Lei e un fiore. (番外編 / ギアッチョ)
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「ボンジョルノ、ギアッチョ!」
「ああ、ボン……お前っ、怪我してねーか?!」
「え???」
出勤後、怒りっぽい彼に挨拶をしたらば、早々に尋ねられたのは身体の安否だった。
Lei e un fiore.
Attenzione ai borseggiatori!
「怪我は、してない…ですよ?どうしたんですか急に…。」
「荷物だよ!背中のリュック!!」
「リュック…?」
出勤用のシンプルな軽量のリュックサックに何か問題があるのかと、首を傾げながら肩から荷を下ろすと、ギアッチョ同様にyouも大きな声を上げた。
「あああっ!な、何これぇえ!!」
「ああ、こりゃ……スリだな。」
「えっ、嘘、スリ?!!だってリュックはスリに遭うからって、日本で買っておいたスリ防止のTSA式の南京錠掛けて…!」
「鍵掛けてたからだろ……ナイフかカッターでリュックごと切られたってコトだよ。」
「そ、そんな…!!!」
「何か事件に巻き込まれたのかと思ったけど……ただのスリ被害で安心した。」
「ただのスリ被害?!!」
「おう。」
「リュック使い物にならなくなったのに?!」
「おう。」
「そんなぁ…。」
ナポリの治安の悪さは自国民が認めるほど…と言われているので、youもそれこそ鍵を用いたり、
なるべくクレジットなどのカードの類は持ち歩かないようにしたりと対策を取っていたのだが、
まさか強硬手段という手法でもってまで人のものを奪っていくとは…と、
悲しいやら悔しいやら、複雑な感情で無残に切り裂かれて使い物にならなくなったリュックを見つめる…。
「リュックは上級者中の上級者だったんですね……もう絶対リュックで出勤しなーい!!」
「おー、ドンマイ。」
ギアッチョとそんな遣り取りを行って数日…。
「よぉ、you、もう出勤してたのか……って、どうした?」
「ギアッチョぉ……また財布スられましたぁ…。」
「リュックはやめたんじゃなかったのかよ…。」
「やめましたよ!ちゃんと斜め掛けの鞄でした!なのに~!」
「鞄は前に?」
「え、歩きにくかったので後ろに…。」
「馬鹿、それじゃ取って下さいってスリ師に言ってるモンだろ。」
「そ、そうなんですか?!」
「ナポリのスリ師ナメんじゃねーぞ、アイツらマジで魔法みたいにスりやがるからな……そりゃココに慣れてねぇ奴なんて格好の餌食だろうよ。」
「うう…。」
「ハイ、復唱!鞄は前に!」
「鞄は前にーーっ!!」
そうやって、ギアッチョがナポリのスリについて語り、youも段々とこの地についての自衛の仕方や覚悟を覚えてきた……はずだったのだが…。
そのまた数日後…。
「その顔・・・オメーまたスられたな?」
「あああーー!ギアッチョぉおお!!何で?!何でスられちゃうんですか!?」
「知るか!俺に聞くな!オメーがうすぼんやりしてるからだろ!つーか、俺の忠告聞いておいてこの体たらくとは一体どういう事だぁぁ~~~ッ!?テメー、ナポリの治安の悪さをナメてんのかァーーッ!!?」
自国の治安の悪さを棚に上げて、善良で品行方正なイタリアへの来訪者に噛み付くのは如何なものかと…。
この場にリゾットやホルマジオあたりがいれば冷静にツッコミを入れるところなのだろうが、本日の内勤は生憎とギアッチョと彼女だけなのであった…。
「うっ、うっ…!」
「で、今回の被害は。」
「予備財布だったので被害総額はそこまで大きくないですけど、もうこれで3度目なので次は紙で折った財布待ったなしです……うぅ…。」
「か、紙財布……逆にそんなモン折れるのか……スゲー器用だな、日本人…。」
「ネットで折り方ありますから…。」
「うん、折るな、財布買え?」
「でもまたスられたら…。」
「防御しろぉ……そこは努力しろぉ…。」
「泣きたいです……ナポリこわい……外出るのこわい…。」
「・・・。」
まだこちらに来て日が浅いということもあり、ナポリの洗礼を思った以上に受けることになったyou…。
もう彼女のメンタルライフは0に等しいようで、寧ろこの地を嫌いになってしまう気配すらある。
流石にこのままでは気の毒というか、チームリーダーであるリゾットからも
「くれぐれも彼女がパッショーネを嫌悪して辞職することのないように」と言われている事もあったため、
ギアッチョは深い溜息を吐きながら、彼女の頭をガシガシと撫でて言った。
「ったく……パッショーネどころか、イタリアを嫌悪して辞めちまうだろ、こんなんじゃぁよォ…。」
「ギアッチョ……?」
「何でもねェ、気にすんな。それより、you……オメー、今度の休み何か予定あるか?」
「次の休みですか…いえ、特に何も……出掛けようと思いましたが、怖くなったんでやめます…。」
「じゃぁ、オレの用事に付き合え。眼鏡の螺子んトコが緩んでんのか、どうも位置がおかしいんだ……オッティカ(眼鏡屋)行こうと思っててよォ…。」
「イタリアの眼鏡屋さんですか!わぁ、行ってみたいです!!外出怖いですけど、ギアッチョが一緒なら…うん!行きます!」
「じゃぁ……そうだな11時頃に……博物館前で待ち合わせだ。」
「考古学博物館ですか?はいっ、了解ですっ!」
「ああ、そっから近い店なんだ。」
先刻まで「外出したくない」とテンションを下げていたというのに、やはり未だ観光気分が勝ってしまうのか、元気良く返事をしてしまうyouであった。
それからギアッチョとの約束の日までの数日、スリ被害に遭うことなく無事に出退勤できたこともあって、彼女はその当日、嬉しそうな顔で約束の場所である博物館へと向かう…。
現地の人のみならず、観光で訪れた人や地方から来た者……多くの人で賑わう国立考古学博物館の周囲は、本当に騒がしい程…。
聞こえて来るたくさんの言語…しかしそれもまた面白いのだと、youはニコニコと笑みを浮かべてギアッチョを待つ…。
そうしてちょうど約束の時間になった頃、携帯が鳴った。
「もしもし…?」
『あ、youか?オレだ、ギアッチョだ。』
「あ、ギアッチョ!今何処にいるんですか?」
『あー、悪ィ、ちょっと遅れる。』
「んー、どのくらいですか?」
『そうだな……ホワイト・アルバムでかっ飛ばして……あと10…いや、5分くらいだ。』
「あの、凍らせる能力ですよね……じ、事故とか…気を付けてくださいね??」
『あ?すげー雑な解釈な気がするが……まぁいい…とりあえず待ってろ。』
「はい、待ってます。」
実を言うと、寝坊して今玄関を出たばかりのギアッチョ…。
本当であれば10分どころか20分程掛かる状態なのだが、そこは彼のスタンド…
『ホワイト・アルバム』を発動させて出発する…。
彼の能力は空気中の水分を極低温にして、周囲の水分を凝結させて凍らせることができるというもの。
氷の道を作りさえすれば、その道をスケートのように滑って、
時速80kmで走る車に追いつけるぐらいの速度で滑走することも可能なのである…。
そんな自分の能力を人気の無い路地でのみそっと使って時間短縮をはかる。
予断だが、これは待たせている相手がyouだからであって、もしメローネやホルマジオ、ペッシなどが待ち合わせの相手であれば、ギアッチョは時間短縮どころか、遅延の連絡すら寄越さない……だろう、恐らく。
そんなこんなで、ギアッチョは宣言通り…とまではいかなかったが、それでも電話連絡から10分以内にyouの待つ博物館の前にやってきた。
どこあたりにいるのかと、確認の為に電話を取り出して番号をダイヤルするギアッチョ。
ガヤガヤと沢山の人の声が煩かったが、近くから携帯のコール音が聞こえてきた。
思ったより近くにいたのだと、周りをキョロキョロと見回すと、人で賑わう館内入口の付近でyouの姿を見つけ、ギアッチョはすぐさま電話を切る…。
一方の彼女はその音に気付かなかったようで、徐に自分の鞄から何かを取り出したのだが、すぐに待ち合わせの相手が現れたことで「それ」をポケットに仕舞い込んだ。
「すまねェ、待たせた!」
「あ、ギアッチョ!ボンジョルノ!」
「ボン……。」
「?」
「オメー、さっき何かポケット入れなかったか?」
「え?あ、うん……手鏡を…。」
「それ、今……あるか?」
「何?朝ごはんにイカ墨パスタでも食べてきたの?歯の確認?」
「んなモン朝から食うか!!スられてねーかって聞いてんだよ!!」
「えっ?!うそ?!!」
ギアッチョの指摘に驚きながらポケットに手を突っ込むyou。
「ひっ、な……無いッツ!!!」
「っぱりか……さっきオメーの後ろから何か金色のモノ持って、離れてくヤツがいたからよォ…。」
「そんなぁぁ……ショック過ぎる…。」
「…大事な物だったのか?」
「うん…大事と言うか、記念でしょうか?ローマの空港で買ったただのお土産品なんですけど、初めてイタリアに来て購入したものだったので、大事にしてたというか…。」
「そうか……多分金目の物だと勘違いして持ってたんだろうが……残念だったな…。」
「うぅ…悲しい…。」
「あー、もう……朝からメソメソすんじゃねェ、気分悪ィ!」
「ご、ごめんなさい…。」
「昼飯奢ってやるから、ちったぁ元気出せ!」
「あ……。」
「あ?何だよ、そんなモンで元気出るわけねーって言いたいのか?あぁ?!」
「そ、そんな!いや、う、嬉しいです!ありがとう、ギアッチョ!」
「・・・チッ。」
youとしては、チーム一怒りっぽい印象(というか実際そう)な彼が、自分を気遣ってくれたことに驚いたことと、それをとても嬉しいと感じて言葉を詰まらせてしまった。
そんなyouの気持ちには全く気付かぬ様子で、ギアッチョは腕につけた時計を確認して彼女に声を掛ける。
「ちょうどもうそろそろ昼だし、途中でどっかの店で飯食おうぜ。」
「はいっ!」
確かに、待ち合わせが11時で、ギアッチョがちょっとだけ遅刻したので、色々話してそろそろ11時半といったところ。
目的地の眼鏡屋が何処かは知らないが、その途中でいい時間に昼食を撮るのはとても良い案だと、youも小気味よく返事をしてギアッチョに付いて歩き出した。
「オメー何か食いたいモンあるか?」
「んんん……そうですねぇ…。」
「おっ、そういやあそこの近くにサラミが美味ェピッツェリアがあったな……よし!そこにするか。」
「(わたしに尋ねた意味…。)」
「つーことで昼飯はピッツァにするけど、いいか?」
「あ、はい。」
「この前…っつても結構前だけどよ、メローネと行った時食ったピッツァのサラミがめちゃくちゃ美味くてよォ!!あれはお前も食った方がいいぞ!!」
自己完結して昼食の場所を決めてしまったギアッチョを生暖かい目で見ていたyouだったが、
余程その時の記憶が良いものだったのか、満面の笑みを浮かべて「美味しかった!」と告げる姿が可愛くて、彼女は思わず目を見開く。
ただ、そこで彼のことを「可愛い」などと言えば、すぐにその笑顔は崩れて眉間に皺が寄ることは確実…。
そこはグッと言葉を飲み込んで「楽しみです」とだけ返すに留めておくyouだった…。
それから、仕事の話やオフの日の話など、たわいもないことをお互いに話しながら少し歩いたところで
ギアッチョが言っていたピッツェリアに到着し、彼のお勧めするサラミの乗ったピッツァを注文したのだが…。
「お、美味しい!!」
「っだろ?!めちゃくちゃ美味ェだろ、ここのサラミ!」
「はい、美味しいです!!あー……やっぱりナポリは生地が美味しいよぉ…。」
「サラミうめー!」
「チーズ美味しいー!」
「サラミうめぇえ!」
「ソース美味しい!」
「・・・。」
「・・・。」
「何でサラミ褒めねーんだよ。」
「だって、ギアッチョがサラミばっかり褒めるから、わたしはいいかなって。」
「で……サラミはどうだ?」
「正直めちゃくちゃ美味しい。」
「だっろーー!!」
自分の意見に賛同してくれた彼女に向かって、まるで少年のようにキラキラした瞳を向けるギアッチョ。
普段からよく眉間にシワが寄っている表情を目ににしているため、そのギャップの破壊力は絶大…。
youはギアッチョに気付かれないように声を押し殺しながら、顔を下に向け、床に向かってボソリと「可愛い」と呟いてしまうのであった…。
美味しいものを食べると心が晴れるし、お腹が満たされるとイライラも吹き飛ぶというもの。
そういった理由もあって、お互い終始穏やかな表情で昼食を摂ることができたギアッチョとyou。
ピッツェリアを後にして、本来の目的地である眼鏡屋へと向かった…。
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「着いたぜ。」
「わ、本当に眼鏡屋さん。オッティカって書いてある!」
「まぁ…眼鏡屋(オッティカ)だからな。」
「そんなに大きくないんですね。」
「町の眼鏡屋だからな……大型のモールに入ってる眼鏡屋とかなら結構デカいトコもあるけど…。」
「ギアッチョはいつもこちらなんですね?」
「別に行きつけってワケじゃあねーけど……近いし、今付けてるヤツもココで買ったからな…。」
「その赤いフレームの眼鏡、いいですよね。とっても似合ってます!」
「おー、褒めても何も出ねぇぞ。」
「お世辞じゃなくて、本心からですよ。お洒落で素敵です。」
「っ………そりゃどーも…っ…。」
普段から体の一部のように着用している眼鏡というアイテムは、彼にとってみればそこにある事が「当たり前」のものであるため、
似合うもへったくれもないだろうという感覚だったので、改めてそのように褒められると何ともむず痒い気持ちになるワケで…。
ギアッチョはyouの思わぬ賛辞に頬を少し赤らめ、口を窄めて小さく感謝の意を伝えてから、店の扉を開いた。
「いらっしゃいませ……おや、君は…。」
「おう、ここで何度か眼鏡買わせてもらったヤツなんだが…。」
店内に入ると、店の店主らしき初老の男が椅子から立ち上がり、ギアッチョを見てコクリと一つ頷いた。
街の一角になるこじんまりとした店なので、どちらかといえば近所の者たちの来訪が多く、あまり若者は来ないのだろう。 彼はギアッチョを覚えているという。
「覚えているよ、今日はどういった…。」
「この眼鏡なんだけどよ、何か座りが悪いっつーか…位置がおかしい感じがすんだよ。ちょっと見てくれ。」
「どれどれ……片側の螺子かな……少しいじっても?」
「ああ、そのために来たしな。」
手渡した眼鏡の中央部分をそのまま目視した後、作業台のサイドにある引き出しから小ネジを取り出してギアッチョの眼鏡を調整する。
ほんの少しの間眼鏡を扱った後、彼はすぐにギアッチョにそれを返却し、つけてみるように促した。
「どうかな、まだ緩いようであればもう少し締めようか?」
「ん…いや、これでちょうどいい……グラッツェ。いくらになる?」
「螺子を締めただけだ、お代は要らないよ。」
「マジか……オメー本当にナポリの人間かァ~?!」
「ははは…。」
お代を取らないという眼鏡屋の男性に驚嘆の声を上げるギアッチョ。
男性は楽しそうに軽く笑っているが、youはというと軽く引き気味で苦笑を浮かべてしまうのだった…。
そんなこんな、ギアッチョが店主の気遣いに満足して、今後もこの店を贔屓にしようと決めたところで、意外と早くに本日の目的を完了させてしまった2人…。
眼鏡屋を後にして、ひとまず無意識に足を事務所の方へと向かわせていた…。
「思ったより早く終わりましたね、待ち時間とかもなかったし…。」
「だな。」
「これからどうしましょう?」
「あー…オメー、どっか行きたいトコあるか?」
「えーっと…いえ、特に…。」
「・・・。」
「・・・。」
目的なく、ただ何となく事務所の方面へと足を向かわせてしまう2人だったが、急にその場でギアッチョが立ち止まり、ふいに思いついたようにyouに声を掛ける…。
「ちょっと…寄りたい場所思いついた。」
「おっ!何処でしょう!お供しますよ~!」
「おう……ちょっとスパッカの方なんだけどよ…。」
「はーい!」
子気味良い返事をして、ギアッチョに付いて歩くyou。
それから数分ののち、賑やかな商店街に到着すると、彼女は毎日のギアッチョの教えをしっかり守って荷物に注意しながら、人混みの中を進む。
ギアッチョもそれとなく彼女がスリに遭わないか気を配りつつ、目的の場所で立ち止まった。
「おう、この辺りでいいか。」
「ここ…?」
通りの一角にあるガラス張りのショーウィンドウで確認する限り、その店が雑貨屋であることが見て取れた。
先ほどの眼鏡屋とは打って変わって、凡そギアッチョのイメージと掛け離れたその店にyouは大層意外そうな顔を浮かべたのだが、
そんな彼女の反応は何処吹く風…と、ギアッチョはズンズン店の中へと入っていった。
店内の雑貨を見回すと、いかにも街の人間御用達といった商店街にある店舗にしては、どことなく観光客寄りの土産物屋感が強めに見える。
そんな店内でギアッチョが「あった」と、目的のものを見つけた声を上げた。
「おい、you…この中で好きなの選べ。」
「え?」
「「え?」じゃねェよ、鏡……さっきスられちまっただろ。」
「え、か、鏡…?」
ギアッチョが指し示した陳列棚のコーナーには色彩豊かなコンパクトミラーが雑多に取り置かれていた。
デザインも1つ1つ異なっているようで、ギアッチョの言葉を一度はスルーしてyouは一瞬、その商品たちに目を奪われてしまう。
「あ、本当だ、鏡だ……可愛い!……って、そうじゃなくて、何で?!」
「何でって……大事な記念だったんだろ、あの鏡。」
「え、ええ……そんな大したものではなかったですけど…。」
「値段は問題じゃねーだろ。イタリアに来た時の記念がイタリア人の所為で無くなるって何かオレとしても申し訳ねェっつーか…。それに、元はといえばオレが眼鏡屋に付き合わせちまった所為でスられたってのもあるし……どれか1つ選べよ、買ってやる。」
「えぇっ?!ギアッチョが?!」
「あ?何か文句あんのか?オレじゃぁ不満だっつーのかぁああ?」
「そそそそんなことは断じて!!」
「チッ……なら、何でもいいから選べよ。」
「ほ、本当にいいの…?」
「それこそお前……そんな大層なモンじゃぁねーだろ、たかが鏡なん……(とか言ったら何かイルーゾォと揉めそうな予感がする、やめとこ)」
途中で言葉を言い噤んだギアッチョに対して小首を傾げると、彼は「オレのことはいいから選べよ」と返す。
これ以上遠慮する様子を見せると、気の短い彼の機嫌を本格的に損ねてしまうと…本能的にそう感じ取ったyou。
恐る恐るながらも気になったデザインの鏡をいくつか手に取って吟味し始めた。
「(…赤……黄色……ピンク…あ、このデザイン可愛いな…)」
「そんなに悩むモンでもなくねーかぁ…?」
「悩みますよ!折角ギアッチョがわたしにプレゼントしてくれるんですし!」
「おーおー、鼻息荒ェこって。」
「荒くもなります!真剣ですよ、わたし!」
「へいへい。」
「ん…?」
「あ?」
「あっ、これ……わたしコレがいい、コレにします!!」
やや前の鏡に隠れるようにして置かれていたそれは雪の結晶をモチーフにしたデザインのもの。
確かに可愛らしく綺麗ではあるのだが、期間が限定されるそのデザインには流石のギアッチョも眉を顰める。
「いやそれ……冬限定じゃん…もっとオールシーズンいけるヤツにしとけよ。」
「やです…絶対これがいい。」
「オメー、それ…もしかしてオレの能力(スタンド)イメージとかじゃあねーだろな?」
「何で分かったんですかっ?!」
「分からいでかッツ!!そーいうのいいから、オメーが好きなヤツにしろっての!」
「でも、でも、やっぱりコレがいいです!!ギアッチョに買ってもらうなら…!!だって…!」
「あ?」
「ギアッチョのイメージですし……今日、ギアッチョと出掛けて買ってもらったって記念になるから…そしたら、ずっと忘れないいじゃないですか…。」
「っ…ば……かわ……っ…!?」
ギアッチョに対して恋愛感情を持ってなのか、はたまた友愛としてのそれなのか…。
彼女がどういう感情でそういった台詞を放ったかは定かではなく、問い詰めてみてもいいが、どちらのものであっても現時点では戸惑うの一択。
ギアッチョは次の言葉をグッと飲み込み、少し赤らんだ頬を隠すように彼女の手から手鏡を掴み取り、無言でレジへと向かうのだった…。
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数日後…。
「そういえばyou、最近スリに遭わなくなったな、ナポリの生活に慣れたようで何よりだ!」
事務所で休憩を取っていたメローネとyou。
飲み終わったカッフェのカップをテーブルの上に置きながら放ったメローネの言葉に、彼女は一瞬、パッと嬉しそうな表情を浮かべた。
「本当?!」
「ああ、ホント。ちょっと前まで朝からほぼ毎日テンション低かったのに、最近結構普通っていうか…何かちょっとキリっとしてるっていうか…。」
「それは嬉しいなぁ………うん、確かに、慣れてきた……それもあるけど…。」
「けど?」
「鞄に大事な物が入ってるから気を配れるようになった、かな!」
「えっ、何それ何それ!大事な物?めっちゃ気になるんだけど!」
「ギアッチョに買ってもらった大事な物だよ。」
「え…まじ…?」
「うん、あ……噂をすれば、おはよう、ギアッチョ!」
youの意味深な言葉にメローネが目を丸くしていると、ちょうどのタイミングでもう片方の当事者が事務所に到着。
「おー、ボンジョルノ。今日も鞄は無事みてーだな。」
「はい!」
そんな当事者…ギアッチョはというと、自分の話題が出ていたとはつゆ知らず、朝の挨拶を済ませると、まるで日課のようにチラリとyouの鞄に目を遣ると、フッと口角を上げた。
ギアッチョの言葉に嬉しそうに返事をして、笑顔を向けるyouを見て、先程より一層大きく目を見開いたメローネ。
思わず身を乗り出して事の真相を聞き出そうと声を上げた。
「ちょちょちょ、なぁギアッチョ!youに買ってやった物って何?!」
「ハァ?何だいきなり……買ってやった物ォ??」
「youがスリから死守するくらい大事な物って……一体どんな高価な物をプレゼントしたんだ?!!」
「買ってやった………ああ、アレか。」
「んはーーー!プレゼントしたのはマジなのか!!ずるい、抜け駆けだ!で、で、何?何贈った?!」
プレゼントで彼女の気を引こうとした事に対して多少の憤りはあるものの、
メローネ的には、それ以上にチームの中でも女性への対応(というか誰に対しても)が比較的ドライなギアッチョがyouにプレゼントを贈ったという事実の方が嫉妬を遥かに凌駕するらしい…。
興味津々という様子でメローネがギアッチョとyouを交互に見遣り、答えを求める…が、しかし。
「何って………。」
「うんうん!」
「・・・教えねー。」
「はぁあ?!」
暫く無言になったのち、ギアッチョが結論として出したのは「拒否」だった。
別段何を買い与えたか伝えてもいいかと思ったのだが、改めて考えると本当に大したものではないということが、自身のプライドを守るためにも必要と感じたらしい…。
そう、なぜならば、メローネに教えた場合、彼がスピーカーになることは明白であるからだ。
そうなると、イタリアーノだらけのこのチーム…特にプロシュートやホルマジオに知られようものなら
「気になる相手や恋人に贈り物をするのであればもっと洒落た物にすべきだ」、
「そんな適当な安物はイタリアーノの名折れだ」と、いつまでも小言を言われ続ける事待ったなしだ…。
ということで…。
「そんなに大したモンじゃぁねーけどなぁ、つーことで言うなよ、you。」
「えっ?!あっ、はい!分かりました!ナイショですね?!」
「おー(気になる女にそんな安いモン贈ったなんてバレたら小っ恥ずかしいしな)」
「あっ、でも大したものじゃないなんて、そんな事なくて……ギアッチョが買ってくれたという付加価値でわたしには宝物です…!」
「っ……おま……ッツ?!」
何度爆弾発言を投下すれば気が済むのか!と、声を荒げたくなった気持ちをグッと落ち着かせ、
ギアッチョは小言の代わりに盛大な溜息を吐いた後、照れ臭そうにyouの頭をガシガシっと撫でて部屋を出ていった。
明らかにいつものように大声で怒鳴り散らす様子だったギアッチョが、よもや言葉を抑えて飲み込んだ上、
照れ隠しの行為で去っていくとは思っていなかったメローネ。
口をポカンと開けたまま、部屋から出て行くギアッチョの背中をずっと目で追ってしまった。
「何か成り行きで教えられなくなっちゃいました……ごめんね、メローネ。」
「な……何か色々………ずっるいーーー!!!」
昼下がりの静かな事務所にメローネのそれはそれは悔しそうな叫びが響くのであった…。
タイトル?
「スリに注意!」ってね。
words from:yu-a
*。゜.*。゜.*。゜.*