しがた美青年が消えた頃、ようやく身体が動かせるようになり、朦朧としていた意識が戻ってきたため、
ベッドに寝ていた身体を何とか頑張って起こしたのだが…。
「うっ…。」
「…大丈夫か?」
「…さっきの美青年さんは…?というか貴方も一体どちら様…です?」
ハッキリしない意識と視界を落ち着かせるべく、頭に手を添えながら、
youはベッドに近付いてきた乱入者を見据える。
先程までの美青年と同じ白髪で、体型や顔つきも似ているが、
前髪をアップにはしてないというところや、何よりも存在感というか…纏うオーラが先程の青年とは全く違っていた。
「さっきのアイツ、あれは悪魔だよ。」
「え、悪魔…ですか……また急にファンタジックな単語…。」
「夢の中で人間を堕落させ、その実夢の外…とどのつまり現実でアンタの身体を貪ろうっていう悪魔。」
「身に覚えがあり過ぎる、怖い!」
「良かったね、オレが来て…。」
「あの、助けてくださってありがとうございました…。」
先程の美青年の正体が「悪魔」であると、信じたわけではなかったが、どちらにしても夢の中…。
確かめようも無いため、一般的な対応として社交辞令で礼を述べるという判断を取った。
「何言ってるんだ…オレが助けないで誰がアンタを助けるっていうんだ…。」
「え…いやいや、貴方も誰ですかって話じゃないですかぁ……それとも、どこかでお会いしたことがありましたっけ…すみません…。」
「冗談だろ……オレのことを…恋人のことを忘れたのか?」
「え…。」
「そうか…アイツの所為か…。」
また急にとんでもない展開になってきたぞ…と、youは苦笑しながら話半分で青年の発言を流そうとしたのだが、
目の前の彼は「先程の美青年の影響で自分のことを忘れている」と言う…。
しかも、心なしか最初に言葉を交わした時から、徐々に徐々に口調と彼の持つ雰囲気が柔らかくなっていっている気もする…。
「きっと、ヤツの能力でオレの記憶を消されちまったんだな……ごめん…オレがもっと早く助けていれば…。」
「そ、そんな…またまたぁ…。」
「思い出して、きっと思い出せる……オレたちは愛し合っていた…。」
「愛し合って…。」
「口に出して言ってみて……「私は貴方の恋人です」って。」
「わ……わたしは、貴方の……恋人です…?」
ドクン…
言葉を口に出した瞬間、心臓が大きく跳ねたような気がしてyouは思わず胸の前でぎゅっと拳を握った。
「あ…!」
「どう、思い出した?」
確かに目の前の白髪の男性は、名前が分からずとも自分の恋人だったのだと気付き、
コクっと小さく頷いてみたものの、まだちょっと訝しんでしまう。
「オレのこと、すごく好きだったでしょ?覚えてない?」
「す…すみません……。」
「分かってる…全部アイツの所為だから謝らなくていい……思い出せるように言葉にしてみて「私は貴方の事が凄く好き」ってさ。」
「えと……。」
「言ってみて?」
「うぅ……わたしは…貴方のことが…凄く、好き…です…。」
「フフ…ありがとう。」
ドクン…
また心臓が大きく波打ち、今度は感情が溢れてくる。
言葉にすることで、記憶が蘇ってくる…と言うより寧ろそれが本当のことになったような…。
そんな思考の逡巡の最中、目の前の男と視線が絡み、ハッと顔を赤くするyou…。
「っ…!」
「どうしたの、大丈夫?」
「は…はい……あの、思い出してきました……わたし、貴方のことが凄く好きだった。」
「そうだよ、思い出してくれて嬉しい。」
「わたし……どうして忘れてたんだろう……こんなに貴方のこと…好きなのに。」
「アイツがお前の心を操った……オレの顔や、声、身体……全部を忘れるように…。」
「全部を…。」
「そう…。」
「だからわたし、思い出せないのね…貴方の名前も…。」
「ああ、そうか…名前も忘れてるのか……。」
「本当にごめんなさい…。」
「フフ、いいよ……じゃぁさ、変な感じだけど、お互い出会った時みたいに自己紹介しようよ?」
「自己紹介…。」
「1回しか言わないからよく聞いてよね……オレの名前はAKGSGRだよ。」
「え?え?アか…しげル…???」
「はい、アンタの番。」
「あ、え……えっと……わたしの名前は…苗字youです。」
「・・・ククク……。」
「??」
「ううん、何でもない。ありがとう大事な『名前』を教えてくれて。」
「は…はい?」
目の前の男が至極嬉しそうな顔をしているのに、大いなる違和感を覚えるyou…。
しかし、彼は自分の恋人で、自分はそんな彼を凄く想っていたのだとしきりに心が言うので、
何かを訴える言葉をぐっと飲み込んだ…。
そんな彼女の様子を見て、青年は嬉しそうな笑みを浮かべながら、
ベッドの上に上がり、youの身体を抱き寄せる。
「苗字you、アンタはオレの恋人で、オレのことを愛している、そうだよな?」
「・・・はい…わたしは貴方の恋人で…貴方を愛しています。」
「いい子だね、you…。」
そうして、男は最後の仕上げに取り掛かる…。
「you…。」
「は、い…?」
「オレの身体を覚えてる?」
「…はっ?!なっ…な…?!」
「あらら……初心な反応なことで……忘れちまったなら、思い出してもらわなきゃな…。」
「お、思い出すって…!」
「操られて消された記憶を思い出してよ…オレのこと好きでしょ?」
「そ…それは…すき…ですけど…。」
「オレもyouを抱きたい……苗字you…「貴方に抱かれたい」って、言えるよね…。」
「あ…あな……貴方に、抱かれたい……です…。」
「・・・よくできました。」
ドクン、ドクン…
心臓が早鐘のように鳴り、呼吸が荒くなったのは、矢張り言葉を口に出したからであった…。
今までの感情や記憶を呼び起こすというものではなく、
今回は身体に於ける変化…否、最早これは異常というべきか…。
飲んだことも無いが、甘ったるい媚薬を何本も摂取したように身体が熱く、火照ってきて、
どうしようもなく目の前の男に蹂躙されたいという欲望が下腹部をぎゅうっと収縮させる…。
「は…っ…ッツ?!」
「やっぱ真名把握できたら楽勝だったな。」
「真名…は、あく!?」
「そ。言霊、言霊、真名把握のトリプル役満、我ながらスマートに決まったな……ということで、もうアンタは逃げられないよ。」
「なに…っ、これ……ぁあ…っ、苦し…っ…!」
「大丈夫だいじょーぶ、ちゃんと今からオレが解放してやるから……。」
「ゃっ……はぁ…。」
「you……アンタはただ、オレの与える快楽に溺れるだけでいいんだよ。」
「ぅ、あ……っ!」
それから先はもう記憶も朧気に…。
目の前の男の名前も分からないまま、
それでもその男が好きで、愛し合いたくて溶け合いたくて、
男の希求に全て応えて目を覚ました…。
大丈夫、きっと夢。
words from:yu-a
*。゜.*。゜.*。゜.*