CYBernetic ORGanism 0(ジェノス)
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CYBernetic ORGanism 0
Gentle Natur
「ここ……なのかしら…。」
Z市のとあるアパートの上階を見つめ、そのエントランスに佇む一人の女性。
「おい、貴様…。」
「ひあぁっ?!!」
そこに現れたのは一人のヒーロー。
S級ヒーローのジェノスであった。
彼は彼女の肩を後ろからガシリと機械の腕で掴み、声を掛ける。
「このアパートの前で何をしている……最近先生の家の周りをうろついていたというのはお前か!!さてはお前も先生のストーカーだな!!?」
「すすす、ストーカー?!ち、違います!誤解です!確かにこの辺りをウロウロはしていましたが!ひ、人を探していて…!」
「何…だが、この辺に住んでいる人間など、俺と先生以外にはいない!」
故に、敵!と、判断したらしい。
掴んでいた肩を離し、ドンと背中を押せば、
女の体は途端にぐらついてその場に倒れ込む。
恐怖でカタカタと震えだした彼女を、尚も疑うジェノス。
いつでも掛かって来いとばかりに、手砲を打たんと臨戦体勢をとる。
「そ、そうなんです!ヒーローのサイタマ?さん…と、あ、貴方のことも探して…!!」
「先生と俺を…ヒーローとして探していた?」
「は、はい…。」
「先生のストーカーや、敵…ではないのか?」
全力でコクコクと何度も頭を縦に振り、敵意が無いことを示す。
「では何故先生と俺を探していた?」
「お……お礼を…い、言いたくて!」
「お礼……?」
「はい…っ!」
「先生に……礼…?」
「そうですっ……あと、本当、本当にわたし民間人で…!」
そう言われて、改めて彼女を見てみると、自身の機能でサーチせずとも、
見た目で分かる程、まったくその体は鍛えられてなどいない。
超能力者(サイキッカー)という線も無いことはないが、そも、殺気が感じられない。
本当にただの民間人なのだと理解すると、次にジェノスを襲ったのは罪悪感。
確かに、改めて振り返ってみると、声を掛けた後は一方的に言葉で攻め立て、突き飛ばし、
あまつさえ、牽制も兼ねていつでも手砲を食らわせることができるように彼女の頭に向けて戦闘体勢をとっているときたものだ。
ハッと(一応)ヒーローとしての我に返り、今にも泣きそうになりながらその場にへたり込む彼女に謝った。
「も、申し訳ない…思わず先生のストーカーか何かかと怪しんでしまった。」
「い…いえ……人の家を探すなんて、勘違いされても仕方ないです…。」
「突き飛ばしてしまってすまない……怪我はないか?」
「あ、大丈夫ですよ…はい!」
「!」
心配しなくていい、と向けた掌に既にバッチリ血が滲んでいた。
倒れ込んだ時にできた些細な掠り傷で、ほんのり痛みを感じるくらいだったので、彼女自身気付かなかったらしい。
ジェノスはギョッと目を見開き、その手を取った。
「血が!」
「え、あ、ほんと。」
「も、申し訳ないことを……!」
先程の高圧的かつ攻撃的な態度が一変。
嘘のように丁寧に接し始めたジェノスに恐る恐るではあるものの、
しっかりした言葉で会話ができるくらいには彼女は意識を持ち直した。
「気にしないでください、このくらい…。」
「手当てをしましょう。家に上がってください。」
「い、いえ!本当に大丈夫なんで!(敬語になった?!)」
「しかし…。」
「ちょっとこのまま……ここにいます。」
「いえ、危険ですよ。怪人が出るかもしれませんし、怪人でなくてもあまり治安の良い地区ではないので…。」
「・・・。」
「あの…もしかして…。」
「・・・//」
流石に「はいそうです、実は貴方に殺されかけて腰が抜けてしまいました」とは正直に言い放てず…。
そのまま、羞恥で真っ赤に染まった顔を下に向けたままでいると、
急に横から腕が伸びてきて、あっという間に視界が上昇した。
「!!?」
「僭越ながら抱いてお連れします。」
「~~!!//」
女性を1人軽々と抱きかかえ、アパートの階段を苦もなく上がっていくジェノス。
その姿はまさにヒーローといったところ。
家の前に着いてからも、器用に鍵を開け、靴を脱ぎ、居間へと入っていった。
その後、カーペットの上に彼女を降ろすと、彼女の靴を預かり、玄関へと置いてくる。
「す…すみません、本当に…色々…何もかも…。」
「こちらこそ、女性に怖い思いをさせてしまった。」
「わ、わたしが悪いんです…怪しかったと思いますし…それにこんな……その、お、重かったですよね…。」
「重い?」
「た……体重です…。」
「ああ、全然。発砲スチロールのトロ箱みたいに軽かったですよ。」
「うわー、凄い比喩。」
普通そこは「羽のように軽かったですよ(ニコッ)」と、爽やかさとイケメンさをアピールするシーンなのでは?
確かに考えると大変軽かったという喩えにはなる。
だが、そのチョイスはあまりに残念すぎる。
何だかこの青年はとても残念なイケメンのニオイがするぞ…と、彼女の中にそっとそんな考えが過ぎる。
だがしかし、それはそうと、気付けば彼女は当初の目的を忘れそうになっていた。
ハッとそれに気付いて、ずっと手に握り締めていた紙袋をジェノスに手渡した。
「これっ!どうぞ!受け取ってください!」
「え…?」
「お礼の菓子折りです…大したものではないですが…。」
「いえ、ありがとうございます…しかし、何で…?」
「どうしましょう、どこから話せば…。」
「あ、とりあえずお名前を教えていただけますか?」
「やだ!そうだ、わたし自己紹介すらしてませんでした…すみません!」
「いえ、それすらできない状況でしたから…。」
「ええと、わたし、youと申します。」
「youさん。」
「ええ、この度、サイタマさん?と、ジェノスさんに感謝を伝えたくて…。」
「はぁ。」
「勿論、他の沢山のヒーローさん達にも感謝のお手紙をお出ししたんですが、サイタマさんとジェノスさんだけには、どうしてもお会いして気持ちを伝えたくて…。」
「先生と俺だけ、ですか…?」
「ええ。」
確かに、色んな場面で怪人を退治し、ヒーローとしての活動を行ってきたし、
それなりに人を助けた場面もあったかと思う。
だが、彼女一人を救ったという記憶は大分昔の記録を掘り起こしてみても見当たらない。
その他大勢を一緒に救った時にいたのかもしれないが、
それにしては態々危険地区であるZ市のゴーストタウンに赴くなど、随分と熱意がこもっている。
そんな、ジェノスの理解できない…という雰囲気を察し、
youは微かに苦笑を浮かべてその理由を説明し始めた。
「先日はJ市を救っていただき、本当にありがとうございました。」
「J市…というと、あの海人族の騒動の…?」
「はい。わたしはJ市に住んでいましたので。」
「それで先生に御礼がしたいということだったんですね!」
「ええ。」
「では、俺へも礼を、だなんて不相応です……俺は結局何もできなかった。全てサイタマ先生が…。」
先日、海人族に襲撃されたJ市の住人だというyou。
彼女の至ってシンプルな説明で、怪人らの親玉である深海王が住民達が避難していた大型のシェルターを襲った際、その場にいたのだということが理解できた。
だからこそ、自分の戦う姿と、そして恥ずかしくも敗北する姿も見ているはず。
それなのに自分にまで礼を伝えにくる必要は無いだろう、寧ろ無力だった自分を思い出し、
師と比べて惨めなってしまうではないか…と俯くジェノス。
そんな彼にyouは「そんなことはありません!」と強く言葉を発した。
「貴方がいたから、あの子は…!」
「あの子…?」
「ジェノスさん、覚えてますか…シェルターに怪人がやって来て、逃げる私達を一人も逃がさないって追いかけようとした時、ジェノスさんに声援を送った女の子。」
「女の子……はい、覚えています。」
「あの子を庇ったことでジェノスさんは結果的に負けてしまいましたけど…。」
「貴女はあの子の…。」
「わたしはあの子の先生なんです。あ…っていっても学校とかじゃなくて、公民館みたいなところで習字とかピアノとかそういうのあるでしょ、そういう習い事の先生。」
「では、あの子はyouさんの教え子だったんですね。」
「はい、そうなんです……あの子はお父さんとシェルターにいたので、わたしが傍にいたワケではないですが、近くにはいたので…。」
「だとしたら余計に……あの子やyouさん達を守りきれなくて申し訳ない…。」
「あんな恐ろしい怪人に立ち向かっていくことができるだけでもう、ジェノスさんはわたしたちのヒーローです。」
「youさん…。」
「あの時、あの子を守ってくれてありがとうございました。」
「・・・。」
「がんばってください……ずっと、応援し続けますから。」
「…ありがとうございます。」
例えば、懺悔や後悔を自分以外の誰かに向けて放っても、意味のないことで…。
結局自分の中で消化するしか道は無いものである。
ただそこに、誰かの言葉が添えられるだけで、努力できるかどうかは変わってくる。
だとすれば、彼女がジェノスへ向けて送った言葉は全て彼が更なる努力をする糧となっただろう。
そんなこんなで会話を続けていると、玄関からガチャリと鍵の開く音がして、
それはそれはのんびりとした「ただいま~」という声と共に家主である男が現れた。
「先生!」
「おじゃましています。」
出迎えた(自称)弟子と…見知らぬ女性に「おー…」と曖昧な反応を見せると、
買い物してきたものを全て冷蔵庫や戸棚に仕舞い、2人の傍に着席し、一息吐いた後、やっと次の言葉を発した。
「で、誰?」
「こちらはJ市にお住まいのyouさんです。」
「どうも。」
「youさんはご存知でしょうが、こちらがサイタマ先生です。」
ジェノスの紹介にサイタマが挨拶をすると、それに対し、ペコリと頭を下げるyou。
そこからは自分で話します、とyouが口を開いた。
「サイタマさん、先日は怪人からJ市を救っていただき、ありがとうございました。」
「J市………ああ、あの珍海王とかいうやつか!」
「え、ええ……多分…深海王…だと思いますが、それです。」
「え、何?もしかしてこんなトコまでわざわざ直接文句言いに来たのか?!」
「え?も、文句…?」
「そんな暇なことやるくらいなら、お前、ちゃんと真面目に毎日働いた方がいいぞ?」
「は、はぁ…。」
よく分からないが、ジェノスと出会った時と同様に激しく何かを勘違いされているらしい。
しかも、ちゃんと働いている中での休みにやって来たのに…そのことを伝えるべきだろうか?
いや、だがその切り返しだと、本体の目的から大分逸脱してしまう、自分はただ、礼を述べに来ただけなのに…。
と、youが困っていると、両サイドの事情を全て理解しているジェノスが軌道を修正してくれた。
「先生、違います。俺も勘違いしましたが、先程開口一発言っていたようにyouさんは先生にお礼を言いにきたんです。」
「礼…?」
「はい!あと、youさんはちゃんと働いています、先生と違って。」
「ジェノス…お前俺に何か恨みでもあんのか…。」
ズゥウウン…と、意気消沈するサイタマ。
そのあまりの落ち込みっぷりはあまりに見事で、逆にyouがフォローを入れる。
「で、でもほら、ヒーローをされてますし!それが職業のようなものですよね!」
「まぁ、そうかもしれませんね……活躍に応じて報酬が支払われますし。」
ジェノスの言葉に「報酬、お前より少ないけどな」とサイタマがボソリと呟いた…。
一瞬、沈黙が漂ったが、気を取り直して!と、youがサイタマに向き直る。
「えっと、はい…!サイタマさん!」
「ナンデショウ…。」
「改めて自己紹介をさせていただきますね…先程ジェノスさんにご紹介いただいたのですが、youと申します。」
「あ、どうも、サイタマです。」
「先日はJ市を怪人の手から救っていただき、ありがとうございました!」
「いや…でもあれは…。」
「わたしはシェルターにいましたので、お二人の活躍をこの目で見ていました!」
「だったら…見てた通りだよ、沢山のヒーローが敵を弱らせてくれたから…。」
「嘘は吐かなくていいんですよ、それを信じてたら態々探してここまで来ませんし。」
「あ、そうなの。」
「はい、実は一度別のところでサイタマさんが活躍するシーンを見たことがあったので…深海王を倒したときも疑う余地なんて無かったです。」
「そっか……見てるやつもいるのか…。」
「これからも応援してます。無理せずに頑張ってくださいね。どうかお身体ご自愛ください。」
「おお、ありがとな。」
彼女のとても丁寧で心からの感謝の言葉に、普段からあまり賞賛されることのなかったサイタマはじんわりと心が温かくなるのを感じた。
思わずすわりと笑みを浮かべるサイタマを見て、
ジェノスは当の本人以上に嬉しそうな表情を浮かべるのだった。
「よかったですね、先生!」
「ん、そだな。」
すると、ふと、何か思い出したようにyouが「あ!」と声を上げ、自分の鞄から手紙を1通取り出し、それをジェノスに手渡した。
「ジェノスさん、これを。」
「これは…?」
「あの子が書いた手紙です。預かってきました。」
「もしかして……この手紙のために態々…?」
「ええ、まぁ…あの子をZ市に連れてくることはできないですからね……。あ、でも、わたしがサイタマさんとジェノスさんに直接お礼が言いたかったのもありますし!」
「拝見してもよろしいですか?」
「勿論!読んであげてください。」
可愛らしいキャラクターが描かれたピンクの封筒を機械の手にも関わらず、器用に開封するジェノス。
出てきた用紙も封筒とお揃いの仕様になっており、
女の子の頑張って丁寧に書いた文字が少しだけ不揃いに並んでいた。
正面から一読するジェノスの横から、なになに?とサイタマが顔を出し、覗き見る。
「俺も見ていい?えーと『きかいのお兄ちゃんへ……この前は助けてくれてありがとう……ふむふむ。」
「・・・。」
文章全てに目を通し、ジェノスは元の通りに手紙を折りたたみ、丁寧に封筒に仕舞った。
「先生、youさん。」
「ん?」
「……今までもらった中で、一番嬉しい手紙かもしれません。」
「そっか……よかったな、ジェノス!」
「はい!」
「youさん、素敵なファンレターを届けてくださってありがとうございます。」
感慨深そうに手紙を読む表情から一変し、パッと明るい笑顔をジェノスから向けられ、
一瞬だけ驚いた顔をするyouだったが、すぐに柔らかな笑みを浮かべ、彼に言葉を返した。
「いいえ、こちらこそ届けた甲斐がありました。あの子もすごく喜ぶと思います。」
「手紙のお礼と……あと、これからも頑張ると伝えてください。」
「はい、必ず。」
そうして、目的を全て達したyouが「今日はありがとうございました」の言葉と共に、時計を確認すると、時刻は午後七時半。
予定より随分遅くなってしまったため、
窓の外を見るともう既に夜の帳が下りていた。
「すいませんこんな時間まで……すっかり遅くなってしまいました!」
「こちらこそ、お待たせしてしまってすいません…あの…。」
立ち上がったyouにジェノスが何か言葉を続けようとした矢先に、サイタマが彼女を引き止めた。
「なぁ、折角だから夕飯もウチで食べてけよ。」
「え?」
「今日、鍋にしようと思ってさ。男2人で鍋つつくのもアレだしさ。よかったらどうぞ。」
「え、と……本音はお呼ばれしたいのですが…帰りが遅くなるとこの辺りは特に危ないと思いまして…。」
「帰りは心配すんな。ちゃんと俺かジェノスが送ってくよ。」
「そそそそんな!お二人の手を煩わせるなんてできません!」
youは両手を前に突き出し、首といっしょにブンブンと振る。
その様子を見て、サイタマとジェノスが顔を見合わせ、笑い合った。
「ってコトは、鍋は食べたいってことだよな?」
「帰りは俺が送りますから心配しないでください。全然面倒ではありません。」
「よーし、じゃ、準備するか。って言っても切って鍋に入れるだけだけどな。」
「あ、先生、ちょうどyouさんからお菓子の手土産をいただいたので食後に皆で食べましょう!」
「マジか!サンキューな、you!あ、youさん。」
わっと盛り上がり、早速準備に取り掛かろうとするサイタマたち。
youはというと、その勢いに気圧されたのか、
とりあえずサイタマに「呼び捨てで結構ですよ」と伝えるので精一杯であった。
・
・
・
・
「あー美味かった。」
「はい、鍋もyouさんからいただいたお菓子も美味しかったです。」
満腹になったと、その場にゴロリと寝転がるサイタマ。
youはそれを見てくすくすと笑い、
後片付けをし始めたジェノスを手伝う。
シンクに洗い物を持っていき、ジェノスに場所を代わるよう申し出た。
「ジェノスさん、わたしに洗わせてください。」
「いえ、俺がやりますよ。」
「ご飯をご馳走になったのに、何もできずに申し訳ないです…なので、せめて後片付けくらいさせてください。」
「…分かりました、ではお言葉に甘えて、洗い物をお任せしますね。俺は隣で食器を乾かします。」
「はい!」
それからyouが食器を数枚洗い流したところで、
ジェノスが隣でその食器に向けて掌を向ける。
それは出会い頭に排除すると向けられた手砲では?!
食器を粉々にする気なのか?!
ていうか家まで粉々になるのでは?!
…と、youが生唾を飲み込んだ刹那…。
掌からブオーッと噴出した風…。
どうやらドライヤーのような機能で、熱風が出ているようだ。
あっという間に食器が乾いていく…。
「べ……べんりな機能ですね。」
「温度調節次第ではこういうこともできるんですよ。」
「…なるほど。」
確かに、加減によっては日用品にも武器にもなる得るのか…と、妙に納得してしまうyouだった。
そして全ての片付けを終えて、2人はリビングに戻り、
未だその場でゴロゴロしながら漫画を読んでいるサイタマにyouが声を掛けた。
「サイタマさん、今日は本当にありがとうございました。夕飯までご馳走になってしまって…。」
「いいっていいって。嬉しかったし、楽しかったし。あと、お菓子もありがとな。」
「いえ、大したものではないですが。」
「また来いよ。」
「いいんですか?是非お邪魔したいです……あ、でも…。」
「ん?」
「よかったら今度はわたしの家にいらっしゃってください!今日のお鍋のお礼にわたしも何かご馳走したいです!」
「え、マジ!?」
「はい!今日はお鍋でしたから……次はすき焼きとかいいかもですね。」
「すき焼きッ?!!」
「え…ええ?」
「お前それマジで言ってんのか?!すき焼きだぞ?いいのか?!牛肉だぞ…?!」
「は、はい…。」
「うぉお!行く!絶対行く!冗談じゃないよな?社交辞令で、言うだけ言ってみましたとかじゃなくて?」
「ほ、本当です……あの、来ていただけるなら…。」
「行かせていただきますっ!」
キリッと、本気モードの目をyouに向けるサイタマ。
更にその進撃は続く。
「あ!社交辞令じゃないなら日時決めとこうぜ!」
「い、今ですか…?えっと、休みはどうだったかな…。」
「あ、そうだ!ジェノスお前が携帯の番号聞いといてくれよ!そんで日程決まったら俺に教えてくれ!俺、基本携帯使わないし。」
ヒーロー協会から支給されたものすら持って出掛けない…。
お前はそれを知っているだろう?とでも言うように、サイタマがくるりとジェノスを振り向く。
「え、お、俺がですか?」
「ああ、頼む!」
「すいません……youさん…先生はどうしてもすき焼きが食べたいようです…。」
申し訳なさそうな声色でそう告げると、ポケットから自身の携帯を取り出し、youに向き直るジェノス。
youも慌てて鞄から携帯を取り出し、自分の番号を表示させる。
「あの…いいんですか?わたしがジェノスさんの番号教えてもらっても…。」
「俺の方こそ、すみません。」
「いえ、わたしは嬉しいです!ご迷惑でなければ今度あの子に電話を繋いであげたいんですが……いいですか?」
「ええ、構いませんよ。」
サイタマと自身を作り上げた博士以外との友好関係を築こうと思わなかったジェノスだが、
どこまでも自分以外の人のことを思って行動するyouには好感が持てたため、不思議と連絡先を交換することを嫌だとは思わなかった。
連絡先の交換を終え、次はすき焼きをご馳走すると約束を交わして、今日の日は解散となり、
サイタマを家に残し、youとジェノスは外へ出た。
「ジェノスさん、今日はありがとうございました。」
「こちらこそ…あの、このくだり凄く今日沢山聞いた気がします。」
「あ、そういえばそうかも。」
「でも本当に。ご飯までご馳走になってしまったし、こうやって態々送ってもらってますし…。」
「先程も言いましたが、面倒だとは思っていません。寧ろ男として当然のことだと思いますし。」
「ふふ…ジェノスさんは発言も男前ですね。」
「え、いや、そういうつもりでは…。」
「にしても、すき焼きですか。」
「あ、すみません…先生が無理を…。」
「ううん、全然!とっても楽しみです!」
「え、そうなんですか?」
大の男を持て成すことは、それこそ面倒になるのではないかと思っていたジェノスにとって、
youの言葉は予想外で驚くものであった。
食材の費用も馬鹿にならないのでは?と、思ったが
金のことを邪推するのはあまりよろしくないと黙ることにした。
そんな風に、ジェノスの気配りが自然だったこともあってか、
youは自らそう思う理由を説明し始めた。
「わたし、一人暮らしで…普段は一人でご飯を食べるんで、誰かと一緒に食べるのも久しぶりだったから、今日すごく楽しかったの。」
「ああ、そういうことでしたか…。」
「だからまた、サイタマさんとジェノスさんと一緒にご飯食べれるんだって思ったら嬉しくて。」
「え、俺もいいんですか?」
「え、来てくれないんですか?」
「いえ!あの、俺はサイタマ先生とyouさんとの連絡手段になるだけかと思ってたので…。」
「そんなわけないじゃないですか……ジェノスさんにも来てほしいですよ!」
「本当ですか?ありがとうございます!」
「ジェノスさん苦手なものありますか?」
「苦手なもの……そうですね……黄色い声援は少し苦手かもしれません。安全の為にも離れた方がいいと思ってしまいますね。」
「えっと…うん、食べ物のハナシね。」
「あ、すみません……苦手なものは特にありません。何でも食べれます。」
ジェノスの天然丸出しの答えに、少し戸惑ったものの、
改めてyouはその「苦手なもの」に関して呟く。
「でも、黄色い声援か…。」
「え?」
「流石にそこまで騒げませんが……わたし、ジェノスさんのこと応援しててもいいですか?」
「も、勿論です。すいません、得手ではないだけで、黄色い声援も迷惑とまでは思ってません!あの…決してそういう意味で言ったのでは…!」
「うんうん、大丈夫です。」
「すみません、上手く表現できず。」
「じゃぁ、これからも応援させてくださいね…ジェノスさんのこと。」
「はい!」
「うれしい、よかった!」
「!!」
ぱっとむけられた笑顔が、あまりにも柔らかくて、ジェノスは思わずハッと息を呑む。
刹那、自身の動作源力であるコアにチクリと針で刺すような小さな痛みを感じ、一瞬だけ顔を歪ませた。
その表情に気付いたyouが不思議そうに問いかける。
「ジェノスさん…?」
「・・・。」
「大丈夫ですか?」
「はい……大丈夫です。今、一瞬…。」
「?」
「コアに違和感を感じたので…。」
「コア?」
「人間でいう心臓部みたいなものです。細胞の核のような。」
「ああ、核(コア)!それに違和感って…大丈夫なんですか?!」
「ええ、多分。チクッと針で刺すようなほんの僅かな痛みでしたから、支障は無いでしょう。」
「でも、心臓なんですよね!?ダメですよ慢心しちゃ…早く病院に!ってあれ?病院じゃないのか…。」
「そうですね、俺はサイボーグですから、病院じゃなくて研究所(ラボ)ですね。クセーノ博士という方にお世話になっています。」
「では早くそこに行かないと!」
「心配しないでください。それに今はyouを送っている最中ですし。」
「わたしよりジェノスさんですよ!核に異常なんて、心配じゃないですか!」
「ええ、でもコアというのはそう容易く故障や破壊をされない作りになってますから、余程のことが無い限り動作停止はしません。」
「だけど…。」
「youさんは心配性ですね。」
「そういうんじゃなくて……ただ、ジェノスさんを心配してるんです。」
だからジェノス自身にも自分の体を心配してほしいのだと、彼女は言う。
自分を救ってくれたクセーノ博士以外の人間から「自分のことを心配しなさい」と、いままで面と向かって言われたことが無かったこともあり、
youのその心遣いがありがたく、ジェノスは自分でも意識せずに嬉しそうに目を細めた。
「……分かりました。youさんがそこまで心配されるなら、明日にでも博士のところへ行ってメンテナンスを行ってもらうことにします。」
「…本当?」
「はい。」
「よかったぁ…。」
「ありがとうございます、心配してくださって。」
「しますよ、心配……ジェノスさんは皆のヒーローなんだから。」
「・・・。」
なんだ、そういうことか…と、ジェノスは思う。
個人的な想いで心配しているのではなく、
平和を守る皆のヒーローとして、応援する人々の一人として彼女は自分の体を気遣ってくれていたのだと。
傷付くわけではないものの、何だか少しだけ寂しい気分になる。
「そうですね、ヒーロー登録したからには…そうですね…。」
「でも、折角だし……お友達としても心配してもいいですか?」
「!!」
「…要らない心配ですかね?」
「い、いえ!とんでもない、嬉しいです!嬉しい………です。」
「本当ですか?」
「ええ……とても。」
「何か……いいのかな…。」
「何がですか?」
「あ、いや……わたしのような一般人がS級ヒーローのジェノスさんや、街を救ったサイタマさんとお友達になっても…。」
プレッシャーと得体の知れない罪悪感からか、しゅんと顔を伏せて眼下のコンクリートに視線を下ろすyou。
その様子を眺め、何故か真剣に気持ちを伝えたく思ったジェノスは、
ぎゅっと両拳を握り締め、彼女の頭上に言葉を落とした。
「友達になるのに資格なんて要りません。」
「!」
「少なくとも俺は、大勢のヒーローの身を案ずるのと同じように心配されるより、貴女に…友人として心配された方が遥かに嬉しいです。」
「ジェノスさん…。」
「「さん」も止めませんか?」
「ジェノス……くん?」
「「君」はあってもなくてもいいですが、その方がずっといいです。」
「ジェノスくん……ありがとう。」
つまり、自分達はもう友人なのだと、ジェノスとyouは遠まわしだがあたたかな会話でそれを築いた。
youは嬉しそうにジェノスを見上げると、握手の為にそっと手を差し出した。
ジェノスもまた、その手を握り返して互いに握手を交わす。
「よろしくお願いします、ジェノスくん。」
「こちらこそ。」
にこりと笑みを向けられ、全身がぽかぽかと温かくなるような心地好さに包まれたジェノス。
それと共に感じたことといえば、彼女の手がとても小さいということ。
極々一般的な女性の体型なのだろうが、自分と比べると全てが矮小に思えた。
「youさんは……本当にか弱い女性なんですね。手だってこんなに小さい。」
「え?まぁ、ジェノスくんやサイタマさんに比べるとそう思われても仕方ないですよ。」
「確かに……俺の手が機械なのもあるかもしれませんね。」
「うん。」
「すぐ、見ただけでも分かるのに……今日は本当にすみませんでした。」
「それはもういいですよ…ストーカーじゃないって分かってくれたじゃないですか。」
「あの……お詫びと言ってはなんですが……。」
「?」
「もし、youさんがご迷惑でなければ……すき焼きの準備をお手伝いさせてくれませんか?」
「え?今度の?」
「はい!その細腕では3人分の食材を買って用意することも大変でしょう。」
「んー…まぁ、でも……そこまで心配するほどじゃ…。」
「こう見えても家事全般は得意ですし、荷物持ちにはもってこいです。」
「い、いやいや……そんな、S級ヒーローにそんなお手伝いお願いできないですよ!」
「俺がS級だからとか先生がC級だからとか関係なく、先生と同じように接してください。」
「いや別にサイタマさんを軽んじてはいないですよ?!ていうか今、ジェノスくんがさり気なくディスったよね?!!」
「関係なく接してください!」
「(あ、流した…。)」
自分の師を公正な判断で貶したジェノスだったが、
恐らくはそれに後で気付いたのだろう…。
表情を変えずにさらりと聞き流すフリをするのだった(バレていたが)…。
youはというと、その態度に多少呆れたものの、
真面目なジェノスの意外にお茶目な一面を垣間見れたような気がして、最後にはくすっと笑みを浮かべた。
「では…お友達として一緒にお買い物に行ってくれますか?」
「是非、喜んで!」
律儀なジェノスの気遣いを無碍にはできない上に、
有難い申し出には変わりないこともあり、youはジェノスに手伝いを依頼するのだった。
*。゜.*。゜.*。゜.*
敬語を使おうと思ったのも
友達になってもいいと思ったのも
貴女がとても
温和な人だったからです。
*。゜.*。゜.*。゜.*
</font>