Lei e un fiore. (番外編 / メローネ)
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「嘘でしょ…メローネ…。」
「え?」
流石にそれは冗談だよね?と…
スーパーマーケットの一角で
彼女は顔を蒼くして彼を見つめた
Lei e un fiore.
salute(健康)!
「ベネ!今日は外回りだったが定時上がりできるようだ!」
わーい!と、両手を挙げて事務室のデスクで喜ぶメローネ。
内勤で、同じく事務室でパソコンに向かっていたyouが「良かったね」と声を掛ければ、
彼は嬉しそうに「そうなんだ!」と、聞いてもいない本日の自分の業務に関して話し出す。
「今日は珍しく外回りで何件か訪問先があったんだが、特に問題なく全行程こなすことができてね!トラブルが無かったからこの通り、報告書も日報もスムーズに作成できたというワケだ!」
「そっか、じゃあメローネはもう帰れるんだね、お疲れ様。」
「youはどうなの?何か手伝う?」
「ううん大丈夫。わたしも今書いてる日報を提出したら帰れるから。」
「そうなのか。だったら少し待ってるから一緒に帰らないか?家まで送るよ。」
「?……メローネはバイクでしょ?」
「いや、今日は車。」
「あ、修理から戻ってきたの?」
「ああ、ようやくな。けど、中古車だからなぁ……またいつ故障するか…。」
先日、2人で休みの日にパスティチェリア巡りをした際、車を修理に出しているが、
いつ戻ってくるか分からないと溜息交じりに話していたメローネ。
その日から数えると約2,3週間程経過しているので、なかなか長く車が返却されなかったことが窺い知れた。
youが苦笑しながらも「でも戻ってきて良かったね」と言えば、
メローネはまたまた溜息交じりに「まぁな」と文句を飲み込んだ様子で答える。
それから数分後、youが日報を出し終え、メローネと彼女は退勤を果たした。
「you、キミこれから何か用事があるかい?あるなら先にキミを送るよ。」
「何もないよ。」
「ベネ!では少し買い物に付き合ってくれないか?」
「あ、荷物……だから今日は車で出勤したの?」
「Hai indovinato(正解)!」
そう言ったところで、駐車場へ到着。
ポケットにあるスマートキーを押したようで、彼の言葉のタイミングと合わせて1台の車の鍵が解除された。
「それにしても本当に…イタリアの駐車場事情って凄いねぇ…。」
「ん?何が凄いんだ?」
「だってこれ全部路上駐車でしょう?それにこんなにギチギチの縦列駐車…日本じゃ考えられないです…。」
「いやいやいや、路上駐車ではあるが、ここはれっきとした事務所の裏にある住民用駐車場だぞ?」
「えっ?!」
見るからに狭い道の両端に、ずらりと何台もの車が前後の隙間少なくびっしりと縦列駐車をしているという光景…。
これを無断の路上駐車だと言わずになんだと言うのか…とyouがギョッと目を丸くすれば、
メローネはキョトンと不思議そうな顔をして彼女を見下ろして言った。
「ここは、住民用の駐車場。今日は誰も車で来る奴がいないからオレが借りた。普段はホルマジオとかプロシュートとか……まぁ、結構交代で使ったり。」
「ご冗談を。」
「本当だってば。ほら、ちゃんと見て白線が引いてある。」
「白線?」
「成程……youは駐車場事情が分かってないのか。」
「イタリアの駐車場事情…ですか……はい!聞きたいです、メローネ先生!」
「ベネ!いいぞ、you……その「先生」というのはなかなかクるものがある。実にオレ好みだ。」
うんうんと満足そうに頷くと、メローネはその知識
(と言うよりは彼の住まう国の話なので一般常識を教えているだけなのだが)を、丁寧に説明し始めた。
「イタリアの「駐車場」は主にこういった線が引いてある。線が引かれていないところに留めているのが無断の路上駐車ってヤツだな。」
「へぇ、そうだったんだ…知らなかった!」
「助手席へどうぞ、bellina(かわいい人)。普通の車だがホルマジオの車内よりは綺麗だと自負している。」
「あ、ありがとうございます……ホルマジオの話は流すね。」
助手席のドアを開き、youが乗ったのちにそのドアを閉めてからメローネは運転席へと入った。
エンジンを掛けて各方面のミラーを確認する……そんな彼を横目で見つつyouが思う事…。
「(こんなギチギチの状態から果たして無事に脱出できるのか?!!)」
と…。
しかしながら、メローネは小慣れた様子で微かに口笛を吹きながらハンドルとギアを操作し、
前後どちらの車にもぶつかることなく駐車場から抜け出て、すんなり大通りへと躍り出た。
「す……すごい!!メローネは運転上手なんだね…あの縦列駐車から無傷で脱出なんて、ちょっと感動ものだよ…。」
「ん、そうか?まぁ、たまにぶつけるから修理出すことになるんだが…今日はキミが一緒に乗ってたからね。普段よりは慎重になったかもだ。」
「そうなの…?」
「あれくらいの縦列駐車の駐車と離脱ができないとイタリアじゃ車なんて持てないぞ、多分…。」
「信じられない…。」
それは、イタリアの歴史が古すぎるあまり、掘ればそこかしこから古代の遺跡や遺物が発掘されてしまうため、
近代になった今も尚インフラが整備されない(できない)という理由から来ているのだが、
それでも地下や地上の立体駐車場を作ってまで交通が整備されて、
きちんとした駐車スペースが設けられている日本に比べると、イタリアの交通事情は圧倒的ハードルの高さである。
故に、そんなハードルを「通常運転です」とばかりに軽々超えるイタリア人…基、メローネに対し、
youは「メローネは運転上手!」と、感心してしまうのだった。
「さて、大通りに出たし少し話す余裕も出たのでさっきの続き。メローネ先生の駐車場講座といこうか。」
「あっ、そうだったね!」
「おっ、早速いいサンプルがあるぞ、ほら、you!……今走ってる道の端の路上駐車の線を見て。」
「あ、線が青い!」
「線が青い駐車場は基本は有料のもので、多分近くに事前精算の機械がある。時間で利用する感じだな。」
「車を持ってないから使うことは無いかもだけど、勉強になります…!」
「あと他には…駐車できない黄色い線ってのがあるな。」
「駐車できないのに線が?」
「普通は停められないって事。登録された車両などだけが駐車できるスペースになる。」
「なるほど!!」
「どんな駐車場所でも決まりを守ってないと結構な罰金食らったり、最悪レッカーされちまうから注意しないといけない…。」
「あー、その辺りは日本も同じかな~。」
「ま、最終的にはどの国もそういう感じになるだろうな。」
「でも面白かった。またイタリアのことを知れて良かった……ありがとうメローネ。」
「おや、そこは最後に「先生」で締めくくってくれよ。」
「あはは、そうだったね、ありがとうございました、メローネ先生。」
「ディ・モールト!それでこそ、教えた甲斐があったというもの!いいな、可愛い教え子と車でデートなんてなかなか背徳的じゃあないか。」
「あ、もう講座が終わったから同僚に戻ってまーす。」
「むぅ…。」
貴方の性癖には付き合いませんと、くすくす笑いながら受け流すyou……。
明らかに最初の頃とは違い、接し方に慣れてきたといった様子の2人である。
そうして車を数分程走らせ、大分混雑した通りの有料駐車場に車を停車させたメローネ。
「ベネ!やっぱり今日はツイてるな、すんなり車を停められたぞ!」
「ここ、いつもこんなに混んでるの?」
「ああ、この周囲は店も多いし、このスーパーもナポリじゃ結構大きいから皆が此処に来るんでね。」
「確かに大きい…。」
「さ、行こうか。」
「はい!」
車を降りて、事前精算の機器の操作を行い、メローネとyouはスーパーマーケットへと入店した。
「ねぇ、メローネ、わたしも一緒に買い物して帰ってもいい?」
「ああ、勿論。折角車なんだし、重いものなんかは買い込んでおくといい。」
「ありがとう!」
折角車なので、自分の買い物もさせてほしいと許可をもらうyouに、快くそれを受け入れたメローネ。
まだまだイタリア初心者のyouがスーパーの商品に物珍しそうにリアクションをするので、
メローネは正に教師さながらに、その1つ1つにきちんと説明をしてやりながら店内を回っていく。
そんな中、自分の必要な食材や生活用品をカートに入れていくのに対し、
メローネは全くそういうものを入れる気配がないので、youは不思議に思いながらも買い物を続けていく…。
「あ、ほらyou、これって日本語じゃあないか?少し日本の商品があるみたいだぞ。」
「えっ、あ!本当だー!お味噌、みりん、日本米……!」
「高っかいなー…流石輸入品。」
「でも買います!恋しい、日本食恋しい!ここに売ってるっていうのが分かっただけでもありがたいです!お醤油とかは結構見掛けたんですけど…。」
言いながら嬉しそうに調味料をカートに入れていくyou。
そういえば…と、先程からの疑問をメローネにぶつけてみることにした。
「そういえばメローネは何もカートに入れないけど……何を買いに来たの?」
「オレ?オレの買うものはドリンク売り場にある。そこに行った時でいいんだ。」
「飲み物なんだ?」
「ん、まぁね。」
「あ、お肉のコーナー行ってもいい?」
「勿論。」
メローネの目的が飲み物であったことが分かり、それほどまで不思議なものを買いに来たワケではなかったのだと、
謎が解けてスッキリしたような、割とありきたり過ぎて物足りない気がするような…。
ちょっとだけ複雑な気持ちになるyou。
まぁ、多少変態的な面もあれど、スーパーで買うものはメローネも普通の人間と変わらないのだな…などと
失礼なことを考えながら、精肉のコーナーで牛肉をカートに入れ、ドリンクのコーナーに向かったのだが…。
「前言撤回かも…いや、口に出してはないんだけど…。」
「え?」
コーナーに到着すると、メローネはそこで偶々品出し作業をしていた店員に声を掛けたのだが、
その後、バックヤードから店員が持ってきた段ボール1ケースのエナジードリンクを彼が受け取ったのを目の当たりにして、
流石に口をあんぐりと開けてしまうyou…。
「メローネ、それ……もしかしてエナジードリンク…?」
「そうだが?」
「そんなに買い溜めするの…?」
「買い溜めというか……たまの飯というか…。」
「飯?!今飯って言った?!」
「いや、ちゃんとエナジーバーとかも補給で食ってるから。」
「ねぇ、嘘でしょ…メローネ…。」
「え?」
流石にそれは冗談だよね?と…。
スーパーマーケットの一角で彼女は顔を蒼くして彼を見つめた。
口を開いたまま、絶句するyouを見て「しまった」と思ったらしい。
メローネはすぐに「いや、大丈夫だ」と言葉を続ける…。
「基本的には皆と外食に行って飲んで帰っているから、ほら、ホルマジオとかギアッチョとかとよく飲みに行ってるの、youも知ってるだろ?それに、腹が減ってる日は一人でも飯に行くことだってある。だからこれの世話になる時は誰とも食べれなくて、あんまり腹が減ってない時だけで…。」
「お腹が空いてない日はエナジードリンクと携行食品だけで済ませてるってこと?!」
「・・・ああ。」
「何それ……だめだよ、不摂生過ぎる…!」
「不摂生…ああ、不摂生、そうだな……うん…。」
「信じられない…え、信じられない…。」
「2回も言わんでくれ。」
「っ……だって!!」
困惑、不安、憤りの感情を上手に言葉にできず、ぐっと飲み込むyou。
「別にもうこれに慣れちまってるから、今更どうってことはないさ。前の組織の時の方がもっと皆人間辞めてたくらい不摂生だったと思うしな。あん時は皆金も無かったから。」
「でも、今は違うのに…?」
「まぁ、不摂生なのは承知だがな……でもオレは自炊とかできないし、インスタントとかは美味しくないし、仕方ないんじゃあないか?」
「し、仕方ないって…ッ!」
真剣に詰問しそうになったyouだったが、ハッと状況を確認する。
店の中で大声を出すのも憚られるため、口を無理矢理噤み渋々我慢した様子…。
しかしながら、矢張り納得できず、説得の必要があるだろうと…。
スーパーで全ての買い物を済ませ、購入したものを車に積んで帰路へついた時に問答が始まる。
「ねぇメローネ、さっきの話なんだけど!」
「うーん……アレね…まだ話続ける?」
「ちょっと、ちょっと待って本気で心配……ねぇ、どうしたらいい?余計なお世話だって言われると思うけど、聞いちゃった以上、メローネにそんな不摂生な食生活送ってほしくない…。」
「ではオレにどうしろと?まさかキミがオレの家に来て飯を作ってくれるってワケじゃあないだろうに?」
「メローネがそれでちゃんとご飯食べるようになるなら、そうしたっていいくらいだよ!」
「だろ、そうしたっていい………そうしたっていいだって?」
車の運転中にも関わらず、あまりにビックリし過ぎてyouの方にぐるんと顔を向けてしまうメローネ。
危うく急ブレーキまで踏みそうになったところを回避したのだが、それは黙っておくことにした。
目を見開いて「正気か、キミ」と尋ねれば、彼女はうーんと唸った後に、
彼の懸念とは全く異なる方面の心配を真剣な表情でぶつけてくる。
「あ、でも帰りが遅くなると怖いから、この場合はどちらかと言うとメローネにわたしの家に来てもらってご飯食べて帰ってもらう方がいいのかも…。」
「あのな、キミ………それ、オレが飯食った後にちゃんと帰ると思ってるのか?オレの家で作るって場合もそうだ。作ってもらった後、アンタのことちゃんと家に帰すと思うのか?」
「え…?」
「え?じゃあない。それとも……「そういうこと」覚悟でそういうこと言ってる?」
「そ…「そういうこと」って?」
「オレとセックスしても構わないのかってこと。」
「…??!?」
突如として聞こえた生々しい単語に、脳の処理が追いつかない様子…。
たとえて言えばそれこそ「宇宙猫」のような顔で固まっていると、
メローネが珍しく彼女に対して呆れたような表情を見せた。
「ほら、そうじゃあない。しかし、残念ながら、オレが男でキミが女である限りそれって普通に考えることだと思うぜ。しかもそれはオレがイタリアーノだからとかじゃあない。オレがジャポネーゼでもアメリカンでも生物学的に「雄」である限り本能ってのはそうデキてんだ。正直に今話してるのはオレなりのできる限りの配慮ってヤツだ。」
「はい、りょ…ですか。」
「だってそうだろ、黙ってキミの提案を受け入れて、家に来てもらったあと無理矢理襲うことだってできるところを、こうしてちゃんと…そうならないように説明してやってるんだ。これって相当な配慮だと思うんだが、オレは何か間違っているか?」
「いえ……いえ……うん……そう…そうなの、ね…。」
「ああ。しかも、赤の他人ならまだしも……正直キミはオレのお気に入りだし、ぶっちゃけそんな美味しい状況で我慢できる自信はほぼ皆無だ。」
「め、メローネ!」
「だから、非常に有難い提案だけど、諦めた方がいい。」
「~~~!!」
「悪いな、you。」
自分の発言と、相手の提案を却下したことと併せて「悪い」と謝りを入れたものの、
その声色は申し訳なさの欠片も全く無いような冷静な温度。
自分の発言が正しいものだと自負している様子のメローネと、
頭では理解していても、どうしてもそれに感情的な納得ができない様子のyou…。
スーパーから距離もそう離れていないため、そのまま無言で車を走らせ、
わずか数分で彼女の家の前に到着してしまった。
「着いたよ、you。」
「・・・。」
「どうした?キミの家だぞ?」
彼女の住むアパートの前の通りに車を停車させ、下車を促したのだが、
降りる気配が見られず、再度到着を知らせて確認を取ったメローネ。
すると…。
「メローネ……これから何か予定はあるの?」
「え、いや……特に何も。家に帰るだけだが?何か買い忘れでもあったか?」
「この近くに青い線の駐車場、ある?」
「え?有料駐車場?いや……さぁ、分からないな……探してみないと……急にどうした?」
「じゃあ探してください。」
「え……あ、ああ……。」
何の目的でか分からないままにyouに言われて有料駐車場を探すことになったメローネ。
珍しく…というよりも初めてかもしれないが、どことなく怒っているようなオーラを醸し出す助手席の女性の考えが読めず、
戸惑いながらも車をゆっくり走らせて青枠の駐車場へと車を停車させたメローネ。
「着いたけど……。」
「駐車料金って先に払うんだよね、いくら?わたしが払う。」
「ちょ、ちょっと待ってくれyou、キミの意図するところが分からないんだが。」
「あとで話すから。」
そう言って自分の荷物を持って車外に出て、メローネが出てくるのを待っているyou。
降りるしかないようだと諦め、メローネは困惑しながらも外へ出て駐車場の精算機へと向かう。
どのくらいの駐車時間を確保すればいいか分からなかったため、駐車場の看板に書かれている基本時間分の券を購入し、
車のダッシュボードの上に掲示して鍵を掛けた。
「とりあえず停めた、駐車料は気にしなくていい。事情は……分からないけど。」
「ごめんね。…じゃあこっち、付いてきて。」
「…分かった。あ、重いだろ、荷物持つよ。」
「……ありがとう。」
スマートに彼女の手から重たい荷物を受け取るメローネ。
そんな風に自然に気配りや優しさを見せるから、余計に納得がいかないのだ…と、
youは微かに小さく文句を垂れる。
何か言ったとは思うが、確実につっこんで欲しくなさそうな独り言のように思えたため、
メローネは少し悩んだが言葉を飲み込むことにした。
・
・
・
・
これは一体どういうことだ…と。
目の前で湯気を帯びた日本食らしき夕飯のメニューを眺めながらメローネは思った。
「ということで、作るの時間掛かって遅くなってしまいましたが……どうぞ。」
「どうぞって……。」
先程の車内の問答ののち、youの言われるまま彼女の家へと連れてこられたメローネ。
部屋の中へ通され、自分の家とは全く異なる環境だということは理解できるので、折角呼ばれたのであれば
じっくり彼女の家を調べ尽くしたいという気持ちが湧きはするが、正直今の心境はそれどころではない。
すぐにリビングのソファに案内され、適当に寛いでてとTVを点けてくれたyouだったが、
正直状況の理解が追い付かず、ただただ困惑しながらキッチンで食事の準備をし始めたyouの姿を見つめ続けた。
そうしていい香りが漂ってきて、良い感じに空腹感が沸き上がってきた頃、
それはもう食欲をそそられるようなホカホカとあたたかな日本食が2人分、テーブルに準備され、
メローネはそこに座らされたというわけだ。
「今日の夕飯は調味料が手に入ったので日本食!みそ汁と牛丼、だし巻き卵です。」
「・・・。」
「メローネはお腹空いてない?」
「いや…。」
つい先ほどまでは別に空腹ではなかったはずだが、
この匂いと出来立ての食事の見目で、すっかり腹ペコ状態である。
ゴクリと生唾を飲み込んで、メローネはyouへと顔を向けた…。
「いただいても?」
「勿論。日本食がメローネの口に合えばいいんだけど…。」
「どうだろう、分からないな……イタリアで食った日本食はスシとラーメンくらいだ。それくらいしか和食の店は無いし、それすら高いからなかなか行かない…。」
「日本の食材や調味料が揃えられたワケじゃないから、代用品でちょっと本来の味と違うとは思うんだけど…。」
「そうなのか。」
「そうだよ……例えば本当は牛丼の上に生卵乗っけたかったのに、イタリアの卵は滅菌処理されてないって聞くから…温泉卵わざわざ作らなきゃだったし…。あぁ、電子レンジ欲しいな……1発でできるのに……絶対初給料で買ってやる。」
テイクアウトの食事も帰って温めたいのにレンジ無いと不便!と少し不服そうに口を尖らせるyou。
ただでさえ電子レンジの普及率が低いイタリアで、しかも自宅で食事を温めるどころか
エナジードリンクで済ませてしまうような男には「そんなもの必要か?」くらいの感想のようで、
メローネは、一人ブツブツとごちるyouを呆けたように見ている。
「あっ、ごめん独り言!冷めないうちに食べて、どうぞ。」
「ああ、じゃあ失礼して…。」
「あっ、あっ待ってメローネ、ご飯食べる時はこうやって手を合わせて「いただきます」、食べ終わったら「ご馳走様」って言うの。よかったら一緒にやってほしいな。」
「手を合わせて……こうか?」
「そうそう。それで「いただきます」。」
「いただきます。」
日本式で、食事の挨拶をして夕飯を食べ始める2人。
ゆっくりと最初の一口を口に含むと、メローネの目がカッと見開いた。
「ん、んん!!……これは…!」
「・・・。」
「you、これは何て日本食なんだ?」
「これは牛丼です。本当は卵とじたかったから親子丼にしようと思ったんだけど、連れてってもらったスーパーの牛肉が綺麗だったから。あ、半熟の卵はわたしの好みで入れたの。」
「ディ・モールト!ディ・モールト!!最高に美味い!!これは……イタリアンの危機かもしれない!日本食、侮れない!」
「良かった!じゃあ、多分こっちのだし巻き卵も好きなんじゃないかな。」
「これかい?」
「うん。」
「……うん、うん、こっちもイイ!すごく、オレの好みだ!こっちで言うフリッタータのような感じだな。しかし、何をどうやったらこんなに綺麗に形を整えられるんだ…。」
「え、これだけど…。」
メローネの質問に、youは自分の持つ2本の棒……基、お箸をもう片方の手で指さして答える。
先程から、自分はずっとスプーンで食べていたが、
そういえば目の前の彼女は箸を器用に操っていたなと今更ながら感心するメローネ。
「マンマミーア……日本人は手先が器用と噂で聞いてはいたが…。」
「ペンさえ持てるなら、お箸すぐ使えるようになるよ。」
「嘘はいけない、you。」
「嘘じゃないのに…。」
「それより、こっちも食べてみてもいいか、ミソスープだよな、聞いたことがあって興味はあったんだ。」
「どうでしょう…これは香りとか味とか、好き嫌い分かれそうだけど…。」
「・・・。」
「どう?」
「うん、イタリアでは似た味が無いから確かに少しクセがあると感じるな。でも、オレは美味いと思う、結構好きな味だ。」
「そっか、じゃあ今日のご飯は美味しく食べてもらえそうだね、良かった!」
「美味しく食べてもらえるというか……正直スゴク美味いよ…何だこれ、毎日でも食べたいって。」
「・・・そっか!」
メローネの言葉に少し寂しそうな表情を浮かべた気がしたが、すぐにぱぁっと明るい笑みを見せるyou。
そういえば先程のスーパーの帰りから暫くずっと彼女の笑った顔が見れてなかったことに気付き、
無意識に今、ホッと安心している自分がいる…とメローネは思った。
「美味過ぎて完食だ……ええと、食べ終わったら何て言うんだ?」
「「ご馳走様でした」。」
「ゴチソウサマデシタ。」
一緒にやってほしいと言っていた食事の挨拶を忘れずにいてくれたことが嬉しくて、
youは目の前でスプーンを置いて合掌するメローネを優しく見つめる…。
その後、食べ終わった食器をシンクへ移動させ水に漬け置いた後、
2人はリビングのソファで少し話すことにした…。
「you、今日は夕飯をご馳走してくれてありがとう。」
「本当に美味しかった?ならば、一安心です。」
「嘘なもんか!日本食、fantastico(アメージング)!って感じだったぜ。」
「そう、そっか……うん、良かった…!!」
「あー……なぁ、それでも……すまないが、オレは未だにキミがこうして今、家で食事を振る舞ってくれてる意味に辿り着けていない…。」
「・・・。」
少しだけ申し訳なさそうに呟き、メローネはyouから視線を外す…。
それから、興味の無い番組の合間に流れるCMを暫くだけBGMにした後、youが小さく言葉を零し始めた。
「美味しいって言ってくれたご飯、わたしはメローネにこれから食べてほしいって思ってる。」
「あのな…。」
「でもメローネはそこに性欲の話を持ってくる…言われてみれば当然のことかもしれないけど…。」
「そうだよ。」
「けど…だけど、さっきからずっと考えてたんだけど、それってただ美味しいご飯より性欲が勝つって言ってるんじゃないって思っちゃったの…。」
「は?一体どういう意味だ?」
「わたしがメローネに食べてほしくて作る料理と、メローネに健康でいてほしいっていうわたしの気持ちと、
一緒にご飯食べる私達の関係性の全部だよ…それ全部と天秤に掛けても衝動的な性欲なの?って尋ねたくなった。」
距離は近く、しかしながらお互いに触れたりはしない状態で…。
ソファに腰掛けたまま、お互いに上半身だけ向かい合わせで顔を見合わせる。
じっと真剣にメローネを見つめる双眸から視線が外せず、
まるで秀才が生まれて初めて無理難題に直面したように憤った表情で、彼は文句を垂れた。
「なんだよそれ………キミ…それは、そんなの、狡いぞ……クソッ!」
それはつまり、有り体に言ってしまえば、「同僚であれ友人であれ、わたしのこと大事な存在と思ってくれてるなら、気持ちを汲んで、持論を崩しても禁欲をしてくれない?」という意味に他ならず。
共に働き始めてから今尚、親密度の上がり続けている目の前の同僚の、
その無防備さへの呆れや、愚直さへの怒りの負の感情と、
ここまで自分の生活習慣に対して世話を焼いてくれるのは、
もしかすると他の同僚のメンバーや、自分の知らない彼女の周囲の人間の中で、
自分が一番好かれているからではないかという期待と喜び…。
そんな二律背反の感情でメローネは俯いて頭を抱えた。
「一体オレにどうしろって言うんだ…。」
「あー……ほら、じゃあご飯食べたらすぐ帰るようにしたらどうかな。」
「無理だそんなの……絶対長居したくなる…。」
「じゃあ、食後に一緒にエノテカかバールに行くのはどうかな。」
「あーーーー……もういい。」
「え…っ。」
「分かった……分かった。食べるよ、有難く、ご馳走になるよ……ていうか正直もう次のメニューを楽しみにしてるオレがいるよ!」
「メローネ…!」
「というかだな……そもそも、毎日ではないにしても……負担じゃあないのか?」
「もし精神や体力、金銭で負担に思ったら伝えるよ。あと、用事があってダメな時。それでいい?」
「ああ………分かった。」
観念したようにはぁーーー…っと深い息を吐いた後、メローネは暫し押し黙った。
未だ完璧に納得していない様子のメローネとは裏腹に、
これで彼の健康が若干でも向上されるかもしれない、と嬉しそうなyou…。
自分はこんなにも葛藤しているというのに、全く危機感を持っていない様子の彼女にちょっとだけイラっとしてしまったメローネ…。
とりあえず最後に地雷でも埋めて帰るか、と心に決めて口を開く。
「あー、あー……その代わり、これは割とマジな忠告になるんだが引かずに聞いてくれ。」
「な、なに…?」
「キミ、今度からオレとの飯の日は鉄のパンツ履いてた方がいいぜ。」
「最低…。」
そんな変態を家に招き入れると言ったのはキミだぞ、という意味を込め、
ベッと舌を出して、彼女に嫌われないように精一杯ソフトに反抗的な態度を取るメローネであった…。
salute!
健康!
words from:yu-a
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