CYBernetic ORGanism 0(ジェノス)
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CYBernetic ORGanism 0
No reason
鍋の御礼として催した、すき焼きの持て成しは大成功で、
サイタマは久々に大量の牛肉にありつけたと感極まって涙しそうな程だった。
それから数日ほど経ち、サイタマがB級に昇格したお祝いで
youとジェノスが奮闘したりと平和な時間が続いていた。
そんなある日、夕飯の買い物に出掛けていたジェノスの携帯が鳴った。
「もしもし。」
『もしもし、ジェノスくん?今、電話大丈夫ですか?』
「あ、はい問題ありません。夕飯の買い物帰りです。ちょうど信号待ちだったので。」
『あ、外出中だったんですか、じゃあまた掛け直しますよ!』
「いえ、片手は空いてますし、会話は続けられますから大丈夫です。」
『そ、そうですか…?じゃぁ、手短に……いきなり本題で申し訳無いんだけど…。』
「はい、何でしょう?」
『ジェノスくん、来週の日曜とか時間…空いてますか?』
「来週ですか…いえ、先生の観察以外、特に何も予定はありません。」
『(サイタマさんの観察…?)それ予定無い?無いってことでいいんですか???』
「はい、そう考えていただいて構いません。」
『えっと、じゃぁ……お願いがあるんです…。』
「お願い…?」
『はい……実は…一緒に夕飯に付き合っていただきたいんです!』
「夕飯…ですか?」
『ダメ、でしょうか…?』
「いえ、全然……ダメではありませんが…。」
『というのも、実は知人からA市の三ツ星ホテルのビュッフェディナーのペアチケットを譲ってもらったんです!一人では使えないらしいので、ジェノスくんに付き合っていただければと思った次第でして…。』
「え、俺とですか…?」
『はい、ご迷惑でしょうか…。』
「とんでもない、有難いお誘い、是非ご一緒させてください。」
『ほ、本当?!うわわ、よかった!よかったー!ありがとうございます!』
電話越しに『本当にすっごく行きたかったんです!』と、心の底から嬉しそうな声で歓喜され、
彼女の喜んでいるその様子が脳内で再生されたことで、思わずクスリと笑みを零してしまうジェノス。
まだ具体的に何もしていないのに、多大に感謝され、
返事をしただけなのに、まるで彼女に善行を施した気分になってしまう。
「では、来週の日曜ですね。」
『はい、よろしくお願いします!』
「では、夕方前くらいにお迎えに上がります。」
『えぇ?!そんな、態々…!』
「A市は駅も混み合いますし、一緒に行動した方が得策かと。」
『そ、それはそうなんですが……んー、では、お待ちしています。』
「はい、出る前に一報入れますね。」
『はいっ。』
そんなやり取りがあり、当日はジェノスがyouの家に来てから、共にA市へ赴くこととなった。
・
・
・
・
そして、当日。
約束通り、昼をほどよく過ぎた、夕刻前にジェノスはやって来た。
挨拶もそれなりに、会話をしながら目的地へと向かう。
「そんなに行きたかったんですか?」
「そうですよー!折角いただいたのに無碍にもできないし、かと言って他にお誘いできる人もいなくって…。」
「先生に相談すれば良かったのに……きっと喜びますよ?」
「んー、でもサイタマさん、連絡手段お持ちでないですし…。」
「あ、そうか…。」
「あとは、ジェノスくんにお礼も兼ねてです!」
「お礼…?」
「はい!すき焼きの時もサイタマさん昇格祝いの時も買い物とお料理と手伝ってくださいましたし。」
「ああ、あれは俺も先生を祝いたかったし、youさん一人にお任せするのは申し訳なかったからで…。」
「でも、わたしは嬉しかったから…。」
「・・・youさん…。」
「あ!そろそろ目的地近いですよ。」
「そうですね。」
携帯でナビを見たりするまでもなく有名なそのホテルの場所は
youもジェノスも把握している。
そんな有名なホテルビュッフェに誘ってくれて有難いと思いながらも、
お礼を兼ねてとは言えど、本当に他の相手でなくてよかったのだろうかとも思う。
そこでふと考えついたのは、彼女の友人というカテゴリだった。
「そういえば…。」
「ん?」
「ご友人の方などにはお声を掛けなかったんですか?」
「ああ、それはですね……うん、はい…実はそれがジェノスくんにお願いをした大きな理由でして…。」
「はい??」
「これなんですけど…。」
そう言って立ち止まり、徐にyouが鞄の中の財布から取り出したのはビュッフェの招待チケット。
手渡された券の表面には美味しそうな料理の写真が載っており、
今日はそれが食べれるのかと思うと年甲斐無く(しかもサイボーグなのに)ワクワクしてしまう。
ふと、写真に気を取られていたジェノスが券のタイトルを目視だけで一読すると、
そこには『Lovers menu』と記載されており、
裏面の規約に目を通すと『ご夫婦・カップルの2名1組のみ受付』とある。
どうやら、ホテルビュッフェの企画で、
今期間は男女1組での参加が必須のキャンペーン…ということのようだ。
彼女が自分に白羽の矢を立てた理由に合点がいき、
youに「そういうことだったんですね」と声を掛けると、
彼女は少し頬を赤らめてペコペコと謝罪をし始めた。
「すいません、自分勝手で…。」
「いえ、構いません。俺も美味しい料理が食べられるし、有難い限りなので。」
「よくよく考えるとジェノスくんはある意味で有名人なのに…誤解されたら…とか、全然考えてませんでした…ああ、申し訳ない…。」
「誤解…?youさんと俺が夫婦という勘違いをされる…ということでしょうか?」
「あ、予想以上の切り返し。それワンランク上だわ。」
「??」
思わずツッコミを抑えきれず、口から言葉が飛び出すyouであった。
「でも、まぁ、そういう感じです…。」
「俺は別に誤解されて困るような相手はいません。訂正しようとする行為が無駄だと思いますし。」
「そうですか…。」
「youさんこそ、知人の方に会って困りませんか?」
「わたしの事は心配無用ですよ、ジェノスくんが嫌な思いをしないかが心配だったんです。」
「では、同じですね。」
「はい、同じです。」
「では、改めて向かいましょうか。」
「はいっ!」
お互いに気を遣ったのだが、それは不要なことだと再確認した2人。
安心したところで、目的の場所であるホテルへと到着した。
レストランの受付でチケットを渡し、予約していた名前を告げると、窓際の落ち着ける席へ案内される…。
「お料理美味しそうでしたよね!」
「そうですね、折角ですし、俺も思い切り食べようと思います!」
「ではでは早速取りに行きましょうか!」
「はい。」
2人して席を立ち、豪華に並ぶ様々なメニューをいくつも皿に盛って戻ってくる。
最後に飲み物まで席に持ってきて「いただきます」と食べ始めた。
「美味しい!」
「はい、流石三ツ星なだけありますね。」
「ああ、幸せです……このグラタンおかわりしよう…。」
「ん、このローストビーフも美味しいですよ。」
「本当?わたしそれ取ってこなかった…。」
「おすすめです。」
「じゃぁ後で食べてみます!」
流石に一流ホテルの中の三ツ星が付くレストランなだけあり、
美味しい料理の数々に舌鼓を打ちつつ、2人で皿を何枚も取り替えていった。
そろそろお腹が満たされてきたところで、
youは自分にとってのメインディッシュと言っても過言ではないデザートを取って戻る。
戻ってきた彼女の更に乗せられた可愛らしいサイズのスイーツを見て、
ジェノスは本日何枚目かのローストビーフを口元に近づけながら尋ねた。
「もう、デザートですか?」
「うん、そろそろお腹いっぱいになってきたから。スイーツも沢山食べたいなと思って。ジェノスくんは……まだまだ余裕だね。」
「はい!全然余裕です!食べたものは俺のエネルギーになりますから。」
「なるほど!じゃぁいっぱい食べましょう!」
「勿論、折角なのでそうします。」
「わたしは一足先に甘いものでまったりしようと思います。」
「いいですね。」
「はい!スイーツもいっぱい種類があって、凄く美味しそうですよ!」
「あ、いえ、そうではなくて。」
「?」
てっきり、甘いものも手を抜かず、食事と同様に美味しそうだという意味かと思いきや、
言いたいことはそうではない、とジェノスは言う。
では何か?と、youが小首を傾げていると、僅かだがジェノスの口元が弧を描いた。
「甘いものがyouさんのイメージに合っていて、いいなと思ったんです。」
「え…。」
「俺、何か変な事を言ったでしょうか?」
「う、ううん……//」
「あ、飲み物が無くなったので取ってきます。youさんは何か必要なものはありますか?」
「い、いえ、特にないです。」
「では、行ってきます。」
「いってらっしゃい…。」
ジェノスが席を立つと、youは思わず両頬に手を当ててその温度を確かめる。
先程唐突に発されたジェノスからの言葉が何故かとても気恥ずかしくて、
どうしてか顔が赤くなっている気がしたのだ。
最終的にバッグから鏡を取り出し、確認してみたが
特に顔色に変化はないようで、ようやくホッと安堵の息を吐いた。
同時にジェノスも席に戻り、本日何度目かも分からない枚数の皿に持ってきた料理を全く苦も無さげに食べ始める。
鍋の時やすき焼きの時、サイタマの祝いの時も思っていたが、
今日のビュッフェでyouの中で「ジェノスは大食漢」という説は確信に変わった。
しかしながら、彼は始終食べ方も綺麗で、マナーも完璧。食べても体型に全く変化が見られないので、見ていても自分が気分が悪くなることなどは皆無。
サイボーグであるジェノスに限ったことかもしれないが、兎に角とても好感が持てる見事な大喰らいっぷりだ。
あと何回おかわりを取ってくるのだろう…と、呆けていると、
ジェノスが視線に気付いて声を掛けてきた。
「俺の顔に何か付いていますか?」
「えっ?!い、いや、何も!」
「…ぼんやりしていたようですが、もう満腹ですか?」
「ううん、まだ…ロールケーキ…取ってくる予定…。」
「youさんもなかなか食べますね。」
「い、いやジェノスくんには負けます…。」
「はい、まだまだいけます。」
「あはは、まぁ、出禁にならない程度にしないとですよ?」
「そうでした!その可能性もありますね……気を付けます!」
指摘されて気付いた事項にハッとするジェノス。
小さな声で「あと2回…いや、3回くらいなら…」という呟きが正面から聞こえてきて、youは思わず笑ってしまった。
そんなこんなで、結局自重したのかしていないのか…
ジェノスはそれから食事を3回往復し、最後にデザートを食べてディナーは終了となった。
最終的にチケットがあるため会計は無かったものの、
カウンタースタッフには怒りを通り越して呆れ顔で見送られてしまった。
それから2人でエントランスに向かってホテルのロビーを歩いている途中、
ふいにジェノスは名を呼ばれて後ろを振り返る。
「ジェノスくん?」
「…お前は…。」
「久しぶりだね。」
ニコリ、と綺麗過ぎる笑顔を向けた男…。
「アマイマスク…何故ここに…。」
「今日はオフの日でね。僕も気に入ってるんだ、ココ。最上階に落ち着けるバーがあって…だからたまに来る。君は……デート?」
決して嫌味ではない、零す様な笑みでくすっと笑い、
ジェノスと、その隣にいるyouを交互に見つめるのはアマイマスク。
ジェノスと同じヒーローで、かつ芸能活動も行っている、
あらゆる方面でその名が知れ渡っている美青年だ。
メディアへの露出も多いため、一般人であればその顔と名前を知らぬ者はいない、というくらいだ。
勿論、youも知っており、目の前にその本人が現れ、驚きで目を見開いている。
ジェノスが無表情で「答える必要はない」と一蹴するが、
その拒絶を感じてもなお、何処吹く風とばかりにアマイマスクはyouに話しかける。
「はじめまして、アマイマスクです。」
「あっ、はい……youと申します。ヒーロー……イケメン仮面のアマイマスクさんですよね。TVでもよく拝見させていただいてます。」
「僕のこと、知っててくれてありがとう。」
「はい…有名ですから。」
「それじゃぁ、僕はこれで失礼するよ。デートの邪魔しちゃ悪いしね。」
「いえ、あの・・・。」
笑顔で去ろうとするアマイマスクに、
デートではないと誤解を解くために微かに口を開いたyouだったが、それはジェノスによって阻止されてしまった。
というのも、彼女が否定の言葉を告げるより先に、
ジェノスが「行きましょう」とyouの手を取り、歩き出したからだ。
急に動き出したジェノスに合わせるのに必死で、
足元ばかり見ていたyouの耳に、アマイマスクの声が届いた。
「あ、そうだジェノスくん。」
「?」
「このホテルの近くに夜景が見えるタワーがあるの、知ってる?」
「知らないが。」
「行ってみるといい、とても綺麗だから。」
「……失礼する。」
ヒラヒラと、笑顔でジェノスとyouに向かって手を振るアマイマスクの姿は
既に背を向けて歩き出している2人の視界に入る事はなかった。
去り際が急過ぎて、アマイマスクにちゃんとした挨拶ができなかったことを申し訳なく思いながらも、
それ以上に掴まれた手を引くジェノスの歩幅に合わせることに全神経を集中させなければと足元に視線を向ける。
ジェノスと自分のコンパスに差があり過ぎて、気を抜くと躓いてしまいそうになる。
ホテルを出て約10メートル程は頑張ったが、結局はスピードに付いて行けずにとうとう足が縺(もつ)れてしまった。
「っわ!」
「!!」
躓いて前のめりに転倒しそうになったyouの身体を素早くジェノスが支えた。
そのことでハッと我に返ったのか、今までの無表情と無言が嘘のようにオロオロと戸惑いを顕にするジェノス…。
「すっ…すみません!すみません、youさん!俺、手を無理矢理引っ張って…!歩く速度もyouさんの歩幅を考えずに…!!」
「う、ううん…ごめんなさい、わたしこそ…躓いちゃって…。」
「いや、俺の所為です…すみません…。」
「いやいや、支えてくれてありがとう、ジェノスくん…。」
「…youさん…。」
申し訳なさそうにしゅーんと、眉を寄せて俯くジェノスが叱咤された後の犬のようで、
その身長に似つかわしくない言葉ではあるが、思わず「可愛い」と思ってしまうyou。
くすっと一つ笑みを零したあと、ゆるりと支えてくれるジェノスの腕を解いて呼び掛けた。
「ジェノスくん…。」
「はい…。」
「折角ですし、アマイマスクさんが仰っていたタワーに行ってみませんか?」
「え…。」
「もう、お家帰られます?」
「い、いえ………行きましょう!」
言葉を沢山発したことで、まるで自分を取り戻したような感覚だと思うジェノス。
しかし、ではなぜ、今まで我を忘れていたのかと…。
巻き戻して考えようかと軽く瞼を落とした時、youからそれをまさに問い掛けられた。
「でもジェノスくん、どうして急に歩き出したんですか?もしかしてアマイマスクさんのこと苦手だったり??」
「いえ、全然…苦手という程、彼には関わりを持っていないです。」
「んー…じゃぁどうしてですか??」
「分かりません。」
「・・・?」
しかし自分でもアマイマスクが原因だとは理解している。
ただ、言葉で説明できるような確たる原因が思い付かない…。
「タワーに着くまで、少し考えてみます。」
「あ、いや…でも気になっただけですし、ムリに考えなくても…いいと思いますよ。」
「いえ、俺も気になるので。」
「そう、ですか?」
「はい。」
では、思考に移らせていただきます…とばかりに急に無言になったジェノス…。
気まずくはないものの、意図的に話を途切れさせているという異様な沈黙のまま2人はタワーへとやってきた。
入場券を購入し、最上階までのエレベーターに搭乗する。
数組のカップルらしき男女が同じ空間を共有しており、夕飯の話や学校の話で盛り上がっている。
彼等の様子を見て、幸せそうだなとぼんやり考えてしまうyouだった。
ポーン、と最上階に到着したという合図の後、エレベータが開き、皆一様に外へ出る…。
「わぁ…!」
眼前に広がるパノラマの夜景に思わず感嘆の声が漏れたyou。
パタパタと少し小走りに、ガラス窓へと向かった。
「きれい…。」
「はい、とても美しい夜景ですね。」
「うん……ほんと。」
「…youさん……。」
「はい?」
「先程の理由…ちょっと、考えてみたんですが…。」
「あ、さっきのですか?」
「はい。」
アマイマスクが現れてから急変した態度に関して、ジェノスは本当にココへくるまでに思考を巡らせていたようで、
その理由を自分なりに考えてみたので聞いて欲しいと告げてきた。
分からなくてもいいとは言ったものの、もし理由が分かるならばそれに越した事は無いということで、
youも気になっていた手前、素直に教えてくださいと、黙り込み、聞きの姿勢をジェノスに示す。
「やっぱりよく分かりませんでした。」
「わお。」
ガクッと僅かにこける様なジェスチャーを起こし、予想外のジェノスの言葉にあからさまな反応を返すyou。
しかしながら、ジェノスもここで終了させる気ではないようで、
続きがあります、と再び口を開いた。
「ただ……youさんの言葉を遮った理由は……分かります。」
「あ、そういえば遮られましたね。」
「あの場から離れようとした理由はよく分かりませんが、遮った理由はyouさんの口からアマイマスクに否定の言葉を告げてほしくなかったのではないかと思います。」
「んん?よく分からない。わたし、何か否定しました?」
「いえ、否定の言葉が発される可能性を見出した俺が、言葉を遮ったんです。」
「えっと……何の話してました?忘れてしまいました。」
「それは……。」
都合が良いような悪いような…。
youはアマイマスクとの会話の内容をここへ来るまでの間に忘れてしまったらしい。
そもそも、出会ってから少し挨拶を交わしただけで、すぐに分かれる事となったので、
会話内容などあって無い様なものな上に、覚えている方が難しいワケで…。
気になったyouは教えてほしいと懇願するものの、
ジェノスにとってはどちらかといえば不都合なことであるため、彼は黙秘することを決定付けた。
「いえ、やはりお伝えしないことにします。」
「えぇー!気になります!」
「俺にとっては不都合になる気がするので、お伝えしないことにします。もう決めました。」
「そんな……ジェノスくんの意地悪…。」
「すみません……何故不都合になるのか、自分でも不思議です。」
「曖昧ですね。」
「ええ、とても。」
「まぁ……そこまでジェノスくんが嫌がるなら…無理には聞きませんが。」
「ありがとうございます。」
「でも、不都合じゃなくなったら教えてくださいね?」
「……分かりました。」
「約束です。」
「はい。」
指きりです、とスラリと伸びた小指がジェノスの前に差し出される。
器用にyouのその指に自身の機械の小指を絡ませ、2人は指きりを交わす。
そして、指きりが終われば、またyouは視線を景色へと移した。
指きりなんてことをしたのはいつ以来だろうか…。
離された小指に彼女の細い指の感触が何となく残っている気がして、
今は無くなってしまったことに対し、ジェノスはよく分からない焦燥感を感じた。
じっと小指を見つめていると、ふいにyouに声を掛けられ、彼女の横へと移動する。
「ねぇ、ジェノスくん……Z市って見える?サイタマさんいるかなぁ…?あ、J市ってどっちだろ…?」
「此処からはどちらの市も見渡すのは難しいですね。先生は流石に見えないですよ。」
「ふふ、そうだよね……残念。んー、じゃぁ、さっきのホテルってあそこかな?」
「いえ、そっちではなくその向こうの…。」
「え?どこ??あれ?」
「いえ、そこではなく……あちらの……っ!?//」
「あっ、あれか!分かった、ありがとうジェノスく……っわ!//」
なかなか見つからない目的の場所を示すため、ジェノスは身を屈めてyouと同じ目線で指をさしていたのだが、
ふと隣を見た際に間近に互いの顔があり、目が合ってしまった。
ジェノスの整った顔を間近で見て、youは緊張と驚きで耳まで真っ赤に染まったのだが、
まさかの、サイボーグであるジェノスにも幾分の変化が起こっていた。
自身の体温設定を変更したわけでもないのに、全身の温度が上昇している。
「(どうしたんだ……一体……体温が…。)」
「あーびっくりした…//」
「す、すみません……驚かせてしまって。」
「ううん、わたしの質問にジェノスくんは答えてくれただけだし。」
「それはそうなんですが…。」
「やっぱりジェノスくんは近くで見てもカッコイイですね……緊張して思わず汗が出ました。」
「カッコイイ…ですか。」
「はい。」
「・・・。」
「?」
「少し、おかしな事を聞いてもいいですか…?」
「おかしなこと?別に構いませんよ?」
なんですか?と小首を傾げたyouに、ジェノスは本当に、自分自身で何を尋ねているんだろうかと、
頭に疑問符を何個も浮かべながら問い掛けた。
「youさんは…俺とアマイマスクと…どちらの顔が好みですか?」
「え?」
「面倒だったり答え辛いなら、お答えいただかなくても結構です。」
「ジェノスくん。」
「え?」
「アマイマスクさんもすごく素敵だなーって思ったけど、わたしはジェノスくんの方が好きです。」
「…そう、ですか。」
「勿論、アマイマスクさんのことよく知らないっていうのもありますけど…。」
「確かにそうですね。」
「でも、お顔もわたしはジェノスくんの方が純粋に好みです。」
ニコニコと素直な感想を述べるyou。
割と深刻に尋ねたジェノスだったが、あまりにハッキリとした理由で即答され、思わず呆気に取られてしまった。
何の反応もできないままでいると、
不安に思ったらしいyouが慌てて言葉を次々にぶつけてきた。
「はっ!でも、勿論ジェノスくんの顔が好きだから友達になろうとしたわけじゃないですよ?」
「え。」
「お友達になりたいと思ったのも、怪我を心配するのも、ご飯にお誘いしたのも、ジェノスくんが素敵な人だと思ったからです!」
「え、と…。」
「だから誤解しないでくださいね!」
「は、い…。」
「強くなりたいって頑張ってるジェノスくんを知ってるから、応援したいんです!」
「・・・。」
「わたしのかすり傷を心配してくれたジェノスくんが優しい人だから、好きなんですよ。」
「っ…?!」
刹那、バチッとコアのエネルギーがオーバーワークした。
一瞬で治まったものの、先程からの体温の上昇といい、自分の身体の様子がおかしい。
クセーノ博士からは異常は見受けられないと言われたが、どう考えても異常である。
しかも、必ずと言っていいほど、いつもyouがいる時にそれは起こる。
「(つまり体内異常の原因は……。)」
「ジェノスくん?」
「youさん…。」
「はい?」
「嬉しい言葉、ありがとうございました。」
「あ、いえ……すいません、何か熱弁を…。」
「先生のように強くなれるよう、頑張ります。」
「はい!」
「俺にはハードルが高いですが……優しくなれるよう、努力します。」
「ジェノスくん…?」
「今日はありがとうございました。」
「…ううん、こちらこそ。」
「そろそろ帰りましょう。家まで送ります。」
「…ジェノスくん…。」
「youさん、帰りましょう。」
「…うん、分かりました。」
帰ってほしい、一人になりたい、否。
「(わたしから、離れたい…。)」
少しだけ歪な微笑みと、優しくも急いた言葉の奥に強い拒絶を感じた。
理由は分からないが、ジェノスは今、自分を避けたいのだと感じたyou。
自分の伝えた言葉に彼を傷付けるものがあったのだろうか、
分からないが、だとすれば申し訳ないの一言に尽きる。
謝罪をしようかとも思ったが、それで理由を掘り下げていける雰囲気ではない。
結局、何も確信に迫る事はできずに、家に辿り着いてしまった。
送り届けてすぐにその場を去ろうとするジェノスを思わず呼び止める。
「あのっ、ジェノスくん…!」
「はい。」
「…また、今度…今度はサイタマさんも一緒にご飯食べましょう。」
「すみません……暫く、俺は…youさんとは会わないと思います。」
「…どうしてですか?」
「……理由は…ありません。」
「理由もないのに…?」
「すみません、ただの自己都合です…。」
「ごめんなさい。」
「!!」
暫し俯いていた間に、彼女の表情は大いに崩れていた。
youの発した震える声に違和感を感じて顔を上げれば、
両の目から大粒の涙を流す姿がジェノスの視界に飛び込んできた。
「理由もなく会いたくないって思わせるくらい酷い事、わたし…ジェノスくんにしたんですね。」
「ちっ、違…ッ!」
「ごめんなさい。でも、仲良くしてくれてありがとうございました……楽しかったし、すごく嬉しかった…。」
「ッ…!」
「会えなくなっても、ずっと心配してるから…応援も、しますから…っ。」
「あ、youさ…。」
「おやすみなさい、今日は本当にありがとう。い…今まで、も…ありがとうございました…。」
くるりと有無を言わさぬ速度で踵を返し、彼女は家へと駆け入ってしまった…。
背を向けた彼女には見えていなかっただろうが、ジェノスは伸ばした手を途中で止めていた。
引き止めることをしなかったその腕は今尚空を掴んでおり、
バタンとドアの閉まる音と共に、そのままストンと無気力な様子で重力に沈んだ。
*。゜.*。゜.*。゜.*
理由なんてない
ただ肩を掴んで
思い切り
抱きしめたかった
*。゜.*。゜.*。゜.*