■Fiori e Vino. (リゾット)
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「……めちゃくちゃ美味しい…!!」
そう言ってyouは目を輝かせた。
Fiori e Vino.
社交辞令の有言実行
数日前に連絡を取り合い、2人のアパートから少し離れた地区のオステリアで約束通り夕飯を共にしたyouとリゾット。
今はその後なのだが、リゾットが食べさせたいドルチェがあると言って、食事をしたのとは別の店にやってきていた。
「ふぇぇ……何これ何これ、めっちゃ美味しい…!」
「"カッサータ・シチリアーナ"というシチリアの伝統菓子だ。キミにどうしても食べてみてほしくて。」
「外めっちゃ甘いんですけど、めっちゃ美味しいです……こんなドルチェがあったんだぁ……初めて食べました!」
「シチリアでは美味い店が多いが、この辺りでは甘いだけで不味い店ばかりでな……この店を見つけるまで結構苦労した。」
その期間苦節数年…といったように、その時のことを思い出してフッと笑みを浮かべたのはリゾット。
大層甘いが、初めて味わうそのドルチェのただならぬ美味しさに舌鼓を打ちつつ、youはその菓子を食すことによって思いついたことを尋ねてみる。
「シチリアの伝統菓子ということは……リゾットはシチリア出身なんですか?」
「……さぁ、どうだろうな。」
「えぇ……教えてくださいよぅ……シチリアは訛りが凄いって聞いてましたけど、リゾットはそんな感じしませんし…。」
「じゃぁ違うんじゃあないか?」
「もぉ!意地悪ですねー…!」
「フフ…。」
何をそんなに秘密にする必要があるのか、出身地をフワフワとした返答でひた隠すリゾットに、youはムゥっと口を膨らませて拗ねた表情を浮かべた。
彼女のその様子が可愛くて、思わず自分でも驚くくらい自然に笑みが零れるリゾット。
普段、あまり笑うことが少ないこともあり、不自然な顔ではなかっただろうか…と、誤魔化すように話題を変えて投げ掛けた。
「ところで、youはイタリアに来て1年程と言っていたが、元々こちらで働くために来ていたのか?」
「!!」
「?」
それは地元民からしてみれば、海外からの労働者に対して当たり前に抱く、当たり前の疑問だったが、
こと、youに於いてはそれは最も尋ねてほしくない質問…。
いきなり返答を噤まざるを得なくなり、youは申し訳ない気持ちと困惑と驚嘆の入り混じった複雑な顔をリゾットへ向け、沈黙してしまった。
流石にそのような様子を見れば、彼女の身の上に何か異質な事が起こり、言えない理由があるということは明白で…。
リゾットは二、三、瞬きを繰り返した後、小さく「すまない」と言葉を零した。
「何か事情があるんだな……不躾に身の上を尋ねてしまって悪かった。」
「いいえ、そんなことは…!ちょっと確かに…言えないですけど……うう。」
「そうか、なら仕方ないな、話題を変えよう……今働いているのは何処かの店なのか?」
「いえ、違うんです……事務スタッフみたいな事をしています。」
「そうだったのか、てっきりバールやショップなどの店員かと…。」
「ふふ、事務と言ってもこの1年は殆どイタリア語の読み書きの勉強に費やした感じですけどね。」
「成程……職場は家から近いのか?あまり遠いと帰りが危ないだろう?」
「そこそこ近いかと……お気遣いありがとうございます……やっぱり優しいですね、リゾット。」
先程の複雑そうな表情とは打って変わって、分かりやすく嬉しそうにふわりと笑うyou。
その顔が見たかったんだと、リゾットの心がサワリと浮足立つ…。
それはそうと、彼女は少し複雑な事情を抱えているのかもしれないと、リゾットは思う。
初対面の時にも故郷を想って泣いてしまったと言っていたし、二度目の時もそうだ。
職業といい、イタリアにいることを嫌がってはいないものの、まるでイタリアにいることを強いられているような様子が窺える。
「(調べる必要があるな…。)」
表ではyouに微笑んで、内面では一切の笑みを遮断し、本職を生かして彼女のパーソナルデーターを入手することを決めていた。
そんなリゾットの心の内を知る由もないyouは、ニコニコと笑みを浮かべ、引き続き目の前に置かれたドルチェを美味しそうに頬張っている。
「疲れてすごーく甘いものが欲しくなった時には最高です……これ。」
「疲れている時はそうだな……オレならキミにティラミスをご馳走するかもしれないな。」
「ん、確かにティラミスも美味しいですけど……イタリアでは疲れてる時はティラミスなんですか?」
「というかソイツは"Tirami su!"……「私を元気付けて」が由来の北(イタリア)発祥のドルチェなんだ。」
「そうだったんですか!それは、うん……知ってて敢てご馳走されると、元気出ちゃいますね。」
「では、youが疲れた時は言うと良い。オレでよければいつでもご馳走するよ。」
「えぇぇ!そんなこと言うと毎日疲れたって言っちゃいますよ?!」
「毎日会ってキミを元気付けられるのか?それは光栄だな。」
「・・・・///」
調子に乗って話に乗っかったyouだったが、リゾットにイタリアの伊達男っぷりを遺憾なく発揮され、逆に真っ赤に頬を染め上げて沈黙してしまった。
自分自身、顔に熱が集中して真っ赤になっているのが判断できており、youは咄嗟に両手で顔を覆って顔を下に伏せる…。
「どうしてイタリアの人って皆こうなの……///」
「それは心外だ、オレはあまりそういう台詞は得手ではないんだぞ。」
「だとしても……リゾットみたいにカッコいい人から言われると恥ずかしくて直視できないです……///」
「いや、キミも十分凄いことを言っているぞ……。」
特に出会ってから今までの言葉は凄まじいものがあったから、今自分はキミに恋をしているのだと…。
思わず真顔で言い返したくなるリゾットであった…。
そのうち、youはパッと顔から手を離して大きな深呼吸を一度。
ふーっと息を吐き出し、改めてリゾットへ死線を向けた。
「毎日……とまでは言いませんが、もし辛いこととか、悲しいことがあったら……その時はリゾット、ティラミスご馳走してくださいね?」
「勿論だ。」
「あと……欲を言えばこの"カッサータ・シチリアーナ"?これもあの……元気出るので…。」
「そうか、気に入ってくれて良かった。」
「あと、アッフォガートとかジャンドゥーヤとか……ジェラートもめっちゃ好きです。」
「ッフフ……可愛いな、キミは……Si、ちゃんと覚えておくよ。そしたら、次はいつそれらをキミにご馳走させてくれるんだ?」
「えっ、ええと……いいんですか?遠慮しませんよ、わたし……美味しいものにはとても弱いのです…。」
「じゃぁすまないが、またキミの時間を少しオレがもらってもいいだろうか?」
「はいっ、是非もらってください!」
「グラッツェ、you。また日程を連絡する。」
本当はこの上なくストレートに「では次はいつデートをしてくれる?」と尋ねて、彼女の頬をまた真っ赤に染めてやりたいと思っていたリゾットだったが、そうやって己が熱意を伝えるよりは、彼女に好かれる態度や言葉を選んで次回の誘いの言葉とした。
その方がスムーズに次に会う約束を取り付けられるし、何より軽い男に見られない。
元々自分自身がそんなに異性に対してグイグイ押して口説くような性格ではないため、
らしくないことをして彼女に倦厭されたり、誤解されるのは本意ではないところも大きかった。
結局、この日はバールでドルチェを食べ終えた後、解散することとなったが、同じアパートの隣同士である2人は色んな話をしながら同じ道を歩いて家路に着いた。
「お家、到着ですね。」
「ああ。」
「今日は本当にありがとうございました!ご飯もドルチェもお酒も、全部美味しかったです……色々ご馳走になってしまってすみません。」
「オレから誘ったのだから、気にするな。喜んでくれたのなら、それで十分だ。」
「それは勿論!でも、あの……できれば今度はわたしから何かご馳走させてください!!」
「グラッツェ、you。だが、そう気を遣わないでくれ……気持ちだけ受け取っておくよ。」
「あ、でも、でも……!!」
「そうだな……では、あまり値の張らないものを奢ってもらおうかな、ジェラートやパニーノとか……引っ越したばかりだと何かと出費が多いだろう?」
「リゾット……お気遣いの紳士様!!!」
「お、大袈裟だな…。」
両手を胸の前で握りしめ、感嘆の言葉と共にリゾットを見上げるyou。
確かに彼女に気に入られたくて親切な言葉を投げ掛けていたところもあったが、まさかの「様」付けに流石のリゾットも「それほどのことはしていない」と、苦笑を浮かべる。
「まぁ、何にせよ……迷惑でなければ、またオレと時間を過ごしてくれると嬉しい。」
「もちろんですよ!お誘いお待ちしてます!」
「分かった、では遠慮なく連絡させてもらうよ……それじゃぁ、Buona notte.(おやすみ)」
「はい、おやすみなさい、リゾット。」
お互い、緩やかに手を振って各自の家へと鍵を開けて入る。
バタン、と2つ分のドアが閉まる音と鍵の音がほぼ同時に廊下にこだました。
社交辞令の有言実行
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