白のお狐しげるさん!
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「なんだ・・・アンタ死んじゃうんだ……こんなところで……。」
言葉の温度の感じられない
誰かの声が聞こえた
白のお狐しげるさん!
其の壱
その日、ダイエット目的で食後に近所をウォーキングしていたyou。
散策のし過ぎですっかり遅くなってしまった帰り道、神社に入って行く怪しい男を見かけて後を付けたところ、
恐らくは非合法な何かを売買する現場を目撃してしまった。
隠れてやり過ごそうとしたが、それは叶わず…。
恐らくは非合法なその「ナニカ」を過剰に摂取し、会話の通じない状況の男にナイフで刺されてしまう…。
そうして彼女は今現在、神社の境内に仰向けに倒れ、腹部に激痛を感じながら、美しい月を眺めて死に掛けているのだが…。
「アンタさ…馬鹿なことしたね。」
「(だれ…?)」
「折角神社に参拝したのに神頼みする願い事が『自分の周りの奴らの幸せ』だって、そんな……馬鹿じゃないの。」
― わたしを取り巻く周囲のみんなが、笑顔でいて、幸せでありますように ―
確かに、散歩の行きがけに神社を訪れた際に合掌して願ったことはそういうものだった…。
youはそう思い返す。
「どうして自分を含めなかったの……そしたら、ちょっとは違ってたかもしれないのにさ。知らないけど。今更だけど。」
「(ああ、言われてみれば確かに…。)」
「もしかして、自分を含めるの、忘れちゃった?」
耳障りは良いが、明らかに自分を呆れたように見下した声色でそう問われる。
しかし、少しも悔しくなかったのは、恐らくその通りだと自虐しているから。
(自分を含めるのを忘れてしまっただけで、この代償は大き過ぎないか?とは思うが…)
まるで「忘れちゃいました」と笑うように、なけなしの気力でyouの口角だけが上がった。
「本当に馬鹿なの………そんな迂闊さじゃ死んじまっても無理ねェか……。」
「(迂闊……そうかも…。)」
確かに、声の主に言われる通り迂闊であったとしか言いようがない。
それは願い事に関するものだけではなく、夜中に遅くまで一人で出歩いたことだったり、
見るからに怪しいヤツだと頭で分かっているのに、それをこうして追いかけてしまったことも含めて、だ。
そう考えると、明らかフラグは立っていた…。
なので、大変理不尽で、大変悔しいのだが「死んじまっても無理ねェか」と言われてぐうの音も出ない。
「でもさ……オレはそういう願い事するアンタのこと、結構いいと思ったけどね。」
「・・・。」
「アンタがいいヤツだってのは、見てて分かったから。」
ザリ…と、靴ではなく、草履のような履物と土が擦れる音がして、youの視界の満月を誰かが遮る。
月の光を背に受けて、立ったまま自分を見下ろすのは白金色の何か…。
彼の背景は月光で明るいが、それを背にしているため顔や姿が見えないのだ。
ただ、兎に角美しい白金色の髪だけが、彼女の瞳を奪った。
「こんな寂れた、あんな参拝目的でもないような…汚い奴らしか来ない神社にさ……新鮮だったよ、久しぶりに。綺麗な祈りだった。」
「・・・。」
「だから……これはオレの気紛れ。トクベツに、アンタの事はオレが祈ってやるよ。」
そう言うと、声の主は今まで立ったままだった身体を屈めてyouの身体を抱き起す。
それは、至近距離で声の主を確認できる機会ではあったが、最早虫の息の彼女には目を開く事すらままならず…。
「トクベツにね。」
目に見えない代わりに、抱きかかえる腕の強さと、
まるで最期の魂を零すように浅い呼吸を繰り返す唇に、何かがしっかりと触れた感触。
そしてほぼ飛びかける意識の中、今尚血が溢れて止まらない刺された傷に触れる手の感触を感じ取った。
瞬間、腹部を発生源に全身に波打つように衝撃の波紋が広がった。
振動は確かにあったのに、傷は痛むどころか寧ろ痛みが引いていく。
傷口にじわじわと広がるのは陽だまりにいる時に感じるような心地良い温かさ。
ああ、悲しいけれど、ついに自分は死んだのか、やっとあの焼けるような激痛から解放されたのか…と。
今なら目も開けるのではないかと思い、先程まで重い石のように動かなかった瞼を開いてみる…。
うっすらと開いた目に、一番に飛び込んできたのは自分をじっと見つめる双眼。
「はぁ……ようやくお目覚めか……アンタがひ弱過ぎるから、思いがけず結構大変なことになったんだけど……マジで。」
「え…と…。」
「とりあえず起きて。」
「!!」
言われて気付いたが、視界のアングルと頭に感じる感触からして、
自分はこの声の主が胡坐を掻いて地面に座る上に、頭を置いているのだと悟るyou。
慌てて飛び起き、状況や周囲の様子、自分の状態を確認する。
「傷と痛みは。」
「ハッ!そうだ…わたし……!」
お腹を刺されて死んだ(?)のだった…と、起き上がった自分の腹部を見る…。
まだ生温かい温度の鮮血がべったりと服に付着して、尚も出血し続けているようにも思えたが、
自分の手でぺたぺたと触ってみたものの腹部に全く痛みはなく、探ってみても傷口ひとつも見つからない…。
「傷が……ない?」
「刺された事実は消えてないから、痕くらいは残ってるかもだけどな。」
「あ…。」
「身体は治したから、ほぼ大丈夫だと思うんだけど…?」
「あの……。」
「ん?」
「失礼ですが……貴方は…?」
それは、至極当然の質問だった。
というのも、先程からyouに声を掛けたり、自分の感想を独白したりしていた誰かを、
彼女はようやく、しっかりと自分の目で確認して、会話をしているからであった。
それは、意思の強そうな切れ長の目に、すらりと高い鼻…あらゆる要素で大層整った顔立ちの男…。
ふわふわと手触りの良さそうなファーを肩に掛け、質の良さそうな着物…というよりは袴を着用している。
そして何より目を惹いたのは月明りに照らされる白金の髪と…獣の耳、そしてフサフサとした大きな尻尾。
「(イケメンのケモ耳とかなんて……ああ、やっぱりいよいよわたし、死んじゃったんだな……。)」
「そんなことより、命助けてやったんだから、もっと喜んだら?」
「そうですね……死んだのは辛いですが、もう痛くないのは幸い……もっと喜ばないとですね…。」
「え?」
「え?」
「死んでない。」
「命助けた?」
「助けたよ。」
「誰が助け…?!え、助かった?わたしが?!」
「そうだってば。生きてんでしょ、心臓動いてるはずだよ。」
目の前の男……基、ケモ耳イケメンに言われて、youは慌てて心臓に手を当てる。
ドクン、ドクンと鼓動を手に感じて、彼女は自分が死んでいないということをようやく理解する…。
理解はするのだが、理由が、そうなった原因が全く持って分からない。
「生きて…る、心臓動いてる・・・脈も、ある……わたし、生きてる…?」
「良かったね。オレのお陰だけど。」
「貴方の…?」
「そ。オレがトクベツにアンタを生かした。」
「どどどどどうやって?!ていうか生きてるなら、現実なら、天国とか地獄じゃないなら、本当に、どうやって……そして貴方は一体だ、れ…。」
「あー…………見て分からない?」
「すみません、見ても分かりません…。」
寧ろ見たままの姿で言えば、何かのキャラクターのコスプレですか?としか尋ねようがないのだ…。
そんな彼女の様子を何となく察したようで、目の前の男は面倒臭そうにハァっと溜息を吐いて、徐に懐から煙管を取り出し、ふかし始めた。
「オレは白狐……割と見たまんまだと思うけど……。」
「いやぁ…。」
「ハァ……アンタ達の世界で言うところの、この神社の神サマの眷属で霊獣、枠繰り的にはその中の白狐。凄く分かりやすい説明だとこれ。」
「れい、じゅう……霊、獣…?」
「死に掛けてたアンタにオレの力を送り込んで助けてやったんだが…。」
「す、すごい……そんなことが…。」
「そう、凄い事してアンタを助けてやったんだが、ちょっと困ったことになっている。」
「え…?」
フーーっと煙管の煙を長く吐き出し、一呼吸置いた後……彼は困っていると言いながらも、
あまり(というか全然)困っていない様子で続きを話し始めた。
「オレの力、ごっそりあんたに持ってかれちまった。」
「え…と…。」
「ざっくり割合で言うと5分の3くらい。」
「大分ごっそり!!!」
そしてたとえの割合数が微妙に伝わり辛い!と、ツッコミも入れるyou。
「まぁ、とりあえずそんな感じ。」
「は…はぁ…?」
「あー……しんど………ああ、そうだ、アンタ…名前は?」
「・・・youです。」
「youね、分かった。あのさ、you……色々混乱してるだろうから、説明してやりたいところなんだが……見て分かると思うがオレは今、とても疲れている。すぐにでも休みたい。」
「そ、そうなんですね……(いや見ても分からん)。」
「だから悪いんだけど、明日、日が昇っているうちにまた神社に来てくれる?そん時説明する。」
「え、と…わかり、ました…。」
「必ず来いよ……って言わなくてもアンタは来るか……交わした約束反故にするような奴じゃないもんな……。」
そう言うと、自称霊獣白狐の男はフーっと煙管の煙を盛大に吐き出した後、ゆっくりとその場に立ち上がる。
未だ若干呆気に取られたままのyouの頭をポンポンと撫でた後
彼は「気を付けて帰ってね」と告げると、フッとその場から姿を消した。
「き、消えちゃった…。」
一瞬、今までずっと話をしていたのが嘘だったのではないかと思う程、其処には静寂しか残されていなかった。
ひとまず、改めてyouは刺されたはずの腹部をさすさすと今一度触って、改めて自分が無事であることを確認した。
「本当に……痛くない…本当に……本当に生きてる…。」
今すぐにでも安堵して泣き出しそうな気持をぐっと堪え、彼女はその場に立ち上がる。
グズグズしていると、もしかしたら先程の男が…いや、より最悪なパターンを考えると、
先程自分を刺した男が、もう一人の売人の方を連れて戻ってくるかもしれない。
そうなると今度こそ証拠隠滅のために殺され、最悪その辺りに埋められる可能性だってあるわけで…。
行き過ぎた想像かもしれないが、用心するに越したことはない…と、
youはその場から拝殿に向かって一礼した後、狐象に向かって言葉を紡ぐ。
「必ず明日、また来ます。おやすみなさい……それから、助けてくださってありがとうございます、白狐さま。」
そうして何度目かの美しい一礼を行い、逃げるようにして境内を出て、家路についた…。
兎に角生きている
それだけは事実のよう
words from:yu-a
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