世界の温度 /トリップ
name setting
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
貴方は何処から来て
何処へ行く人?
そしてわたしは
何処へ行く人?
世界の温度
03:天邪鬼
結局、三成が彼女の名を問う前に彼の傷は癒えてしまった。
「うん、もう包帯は必要なさそうですね!」
「一週間前くらいから必要無かったと思うのだが?」
「それは気のせいですよ!うん!」
そう自分の意見を押し切る彼女にはもう慣れたもので、三成は溜息混じりにその額を軽く小突くき、
まるで随分昔から一緒にいる幼馴染のような遣り取りが繰り広げられる。
しかし、それも今日でお終い。
傷の癒えた三成はもう自由に行動できる。
そして彼女は今までと同じように一人旅に戻る。
ただ、それだけの話だと…。
三成も彼女も思っていた。
互いにそのことを考えていたのだろう、途中から沈黙が広がっていたことに気付き
三成がわざとらしく咳払いをした。
「あー…なんだ、その…。」
「?」
「・・・世話になった、な。」
「・・・!」
「正直、今も生きたいなどとは思っていないが……見ず知らずの私を助けてくれた事…世話をしてくれたこと…感謝している。」
「佐吉さん…。」
「忝いと。」
「そんな、全然!佐吉さんにとって迷惑なことをしてしまったのに…感謝なんて…。」
「・・・。」
「わたしが……。」
「?」
「わたしが勝手に……貴方の命に縋っただけなんです。」
「・・・は?」
「…少しだけ、独りじゃなくなって、嬉しかっただけなんです。」
「・・・。」
そういうことか、と…三成は彼女の言葉の意図を理解した。
それと同時に、数日前に宿の女将と話した内容を思い出す…。
『彼女は何故一人で旅をしているのか』ということ。
一度尋ねたがその時ははぐらかされてしまった。
今、もう一度尋ねるべきか悩んだが、そうしてしまうと彼女と今後行動を共にしなくてはいけない。
本能的にそう感じて、三成は出かかった問いかけを飲み込んだ。
「佐吉さんはこれからどうするんですか?」
「・・・さぁな…戻る場所は無いが、生きる。」
「そうですか…。」
「ほとぼりが冷めたら墓参りでも、したいと思っている。」
「・・・大事な御方の、ですね?」
「ああ……貴様は何処に向かう?」
「わたしは…ひとまず南に下るつもりです。」
「南…だと?南は関ヶ原の西軍に属する領土だ、まだ混乱している。」
「うーん…でも、会ってみたい人がいるんです。」
「会ってみたい?」
「ええ、四国に。」
「四国…?」
「笑わないでくださいよ?」
「何をだ。」
「四国を治める…長曾我部さんにお会いしたいんです。」
「なっ…?!」
「わたしみたいなただの女に会ってくれないと思うけど…でも、何とかして会いたいんです…。」
「・・・。」
彼女の会いたいという人物は西軍を率いていた三成にとっては
顔と名前がパッと頭に浮かぶほどの重要人物であった。
何故、彼女が彼に会いたいと願うのかは分からないが、
やはりそれを聞くわけにはいかず、三成はただ、押し黙る…。
それから、彼女は返答のない三成の反応を見て、呆れていると思ったらしい。
「どうせ馬鹿なことと思ってるでしょ!」と頬を膨らませた。
「ふーん!絶対会ってやるんだから!」
「・・・。」
「そうと決まったら早速南下しなきゃ!」
そう言って立ち上がると、三成を置いて宿の受付へ向かって歩き出す。
三成も慌ててそれを追いかけ、2人で宿の台帳を捲る女将の前に立った。
「女将さん、長い事お世話になりました。」
「うちはいいんだよ、そっちのお侍さんも元気になったみたいだし…よかったね。」
「はい!」
「十と七日……一人分でいいよ。」
「え?」
「お侍さんはアンタの連れじゃなかったんだ、必要無いよ。」
「でも!」
「大丈夫、この人からも取ったりしないから。」
女将がそう言って三成に目を向ければ、彼女も同じく彼を見た。
しかしながら…次の瞬間…。
女将の親切心を無視するような三成の発言が飛び出す。
「いい…。」
「え?」
「貴様、私の分も一緒に払っておけ。」
「え?え?」
彼女に自分の分も払うように言えば、当然ながら女将が怒り出す。
「何言ってんだいアンタ!私は要らないって…!」
「貴様は黙っていろ。」
「きさ…っ?!」
憤る女将の言葉を遮り、三成は「兎に角!」と彼女に無理矢理2人分の宿代を払わせた。
覚悟はしていたが、一度半額になる予定だった旅費が浮かなかったことはやはり残念なようで、
しょんぼりと俯き加減になった彼女。
まだ何か言いたそうな女将を再び遮るように三成が口を開いた。
「よし、払ったな。」
「うう、はい。」
「・・・これで明確な借りができたというわけだ。」
「・・・え?」
「・・・借りた恩義は返すのが武士というもの。」
「はぁ。」
「…命を救われ、世話になり、あまつさえ宿代まで払わせ、返せない…では武士の恥。」
「・・・。」
「良くも悪くも、私には帰る場所も行く場所も無い……故に私は借りを返すまでの間、貴様と旅をしてやる。」
「は?」
「何度も言わせるな!借りを返すまで、私が供をしてやると言ったのだ!」
「そ、それって…。」
「行くのだろう…長曾我部に会いに。」
「!!」
三成の言葉に、彼女の表情が徐々に徐々にと明るく変わっていく…。
それから三成の申し出が嬉し過ぎたらしい…彼女は感激で泣き始めてしまい
それを玄関先で女将がなだめる事数分…。
微かに目を赤く腫らしながら、彼女は女将に深々と頭を下げる…。
「女将さん、ホントにお世話になりました!」
「ははっ、うちは宿を貸して、ちゃんとお代をもらっただけだよ。」
「でも、沢山心配をしてくれました!ありがとうございます。」
「はいはい、じゃぁ…気をつけて旅するんだよ?」
「はい!」
「お侍さんにしっかり守ってもらいな!」
「はは…。」
そう言って女将は視線を三成に向けるが、
当の本人は無表情で「知るか」と、何とも無愛想な返事。
「さっさと行くぞ、私を待たせるな!」
「はっ、はい!待ってください!」
先に道を歩き出した三成の背中を追いかけながら、彼女は女将にブンブンと手を振る。
「まったく…天邪鬼な男だねぇ…。」
やがて追いついて、満面の笑みを浮かべながら三成と話を始めた彼女を見て、女将が嬉しそうに呟いた。
貴方は
わたしと
西へ行く人
words from:yu-a
*。゜.*。゜.*。゜.*