Lei e un fiore. (番外編 / メローネ)
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★注意★
・本編『Lei e un fiore.』(12:Sorbet & Gelato(ソルベとジェラート)3)以降のお話になります。
・物語の都合上、暴力、強姦等の表現があります。
嫌悪感を抱かれる方、性描写の苦手な方の閲覧はお断り致します。
・後からの苦情は受け付けませんので、閲覧はくれぐれも自己責任でお願いします。
・平穏を取り戻したところまでキングクリムゾンされる場合はこちらへ→perte(あなたのために)
以上の規約を承諾された方のみこのお話へお進み下さい。
*。゜.*。゜.*。゜.*
「あぁ…雨……今日はメローネが出張から帰ってくる日なのに…。」
「そっか、メローネ帰るの今日だっけ。」
お昼を過ぎて急に雲行きが怪しくなったかと思えば、
そのまま予報通りに雨が降り出した日…
Lei e un fiore.
Pioggia fredda(冷たい雨)
「今日という今日は絶対メローネと膝を突き合わせて討論してやる…。」
「あはは、気合入ってるね、you!」
両手をグッと握って意気込むyouに、本日は共に内勤だったペッシが笑い掛ける。
「それで、メローネが帰ってくる時間って何時だっけ…?」
「ええと、確か19時頃にナポリの駅に着く列車だったはず。」
「その時間だと、定時は過ぎてるけど、いいの?」
「いいのです…話すって決めてるから。メローネも了承済だし…。」
「そっか……あ、でも雨が降ってるから電車が少し遅延するかもしれないね。」
「確かに……イタリアの列車だから…うん、午前様でも覚悟の上!」
「気合十分だぁ……もしそうなったらもう事務所に泊まった方がいいかもね。」
「う…確かに…。」
流石に定時過ぎて6時間以上も待つのはちょっと…と、改めて考えてしまいそうになるが、
それでも待つと決めたのだと、youは首をブンブンと横に振って折れそうになる意思を振り切るのであった。
そうして迎えた定時時…。
もうその頃には本日休みであるプロシュートとホルマジオ以外の、外勤に出ていたリゾットとギアッチョも
事務所に戻っており、報告書や日報の作成を行っていた。
イルーゾォだけは外勤任務の依頼時間に合わせてフレックスタイムで出勤していたため、
もう少しだけ戻りは遅くなるようだった。
そうして定時を迎え、日報を提出した後にyouがリゾットに声を掛ける。
「リゾット、わたし今からナポリの駅にメローネを迎えに行って、また事務所に戻ってきますね。」
「わざわざ迎えに行くのか?どのみちメローネは事務所に戻ってくると思うが…。」
「それはメローネの直帰回避……もあるけど、ほら、多分メローネ、傘持ってないと思うので。」
「ああ、そういえば……雨だったな…。」
2人で窓の外に目を向ければ、風は酷くないものの、しとしとと雨は止むことなく降り続いているようだった。
「雨だから暗くなるのもいつもより早いはずだ。電車の遅れもあるし、ある程度待って合流できなければ一度戻って来るといい。」
「んー…そうですね、そうします。あ、メローネにはわたしが駅で待つこと内緒にしててくださいね、逃げられると困るので!」
「分かったわかった。気をつけてな。」
「はい!じゃあ、行ってきます!」
しっかりした声で挨拶し、事務所の外に出てみたものの、なかなか結構な雨に若干顔が引き攣る…。
同じヨーロッパ圏のイギリスでは雨の日が多く、
多少の雨でも傘を差さずにいる現地民が多いそうだが、流石にこの雨はイギリス人でも傘を差すだろうと、
そんなどうでもいいことを考えながら、youは雨傘を広げて通りへ出た…。
・
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youがメローネを駅まで迎えに行ってしばらく…。
時間的にはそれこそ本来であれば、ちょうど彼がナポリの駅に到着する予定くらいの時刻になった頃。
リゾットの仕事用の携帯にメローネからの着信があった。
「もしもし、オレだ。」
『ああ、リゾット。一応今日は出張戻りの日だから念のため連絡しておこうと思ってさ。まだ電車の中なんだが、雨の所為で遅延してるようで、予定より戻りが遅くなると思う。曖昧で申し訳ないんだが多分、着くのが大体そうだな…夜の9時とか10時頃になるんじゃあないかな…。』
「成程…わかった。」
『今回は出張担当で事務所の鍵は1本オレが預かってるから、鍵開けて報告書出せるし、オレのことは気にせず帰ってくれていい。』
「そうか。」
『あー……あとさ、もしyouがオレのこと「待つ」って言ってたら、悪いんだけど家に帰るよう伝えてよ、遅くなると危ないからさ。「明日オレからアンタに会いに行く」って言っといてくれ、リゾット。」
「メローネ、そのことなんだが…。」
『おっと、悪い!乗車券の確認が来たから切るよ、チャオ。』
「おい、メローネ!………まいったな…。」
ブツ、と小さな電子ノイズのような音がして通話が終了したことを耳元で示唆する…。
リゾットは電話を耳から離して、そのディスプレイを見つめて小さく溜息を吐いた。
確かに彼女自身から「どれだけ時間が掛かっても待つ」と、「待っていることは内緒にしてほしい」と言われてはいたものの、
リゾットとしては、彼女の身の安全のこともあるし、何よりチームの責任者としての立場からも
(彼女には悪いとは思うが)メローネには伝えておいた方がいいと思っていた。
彼女への伝言を自分に依頼したということは、メローネからyouに連絡を入れるつもりは無いのだろう。
致し方なし…と、リゾットはyouに連絡をすることにした。
手に持った携帯をそのまま操作し、彼女の社用携帯にコールする…。
『はい、もしもし?』
「ああ、you、オレだ。リゾットだ。」
『どうしました?』
「今しがたメローネから連絡があった。矢張り雨の所為で電車が少し遅延していて、こちらに戻るのが9時や10時頃になるということだった。」
『そっか、分かりました。教えてくれてありがとうございます!』
「今何処にいる?」
『今はバスの中で…そろそろ駅に着きます。』
「これからどうするんだ?」
『2時間くらいなら駅の近くにあるカッフェなんかで時間を潰して待とうかな……。』
「そうか…それより遅くなるようであればもう直帰した方がいい。メローネも心配していたからな。」
『そうなんですか?』
「ああ。もしお前がメローネのこと「待つ」と言っているなら、家に帰るよう伝えてほしいと。、遅くなると危ないからさ。「明日オレからアンタに会いに行く」って言っといてくれ、と。………どうする?」
『・・・それでも、待とうかな……。』
「・・・分かった。だが、ハッキリした時間も分からないし、すれ違う可能性もある。早めに切り上げるか、もしくはちゃんとメローネに直接連絡するんだ、いいな?」
『分かりました。』
「ではな。」
『はい、グラッツェ、リゾット。』
最後に連絡をくれたことへのお礼の言葉を伝えて電話を切った。
ちょうど電話が終了する頃、バスが終点である駅に到着し、youはバスを降りる事となる…。
夕刻の駅は帰宅ラッシュ時と雨での交通機関の遅延の影響もあり、兎に角多くの人でごった返していた…。
「(すごい、人だらけ!あと2時間して混雑が減らなければメローネに連絡をしてみた方がいいかも…。)」
今から2時間待てば夜の9時…。
遅い時間だが、メローネと合流できれば問題ないし、
今いる場所は駅なので、バス乗り場も勿論ある。家も事務所もバスを降りてから一人で歩く道はあるが、
ノンストップでフルダッシュすれば怪しい人物には声も掛けられないだろうと脳内で理想的なイメージを再現する。
兎に角、メローネが言っていたという9時頃を目安に連絡をすることに決め、
youは駅に隣接する、長い時間居座っても問題なさそうな広めのカッフェを探して入った。
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それから時間が経過し、そろそろ9時になろうとする頃…。
何故か事務所の鍵がガチャンと開かれ、未だ事務所に残っていたリゾットがその物音に反応する。
「you…?」
ペッシは定時過ぎに帰宅したが、ギアッチョは今までの外勤任務での溜まっていた顛末書や報告書を処理する
(恐らくはメローネとyouが心配で残っているのだろう)という理由で残っており、
遅番勤務だったイルーゾォも今は事務所に戻ってきている状態。
メローネとyou以外にこの事務所に戻る予定のある者はいないため、
2人が戻って来たのだろうと、一同はぞろぞろと廊下へ出たのだが…。
「「「メローネ?!!」」」
「お、9時前じゃあないか!10時は確実に超えると思ってたんだが、別に大雨や強風ってワケじゃあないから思ったより列車の到着が早かったな…。」
「お、お前…何で…。」
「ああ、ただいま皆。外、雨凄いね、傘は持っていってなかったから、送ってもらえて助かったよ。」
「お…送ってって…誰にだ?というかお前、一人なのか?youは、一緒じゃないのか?」
「え、何リーダー、矢継ぎ早に……ていうか何で?youが一緒じゃないって……どういう意味…?」
「ああ、もう、本当にお前たちは!」
「えぇ…?!」
出張から帰宅して仲間が一同に出迎えてくれたかと思えば、いきなり叱られるという理解不能な状況に戸惑うメローネ。
困惑して頭に疑問符を浮かべていると、リゾットは徐にポケットから携帯を取り出し、電話を掛け始める。
リゾットのコール中に、ギアッチョとイルーゾォが彼の代わりにメローネに質問を行う。
「メローネ、お前どうやって帰ってきたんだよ。」
「え、ああ?一緒に出張に行っていたSPW財団の人がタクシーを予約してたんで、ついでに送ってもらったんだが…。」
「メローネ、メローネぇえ…お前、お前はよォ本ッツ当…!!バカ野郎がッ!!」
「い゛ッ?!な、何で急に殴るんだ、ギアッチョ!!」
ガツン!と脳天をグーでギアッチョに殴られ、思わずその場に頭を抱えてしゃがみ込むメローネ…。
涙目でメンバーを見上げると、頭上からリゾットの少し焦ったような声色が響いた。
「youか、今どこにいる?!」
『リゾット?まだ駅ですが……そろそろ9時なので、メローネに連絡をしようと思ってました。』
「そのことだが、メローネがたった今事務所に戻って来た。」
『えぇっ?!えっ、え、なんで、どうして?!さっき、電車着くの9時とか10時になるだろうって…。』
「すまない、オレもそう思っていたが、雨がそこまで酷くなかったからそこまで大幅に遅延しなかったらしい。」
『そんなぁ……もっと早く連絡しておけばよかった…。』
「今しがた財団の同行者が予約していたタクシーに乗り合わせて帰って来た…。」
『しかも雨にも濡れてない!!』
「そうなんだ…。」
『分かりました……今からそちらに戻ります…。』
「待て、待てyou!迎えに行くからお前は動くな。メローネを迎えに行かせる。」
『だめですよリゾット、メローネは出張から戻って今やっと事務所に帰ってきたんでしょ?また駅に戻らせるなんて可哀そうですよ。バスもまだ本数ありますし、一人で戻りますから。』
「you!」
『あ、バス来た!いったん切りますね!最寄りのバス停に降りたらまた連絡します!』
すぐバスに乗れたのであれば、あとは一人で歩く道のりだけが心配なので、
降りて電話を掛けてくれるなら幾分安心か…と、思っていたリゾット。
しかしながら、電話を繋いでいようといなかろうと、結局傍にいなければ同じことだったと…。
後に彼らは知ることになる…。
駅から事務所までのバスの所要時間は早ければ10~15分程だが、
本日は雨のため矢張りバスにも遅延が出ているようで、目的のバス停で降りた頃にはリゾットへ電話して20分程が経過していた。
結構遅くなってしまったなと思いつつ、youはバス停についてすぐリゾットに電話する…。
『リゾット、今、事務所に一番近い通りのバス停に着きました。って、わたし今凄い普通にリゾットに電話しちゃいましたが、よくよく考えればリゾットは定時で上がっているハズなのに、わたしが心配掛けたせいでこんな時間まで待つことになってしまってすみません…。』
「気にするな、そんなこと。お前の所為じゃあない。」
『グラッツェ、リゾット……え、あ、何……あー…ちょっとすみません、マズいかも…何でもう、こんな時に…。』
「何だ、どうした?」
『警察さんです……多分こんな時間にアジア人が一人で歩いてたから…職質かもです…。』
「警察……職質……?(こんな時間に?しかも雨なのに?)」
悪天候で、しかも徒歩でパトロールをする勤勉な警察官など、このナポリにいるのだろうか?
そんな考えに至った時点で、リゾットの脳内で警鐘のアラームが鳴り出す…。
「you、ちょっと待て!」
『あの、リゾット、すみません……手続きがあるそうなので、車まで移動するみたいです。いったん電話切りますね、すみません。終わったらすぐ事務所に戻るので、メローネには絶対待っててって伝えてください。あ、そうだ、事務所はもうすぐなんで、リゾットはもうお仕事残ってなければ、わたしのことは心配せず置いて帰っていいですからね!それじゃあ!』
「待て、行くなyou!!その車には乗るんじゃあない!!」
最後に彼女を引き留めるため、大声を張り上げたリゾットだったが、
自分の話を全て伝えたからであろう彼女はそれに気付かず電話を切ってしまっていた…。
そのように尋常でないくらいの反応をしたため、「何があった?」という一同に
リゾットが切羽詰まったような勢いで指示を出してきた。
「メローネ、youが危ない。社用の携帯のGPS機能でyouの居場所を確認して迎えに行け!今すぐだ!きっと近くにいる!!オレも後で向かう!」
「え、ちょ…危ないって?!リゾット?!」
「いいから早く行けーーーッツ!!」
「「!!」」
新制パッショーネになってから、久しく見ていなかった本気で怒りを顕わにするリゾットの激昂に
メローネだけではなくギアッチョもイルーゾォもビクリと肩を跳ねさせ、その危機感を察知する…。
メローネは黙したまま頷き、傘もささずに外へ飛び出すと、
すぐに携帯を開いてyouの居場所のマップ確認を開始した。
次いでリゾットは事務所に残った2人にも迅速にテキパキと指示を出す。
「イルーゾォ、お前は今すぐバスタブに湯を張って、救急箱や手当に使う道具の準備をしろ。」
「ああ、分かった!」
基本的にリゾットの言うことは絶対と全幅の信頼を向けているイルーゾォは
理由すら尋ねることなく、迷いなき行動を開始する。
「ギアッチョは今すぐジェラートを起こせ。教会育ちなら多少看護や手当の経験があるはずだ。」
「おいおいおい……マジかよ……何でそんな事になるンだよ…!!」
「勿論懸念で終わればそれでいい。万が一そうでなかった場合の為だ。」
「チッ……クソッ、クソっ!!」
「オレは今からメローネを追う。」
「分かった、分かんねぇけど、言う通りに行動すればいいんだな?!」
「頼んだ!」
ギアッチョは頷きつつも、足はもう既にソルベとジェラートの部屋の方へと動いており、
それを見てコクリと頷きながら、リゾットは玄関へと向かった…。
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「ああ、クソッ!雨で画面が見え辛い!濡れて地図の拡大が反応しないじゃあないか!!」
雨の中勢い良く外へ出たのはいいが、その弊害を大いに食らってしまっていたメローネ…。
パッショーネから個々に持たされている社用の携帯にはGPSが搭載されている。
安全確認とも、監視とも言えるものだが、任務中も休みの日もパッショーネに属する者らは
常にその機能をONにしておかなければならない決まりになっているためだ。
youは雇用形態こそ財団からの派遣となっているが、
彼等と共に仕事をする以上、休みや勤務時間など、基本的にパッショーネと同じ労働条件となっている部分が多い。
携帯とGPS機能もそのうちの1つで、勿論彼女自身も了承の上のことで生活している。
そのため、今回はその機能で彼女の居場所を探しているのだが、悪天候でうまい具合に地図の詳細が出てこない。
大きく舌打ちをするメローネだったが、それから何度も画面を服で拭きながらようやくyouの位置の示された通りを見つけ出した。
「you!!」
携帯で示されたのは事務所からそう離れてはいないくらいの場所だったが、
夜になると街灯も人通りも無くなるような裏通り…。
しかもGPSのマーカーは自分のいる場所のすぐ傍にあるのに、人の気配が無い…。
ゾクリと嫌な予感を抱えつつ、メローネはマップを閉じて彼女の番号に電話を掛けることにした…。
「頼む……出てくれ、お願いだ、you…………ッツ?!」
思わずコール中なのに耳に当てた携帯を降り落としそうになったのは、
通りの先の暗い道で、一部だけ地面を光らせる物体を目にしてしまったからだった…。
駆け寄って拾い上げれば、ディスプレイには自分の名前で呼びだしされてる着信の画面で…。
それが間違いなく彼女の携帯であることが判明した。
となると、彼女の本体は…彼女自身は何処にいるのか、と…。
メローネは顔を真っ青にしながら周囲を見回すが、その通りには一切人の気配は無い…。
「(落ち着け……冷静になれ、絶対に近くにはいるはずなんだ……探さないと……何か手掛かりになるものを…何か…。)」
このまま闇雲に走り回っても、冷静さを確実に欠いてしまっている今の自分では
きっと彼女の居場所から離れていってしまう自信があったため、
メローネは彼女の携帯をぎゅっと握りしめた後、一度目を閉じて大きく深呼吸をする…。
「(思い出せ、さっきリゾット何て言ってた…「youが危ない」「きっと近くにいる」……何で危ないって思った?
「行くな」って「その車には乗るんじゃあない」って言ってた……誰の車に?あんな反応絶対知り合いじゃないだろう?
「警察」……「職質」)……警察?警察だって?!!」
バッと顔を上げ、目を見開く。
「合点がいったぞ、今………バス停から降りたyouに警官が声を掛けた…いや違う、そうじゃあない…いる、いるんだ、ナポリにはいる……警官を装った犯罪者が!!」
思わず叫びそうになる口を強く手で塞ぎ、メローネは走り出す。
「だったら車、車におびき寄せる……なら、こっちの裏!!駐車場方面だ!!パトカーなんかじゃあない…可能性として高いのは……商用車…!!」
頼む、間に合ってくれ、と願いながら駐車場のある通りへと抜け出たメローネ。
早鐘のようにバクバクと鳴る心臓は今にも口からせりあがってきそうな気がして、上手く呼吸もできない…。
隙間なくいくつも並んでいる車は殆ど乗用車タイプのものだったため、
メローネは残る商用車と、大き目の乗用車で後部座席の窓をブラインド使用にしている車だけを流れるように確認していく…。
これも違う、これも…と、いくつかの対象車を通り過ぎたところで、
数メートル先でスライドドアの閉まる音がして、一台の商用車のエンジンが掛かり、ライトで前方の道が照らされた。
「!!!」
前後ろの車にガンガンとぶつけながら、荒っぽくバンが駐車場から抜け出た時、
メローネも同じ位置に並ぶ程の距離に近付いたが、フルスピードでその場を離れていく車には追い付けなかった。
「クソッ!!だがナンバーは覚えた…!すぐにリゾットに報告して追いかけないと…!!」
追跡こそ自分のスタンド能力の真価が発揮されるというのに!
そう雨に打たれながら、悔しそうに唇を噛み締めるメローネの耳に、
雨音に混じって異質なノイズのような…呻き声のような音が入って来た。
そうして気付く、近くにある何かの気配…。
ああ、なんで・・・
こんなことになった?
「……あ…あ…ぁ…。」
パシャ、パシャ…と、靴が雨に濡れた地面に触れる音がゆっくりと響き、
メローネは駐車場の奥で、まるでゴミのように打ち捨てられている物体に近付いていく…。
「嘘だろ……こんな……なぁ、冗談だろ……神さま…。」
いや、今更神なんて自分や自分の仲間達は信じちゃいないが…。
でも彼女はそうじゃないだろ、きっと信じてたはず。
たとえオレ達と同じ神さまじゃなかったとしても。
なんでだ?イタリアだったから?日本からは流石に遠かった?
彼女の神さまは出張できなかったのか?
「違う……アンタ(神さま)の所為なんかじゃ…あ、なくて……これは…。」
バシャっと大きな水音が響いたのは、メローネが目的の場所に辿り着き、そのまま膝をついたからで…。
彼は打ち捨てられたゴミ……ではなく、傷だらけでボロボロになり倒れ伏していたyouを、
まるで、壊せば修復不可能なカラス細工のように…震える手で抱き起した…。
「ッ……あ………な…ぁ、you……?」
それは生存確認だったのか、それとも生きていると分かっていての意識確認だったのか、
それすらもう自分でも分からないくらい、兎に角目の前の非現実に向き合えないでいるメローネ…。
出張から帰ってきて、話をして、きっぱり自分の好意に蓋をして、二度と開かない箱に仕舞い込み、
明日から今まで通り、笑顔で挨拶をして、軽口をたたいて、(たまにセクハラをしたりもするかもしれないが)
買い出しの日には帰り掛けにジェラテリアに寄り道したり、
たまに休みが合えば美味しい料理やドルチェを食べに行くはずだった。
「なのにどうしてだ…?何でアンタがこんな目に遭うんだ…?」
「っ……ぅ…。」
「you!!!」
「め……ね…?」
「いい、いい、喋らなくていい!」
少しだけ安堵したのは、恐らく彼女が自分を認識してくれていると分かったからだろう。
しかしながら、最悪な状況には変わりなく、メローネはすぐに彼女を抱き起して連れ帰ろうとしたのだが、
それは彼女自身によって途中で遮られてしまう。
腕で顔を殴られるのをガードしたのだろう、欝血した腕は細くて動かせるのがやっとのよう。
弱々しい動きで、youはメローネの頬に手を伸ばした…。
「め……ーネ……わ、たし…。」
「you…。」
「ごめ、なさ……。」
「何……どうしてキミが謝るんだ…。」
「わか…ない………でも、ず…っと……。」
「・・・。」
「あ いた……かった…。」
「っ…!!」
「あって………あやまり、たかった…。」
「何でだよ!!!どうしてそうなるんだ!!」
「おこらせ、て……ごめ、なさ…い。」
「怒ってない!!怒ってないって……言っただろ……言ったじゃないか…。」
そういえば、言っていたね…と、その言葉は口に出さずに、困ったように笑って表情で伝えるyou…。
所々腫れてしまっている目や頬が痛々しくて、それを見て思わずメローネの眉間に皴が寄る…。
「謝るのはオレの方だろ……オレが悪い…全部、何もかも、オレの所為だ……こんな…ッツ!!」
「メロー、ネ。」
「!!」
「……きて…くれて、ありがと…。」
「you…。」
「・・・。」
「you…?you、you……ッツ!!!」
ふっと、ぎこちない笑みを浮かべた後、伸ばしていた彼女の手が重力に従って地面へ落下した。
同時に双眼も閉じられ、彼女はその場で意識を失ってしまう…。
身体を思いっきり揺さぶりそうになったが、怪我に響く可能性が高いと判断して何とか堪え、
まずは一刻も早く事務所に連れ帰らなければと、彼女を抱き上げたところで再びメローネは息を飲む…。
抱き上げた際に自分の腕に、雨ではなく粘度のある液体が触れる感触…。
伏せていた時には分からなかったが、着衣は乱れて、ボタンなどもほぼ付いてはおらず…
明らかに車内に連れ込まれ、乱暴されたのだと分かった……分かってしまった。
五臓六腑が煮えくり返るとはこのことかと思う程、堪えようのない怒りや憤りだけでなく、明確な悲しみも襲ってくる中、
メローネは何とか自分の精神を律してyouの身体を抱いて事務所へと駆けだした。
「メローネ!!」
「!!」
先程youの携帯を拾った通りに出た際、メローネを追ってきたリゾットと鉢合わせた。
到着が遅くなったのも、メローネと同じく携帯の画面操作に手間取ったからだろう。
状況を察して、走りながら会話をすることにしたリゾット。
理解が早くて助かる…と、合わせてくれた彼にメローネが状況を説明する。
「とりあえず生きてるけど、多分アンタの悪い予想通りの状況だ。」
「ッ……そうか…分かった。犯人は?」
「逃げられた。夜だから確証がないが黒か紺、もしくは茶色か…黒系の商用車、後部荷用の窓はシールド、完全に見えなくなってるタイプのやつだ。ナンバーは「Nx 3xxx5 xA 」盗難車の線も否めないが、オレの勘だと多分自前。常習犯。」
「多発している警官を装った犯罪者だな。」
「ああ。ドアの閉まる音とほぼ同時にエンジンが掛かったから、少なくとも2人は確実。」
「分かった、探そう。」
「ごめん、リゾット……オレの所為だ…。」
「…反省は後でしろ、今はyouのことを。事務所でイルーゾォとギアッチョが待機している。傷の手当の為にジェラートも起こしてもらった。」
「ディ・モールト、グラッツェ。」
事務所へと到着し、雨で濡れているのも気にする事なく、部屋の中へ入ると、
そこにはギアッチョとイルーゾォは勿論のこと、ジェラートとソルベも起きてリビングで待機していた。
空間に入るや否や、メローネが悲痛な声でイルーゾォの名を呼ぶ。
「イルーゾォ!頼む!youを鏡の中に!お前とyou以外「全て」「何もかも」「誰の命も」許可しないでくれ!!!」
「ッ……貸せッツ!!!」
イルーゾォが悔しそうに顔を歪ませたのは、痛々しく傷を負ったyouの身体をメローネから預かったからなのか…。
はたまた、メローネの頼み方に全てを察してしまったからなのか…。
「マン・イン・ザ・ミラー!おれとyouが鏡の中に入ることを許可する!!だが!その他の生き物は許可しないィイイーッ!その2名以外の細胞や遺伝子が入る事は、絶対にッツ…許可しないィイイーーッツ!!!」
己がスタンドを発動させ、youを抱きかかえたまま鏡の中に入っていったイルーゾォ…。
リビングに掛けられたイルーゾォの為に誂えられたと言っても過言ではない大きな鏡…。
そこに2人が入っていった後、鏡に得体の知れない粘着液がベッタリと張り付いているのを見て、
ギアッチョとソルベは目を見開き、ジェラートは嘔吐感を堪えるように口元を塞いだ…。
そんな中、ただ一人、メローネだけは違った。
彼は濡れた靴でフローリングの床をギュイギュイと鳴らし、鏡の前に立つと、
まるでそうするのが日課でもあるかのように鏡を伝って落ちて来る白濁液を胸ポケットから出した小瓶に取った。
ソルベとジェラートには見えないが、その他のメンバーが一体何をしているのかと眉を顰めれば、
メローネは全くの無表情でスタンドを発現させると、パソコンから手足が生えたような本体のそれに小瓶をセットしようとしたので、
慌ててギアッチョが彼を羽交い締めにして制止に掛かる…。
「おいメローネ!テメェ、何してやがる!!!」
「あー、あぁ、離してくれギアッチョ…今からオレには重要な任務があるんだ。」
「それ絶対ェーおめーが勝手に決めた任務だろぉがよォオオ!!」
「確かにリゾットから指示されたものではないが…重要なんだ。スゴク、重要なんだよ。」
「精液(ソレ)単体じゃ何もできねェだろ!女はどうすんだ!」
「店に行くか呼び付けるか……そもそも此処はナポリだ。イタリアで一番治安が悪い場所。スパッカにいなけりゃフォルチェッラまで行ってもいい。雨だけど探せばストリートガールなんていくらでもいるだろうし…。」
「ッバカ野……ろ…?!!」
大声で殴りかかろうとしたギアッチョの言葉と動きが止まったのは、
目の前で腕を押さえてメローネがその場にしゃがみ込んだからである。
何事かと思えば、メローネの腕からメリメリと音を立てて鉄製のカミソリやカッターの刃が皮膚を破って外界に顕現する。
摩訶不思議かつな凄惨な光景にジェラートは絶叫し、ソルベは目を見開いて後ずさる…。
しかし、それが何の現象なのかを知り得ているギアッチョとメローネだけは、2人してリゾットに目を向けた。
「ッ……り、リゾット…ッツ!!」
「早まるな、メローネ。気持ちは分かるがお前がやるべき仕事ではない。能力も使うな。」
「オレは……いい、パッショーネを追放されたって構わない。youをあんな目に遭わせたヤツをブッ殺せるなら、追放されようが、逆にオレがボスに殺されようが全く持って構わない。」
「ダメだ。そもそも、youがそれを望まない。」
「そんなの分かってるさ!でもオレはアイツ等を許せない!たとえyouが許してもオレは…」
「勘違いするな、メローネ。」
「?!」
「youが望まないのは「自分の所為でお前の手を汚すことになる事」をだ。」
「ッ…!!」
「分かったらスタンドを仕舞え。」
「~~~!!」
「仕舞えと言っているんだ!!」
「……ッ……クソぉおおッツ!!」
リゾットの放った言葉は、メローネ自身と同様に、普段の彼女をよく観察し、
しっかりとコミュニケーションを取っているからそこ出せたものと言って間違いなかった…。
これがホルマジオやイルーゾォだったら、こうも的確に彼女の想いに寄り添った忠言は出せなかっただろう。
だからこそ、リゾットの言葉に対し、何処にもぶつけようの無い怒りを腹の底から絞り出しながらも、
メローネは己がスタンドを引き下げたのだ…。
「だったらオレは……なんのために…あんな顔させて……あいつから離れたんだよ……なぁ、ギアッチョ…リゾット……ソルベ、ジェラート……だれか、だれか教えてくれよ……。」
まるでアキレス腱を切られたように、もう立っていられないとばかりにその場に崩れ落ちるメローネ…。
手を付いて、じっと床を見つめれば零れ落ちて来る水滴は
髪から伝う雨雫なのか、エメラルドの瞳から溢れ出る涙なのか…。
それはもう、メローネ自身にも分からないものだった。
Pioggia fredda
冷たい雨
words from:yu-a
*。゜.*。゜.*。゜.*