世界の温度 /トリップ
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ただ 我儘なだけ
貴方に 生きてほしいのも
わたしが 死にたいのも
一緒に 居てほしいのも
世界の温度
05:名前
身体はおろか、指の先まで震えているのは彼女の目の前に抜き身の刀があるから。
構えられた刃の前に立ちはだかり、彼女は三成を殺すのを制止する…。
「お願いします!殺すなんて…恐ろしいこと、やめてください!!」
「な…何だアンタ…ソイツの連れか…?」
「そうです!佐吉さんの友達です!」
「佐吉…ねぇ、そういやそういう名前「だった」なぁ…。」
「…だった…。」
「騙されてるのか知らんが、そいつはただの侍じゃねぇぞ。」
「・・・?」
「その男は「石田三成」…西軍を率いて関ヶ原で徳川に喧嘩売った張本人さ!こんな荒んだ世の中を…この村をこんな有様にした男だ!!」
「…石田…みつなり…。」
「この男は皆に怨まれて当然なんだ!戦に負けたのに、生きてることが罪だ!」
はっきりと別の名前で彼を称した村人たち。
二度目のそれには流石の彼女も「佐吉」と言う名が偽りであったことに気付いた。
しかし、名前を偽っていたからといって彼女と三成との仲に亀裂が入るわけではなく、
彼の素性や真実を聞いても自分が知るのはあくまで「佐吉」である石田三成だと心の中で一人頷く。
「さ…佐吉さんは三成さんかもしれませんが、偉い武将様かもしれませんが…わたしの友達です!」
「何だと?」
「大事な友達です!友達を傷付けないでほしいんです!」
「アンタ…何言ってんだ。」
信じられないというような表情で村人たちが彼女を見る…。
その怪訝な視線を受けながら、彼女は懸命に訴え始めた…。
「佐吉さんは…戦に破れて死にたがっていました…。」
「やめろ!もういい!だからこそここで終わらせれば、それで済むんだ!!」
「佐吉さんは黙っててください!」
「っ…?!」
三成の言葉を遮り、彼女は続ける。
「そんな佐吉さんを助けて、生かしたのはわたしです……生きてほしいと思ったのはわたしです。」
「だ…だから何だってんだ!」
「佐吉さんが生きてることが罪だと言うなら、生かしたわたしを斬ってください。」
「・・・なん…?!」
その声は凛と澄んでいて、一言で村人全てを黙らせた。
三成は何を言い出すのかと、目を見開いて彼女の背中に叫ぶ。
「なっ、何を言っている!貴様は馬鹿か!!」
「佐吉さん、うるさい!」
「それはこちらの言う事だ!何故私を庇う!!無意味な事は今すぐ止めろ!私が死ねば済む事だ!」
「もう終わらせたいのっ!」
「?!」
三成より大きな声で、彼女は叫び返した…。
微かに振り返った顔はくしゃりと歪んでいて、その瞳からは大粒の涙が零れ落ちている。
「・・・なん、っ!?」
「佐吉さんが死ぬなら、わたしも死ぬ。」
「一体…何なんだ、貴様は…。」
「だって、もう…嫌だよ……独りぼっちは疲れたよ…。」
「・・・。」
一人旅をしてきたと言うなら、一人には慣れているはず。
しかし、彼女は何故これほどまでに一人を嘆くのか…。
三成は疑問だらけの頭を抱え込みたい気分だったが、彼より先に村人達が根を上げた。
「い…一体何だはこっちだよ!お前…こ……この女に免じて命は取らんから…さ、さっさとこの村から出て行け!」
刀を構えていた若者がそう言って、鞘と刀を足元に放り投げる。
それを皮切りに村人達は再び「そうだ、そうだ」と声を上げた。
「二度と戻ってくるんじゃねぇぞ!」
「そうだ!次来たら命は無いからな!!」
「アンタなんか何処かで野垂れ死んじまえ!」
次々と捨て台詞を吐いて村人達は2人の周りから去っていく。
静けさが戻った道端で残された鞘と刀を拾い上げ、
彼女はゴシゴシと袖で涙を拭い、三成に振り返る…。
「補給も何もできなくなってしまいましたね!」
赤い目蓋に似つかわしくない程の明るく作った笑顔を見上げ、三成は眉を潜ませた。
「無理に笑うな。」
「ふふ…でも、笑ってないと、やりきれないですもん。」
「・・・。」
「佐吉さん…ううん、三成さんが死ななくてよかった。」
「貴様には・・・二度、命を救われたのだな。」
「そんな大層なこと…。」
「身を挺して庇う事は、大層な事だろう…。」
「さき…・・みっ、三成さん?!」
彼女が驚くのも無理は無いだろう。
三成はその場で座り込んだ後、彼女に向かって深く深く頭を垂れた。
「何してるんですか?!顔を上げてください!」
「何故、地位も名も偽る私などを命懸けで庇うのか、私には分からない。」
「・・・。」
「私を生かす理由を教えてほしい……そして…。」
「・・・。」
「そして、私の為に命を賭けた…お前の恩義に報いよう。」
「え?」
「…これからは…私がお前を守る。」
「…っ…!」
「二度に渡る救命の借りは…それくらいの恩義でなければ返せん。」
「でも…三成さんは…偉い武将様なんでしょう?わたしなんかのために…。」
「要らん心配をするな…私はただの……ただの落ち武者だ。」
「落ち武者、か……ふふ、こんなに綺麗な身なりの落ち武者、見た事ないけどね。」
「笑うな…。」
少しぶすくれた顔で三成は彼女を睨み上げる。
彼女が「ごめんなさい」と軽く謝ると、
逆に三成が謝罪の言葉を述べてきた…。
「そうまでして私を救う、お前の名を尋ねることすらしなかった私を…許して欲しい。」
「三成、さん…。」
「…呼ばせて欲しい。」
「えっと…。」
「私は石田治部少輔三成………お前の名を教えてくれ。」
「わたしは…。」
「・・・。」
「 」
本心なのかは分からない。
ただ、三成は立ち上がって「いい名前だ」と、彼女の頬に伝う涙を拭った。
初めまして
これから始まる
彼とわたしの物語
words from:yu-a
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