世界の温度 /トリップ
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変わっていくことを
恐れないで
それはきっと大事なことよ
世界の温度
13:心音
youの呼吸が落ち着くまで、三成はその身体を抱いたままでいてくれた。
それからようやく途切れなく言葉を出せるようになり、
youは事の顛末を彼に話した。
三成の予想通り、町で風呂敷を買って戻る途中で攫われたこと。
囚われた場所で出会った5人が結束して、盗賊のアジトからの脱出計画を遂行したこと。
ここにいるお辰はそのメンバーの一人で、最年少であるが故に計画の発案者である自分が連れて逃げてきたこと。
そして、何より…。
「だから…もう、三成さんに会えないかと…思ってた。」
「馬鹿者…。」
「捜しに来てくれて…ありがとう。」
「…当たり前だ……まだ、借りも返していない。」
「借りなんて…。」
「(喩え返してしまったとしても、私は……。)」
手放せる自信など無い、と…。
そう口を突いて言葉が出てきそうになったが、何とか押し留めた三成。
そっと身体を離して、youの髪をそっと撫ぜた。
「何も…酷いことをされてはいないか?」
「はい。」
「怪我…は、しているな…。」
「これは…逃げる時に転んだの…。」
「石にでも躓いたのか?」
「う…。」
「……愚鈍なヤツめ…いつものボケらっとしているから、人攫いに遭ったり…こういうことになるのだ、まったく…。」
「むっ…そういう言い方は…!」
「もう私の元から離れるな……傍にいろ、you。」
「…うん……うん、はい。」
紡がれた三成の言葉にまた泣きそうになり、youは口をぎゅっと閉じる…。
天を仰ぐようにして、大きく息を吸い込み…そしてゆっくり吐く…。
「ふふ…安心したら擦り剥いたトコ、痛くなってきちゃった。」
「そうか……何処かで休むか?」
「ううん、まだ盗賊の追っ手が来るかもしれないから、ここを離れたほうがいいと思う。」
「そんなもの……一人残らず斬滅してくれる。」
「物騒な事言わないでください!お辰ちゃんが怖がるでしょ!」
youは「ごめんね」と謝りながら、木陰に立ちすくんでいたお辰に声を掛ける。
今までが2人の世界だった為に、完全に蚊帳の外だったお辰。
いきなり声を掛けられてビクリと肩を揺らした。
「ぇと…。」
「ああ、ごめんね……このお兄さんは佐吉さん。わたしの大事なお友達。」
「さきち、お兄ちゃん。」
「わたしたちを助けに来てくれたの。」
「助けに…?辰……家に帰れる…?」
「うん、これからお辰ちゃんの村に向かうね……村の名前とか、方向とか…分かる?」
「うーん……。」
心許ない返事ではあったが、よくよく話を聞いてみれば
お辰はやはり年の割には聡明な子どもであったようで…。
村の名前もちゃんと教えてくれたし、
ハッキリした道は分からないものの、you達が滞在していた大きな町からならば、何となく分かるとのこと。
「あの町はよくお父ちゃんと買い出しに来たことがあるから…。」
「そっか、じゃぁ、一度町へ戻ろうか。」
「あのね、お父ちゃんがいつも行く店…あるから、そこのおじちゃんなら…辰の村のこと、分かるかも!」
「うん、じゃぁ決まりだね!」
にっこりと笑みを浮かべ、youはお辰の頭を何度も撫でた。
それが嬉しかったのか、お辰はぴったりとyouにくっ付く。
「みつ……佐吉さん、お辰ちゃんを村に連れて帰ってあげても…いいですか?」
「お前がそう決めたのなら、構わん。」
「はい!」
「では、いったん町へ戻るのか?」
「ええ……でも、それは明日の方がいいですね。」
「…何故だ、今は奴らから奪った馬もある。一気に駆ければ朝までには着く。」
「だからこそ、です。彼等はわたし達や、三成さんを躍起になって探してますから、夜じゃなく、町には日が昇ってる時間帯に村を訪れたいんです。」
「そうか?」
「捕らわれていたアジトはかなりの規模でしたから…アジトにいなかった仲間の数も少なくはないかと。」
「成程な…。」
「少し手間にはなりますが、暫く町とは反対方向に、舗装された道を馬で駆けましょう。」
「・・・。」
「ある程度アジトから距離が離れたら、そこで野宿…というか、この時間ですから仮眠を取って、朝になって舗装されていない道を迂回して通るんです。」
「馬の足跡か…。」
「まぁ、早々追いつけるものじゃないですけど…相手も馬があれば厄介ですし、念には念をということで。」
「分かった。」
「とにかく今は、町とは反対方向に逃げたってことを印象付けたいんです。」
「・・・・。」
三成にとっては、盗賊のような輩が何人襲って来ようが敵ではないのだが、
youだけでなく、お辰までいるとなると話は別だ。
自分の力量に自信が無いわけでは決してないが、なるべくなら2人を危険に晒す事は避けたい。
なにより、今はyouの思考、判断能力に圧倒されていた。
「(アジトの脱出計画といい、今の案といい……ただの弱い女だと思っていたが…。)」
「み…佐吉さん、あの…。」
「(刑部も…同じような案を見出すのだろうか…?)」
「佐吉さん?」
「・・・・何だ。」
「あの、う、馬……3人とか乗れるんでしょうか?」
「1人は子どもだ……何とかなるだろう。」
「あ、あの…佐吉さん…。」
「何だ。」
「わたし……どうやって馬に乗ればいいか分からないんですけど。多分…お辰ちゃんも…。」
「・・・・。」
youの言葉に「あぁ」と、軽く返事をすると、
三成はいきなり彼女の腰を掴み、宙に浮かせる…。
三成の名を呼びながら、わたわたと慌てるyouだったが、
馬にしがみ付くと、何とか自力でその背に跨ることができた。
そのあと、すぐに自分も馬に跨り、三成はお辰に手を伸ばす。
「来い。」
「う、うん!」
お辰の小さな手をぎゅっと握ると、勢い良く腕を引く三成…。
すぐに腰を掴まれたので、腕は痛くなく、ふわりと三成の前に座らせられた。
初めて乗る馬に少しテンションが上がったらしい…。
お辰は目をキラキラと輝かせて「お馬さん…!」と言葉を漏らしている。
その様子に思わず顔が緩みそうになる三成。
つまるところ、youといつぞや話して気付いた「感情が戻ってきている」事に他ならないのだが、
今はそれをまったりと享受する状況下ではないので、ゆるりと首を振った。
「行くぞ。」
「はい!」
「…you……。」
「はい?」
「…振り落とされるなよ。」
「・・・は、はい…えっとじゃぁ……佐吉さんの背中にくっ付いてもよいですか?」
「そうしろと言っている。振り落とされたくなければな。」
「むぅ…(言ってないよ!)」
やはり理不尽な物言いだが、もう慣れたもの。
ムッとしたのも一瞬だけで、youはすぐに三成の腰に腕を回した。
すぐに馬を足蹴し、駆け出すよう指示すれば
軽く嘶いた後にはもう小道をかなりのスピードを出していた。
振り落とされないようにと、三成にしがみつく腕に力を込めるyou。
三成の白い陣羽織に頬をぴたりとくっつけて目を閉じた。
「(広いな……三成さんの背中…それに……あったかい。)」
その安心感からか、思わずふっと意識を手放してしまいそうになったのだが
そこはただただ、涙を流すだけに留めておいた…。
・
・
・
・
「この辺りでいいだろう…。」
三成はそう呟いて、馬をゆっくりと制止させた。
お辰を抱えて軽々と地面へ降り立ち、次いでyouを馬から下ろしてくれた。
「近くに川がある……馬を連れて行こう。」
「はい!頑張ってくれましたもんね、お馬さん。」
ポンポンと馬の身体を叩いて労いの言葉を出した三成…。
その行為と言葉が意外だったのか、youは少し驚いた顔をして…。
しかし、すぐにニコリと笑みを見せた。
少し移動したところには水場があり、youとお辰は楽しそうに手綱を引いて馬を川へと連れていく…。
「おねえちゃん、お馬さんたくさん水飲んでる!」
「そうだね、わたしたちの為にいっぱい走ってくれたもんね。」
「そっかぁ…。」
「お礼言わないとね、ありがとうって。」
「うん!お馬さん、ありがとう!」
youは深々と馬に向かって一礼するリンを優しく撫で、
構わず水を飲み続ける馬にもその手を伸ばした。
それから数分…。
馬が大量の水を飲み終わると同時に、お辰が大きな欠伸をするので
youはくすくす笑ってお辰に声を掛ける。
「眠くなってきちゃった?」
「ん……。」
眠そうに生返事を返し、目をごしごしと擦るお辰をyouが抱え上げると、
暖かな体温に安心したのか、彼女はそのままうとうとと目を閉じてしまう…。
youは「あらら」と呆れたように笑いながら、
近くの木に寄りかかって様子を見ていた三成に手を振った。
すぐに駆け寄ってきた三成に小さな声で「馬をお願いします」と言うと、
お辰を休ませるために、先程まで三成がいた木の根元まで歩きだした…。
「おやすみ、お辰ちゃん。」
「・・・寝たのか。」
「……三成さん……馬は?」
「…隣の木の枝に繋いでいる。近くの草を食べるから餌の心配は無い。」
「餌……ごはん……あ!わたしたちの荷物は!?」
「心配するな。ちゃんと持っている。」
「(荷物持ってわたしを救出に来たのか……三成さんって変なトコ器用だなぁ。)」
「何だ?」
「い、いえ!ななな何も!//」
失礼な感想を読まれた気がして、慌てて「よく気が回るなと思いまして!」などと微妙なフォローを入れるyouであった…。
そんな気を利かせた(それも微妙だが)youに対し、
三成はというと、全く利かせる気など持ち合わせていないようで、少し首を傾げた後、失礼な発言のためにその口を開く。
「何だ、餌で飯を連想するのか?貴様は犬か。」
「ちょっと!何てこと言うんですか!失礼ですよ三成さん!//」
「フン……犬の方がもう少し利口か。」
「ななな!!!?」
「そうでなければ主人の元を離れたりはしないだろう。」
「だっ、誰が誰の主人なんですか!」
「私が。貴様の。」
「そんな主従関係、築いた覚えは無いですが!!?」
ムキになって怒り出すyouを三成はひょいと抱え上げた。
その細身の身体の何処にそんな力があるのかと、真に疑問に思うのだが、
今はそれどころではないようで、宙に浮いた自分の身体のバランスを保とうとyouは慌てて三成の両肩に手を添えた。
「み、三成さん!?//」
「・・・どちらが主人でもいい。」
「え…。」
「もう……居なくなるな。」
「みつ…なり…さん?」
「私の元から去るな。」
「ど…どうしたんですか?」
「どんな形でも、お前は私の存在意義だ……今の私の生きる意味。」
「そんなの……わたしだってそうです。」
「それなら約束しろ。離れぬと。居なくならぬと……私の真たる主、秀吉様に誓え。」
「…うん、約束。」
「私も、お前を守ると……誓う。」
三成の恐ろしいくらい澄んだ瞳を、youはじっと見つめる。
薄い金にも翡翠色にも見える眼はどこか憂いを帯びていて、悲しげで、しかしとても美しい。
嘘が吐けない…否、嘘を吐かない彼の不器用な本質を見抜いているのか、
youは愛おしそうに眉を寄せて微笑み、勢い良く三成の首根っこに抱きついた。
当然の如く、バランスを崩した三成はyouを抱えたまま地面に仰向けに倒れ込む…。
(勿論受身を取ったのだが…。)
「・・・痛い。重い。鬱陶しい。」
「…退けとは言わないんですか?」
「・・・。」
「何かわたし……甘やかされてます、か?」
「別にそういうつもりは無い。」
「でも……あの…三成さん…優しいんですけど…。」
「・・・冷たくして罵ってほしいのか?それは随分と悪趣味だな。」
「ちっ、違いますよ!ていうか罵ってって…//」
「嘘だ。」
「ほぁ?」
夜の涼しい風がそよ、と吹いて、2人を取り囲む草のカーペットが揺らいだ。
暫し押し黙った三成が、言葉と共に腹上に乗るyouをぎゅうと抱きしめる。
「みっ…!?//」
「寂しくも、愛しくもない。」
「・・・ぉぃ。」
「ただ……。」
「?」
「怖かった。」
「(それは捕らわれたわたしの台詞なのでは…?!!)」
「それは自分の台詞だと言いたげだな。」
「い、いえ……まぁ……はい。怖かったですから。」
「それも分かっている。」
「じゃぁ…。」
「此処に、youが生きていることに、安堵している私がいる。」
「・・・。」
「弱い……私は、弱くなった。」
「そんなこと……。」
「以前の私なら、誰を失おうと…悲しくは思えど、秀吉様が居なくなった事以外で恐怖することなど……無かった。」
「…三成さん…。」
「本当に、色んなものを失ったから……何も無いと思っていたのに…。」
「それはね、三成さん……「弱くなった」んじゃないよ?」
「・・・では、何だ。」
ぴたりと、三成の心臓の上に耳を当ててyouはそっと目を閉じて言った。
「優しくなったの。」
種別は様々だが、それは確かに、誰かを「思う」ではなく「想う」ことだと。
youの言葉を頭で噛み砕いた後、苦しげに「要らん」と言葉を漏らしたものの、
それに相反するように、体は一層強く彼女を抱きしめる…。
youは微笑み、ただ、黙って三成の心音に耳を傾けた…。
もう二度と
聞けないかと思った
このあたたかな心の音
words from:yu-a
*。゜.*。゜.*。゜.*