白のお狐しげるさん!
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白のお狐しげるさん!
其の零
最近お腹周りが気になりだし、会社の健康診断も近いため、数日前からウォーキングを始めたyou。
夕飯後、少し時間をおいてから近所を散策がてらウォーキングを開始し、
普段は通らない道を選び、最終的に大通りに出るルートで歩いていたところ、ふと雑木林が目に入った。
膝程の丈の雑草が生い茂る中に、それらが少ない砂利の小道を見つけたため、足を進めてみることにする。
少し歩いたところで朱色の鳥居がいくつも見えてきたので、そこが神社であったのだと理解した。
「・・・こんなところに神社があったんだ…。」
「全然知らなかった…」と、更に小さく呟き、youは折角なのでお参りをしていくことにする…。
鳥居がいくつも…とはいうものの、規模はそこまで大きな神社ではないようで、数は指で数えられる程。
一礼したのちに鳥居を全て抜けると、まるで彼女が来るのを待っていたかのように参拝者の方へ向いて静かに佇む狐像。
彼女はその神像にもぺこりと一礼してから、先へと進んだ。
周囲を見渡してみても、やはりそこまで規模は大きくないようで、
正面にあるこじんまりとした拝殿と、恐らくはその裏に隠されるようにして本殿があるのだろう。
周囲は参道からずっと、ちょうどこの神社一帯を守るように雑木林で囲まれており、
youは境内に足を踏み入れてやっと「これじゃ見つけられないハズだ」と思うに至った。
ただ、そのお陰もあってか、車の走る音や人々の話声など、周囲からの喧騒もほとんど届かず、
この稲荷神社の神聖さを一層際立たせているような気がする。
参拝を終え、元来た道を戻る際、youは「素敵な神社だな…」と、
今回だけでなく再びお参りに来ることを人知れず心に決め、連なる鳥居の近くに佇む狐象に向かって合掌する。
「素敵な神社ですね。近くに住んでいるのに全然気が付かなくてすみませんでした…これからはちょくちょく通わせていただきます。」
綺麗な一礼をし、鳥居を抜けて神社を後にするyou。
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「近所の散策面白くてすっかり遅くなってしまった……早く帰らねば…。」
散歩に出た際にはまだまだ車や人の通りで賑わっていたのだが、
徒歩で近所をウロ付くことがあまりなく、小道や素敵な住宅街などを散策しているうちにすっかり時間を忘れてしまっていたyou。
その事実に気付いた時には、街の賑わいは各々の家の中に消えていってしまっており、
ポツポツと定間隔の街灯に照らされるのは自分だけとなっていた。
流石にここまで人気のない状態での夜道の一人歩きには恐怖を覚え、
歩き疲れてはいたものの、出来る限り早歩きで…いや、寧ろ若干小走りで家へと向かう。
ふと、本日散歩の行きがけに訪れた神社への道を通り掛かったところ、
雑木林の中に誰かが分け入って入っていく姿が見えた…。
「(近所の方…?)」
どちらにせよ、もう時間も時間なのでそのまま無視して家路につくべき…。
と、そう考えたのにも関わらず、気付けば足は自然と神社の方へと向かっていた。
「(うう、ダメ…でも、何か気になっちゃう…。)」
人間の本質は「六分の恐怖と四分の好奇心」であると芥川龍之介が「羅生門」で語っていたが、正にそれ。
だがしかし、好奇心というよりはただ何となく先程見掛けたのが「神社には相応しくない」者のような気がして、
かと言って追いかけてその相手と、どうこうするわけでもないのだが……ただ何となく嫌な感じがしたのだ。
もし、そうであれば怪しい者が立ち去った後に、微力ながら無心にただ参って帰ろうと思っただけのことだった。
自分など、神の御霊を鎮める程の力は無いのは重々承知の上なのだが……それでも、先程この神社を訪れた際に
とても気持ちの良い神聖な空気を味わわせてもらったのだから…と、youは雑木林の小道へ入って行った。
最初に訪れた時とは異なり、誰かに見つかるのを避けるかのように鳥居に隠れながらコソコソと境内を進む…。
狐象の下に身を隠しながら拝殿の方を見るが、特に誰も…人の姿は見られなかった。
「(おかしいな……確かに誰か入って行ったのに…気のせい?でも、神社へは一本道なのに…。)」
人の姿が何処にも見当たらないからと言って、堂々と参道の真ん中を歩いて捜索するワケにもいかないため、
狐像の次は灯篭、灯篭の次は神木…と、なるべく表立った場所に姿を出さないよう注意しながら拝殿に近付いたのだが、矢張り何処にも人の姿は無い様子…。
「・・・?」
ふと、夜の静寂の中数人の話し声がyouの耳に入ってくる。
矢張り、誰か人がいたのだと確信したのと同時に、それが拝殿の更に奥…否、裏手の方から響いてくるものだと気が付いた。
そうして彼女は、雑木林と拝殿のやや狭い道を足音を立てないように裏手の方へと進む…。
「……おいおい、今ここで使うのかよお前……相当キてんな。」
「あ?いいだろ別に……金は払ったんだから、俺の勝手だろ……っはー・・・あー…やば…落ち着くわー…。」
拝殿の裏にはどうやら男が2人いる様子…。
一人の声は大きいため、はっきりと聞こえているが、もう1人の声は敢えてボリュームを下げているようで、あまり聞き取れない…。
ただ、声は聞き取れずとも、雰囲気は何となく察することができるということと…。
何より、微かに自分の方まで漂ってきた異臭にyouは眉を顰める。
「…落ち着く?ハイになるの間違いだろ。」
「うっせぇな、いちいち突っ掛かってくんな!!!」
「あー、今日ヤバそうやな、ま、兎に角頼むからバレんなよ?じゃないと分かってるよな、もう回さねェからな?」
「はぁぁあ?売らないってどういう事だよ!!」
「ちょ、テメ…声デケェんだよ!黙れ!」
「金なら払はらうっつてんだろ!売れや、あぁ?!」
「もうラリってのかよ、いい加減にしろ…黙れってのが聞こえねェのか!…んの……クソがぁ!!」
視界に入らずとも、聞こえてきた彼らの言葉の遣り取りで何が起こっているかは察するに余りあった。
「ナニカ」を此処で売買したのち、買った相手が売った相手に食って掛かり、胸倉でも掴んだことで相手の琴線に触れたのだろう…。
返り討ちに遭って殴られ、倒れた…という状況の様子…。
「こっちに迷惑掛けるようなら一切取引ナシだっつったよな。」
「ぐっ…!」
「ペナルティだ。次回は値上げする。それがイヤなら自分で粗悪品の入手ルート確保すんだな。」
そう言い放った後、砂利を踏んで歩く音が聞こえてきたため、売人の方がその場を離れようとしていることが分かり、
youは慌てて、拝殿の方へと後退する…。
小さな神社なので、しっかりと身を隠せるところがなかなか見当たらないのが難点で…。
(そもそも隠れることを目的に建立されてもいないので)
できれば男が戻ってくる反対側の拝殿の道へと逃げたかったのだが、そこまでの時間は無い。
youは罰当たりで大変すみません!と、心の中で謝罪しながら、拝殿の正面の階段…つまるところ賽銭箱の真裏にしゃがみ込み、男が通り過ぎるのを待った…。
youが隠れてすぐ売人の方の男が境内を抜けていたのだが、
割とすぐに、慌てた様子でもう1人の男も境内を出て行ったようだった…。
「(もう……大丈夫…?)」
はぁああ……と、盛大に安堵と愁いの溜息を吐き、緊張の解けたyouはその場で脱力する…。
完全に見てはいけない場面を見てしまった…と、youの顔色はどんよりと暗くなる…。
あれは恐らく違法な「ナニカ」の売買の場面だろう、と…。
暫く待った後、こっそり賽銭箱の裏から参道の方を確認し、誰もいないことを確かめて拝殿を出る…。
「神様、致し方なかった状況とはいえ、不作法なことをしてしまいました……どうかどうか、お許しください…。」
拝殿の正面に回り、ここを初めて訪れた時と同様に、手を合わせて参拝。
最後にきちんと一礼し、くるりと後ろを振り返ったところで、ヒュッと喉が鳴り、全身が総毛立った…。
「あ、な……なんで……。」
「あ?あぁ?……誰だテメェ……。」
「っ…!」
「つーか……何で人がいんだよ……なんでだ…裏道なんてねェ神社だよな……行も帰りもオレら以外に見てねェよな…なんでだ……なんでだ、なんでなんでなんで…。」
「ひ…っ?!」
顔は見ていないが声で分かる、目の前の様子のおかしい男性は、先程拝殿の裏手にいたうちの1人で、「ナニカ」を購入した方の男…。
どうして戻ってきたのかは分からないが、自分が戻るより前に境内人がいるのはオカシイということに気付いているようで、
一人で問答し、同じ言葉を何度も何度もブツブツと呟く…。
走って逃げるべきか、何も見ていないと弁解するか、はたまたあなたは誰ですかと素知らぬフリをしてみるか…。
いくつか考えたが、そのどれもベストな答えにはならず、結局男が口を開くまで固まったまま動けずにいたyou。
「お前・・・・・・見たな?」
「っひ……見ていないですっ!!何も!!」
「・・・。」
「(しまった……「何を?」が正解だったかも…!!)」
「何も見ていない」も「何のことだ」も間違いだったのだと…。
youはすぐに知ることになる…。
「ははははは!そっかそっか、見てないか……そうか……。」
「ぅ…。」
「じゃ、何で俺がここに戻る前にここにいるんだよ。」
「!!」
「一本道の途中で誰ともすれ違ってねェのによ。」
「あ・・・。」
「見てたってことだろぉがよ!!」
「っ…!!」
ビリビリと響くような怒号に、思わず委縮するyou…。
思わず後退りしてしまったのだが、それが良くなかったらしい…。
様子のおかしい男性は、その究極を体現するように、身に着けていたシザーバックからナイフを取り出した。
「う……嘘でしょ…?!」
「横取りか…?横取りだろう…?だから隠れてたな?」
「何…ちが…。」
「アレは俺のだ…俺が買った……俺の、俺の、俺のだ、奪う奴はぶっ殺す。」
「ぁ…だ…誰か…。」
最早話は通じないだろうと察したのは、視線だった。
目が合っているはずなのに、目の前の男は一切自分を見ていない、見えていないよう。
焦点の合わない眼に恐怖しながらも、流石にこのまま「どうぞ」と刃を正面から受け入れるわけにもいかない。
youは一か八か、全力でその場から逃走することを心に決める。
「(あぁ…神様…!!)」
ゆらりと、ナイフを持って近付いてきた男の横を、youは文字通り命懸けで駆け抜ける…。
神木を通り過ぎ、灯篭を通り過ぎ、そして狐像…。
元来た道をそのまま、後は幾本かの鳥居を…というところで、急に後頭部に痛みが走った。
「いっ…?!!!」
痛い、と声に出すこともできぬまま、youの足はそれ以上前に進むことはなく、その場に身体ごと倒れ込んだ。
一体何が起きたのかと、倒れた身体を起こそうとした刹那、再び頭部に痛みが走る…。
あまりの痛さに涙目になったところで、視界に男の足が映り込み、ようやっと痛みの原因と状況を把握する…。
「逃げられると思ったのか?ぁあ?」
「いた……離し…。」
「離してじゃなくて許してだろ、横取りしようとして申し訳ございませんってよぉお!!クソが!」
「!」
背後から髪を掴まれ、逃走を阻まれたということを理解する。
そして男は再びyouの髪を引っ掴んで身体を無理矢理立たせると、
怒号と共に、彼女の腹部目掛けて深々とナイフを突き刺した。
「お前が!」
「あああああッツ!!!」
「横取りすんのが!!!」
「ぃああああっ!!」
「悪いんだろぉおが!!」
「あ…ぁあああっ!!」
刃渡りはそう長くは無かったのかもしれないが、加減無く三度も深く刺されればそれは死にも至る激痛と出血となる…。
自分の絶叫を自分で聞いて「ああ、断末魔の悲鳴ってこういう声だったんだ」などと…。
自虐しながらも、理不尽に受ける焼けるような痛みに悲痛な表情を浮かべるyou。
その反対に、まるで憑き物が落ちたかのようにハッと自我を取り戻し、恐怖の色を浮かべた男。
血に塗れたナイフを持つ手がカタカタと震えだし、同時にyouの髪を掴んでいた手がゆるりと解かれる…。
当然、youはその場に力無く倒れ、雑木林と満月の天井を視界に映した。
「(あ、綺麗な満月…。)」
口にしようとした言葉は音にならず、小さく口が開くだけだった…。
「あ……あ……俺…俺じゃない……お前が…お前が悪い……お前がここにいなければ…!」
ゆるゆると首を横に振ると、youを刺した男は泣きながらその場を大急ぎで走り去る…。
泣きたいのはこっちの方だ…と、youは思う…。
思うが、もうどうにもならなかった。
逃げた男の背を目で追うことも、大声を上げて人を呼ぶことも、携帯を取り出して助けを呼ぶことも…。
痛くて痛くて、もう何もできず、ただ、自分の命の終焉を感じ取り、静かに目を閉じた…。
「幕引きは、椿の花の如く?」
「(あ、素敵な言葉…。)」
何故かその場にフッと聞こえた低く、凪いだ海を思わせるような声…。
それは先程の男性のものでも、自分の今まで出会った誰のものでもない声だった。
アンタをずっと
見ていたよ
words from:yu-a
*。゜.*。゜.*。゜.*