世界の温度 /トリップ
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心がざわめく
どうかどうか
もう私を一人にしないで下さい
世界の温度
12:解放
youの脱出作戦はこうだ。
まず、全員の縄を解いた後、スライド式の扉につっかえ棒を使ってこちら側から閉じてしまう。
その間に全員天井裏に潜み、盗賊たちが異変に気付くのを待つ。
もちろん上に上がる際に窓を開け、そこから脱走したかのように見せかけるため、草履を外に落とすフェイクも忘れずに。
もしも丑三つ時を過ぎても敵が気付かない場合、
もしくはそれより早くに気付かれてしまった場合はそこから脱走を開始。
逃走口を確保し次第、天井で火を起こし、それを囚われていた小部屋に落とす。
火災に気付いた敵がパニックを起こしたら、すぐに外へ。
火事の騒ぎに紛れて一気に遠くへ走るが、
全員で逃げれば追いつかれてしまうので、三手に別れて逃げること。
「走って逃げる時に邪魔だし、火種に使いたいから皆の着物を少し破るけど…いいかな?」
「それはいいけど、you…アンタ…よくこんなこと考え付くね…忍か何かかい?」
「ううん、未来人だから!……なんてね。」
「ぷっ…おかしな子だね。」
一番発言数の多い、明朗な性格のお菊がyouを面白がり、
お辰と残りの2人もくすくすと小さな声で笑みを零す。
「じゃぁ、縄を解いていくね…一人…お辰ちゃんは扉に耳を当てて、誰かが近づいて来ないか注意しててくれる?」
「うん、わかった!」
youの言葉に素直な返事を返すと、お辰は小さなからだをコロコロと転がして扉の前に移動し、起き上がるとすぐに扉に耳を当てて目を閉じた。
その様子を確認し、youはお菊の縄を解く。
解放されたお菊も同じようにもう一人の縄を解き、最後にお辰の縄を解いた。
晴れて手足だけは自由となった5人…。
次いで、この場所が倉庫であるが故に自分達に有益なものを選び、
使い方をyouが小声で指示する。
「まずはこのつっかえ棒を扉に掛けて。」
「分かったわ。」
「この麻袋…中身は売捌くための米ね…これはカモフラージュのために使うわ。」
「何をするの?」
「窓から逃げたと見せ掛けます。お菊さんとおハナさん、階段みたいにして、窓の下に麻袋を積んでください。大きな音は立てないで。」
「成程ね…分かったわ!」
youの指示通り、米の入った麻袋を窓の真下に積み上げていくお菊とおハナ。
それから次の指示をすべく、残りの2人に声を掛けた。
「じゃぁ、サチさんとわたしはお辰ちゃんを肩車して天井を開きましょう。わたしがお辰ちゃんを背負いますから、サチさんはフラつかないように支えて?」
「分かったよ。」
サチがコクリと頷き、youはしゃがみ込んでお辰に微笑みかけた。
「さ、おいで…今から肩車をするからね、天井のあの…色の違う場所をゆっくり、強く押してくれる?」
「うん…そっとね?」
「そう、そっと。」
お辰は恐らく10数えないくらいの年齢のようだが、
今自分がどういう状況にあるのか、そう行動すれば母の元へ帰れるのかをしっかり理解できているようだった。
そんな彼女の意識の高さもあり、事はスムーズに運んでいく…。
天井裏へは簡易な薄板が一枚蓋として乗せられていただけで、
お辰がそれをスライドさせただけで男一人が余裕で入れるくらいの穴が開かれた。
「上出来だよ、お辰ちゃん!」
「うん!」
「じゃぁ、ゆっくり降ろすね。」
そっと、その場にしゃがみ込み、お辰を床に降ろすyou。
もう、あとはもう上るだけとなり、皆を引き上げるために皆に支えられてyouが一番先に天井裏に上り、
その後はお菊、おハナ、お辰の順に肩車と引き上げの連携で上へと上がった。
最後に残ったサチには思いっきりジャンプをしてもらい、天井裏の全員で腕を掴んで引き上げた。
(上がってすぐは腕を痛がっていたが、暫くしたら痛みは引いたようだ)
簡素なアジトのように思っていたが、天井裏は広く、其処にも多くの道具や物資があったので
予想外に中々立派な造りの建物だということが分かった。
「今はまだ真夜中にもなってないし…今のうちに脱走準備しちゃいましょう!」
「あそこから出られそうよ。」
サチが指差した先には微かに月光が差し込んでいる。
近づいてみれば、こちらもスライド式の扉になっているようで特に鍵も無いようだ。
恐らくは天井に置いてある隠し荷を下へ降ろす時に使用しているものだろう。
これで逃走路まで確保が完了した。
「あとは時間が経過するのを待つだけね、you…。」
「うん、皆、途中でバレても慌てずに迅速に…ね。」
「あ、班分けしとかないと。」
「じゃぁ…わたしはお辰ちゃんと行くね。」
「(いいのかい?)」
「(いいの、お辰ちゃんがいるから、皆で逃げようと思ったんだもの、わたし。)」
言ってしまえば一番厄介な子どもを連れて逃げるという役を自ら買って出たyou…。
小声で話しかけたお菊が眉を下げて尋ねてきたのに対して、やんわりと笑みを向けた。
「ごめんね」と謝るお菊に「大丈夫」と答え、youは他のメンバーの班決めを促す。
結局、一人で逃げる役はお菊…後の2人はおハナとサチ、という3グループとなった。
「そういや、you……火種はどうするんだい?」
「わたし、旅してるからいつも火打石持ってるの。」
「身ぐるみ剥がされなくてよかったね…。」
「本当に。で、これは下にあった盗品の中にあったの。丸々1箱これが入ってた。」
「これは……香油?南蛮からの輸入品のようだね。」
「そう、火種を下に落とせばあっという間に火は広がるわ。」
「失敗は許されないね。」
「勿論。」
コクリと顔を見合わせて一同は頷く…。
ついに彼女達は決行の時間を待つのみとなった…。
・
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・
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「……you…。」
三成がyouの捕らわれている盗賊のアジトに辿り着いたのは、
夜の帳が降り立った頃のことであった。
駆けて行った馬の痕を追ってきたのだが、
中々に距離があったことで、時間が掛かってしまっていたのだ。
既に夕餉の時間を終え、まったりと寛いでいる敵の本拠地に向かって
相変わらずドス黒いオーラを携えたまま歩み進む…。
「ん?何だぁお前…此処がどこだか分かってんのか?」
「五月蝿い…退け、邪魔だ。」
「テッメェ……此処はオレ達盗賊の本拠…ち…。」
「私は今……頗る機嫌が悪いッツ!!」
「ち、血……ちぃい!!ぎゃぁああああ!!!」
帯刀した刀に手を添えたかと思えば、次の瞬間には三成と相対した男の腕が消えていた。
否、性格には腕はドサリと鈍い音を立てて地面に落ちたのだ。
当然瞬間的に腕からは血飛沫が上がり、三成と男の顔を赤く染め上げる…。
そんな光景は戦で見飽いている…とでも言うように、三成はピクリとも表情を変えず前へ進む。
未だ叫び声を上げる男はその場に崩れ落ちて、
アジトに聞こえるような大きな声で敵襲を告げた。
「て…敵襲ぅうう!!助けてくれお頭ぁああ!!!」
耳障りの悪い絶叫を根元から絶とうかとも考えたが、
三成にとって、今はyouの安否の方が最たる重要事項らしい…。
小物相手に刀の切れ味を態々悪くする事も無いだろうと、捨て置いて前進することにした。
すぐに、先程の男の大声を聞いて、アジトの見張りを含め、
外からも中からもワラワラと盗賊達が侵入者を排除すべく現れる…。
「面倒だ……斬って捨てる。」
「兄ちゃん…誰にモノ言ってんだ?あ?オレたちゃ……」
「散れ烏合の衆。」
「何だと…?!」
「慙悔」
「ぉ…!?」
三成に前方から向かってきた敵兵が武器を振り上げた瞬間…。
まるで彼等を取り巻く空間にだけ嵐が起きたかのように居合いの渦が巻き起こる…。
目にも止まらぬ早業で三成は敵の本陣へと乗り込んでいった…。
・
・
・
・
時、同じく。
天井裏で脱出までのタイミングを待っているyou達にも
外からの大きな絶叫が聞こえてきた。
「い、今のは?」
「叫び声のようだったけど…。」
「また!」
「一人や二人じゃなさそうよ?!you、どうする?!」
焦りの色を浮かべてyouに問いかけるお菊…。
計画の発案者であるyouは暫し腕を組んで悩み、一同の目をみて頷いた…。
「何か起こっているのは確かみたい……一か八か、この混乱に乗じて脱走を実行しましょう!」
その言葉に、全員同意だったようだ。
お菊を筆頭に、おハナもサチもお辰も…一斉にコクリと頷いた。
すぐさま、用意していた着物を破ったものに香油を染み込ませると、火打石を使って難なく火を起こした。
残りの着物で炎を大きくすると同時に、それを天井裏から下の部屋に落とす。
「あとは下が騒がしくなった時を見計らって逃げるだけ…。」
「ここまでは順調ね!」
おハナとサチが嬉々とした顔を見合わせている。
それから1分も立たないうちに下からいくつもの大きな声が響いてきた。
『おい!隣が焦げ臭い!どういうことだ!?』
『お頭!女共を捕らえてる部屋が開きません!!』
『なんだと!?すぐブチ破って中確認しろ!』
『へいっ!』
つっかえ棒で開かなくなっている扉を体当たりで開く算段の様子。
しかし、それさえもyouの案の一つ。
『ギャァアア!』
『火が!!』
『爆発だぁああ!』
一階から聞こえる轟音と叫び声にyouはぐっと拳を胸に当てた。
「バックドラフト現象…上手くいったみたい。」
※一酸化炭素が充満している密室に急速に酸素が取り込まれることで化学反応が起こり、爆発を引き起こすというもの
「you!外の見張りがいないよ!」
脱出口からそっと確認する限り、視界には盗賊達はいない。
それを確認し、おハナが満面の笑みを浮かべた。
「それじゃぁ、先におハナさんとサチさん、次にお菊さん……行けますか?」
「私達が先?!お辰がいるアンタから先に行きな?」
「ううん、わたしはこの計画の首謀者だもの……最後まで見届けないと、だめ。」
「you…。」
「さ、早く…時間がないです!2人は右手の方面へ、お菊さんは左手へ…全速力で走ってください。」
「わ、分かった!」
最後に「ありがとう」とyouに告げ、帯紐を三つ編みして作ったロープで2人は下へ降りて行った。
次いで、お菊はyouをぎゅっと抱きしめ、礼を言う。
「アンタの事は絶対忘れないよ……youは私の神様だ。」
「大袈裟ですよ、お菊さん……また、会えるといいですね。」
「ああ!」
目尻にうっすら涙を浮かべ、お菊も脱出していった。
感傷に浸りたいが、そうもいかないわけで…。
youも3人と同じようにすぐに天井裏から脱出し、
最後にお辰を下ろすと、彼女を背負ったまま夜道を全力で走り出した…。
それからのyouは兎に角走った。
生まれてこの方、こんなに走ったことがあっただろうかと思うくらい走った。
「(持久走大会なんて目じゃないくらい…マジで。)」
それでも、限界の限界まで走らなければ、待っているのは恐らく「死」…。
自分ひとりならまだしも、今は背中にもう1つ命を預かっているのだ。
盗賊のアジトからどれくらい離れたかは分からないが、
もうそろそろyouの限界が近づいていた…。
よろよろと、交互に差し出す足がまっすぐ前を向かなくなり、
ついに前方に転がっていた石ころに躓いてyouは盛大に転んでしまった。
「はぁ…は…あ……っ…痛い…。」
「おねえちゃん……大丈夫…?」
「は…っ、んう、だい…じょーぶ……ごめ、ね。」
「辰、大丈夫だから!自分で歩くから!」
「フー……うん、ごめ、ん。」
youはお辰の差し出した小さな手を握り、手を付きながらゆっくり立ち上がる…。
「はぁ…行こう…ね。」
「うん…。」
「は…ぁ…三成、さん…。」
「え?」
「ううん……ハァ…なんでも、無いよ…。」
にこりと、お辰を安堵させるために笑みを浮かべるyou…。
しかし、その表情とは裏腹に、何故か心の中では盛大に大泣きしていた。
「(三成さん…、みつなりさん!)」
ふいに口に出してしまったが故にだろう。
「守ってくれる」と言ってくれた暖かな存在に、縋り付きたくなってしまった。
「(っ……三成、さん…!!)」
考えないようにしていた。
三成の事を考えずにいないと、とても気を張っていられなかったから。
しかし、一時的にでも敵から逃れられた安心感を抱いてしまったことで、
その名前が口を衝いて出てしまった。
「(会いたいよ……でも、もう…!)」
随分と遠くに離れてしまったと…。
三成との今の距離を改めて気付かされ、youは自らも知らないうちに泣いていた。
その雫が低い頭のお辰の額に当たったようだ。
いつの間にか彼女は心配そうな顔で、走りながら涙を流すyouをじっと見つめていた。
「youおねえちゃん……悲しいの?」
「は…ぁはぁ……ううん、そんなこと、ないよ。」
「おね……!」
「!!」
「な、に…?」
「うそ……そんな!!いや!!」
後方から馬の嘶く声が響き、youとお辰の顔からサッと血の気が引いていく…。
やっと逃げ遂せたと思っていたのに…まさか、馬で追ってくるなんて、と。
必死で走るものの、馬の速さに敵うはずはない。
迫ってくる馬に背を向けて、必死に2人で走っていたが、あっという間に追いつかれたようだ。
馬の足音が止んで、誰かが疾走してくるのが分かる…。
youは強い力で腕を捕まれ、終に逃走劇の終幕がもたらされた。
振り解こうとブンブン腕を振ったが、まるで効果は無い…。
「お願い離して!離して!わたし、行かなきゃいけないんだから!四国に!三成さんと!」
「おい!」
「三成さんに会いたいの!三成さんに会って……四国、行って……刑部さん、探すの…っ!」
「・・・。」
「三成さんがいるから……わたしはこの世界で生きられるのに!」
「・・・・。」
「会いたいのよ!……お願いだから離して!離してよぉ……っ!」
「you!!」
「みつ……なり…さ…、ん………?」
「そうだ、私だ…。」
「どう…し、て…。」
youが大人しくなったことを確認して、三成は掴んでいた腕を離し、彼女と向き合った。
「アジトをつきとめて突入した。だが、そこは炎の海で…youはいなかった。」
「っ…。」
「火に巻き込まれたかと思っていたが、盗賊の奴らが『女達の仕業だ』と言っていたから、もしやと思った。」
「・・ふ…っく。」
「奴らのアジトから馬を拝借して、三手に別れた追手を斬捨てながらお前の跡を追ってきたんだ。」
「ど、して……わたしが、こっち…って。」
「私がお前の気配を違えるとでも思っているのか?」
「みつ…っ…。」
「そんなことは在り得ない。」
「っく……。」
「すまない、守ってやると誓ったのに……。」
ブンブンと首を横に振って「いいの」と、答えを表すyou…。
「また……失ってしまうかと思った…ッツ!」
「みつなり、さ…。」
「お前が……無事でよかった……you…っ…。」
「うぅ…。」
「もう……何があろうと…お前を一人になどさせん。」
「う…んっ…。」
それはyouにとって絶大な効果を発する言葉。
止め処なく涙が溢れて、拭おうかと腕を上げたがそれは適わなかった。
それはただ、youの身体が三成に強くつよく抱きしめられたから。
何時の間に
私はこんなに
弱くなったのだろう
words from:yu-a
*。゜.*。゜.*。゜.*