世界の温度 /トリップ
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全て失った貴方と
何も持たないわたし
とても似ている気がした
世界の温度
01:邂逅
目を開けば、じっと自分を見つめてくる二つの瞳と視線がかち合った。
ぎょっとして飛び起きれば、バサリと音を立てて布団が吹き飛ぶ…。
「目、覚めたんですね…よかった。」
「っ……此処は…何処だッ…?!」
「・・・ここは此処です。近江の、とある村の宿屋さんです。」
「近江…だと…?」
「ええ。」
「地獄…ではないのか?」
ゴクリと、固唾を飲んで三成は目の前の女性の答えを待った。
すると、クスリと微かに笑いを零して、彼女は答える…。
「残念ながら地獄では無いですね。」
「…そう、か……。」
「・・・地獄逝きをご希望でしたか?」
「…・・・。」
「それは残念でしたね……ここはきっと「貴方の」いつもの世界ですよ。」
「・・・・。」
何故か「貴方の」と強調された言葉に違和感を覚えながらも、
自分は死んでいなかったのだということに三成は驚きと、少しの落胆を抱くのだった。
「3日も目を覚まさないから…こっちは本当に地獄へ逝ってしまったのかと思ったんですけどね。」
「三日…。」
「でも、これで睡眠不足は多少解消したかな?」
「・・・。」
「次は食事ですね、3日分食べないと。」
「・・・要らん…腹は…空いていない。」
「だけど…。」
「要らんと言っている。」
「駄目ですよ、身体に悪いです。顔色もまだ良くないですし。」
「構うな……私の事は放っておけ!」
「でも…。」
「何故助けた!何故捨て置かなかった!何故私を…私を地獄に逝かせてはくれなかったのだ!」
心配そうに伸ばしてきた女の手を叩き落とし、三成は激昂する。
それから悲痛な面持ちで顔を伏せ、布団に蹲ってしまった…。
「あの御方の居ない世界など、私に何の価値も無いというのに…!」
「ずるい。」
「・・・・・・・は?」
三成の言葉に彼女は意味不明な反応を示した。
それに驚き、蹲ったままで三成が疑問を顕にすれば、彼女の手は何故か三成の背に触れた。
そのままゆっくりと、まるで子どもを慈しむように背中を擦られる…。
「貴方が生まれた世界なのに、価値が無いなんて言うのは贅沢よ。」
「・・・贅沢、だと?私はこの世界で大事なものを何もかも失ったんだぞ?貴様に分かってたまるか。」
「初めから何も持たないわたしより、幸せだと思うわ。」
「・・・何も、持たない…?」
「…貴方にはその「御方」と過ごした思い出だってあるんでしょう?わたしには無いもの。」
「・・・故郷でも失ったか?」
「故郷はあるよ、でも、此処には無いの。」
「・・どういうことだ?」
「・・・ふふ、言っても誰も信じてくれないから、教えてあげない。」
「・・・意味が分からん。私をからかっているのか?」
「とんでもない!真実よ!」
「なら言え。信じるか否かは後で考える。」
「・・・・。」
背を向けたままの三成の言葉。
彼女は暫し悩むことにした様子…。
しばしの後、彼女は三成の背中から手を離して笑顔を作った後、
うっすらと唇を開いて、笑顔を作った。
「うーん…やっぱり内緒です!」
「貴様…!」
三成はイライラした様子で睨み付けたが、彼女はあっけらかんと笑顔を向けた。
数秒、まるで般若のような(デフォルトかもしれない)顔でじっと見ていたが、
全く彼女は動じていないらしく、三成はついに大きな溜息を吐いて視線を外した。
「妙な奴だな。」
「妙…ですね、きっと…。でも、それ散々言われましたから、もう慣れっこです。」
「?」
そう言うと、彼女は微かに眉を寄せて、痛そうな表情を浮かべたのだが
それは一瞬のことで、サッと表情を変えて話しかけてきた。
「あ!そうそう、貴方のお名前を聞いていなかったと思って!」
「何故貴様に教えねばならん。」
「じゃぁ、ご飯持ってきますね、えーと……前髪スネオさん。」
「待てぃ!」
部屋から去ろうとする女の肩を掴んで、再び般若の形相で睨む三成。
そして先程より一層眩しい笑顔で彼女は彼に問うた。
「貴方のお名前は?」
「…石田み………佐吉。」
「佐吉さん!わたしの名前は…」
「貴様の名など知りたくもない!」
「そ…です、か……。」
「・・・。」
打って変わってしょんぼり顔をしたが、彼女はすぐに開き直ったように笑顔を向けた。
「まぁ、佐吉さんのお名前知れただけでも良し、です!早く元気になってくださいね!」
「余計な世話だ。」
「そう言わないでくださいよ…。」
苦笑しながらも部屋を出るべく戸に手を掛けたのだが、
思わぬ三成の呼び止めに彼女は振り向く。
「おい……。」
「はい?」
「もう一度問う。何故…助けた…。」
「え?だって、倒れていて、死んでいるならまだしも、生きていましたし。」
「・・・。」
「生きているなら助けてあげたいじゃないですか。」
「助けたい?落ち武者だぞ?身包みを剥がされ、斬られるかもしれんのだぞ?」
「この時代の人たちはいつもそう言うのね。」
「は?」
「だけどわたしは違うから。命は尊いものだと教えられてきた。だから、佐吉さんを助けたいと思った。それだけ。」
「・・・尊い…だと?この私の命が?あの御方の仇も討てなかった私に価値など…!」
「じゃぁ佐吉さんはその御方が討たれた時にその命を無価値だと思わなかったんですか?」
「!!」
「わたしはそういう意味で言っただけです。決して価値が平等だとは思っていませんけど…。」
「当然だ!」
「それでも、貴方のこともその方のことも知らないわたしにとっては、どちらも尊いものだと思いましたから。」
「・・・・。」
「わたしは貴方を助けてしまった。それは謝ります。」
折角助けてやったのに…と怒っているのだろうかと思いきや、
深く頭を下げて謝罪をする彼女には真から三成に謝っている気配が漂っている。
つまり「死なせてあげなくてごめんなさい」という意味だ。
生きていてくれて嬉しいと喜ぶ姿を見せていた反面でのこの言葉…。
何とも複雑な心根をしている女だと…三成は思った…。
「おい…。」
「?」
「…少し、腹が減った。」
「は、はい!すぐにご飯持ってきますね!」
「・・・早くしろ、私を待たせるな!」
「はーい!」
もう何度目かも分からない笑顔だったが、確かに今のものだけは今までのそれと違う笑顔だと…。
部屋から出て行く彼女の背中を見つめながら、三成は般若の形相を解くのだった…。
名前はまだ
だけど気持ちは
伝えられたかな
words from:yu-a
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