世界の温度 /トリップ
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武士の重んじるもの
忠義と恩義
その裏切りを最も憎むこと
世界の温度
02:疑問
三成の目が覚めてから数日が経った。
睡眠も十分でき、食事も僅かながら摂ったことで
元々武士として己を鍛えてきた彼は見る見るうちに回復していった。
それを喜ばしく思う反面で憤ることもある。
三成は未だ助けた彼女の名を呼ばない…。
否、尋ねることをしない。
彼女を呼ぶ時は専ら「おい」や「お前」…そして「貴様」が常用呼称。
それでも彼女はその都度笑顔で「はい」と応えるのだ。
「おい、貴様…もう包帯は要らんと…」
「あと3日くらいしてた方が良くないですか?」
「同じ台詞を3日前にも聞いたぞ…。」
「そうでしたっけ?でもいいじゃないですか、念には念を!」
「それも聞いた。」
「あら。」
「何故そんなにも先延ばしにする必要がある?」
「それは・・・。」
ふっと笑顔が消え、何かを考えるような表情。
そしてすぐにまた笑顔を浮かべた。
「それだけ佐吉さんに完全に元気になってほしいってことです。」
「・・・。」
「それでは、お食事持ってきます!」
ビシッと伸ばした指先を額に当てて、彼女はパタパタと部屋を出て行った。
「忙しない奴…。」
今まで自分の周りにいなかったタイプの人種だと、物珍しく思うのか、
フッと三成の顔に笑みが浮かんで、消えた。
それからすぐに部屋の前に人の気配を感じ、彼女が戻ってきたのかと思いきや
入ってきたのは朝餉を盆に乗せて持ってきた宿の女将であった。
「顔色が大分良くなってるねぇ、よかったよかった!」
「ああ…まぁ…。」
「あの子に感謝しないと駄目だよ、目が覚めるまで付っきりで看てたんだ。今も忙しなくアンタの為に動いてるよ。」
「・・・。」
恐らく彼女の代わりに食事を持ってきたのだろう、三成に盆を差し出す。
女将自らが持ってきたものに対して「要らん」とは言えず、
小さく溜息を吐いた後、もそもそと粥を食べ始めた。
二口三口食べたところで、女将が三成に質問を投げ掛ける…。
「そういやアンタ、あの子のいい人なのかい?」
「ブッ…!な、何を!//」
「あらま、そんなに初心な反応をするとは…。」
「しょ、初対面だ。」
「初めて会った?あの子は「知り合いが重症」って言ってココに来たんだけど…そうかい…。」
「・・・。」
「初対面の落ち武者を介抱かい…妙な子だとは思っていたけどねぇ。」
「妙…か。」
「…しかしまぁ、アンタのことは随分熱心に看ていたし、そういう仲だと思ってたよ。」
女将の台詞に何故か気恥ずかしさを感じていると、
それに加えて思いついた事を三成に告げた。
「だとすると…あの子は今まで一人で旅をしていたってことになるのか。」
大きな戦が終わったとはいえ、未だ野武士や落ち武者が徘徊している世の中。
女性が一人で旅をするのは大変危険だと…誰に言われなくてもわかるのに、
それでも旅をする理由は何なのかと…女将と三成は黙して考える。
結局は本人に尋ねてみないことには分からないと判断したのはほぼ同時だったが、
女将が先にそれを言葉にして切り出すのだった。
「まぁ、それはあの子に聞いてみないと分からないね。」
「相違ないな。」
「そうだアンタ、もし本当に落ち武者で、帰る場所が無いんだったら、あの子の用心棒になってやったらどうだい?」
「用心棒…だと?」
「見ず知らずのアンタの命を助けてくれたんだ、それなりに恩義は感じているんだろう?」
「恩義…。」
「可愛くて優しい子だし、私は好きだけどねぇ…アンタもそうだろう?」
「知るか…そんなこと…。」
「おやまぁ、お侍さんは義理堅いとばかり思っていたけれど、アンタはそうではないんだね。」
「・・・。」
去り際に「命の恩人ってやつなのにねぇ」と、軽い厭味を残して女将は部屋から出て行った。
「秀吉様への恩義に…報いることができなかっただけでも、罪深いというのに…。」
今更誰に忠義を尽くせようか、と…。
部屋の隅に置かれた己が刀に目を馳せた…。
心に誓った
恩義も忠義も
今や戦の塵と消え
words from:yu-a
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