世界の温度 /トリップ
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似ているようで
違うと思うのは
私がとても穢れているから
世界の温度
08:月夜
お互いのことを深く語り終えた時には既にとっぷりと陽が暮れており、
石田郷で旅休めができず、何の補給もできなかった2人は
その日、否が応にも野宿を強いられることとなった。
ある程度峠を下ったところで路を外れ、草道を分け入って小川を見つけると
そこで休もうと、三成がyouに呼びかけた。
「今日はここで休むか…。」
「野宿…ですか…。」
「仕方無いだろう……夜通し歩き続けるわけにもいかん。」
「そう、ですね…。」
「補給はできなかったが、運良くここには水がある。」
「・・・。」
食料等の話は確かに重要なのだが、youが野宿を嫌がる理由は他にあった。
賊に襲われるというものだ…。
三成はその考えをyouが言わずとも分かっているようで、落ち着いた声色で「案ずるな」と言った。
「夜盗が何人かかって来ようと、私の敵ではない。」
「え…。」
「お前は私が守る。」
「は…はひっ…!//」
緊張、というよりは三成の言葉が気恥ずかしく思えて、言葉をドモらせたyou。
しかしながら、三成は全く気にしていないようで、目を閉じて意識を集中させている…。
どうやら、周囲に敵意を持った気配がないか確認をしているようだ。
ふ…っと目蓋を開き「問題なさそうだな」と呟く。
「この近くには敵の気配は無い。」
「て、敵って…。」
「山賊や野武士…夜盗の類だ。」
「わ、分かるんですか…?」
「はっきりは分からん……だが殺気があれば嫌でも気付く。」
「・・・ほぇ…凄いんですね、お侍さんって…。」
「常日頃から武芸に携わっていなければ持ち得ないものだからな…。」
「確かに、そうですね。」
「・・・有難いが、よくよく考えると迷惑な能力かもしれんな。」
「・・・。」
安心して過ごすことができなくなるという意味で。
三成が言いたいのは恐らくそういうことだろうと…言わずとも悟ったyouだった…。
言い終わって、三成は大きな木の根元に座り込んで、幹に背を預ける。
youもその隣に座ると、背負っていた荷物を下ろして広げた。
荷物の中から取り出したのは空のペットボトルと果物が数個。
果物は分かるが、三成はペットボトルを見たことがないので、不思議そうな顔でそれを見る。
「たいした量じゃないですけど、所謂非常食というヤツです!食べましょう!」
「…それは、何だ?」
「あ、これはわたしがこっちの世界に来た時に持ってたペットボトルというものです!」
「ぺっとぼ…?」
「便利だからずっと捨てずに使ってます!」
「何をする物なんだ?」
「お水を入れるんですよ、中に。キャップを閉めると溢さずに持ち歩けるんです。こういう感じで。」
ペットボトルのキャップを外したり付けたりして、三成に機能を説明する。
水筒のようなものというのは理解できるが、竹筒のものくらいしか目にしたことがなかったので
透明で中身の見える水筒であるそれを、三成は食い入るように見ていた…。
「空だから、汲んでこないと。」
「私が行く。お前は此処に居ろ。」
「え、でも…。」
「貸せ。」
「じゃぁ…お言葉に甘えて。」
立ち上がった三成にペットボトルを渡すと、すぐに小川の方面に歩き出した…。
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水を汲み上げ、youが見せたようにペットボトルのキャップを回して蓋を閉めた。
このところずっと、戦のことばかりを考えて情緒や趣深さを感じることが久しく無かったので、
透明なペットボトルに付いた水滴が、月の光で輝いて綺麗だと…一層そう思える。
秀吉や半兵衛が生きて、傍にいた時に感じていた花鳥風月を愛でる心さえもが戻ってきたような気がした…。
「(刑部が生きていると思えるからかもしれん…。)」
それは三成にとって、一筋の希望のようなものだった…。
何もかもを失ってしまったと思っていたが、生きているなら希望が見える。
かなり状況は苦しいが、西軍を再集結させることも、大谷の力を以ってすれば可能かもしれない…。
そうなれば、また家康に挑むことができる…。
そして秀吉の仇を討って・・・それから…。
そこまで考えて、三成はその先の考えを馳せるのを止めた…。
「(馬鹿馬鹿しい……夢物語だ、そんなこと…。第一わたしは天下など欲してはいない。)」
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『お前にも見て欲しいな。わしが興す時代を!』
『家康…馬鹿か貴様…秀吉様が天下を治められる限り、お前の時代など来るわけがないだろう!』
『そっ、そんなことは無いだろう三成!漢であれば誰もが天下統一を夢見るものだ!』
『私は秀吉様以外に仕える気など無い!ましてや私自身が成り代わろうなど、とんでもない!二度とそのようなことを口にするな!』
『そうか…お前はそうかもしれんな…だが、ワシは…誰よりも見続けて来たのだ…英雄たちの背中を。信長公、秀吉殿…彼等のその背中を。』
『ならばこれからも見続けろ、秀吉様の治められる日の本の天下を。』
『そうだなぁ、うん…誰もが笑って暮らせる世の中が続くなら、それでもいいかもしれんなぁ。』
『・・・チッ、腑抜けたヤツめ。勇むのかそうでないのか、どちらかにしろ…鬱陶しい。』
『ハハッ、手厳しいなぁ、三成は…。』
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「(秀吉様の治められる日の本は……どういうものだっただろうか…。)」
もしも家康を倒したら、目的の後に残るものは…。
自分も天下人として世を治めなければならないとしたら…。
そこまで考えて、その続きを考えないように三成はブンブンと頭を振った。
今は兎に角、大谷を探すこと…。
そして四国を目指すyouを旅の間中守ること。
それが自分に与えられた最たる目的なのだと、言い聞かせる。
「今度こそ必ず…命を賭しても守ってみせる…。」
胸の前でぐっと拳を握り、一人、誓いを新たにしてみせた。
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「遅いなぁ、三成さん…。」
一人、待たされたyouがぽつりと呟き、その間にふと考える。
いつも宿に泊まる時には、蝋燭が無ければ歩けないほど夜はいつも真っ暗になると思っていた。
しかしながら、外の世界では違うようだ…。
綺麗な月が夜空に浮かび、優しい明かりを天からそそいでくれている…。
「三成さん…こんなに明るいのに、迷子になっちゃったのかな?」
「誰が迷子だ。」
「わっ!!?」
突如、背後から聞こえた声に驚いて振り向けば、ちょっと不機嫌な三成がそこに居た。
「おっ、おかえりなさい、三成さん!ちょっと遅いな~って思って、心配してたんですよ。」
「迷子の心配など余計だ!!」
「そっ、それはその…言葉の綾といいますか…す、すみません!」
「フン……これを見つけたからな…遅くなった。」
「これは…。」
手拭のようなものを渡され、youがその中身を確認すると
そこには大量の赤い実が摘まれていた。
すぐにワッと嬉しそうな反応をして、三成を見上げるyou。
「凄い!これ木苺か何かですか?」
「さぁ、だが恐らく苺の類だろうと思って摘んできた。」
「濡れてる…もしかして洗ってきてくれたんですか?!」
「ああ…このぺっとぼとるにはあまり水が入らないから、もう一度洗いに行った。」
「それで遅くなったんですね……態々ありがとうございます!」
youはペコリとお辞儀をして、謝礼を述べる。
きちんと謝られたことで気分を良くしたのか、先ほどの怒った顔を緩ませ
三成はyouの隣に着席した。
「ほら、水だ。」
「ありがとうございます!わっ、冷たい!」
渡されたペットボトルは濡れていて、結露するくらいに冷たい水なのだと分かる。
キャップを開けて一口飲めば、身体の中に水が染み渡る感覚…。
流石は川の水だと、その冷たさにyouは思わず「プハー」っとおっさんくさい仕草になってしまうほどだ。
「あっ、すみません…先にがっつり飲んじゃいました…。」
「いい、私は汲んだ時に飲んだ。」
「あ、そっか…。」
「全部飲んでも構わんだろう。明日、出発する前にもう一度汲みに行けばいい。」
「はいっ。」
「これも、食え。腹が減っているだろう。」
「じゃぁ、いただきます!あ、こっちの果物、1つは三成さんの分ですから、どうぞ!」
「要らん。貴様が食え。」
「またそんなこと言う!ダメです、ちゃんと食べてください!」
「・・・。」
「しっかり栄養摂らいないと、倒れちゃいますよ!」
「私はそんなに軟弱ではない!大丈夫だ!」
「三成さんの「大丈夫」は信用できませんっ!だって行き倒れてたもの。」
「それは…ッ…!//」
痛いところを突かれたと、三成はうっ…と言葉を飲み込む。
その反応を見るや否や、youは「ほら、そうでしょう?」と三成を見上げ、
膝の上に置いた木苺を摘んで彼の口の中に放り込んだ。
「んむ!?」
「美味しいですね、三成さんが摘んできてくれた苺。」
「・・・む。」
「これもどうぞ。」
「・・・。」
どうやら反論は諦めたようだ。
三成は渡された果物を渋々だが、ちゃんと食べ始め、
youはそれを見てうんうんと笑顔で頷き、自身ももう一方の果物を腹に納める。
食べ終えた後に2人で手を合わせて「ご馳走様」と挨拶をして、
後はいよいよ寝るだけとなったのだが…。
「明日もかなり歩くのだろう?早々に寝付いた方がいい。」
「そうですね、でも…。」
「私が起きている。お前は寝ろ。」
「だっ、ダメですよ!三成さんが寝不足になっちゃいます!せめて1、2時間…っと、一刻交替とか…。」
「私の体力と貴様の体力が同じだとでも思っているのか?余計な気を回さず、大人しく寝ておけ。」
「うう…でも…。」
「くどい。」
「うー!じゃぁっ、眠くなるまで起きてます!」
「だから…お前は…。」
「こっ…怖いの!」
「!」
三成の羽織りの下を掴んで、youは言う。
その身体は微かに震えていて、三成はそれを驚いたように見る…。
恐らくは初めて野宿した際に夜盗に出くわしたことでの恐怖を思い出しているのだろう…。
そう思って三成が「大丈夫だ」と口を開いた。
「夜盗など私が追い払う。だからお前は安心して…」
「違うの。」
「?」
「眠ってしまったら、独りになってしまいそうで…。」
「はぁ?」
「目覚めた時、三成さんがそこに居なかったらって…。」
「・・・な…。」
「また独りになってしまってたらどうしよう、それが怖いの、わたし眠りたくない…。」
「・・・阿呆め…。」
くしゃりとyouの髪を撫でたかと思えば、三成はいきなり彼女の肩を引っ張った。
当然バランスを崩して、youはその場に倒れるのだが、
その倒れた場所というのが…三成の膝の上。
胡坐を掻いて座っているので、枕としては少し高めなのだが…今言いたいのはそういうことではなく。
「みっ、みつなりさんん?!!!///」
「煩い。」
「やっ、で、でもあの…っ!//」
「こうしていれば、もし私が居なくなった時、すぐに起きれるだろう。」
「う…うん…。」
「だから、もう寝ろ。」
「・・・えっと…あの…。」
「何だ、鬱陶しい!まだ何かあるのか。」
「っ…手……。」
「て?」
「手を……繋いだら、だめですか?」
「・・・・。」
「あっ、いや、やっぱり何でもないですっ!//」
言い終えて後悔したように「おやすみなさい!」と身体を縮こませるyou。
三成はそれを上から眺めていたのだが、youが動かなくなった後に大きな溜息を吐いた。
呆れたように「これでいいのか。」と言って彼女の手を掬い取り、己が手を、指を絡ませる。
「わわっ…!//」
「寝ろ。」
「ありがとう…ございます。」
「・・・。」
「ねぇ、三成さん。」
「・・・。」
「繋いでもらって、こういうこと言うのもなんですけど…。」
「何だ。」
「……その、いいんですか?」
「何がだ…?」
「わたしと手を、繋いで。」
「意味が分からん。」
繋いでほしいと頼んできたのに、それを自ら駄目だと否定するような言葉。
本当に言っている意味が理解できず、三成が眉をひそませていると、
youは身体を少し動かして、顔が見えないような体勢で言った…。
「…三成さんには他に、手を繋ぎたい人が、いるんじゃないかなと…思って。」
「刑部のことか?」
「違いますよ、女の方で、です。」
「・・・ああ、そういうことか。」
「そういうことです。」
「・・・。」
「・・・。」
暫しの間、2人の間に沈黙が広がり、夜の四十万には虫の声だけとなった。
それから、リン…と一際大きい鈴虫の声が聞こえた後、三成がボソリと呟く…。
「ない。」
「ん?」
「そのような存在、私の側に在りはしない。」
「そうなんですか?わたし、てっきりもう結婚してると思ってました。だから、甘えていいのかなって思って。」
「私の目的は秀吉様の仇を討つこと。家康に挑むこと。それだけだ。刑部には結婚を勧められたこともあったが、私はそんなものに費やす時間すら惜しかった。」
「なるほど…。」
「していなくて、良かったと思っている…。」
「え。」
「こうして…戦に負ける結果となったのだから。」
「・・・。」
最後の台詞が聞いていて何とも切なくて、youは三成の手を握る力を少し強めた。
その感覚が伝わり、三成は微かにyouに目を落とす…。
縮こまった身体はまるで猫のようだと、ぼんやり考えていると
youはまた不思議なことを言い出した。
「怒っていいですよ。」
「は?」
「これから……わたしの言う事。」
「…なんだ。」
「戦に…負けてくれて、ありがとうございます。」
「!!」
「……わたしと。」
「…っ?」
「出会ってくれて、ありがとうございます。」
「・・・。」
「わたし、きっと三成さんじゃなきゃ…一緒にいたいと思わなかった。」
「…何故だ。」
「…同じ、においがしたの。」
「・・・孤独か。」
「ううん、ちょっと違う。」
「・・・では何だ。」
三成の質問に、youはすぐに答えた。
それは悲しいかな、三成の心を鷲掴みするほどの言葉。
「寂しい、って……思い。」
本来、武士としてそんな弱さを示すような単語を受け入れたくはなかったが、
大事な人を沢山失ってしまった三成にとってはそれを完全に否定することはできない…。
思わず言葉を失って、二の句を告げずにいると
youが「ごめんね」と小さく謝った。
「似てないのに、似てるとか思っちゃったから。」
「・・・何処も、似てなどいない。」
「そうかなぁ。」
「・・・お前は、私のように汚れていない。」
「・・・。」
「血に肉に…憎悪に…塗れていない。」
「綺麗ですよ。」
「っ…?」
「三成さんは、とても綺麗です。」
「…何故…。」
「お顔も勿論ですけど、心が、とても美しいと思います。」
「心…?」
「うん、そう。」
「お前は本当に・・・変わった女だ。」
「素直に、思ったことを述べたまでですから。」
それはただひたすらに誰かを想って戦ってきたことだったり、
他に大事に想う人を作れば、自分でなくてその相手が辛い目に遭っていたかもしれないと、恐れたり…。
自分の為に生きているようで、誰かの事を想って生きる三成の姿を、
youは儚くも、酷く美しいと思えた。
いつの間にか、youは身体を動かして真下から三成を見上げていて、
それに気付いた三成が驚いたように目を広げる…。
「何時の間に…。」
「ふふ、いつの間にか、です。」
「まだ、何かあるのか。」
「ううん、もう無い。」
「そうか…。」
「おやすみなさい、三成さん。」
「・・・ああ。」
視線が合い、にこりとyouが微笑めば
三成は眉を微かにひそませたまま…しかしそれでも緩やかに笑みを返す。
体勢を戻し、目を閉じたyouからはその日、それ以降言葉が紡がれることはなく…。
再び戻った静寂の中、三成は夜が明けるまで月を眺めて、その美しさを堪能することにした。
まるで
眠るように
穏やかな気分だ
words from:yu-a
*。゜.*。゜.*。゜.*