世界の温度 /トリップ
name setting
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
心が彷徨う気配がする
ふわふわ浮いていて
まるで地に足が着いていないみたい
世界の温度
07:過去
youの話を聞き、涙を拭わせ落ち着いた頃に今度は彼女が三成という存在を問うた。
「三成さんのお話も聞かせてください。」
「・・・私の…?」
「はい。」
「今しがた話しただろう、秀吉様の仇である家康を討つ為関ヶ原に赴き、そこで奥州の伊達に負けたと。」
「うん…でも、そんなざっくりじゃなくて……どうして行き倒れてたのかなって…西軍を再結集させないのかな、とか…。」
「それは…。」
コクンと頷いて#youは「知りたいんです」と言葉を添えた。
三成は微かに眉をひそませ、苦い表情を浮かべる…。
「私の話など…語るほどでもない…。」
「でも、知りたいです。」
「話したく、ない…。」
「・・・ぁ…す、すみません…。」
自分の話を三成に聞いて、受け止めてもらえたことで、youの心はやっと孤独から開放された。
だからこそ、同じように三成も話して聞かせることで、心が軽くなるのではないかと思ったyou。
しかしながら、それはあくまで自分にとっての話であったと…。
三成の拒絶の言葉でハッと気付き、謝ったのだが…。
「聞かせたくない…。」
「え?」
「血肉と憎悪に塗れた私の過去など……今のお前に聞かせたくない。」
「三成さん…。」
ただyouを拒絶するという意味合いで過去を語ることを嫌がったのではないと、三成は言う。
そんな彼の表情は過去を憂うというよりも、ただただ悲痛な面持ちで
此処に無い何処かを見ているようだった…。
youは暫しの間、困った顔を浮かべていたが
すっと深呼吸をした後、三成の頬にそっと手を伸ばした…。
「!?」
「泣きそう。」
「な……ッ、離せ!」
「どうして、貴方は一人でいるんですか…?」
「っ…!」
「三成さんはココに居るのに、心はまだココに居ないみたい……どうして?」
「・・・。」
「何処に、どうして置いてきてしまったんですか?」
「…ふ…触れるな!」
「教えてください、わたし、知りたいです…三成さんがわたしのことを知ってくれたように。」
「触れるな…この罅割れた心に…。」
痛々しいほど震えた声でそう言った三成…。
体現はないものの、きっと心の中では自分で自分の肩を抱いているのだろう。
そうしないと崩れ落ちそうなのだと、流石のyouにも言われずとも分かる。
youはぐんと背伸びをすると、頬に手を添えたまま、自分と三成の額と額をくっつけた。
「…大丈夫ですよ、壊れないように…こうして手を添えます。」
「・・・。」
「それに…私の場合は絶対離しません、三成さんのこと、必要ですから…。」
「……私が、必要…。」
「うん。」
「…面白くも何とも無い、滑稽で哀れな話だぞ。」
「はい。」
「…気分を害すかもしれん。」
「構いません……聞かせてください。」
至近距離でにこりと微笑んで、youはそっと顔を離す。
最後に少しだけ躊躇う表情を見せて、三成はその薄い唇を開いた…。
『私と家康は、かつて共に秀吉様にお仕えする同胞だった』
その言葉から三成の話は始まった…。
youのいる時代の歴史にも残る、安土・桃山時代。
総じて戦国時代とも呼ばれるその中でも、平穏はあったのだと知る…。
魔王と呼ばれ恐れられていた織田信長がこの世を去り、
豊臣秀吉が日の本の殆どを掌握し、治めていた頃に家康と三成は出会った。
立場上反旗を翻してもおかしくない地位にいたにも関わらず、徳川家康は豊臣に下り、
そこで秀吉の許、三成や彼の友人の大谷吉継らと共に戦に赴き、
時には反発し合い、時には喜びを分かち合っていたのだと。
その甲斐あって、もうあとほんの少しで天下を統一できる…。
そんな頃、三成の耳に不穏な噂が届いた。
それは「徳川が謀反を起こそうとしている」というもの。
今まで接してきた限り、三成の中で家康は苦手な人種ではあった。
それは人望であったり、強靭な肉体であったり、陽のように明るい性格だったり…。
自分には無いものを沢山持っている男…それが徳川家康だった。
しかし、それに相反して、自分に似ているとも思っていた。
それはどんな場面でも努めて明るく振舞う彼が、実は裏では苦渋の選択を布いてきたこと。
そして何よりも「絆」を重んじて生きていること…。
勿論彼の言う「絆」と三成自身が思う「絆」には大きな相違があったのだが、
その時は何も疑問に思うことは無く、自分と同じように「秀吉」に仕える事を、豊臣傘下に在る事を「絆」と呼んでいるのだと…。
そう思っていた。
だからこそ、三成にとって家康が謀反を企てるとは考え難く、
もしそうだとすれば思い留めなければと、ある日、直接話をしに行った。
「私は秀吉様のために生きている。貴様も豊臣の一員だ。そう生きろ。」
「何言ってるんだ三成、誰のためでもない、お前はお前のために生きろよ。」
「!」
それは今まで自分と同じと思っていた「絆」の相違に気付いた日だった…。
三成は複雑な表情を浮かべ、吐き捨てるように家康に言葉を投げた。
「貴様なら私の心を分かると思ったのに…もういい。貴様など知るか。」
「それぐらいで怒るなよ、三成…。」
「ならば貴様が謝れ。頭を垂れろ。」
「三成、そんな言い方をしては嫌われるだけだ。」
「では心にもない言葉を吐けばいいのか?貴様はそうやって生きるのか? 」
「三成…ワシは…。」
「煩い、秀吉様こそが至高の絆…それが豊臣だ!」
「それは少し違うはずだ、三成…結局いつでも、最後に遣って来るのは「お前」がどうしたいか、じゃないか。」
「私の事等どうでもいい。誰に嫌われ憎まれようとも、それが秀吉様の恩為となるのなら構わない。」
「三成…。」
そこから、何となく2人の間に会話が無くなっていき、
関係も何処と無くギスギスしたものになっていった…。
顔を合わせる度、三成はあからさまに嫌な顔を浮かべて無言で家康を通り過ぎる。
家康は何か言いたそうに口を動かすが、何も言わず、ただ俯く…。
そんな遣り取りが何度続いただろう…。
結局、そこで家康から離れてしまったことで謀反を察知できなかったのだと…。
自分の所為で秀吉を失ってしまったのだと、三成は言った。
そして、起こる関ヶ原…。
天下の掌握も世の中の情勢も自分にとってはどうでもいい話。
『奴の手足をもぎ、とことん心を殺ぎ落し、死を刻みつけて追いつめてやる』
それほどまでに家康を憎む妄執に囚われ、生きることとなった三成。
いつしか人々は彼を覇王の後継血、涙も無い『凶王三成』と呼ぶようになっていた。
恐怖の象徴となった三成に味方する者は少なく、勢力は圧倒的に徳川の有利だったが…。
それでも豊臣の軍が三成を筆頭に「西軍」と称されるまでの軍勢を成り立たせることができたのは大谷吉継あってこその功績。
大谷吉継。
三成は彼の事を「刑部」と呼んでいた。
「友」と呼ぶことは限りなく少なく、しかし、確かにそれ以上の枠を以って共にいたように思う。
大谷あっての石田三成だったのだと、今なら言える…三成はそう呟いた。
南は九州の島津に黒田、進んで四国の長曾我部、中国の毛利、そして甲斐の虎若子。
多勢に無勢だった徳川対石田の戦を天下分け目とまで言わしめるため、大谷がそれら全ての勢力を集めた。
その為に彼がどれだけ智謀を張り巡らせ、西軍に貢献したか知れない。
誰が途中で裏切ろうと、大谷だけは最後まで三成の隣に在った。
しかし、今にして思えば、関ヶ原で奥州の伊達と対峙した際、共にいたこと其れ自体が仇となったように思う…。
自分には大谷がいつも傍にいるように、奥州の伊達政宗にも
片倉小十郎という、常に共に在る存在がいた。
大将である自分が伊達と斬り合うことで、その側近である片倉の相手は必然的に大谷が引き受けることとなる。
大谷は強い武将であった。
しかし、それは対一兵卆…所謂雑魚、烏合の衆に於いての話である。
元々彼の身体はその全てが病に犯されており、常に御輿に乗って移動しなければならないほどのものだった。
そんな負担をデフォルトで背負った者が「竜の右目」と称されるほどのもののふに勝てるだろうか…。
答えは否、だ。
大谷が瀕死に追いやられたことに気を取られた三成は、その隙をつかれて伊達政宗に倒された…。
「…そこで私の戦(関ヶ原)は終わった…。」
「・・・。」
「家康に辿り着くことさえできなかった力無い私に、秀吉様の仇など取れるわけが無い…。」
「…三成さん…。」
「未だ臓腑の中で湧き上がる家康への憎しみは消えない……だが、今の私にはそれを消化する術さえ無いのだ。」
三成が敗れたことで西軍は崩れ、関ヶ原の戦いは家康率いる東軍の勝利となった。
体勢を立て直そうにも、一人残った三成にその力は無い。
頼みの綱の大谷は消息が不明…。
「…不明?」
youが疑問の声を上げる。
「聞く限りだと大谷さんはその…失礼ですけど、お亡くなりに…なられたのでは?片倉さんに倒されて。」
「確かに…右目の男に刑部は倒された。」
「なら…。」
「だが、私はその死を確認していない。」
「・・・戦の終わった後は…?」
youの質問に三成は少し悩んだ。
否。どちらかというと、悩む…というよりは、難しい顔で記憶を手繰り寄せている状況だ。
その後、ゆっくり口を開いた。
「伊達に倒された瞬間に、私の、家康を殺すという最たる目的が潰えてしまった…。」
「・・・。」
「家康を…秀吉様の仇を討つ…それこそが私の生きる目的、生きる目的が無くなってしまった時点で私は死んでしまったも同然の状態に陥った。」
「・・・。」
「どうしようもなく情けない話だが、その時の記憶は朧気で…刑部の事も…お前と同じように「逝ってしまった」と思い込んでいたから…。」
『全て失ってしまったと思った』
三成はそう言って、俯いた…。
つまりは、全てに於いて持たざる者となってしまった(と思い込んでしまった)事で
三成の心身は空虚となり、当所無く彷徨い歩いて終には行き倒れたのだろう。
そしてそれをyouが助けた…それが事の顛末。
そこまで全てを悟り、youはふむ…と頷いた。
「それじゃぁ、探しましょうか。」
「…?」
何を?という言葉を出さずとも、表情を見れば流石のyouも三成の言いたい事は分かる。
その反応と裏腹に明朗な表情でyouは1つの提案を出した…。
「大谷さん、探しに行きましょうよ。」
「刑部を…?」
「はい、だって…伊達さんは三成さんのことを殺さずにいてくれたんですよね?」
「…いっそ殺してくれた方が良かったがな。」
「またそんなこと言う……。でも、それならもしかして大谷さんも同じかもしれないじゃないですか。」
「・・・。」
「あれ…乗り気じゃない、ですか?」
妙案だと思っていたのだが、三成の顔色を見る限りはそれが快く思われていないのが分かる。
今度は逆にyouの方が頭に疑問符を浮かべた。
それから暫しの沈黙の後、思いつめたような表情で三成が小さく口を開く…。
「お前は…それでいいのか?」
「え?」
「長曾我部に会いに行くと言っていた。」
「ええ、でも…今はそんなに焦ったり急いだりしてないんです。三成さんがいてくれるから。」
「・・・。」
「だから、大谷さんを探す事を優先したって全然構いません!」
自分の目的の事を気にしてくれていたのかと…。
youは感謝をすると併せて、逆に三成こそ遠慮をしないでほしいと笑顔でそう言ったのだが…。
その真意は別のところにあった…。
再び徐に口を開き、眉を潜ませる三成…。
「……怖い、から。」
「え…?」
「もし、必死に探し、辿り着いた答えが刑部の死というものだったら…私は…。」
「…ぁ…。」
「私はそれが怖い……。」
「・・・。」
「私は…情けないことこの上ないな…。」
「そんなこと…。」
「南へ下ろう…。」
「え…。」
そう言って、大谷の消息よりもyouの目的を優先させる意思を示す三成…。
しかし、今まで三成の話を聞いていたyouの中ではそれで納得できない気持ちが上回る。
youは三成の手を取り、祈るように両手で包み込んだ。
「なん…?」
「生きています、きっと。」
「…刑部が、か…?」
「はい。」
「…何故、そう思う。」
「だって……負けた三成さんが生きています。私だって、ただの女で迷子な上にここまで…生きてます。」
「…刑部をお前と一緒にするな、阿呆。」
「ひ、ひどいなぁ…。」
「刑部は……貴様や私よりずっと頭の良い奴だ……だから…。」
「生きてます、よね?」
「……そう、だな…。」
「うん!」
微かに口元を綻ばせた三成に、先ほどの憂いは無かった。
結局2人で話し合った結果、ここから南下する際に関ヶ原での戦の情報…
即ち、大谷のを話を聞き込みながら旅をしていくこととした。
その中ではっきりと大谷の消息が分かればそれを最たる目的とし、大谷に会いに行く。
逆に、確かな情報で大谷の死が判明した場合はそのまま、四国を訪問する。
そう、取り決めて2人は歩き出した。
やっと
出会えた気がする
本当の貴方に
words from:yu-a
*。゜.*。゜.*。゜.*