Lei e un fiore. (番外編 / メローネ)
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「Buongiorno(おはよう)、you!」
「ボンジョルノ、メローネ。」
良く晴れたその日は、絶好のデート…
否、彼女にとってはスイーツ巡り日和ということになるのだろう
Lei e un fiore.
dolce!
「Sei bellissima……oggi!(今日も君は美しいね!)」
息を吐くように輝く表情で女性を褒めるのは、恐らく彼等イタリアーノにとって通常運転というものなのだろうな…と、思いながらも、
矢張り褒められ慣れていない日本人としては些か緊張してしまう。
「あ、ありがとう……メローネも素敵。」
「本当?それは嬉しいな……気合を入れてきた甲斐があった。」
ニコリと向けた笑顔は満点。
服装も少し個性的ではあるが、全体的に綺麗に纏まっており、
腕時計やベルトなどの装飾品も細かなところにまで、華やかさの気遣いがなされている。
近付いた際にふわりと鼻孔をくすぐる香りもメンズ色が濃くはなく、
どちらかと言うと甘やかで思わず傍に寄りたくなるようなチョイスだ。
アシンメトリーにカットされたいつものヘアスタイルや眼鏡は変わらないが、
普段のメローネとは一味も二味も違うその姿はまるで雑誌のモデルのよう。
そう思うと、普段とそう変わらない格好で来てしまったことに若干の罪悪感が湧いてしまうyou…。
「な、何かすみません。」
「え、なんで?!」
急に真顔で謝罪をされ、ビクッと驚くメローネ。
「や、何か……色々と…申し訳ないなって…。」
「何が申し訳ないんだ??」
「めちゃくちゃ普通に普段着で来ちゃったから…。」
「何で、全然良いじゃないか……だってキミはいつも可愛いから。それに、その格好もオレは素敵だと思うが?」
「そういうんじゃなくて……ああ、うん…いいや、うん…。」
「??」
「今度出掛ける時はちゃんと気合入れる…入れます、ので…。」
「成程、それはいいな!ベネッ!またオレとデートをしてくれるということだな!嬉しいよ!」
youの憂いは何のその…。
彼女の言葉の違う方面で更に笑顔度を増したメローネであった。
「まぁ、服の事なんて本当に気にしなくていいじゃないか、別にドレスコードの必要な三ツ星のリストランテに行くワケじゃあないんだし。」
「それはそうだけど…。」
「そんなことよりそろそろ行こうじゃないか。言ってなかったが、今日はバイクや車は使わずの移動だ。少し時間が掛かるかもしれない。」
「そうなのね。」
「オレは普段バイクがメインだからな…後ろに乗せてもよかったが初めてだと怖いかもしれないと思って。車も持ってはいるが修理に出していて暫く返ってきそうにない…オレが言うのも何だが…何せ修理をするのがイタリア人だから…。」
「そ、そうなんだ…やっぱり長引くんだ…?」
「ギアッチョに借りても良かったが、youがもし今日行く店に自分で行きたいって思った時に、車やバイクだと距離感が分からないだろ?だから最終的に公共の交通機関の方がいいかもしれないと判断した。」
「はぁぁ!確かに、有難いですぅう!」
「ま、できれば一人じゃなくてオレを誘ってほしいとは思うけどね。」
ふっと笑みを向けるメローネに、youも笑顔で「うん、そうします」と返事を返す。
「さ、行こうyou。」
「え?」
「ほら、行こう。」
「え…と、うん……は、はい…。」
「どうした?」
拒否するという選択肢は無いとばかりに、メローネが差し出した手を一向に引き下げないので、
youは何度か彼の顔と差し出された手を交互に見て戸惑った表情を浮かべたものの、最終的におそるおそる手を握り返した。
「フム……実に良い、女性特有のこの柔肌、たまらないッ……しかもオレの手の中にすっぽり収まっちまう…ベリッシモ、可愛いな。」
「手…。」
「手「も」だ。」
「は、はぁ…。」
「体温は…オレより少し低いくらいか…まぁ異常はなさそうだ、健康状態は概ね良好、と言ったところか…。」
「体調?悪くないよ、平気。メローネは?」
「ん?オレも良好だ。」
「良かった、メローネはいつも明るいし、元気無かったら心配しちゃうから。」
「ほぉ、youはいつもオレのこと心配してくれているのか…?」
「勿論!チームの皆のことも心配してるけどね。」
「皆は余計……だが、それでも嬉しいな。」
「今日もメローネが元気で良かった。」
「ッ……?!?」
メローネ自身、その顔の良さもあって今までの人生で女性と関わる機会は多くあったが、彼の性格上…
否、本来のスタンド能力が「人間の女性を『母親』として『息子』を受胎させ、血液などのDNAサンプルをオプションとして組み込んで、特定の対象の追跡・攻撃に転するスタンドを出産させる」という性質もあり、
基本的には相手の女性を自分の能力の「母体」としての良し悪しでしか判断してこなかったと言っても過言ではない。
だから、女性と相対した際には「体調は良好か?」で済めば良い方で、下手すれば体温を確認するなとど称して
身体の一部を舐めようとするわ、
「イライラしているな、生理中か?」など女性(じゃなくても)ドン引くような言葉を平気で尋ねるようなことをしていたのである。
組織のトップが変わり、今の新生パッショーネになってそのスタンド能力を非人道的行為という観点から禁止されてから、
多少は「女性」=「スタンドの母体」という考え方を見つめ直したところはあるだろうが、
基本的にはその本質は抜けていない……それは何よりもメローネ自身が認識しているハズであった。
「メローネ?」
「あ、ああ……すまない、何でもないよ、行こう。」
一瞬覚えた自分への違和感。
眩暈のような感覚の中にはハッキリとした感情が2つあった。
「恐怖」と「嫌悪感」だ。
自分と手を繋いで歩く彼女に?何故?と、メローネは思考を逡巡させる…。
自分のスタンドに必要不可欠な女性という生き物に対しては
「存在してくれてありがとう」という感謝と尊敬を抱いているし、
更に言うなれば、自分が彼女に抱く感情は「安心感」と「好意」であって、真逆のものであるはずなのに…。
ワケが分からないと思うと同時に、
もしそんな負の感情を抱くのであれば今後の仕事にもその関係性は響いてくるが…。
短い期間しかまだ共に過ごしてはいないが、彼女の仕事ぶりは至って真面目で、普通。
それどころか、男性しかおらず撮っ散らかっていた事務処理を細やかに整理してくれて大変助かっている。
その業務への取り組みも与して考えると、プラスの感情しか矢張り浮かんでこず、
メローネは結果的にただの眩暈であると判断を下した。
「まずはバスで移動だ。」
「イタリアのバス使うの初めて…ワクワクします…!」
「そういえばyouは定期を支給されてたよな?それが使える。同じ交通会社のツールだからな。」
「えぇ、そうなんだ…ナポリの交通機関って他にもある?」
「ナポリの交通機関は、地下鉄・バス・トラム・フニコラーレ(ケーブルカー)・タクシー…だいたいこんな感じか。タクシーは予約しないと乗れないから、よっぽどの時じゃなきゃ使わないかな。」
「へぇぇ、やっぱり大きな街だから、交通も多種なんだねぇ…。」
イタリア交通機関の説明に、いたく関心を向けるyouの手を引いて歩いて暫く…。
2人はバス停付近へとやってきた。
「ええと、どっかその辺に……ああ、あった。you、こっちだ。」
「いいの、バス停通り過ぎちゃって。」
「オレは券を買わないと。」
「券。」
「さっき話した交通機関の乗車券。停留所近くのタバコ屋や駅のキオスクなんかで売ってるんだ。」
「タバコ屋で!」
「ああ。ちゃんと駅なんかは券売機もあるけど、故障も多いし、時間帯によっては人が多くて並ばないといけないから、店で買った方が早いんだ。」
「そうなんだ、勉強になるなぁ…。」
「今回は色々回るかもしれないから、1日券を買う。」
「券、券の種類も色々あるの?!お、教えて、知りたい!メローネ先生!!」
「む、メローネ先生……ディ・モールトいい響きだ…!」
イタリアの交通機関については、今後自分一人で利用する状況も考えると、
沢山聞いておかなければならない、と食い気味でメローネに訴えるyou。
一方のメローネは彼女の「先生」という呼び方に悦に入っていたのだが、
ハッと何かに気付き、慌てて近くのタバコ屋で件の「1日券」を1人分購入する。
「you、急ごう、バスが来た!」
「あ、本当だ!」
バタバタと走ってバスに乗車すると、メローネが車内に設置してある刻印機に券を通した。
「刻印しておかないとチェックされた時に罰金を払うことになるから、ベリッシモ、要注意だ。」
「ひぇ…それはベリッシモ、要注意!」
「後ろの席が2つ空いているな、座ろうか。」
「ご年配の方の方が乗るかもしれないし…わたし立ってて平気だよ。」
「あぁ、キミってほんと……いや、うん、その気持ちはベリッシモ美しいんだが「安全のために」ってヤツだ。」
「安全のため?」
「我が国は恥ずかしながら治安が良いとは言えなくてね、こういう場所はまぁ、多いんだ、スリ。」
「成程、納得。」
「おいで。」
メローネはyouを導いて後方に空いていた2人掛けの座席に腰を下ろした。
そこで、地下鉄やバスのような人混みではスリが多いのだと端的に説明し、
貴重品は鞄の奥に仕舞ったり、もし携帯をポケットに仕舞うのであれば必ず体の内側のポケットにするよう注意をする。
その他、先程話していた乗車券の種類には1回券、時間制の90分券、1日券などがあること、
目的地にもよるが、この券でバスだけでなく地下鉄やケーブルカーも乗れるということなどを話しながらバスの時間を過ごす…。
「凄い、ありがとうメローネ、色々と勉強になりました…!!」
「こちらこそ。話せば話すほど日本との違いに驚いたよ……まさか日本じゃストライキが無いなんてね…。」
「悲しいかな、それは社畜と取るか、真面目と取るか…。」
「はは……まぁ、利用者としては時間通りにバス、電車が到着して予定通りの時間に目的地に着くことが嬉しいのは確かだな……こっちのバスなんて時間通りに来ないことが普通だから、見掛けたら乗らないと次いつ来るか…。」
「あ、だからさっき券をバタバタ買って駆け込み乗車したのね。」
「そうそう。」
コクコクと頷くメローネがあまりにも真顔なので、
イタリアの交通機関は時間通りに来ないのが普通だと察するに余りあった。
そんなこんなで色々な会話をしながら、目的の地域に到着した2人。
バスを下車してちゃんとスリの被害に遭っていないかを確認して、歩き出す…。
「そんなにスリの被害多いの、ナポリって…。」
「自慢じゃあないが「ナポリのスリ師は魔術師」って呼ばれるくらいには有名だと言っておこう…。」
「ほ、本当に自慢じゃない……何にせよ気を付けるね。」
「そうだよ、何かyouはまだ観光客気分丸出しだから絶対舐められてそうだし…。」
「ひ、ひどい!」
「冗談……ではないか、割と本気で言ってる。」
「ちょっと、メローネ!」
「はは、怒ったキミもディ・モールト可愛いな。」
くすくす笑いながら歩くメローネに、怒った顔を向けるも、本気で怒っているわけではないので、特に効果は無い様子。
そうして楽しそうに話しをしながら、1件のパスティチェリアへ到着した。
店内はレジカウンターとドルチェが並んだショーケース、簡易的な椅子とテーブルで数組分のイートインスペースが設けられているくらいで、かなり手狭だ。
代わりに店の外にテラス席が多く用意してあったため、大体の人はドルチェをテイクアウトか外でティータイムを過ごすのだろう。
日本のスイーツショップやお茶をするカフェとは異なる様子が新鮮なようで、
youはキラキラと目を輝かせて周囲を見回している。
「凄く可愛いお店……イタリアのスイーツショップってこんな感じなんだね…!!」
「至って普通の店なんだが……あ、でもオレがわざわざ場所を覚えて来ることがあるってくらいには美味い店だよ。」
「えぇ、そんな……期待しかない!!」
「ほら、youは何が食べたい?好きなのを選んで。」
「えぇぇ~~…ど、どれにしよう…!!」
「・・・あぁ、ドルチェを見つめる目がキラキラ輝いてベリッシモ綺麗だ……まるで夜空の星みたいだね、ベッラ…。」
「めめめ、メローネ!これ、これは!これはまま、マリトッツォでは?!!本物のイタリアのマリトッツォでは?!」
「何故マリトッツォに興奮しているのか分からないが、ベネ!オレに興奮した顔を向けてくれているなんて光栄過ぎるぞ!誉め言葉を完全にスルーされたことは水に流そう!」
「メローネ、今そういうのいいから!」
「そういうのって…。」
「ねぇ、マリトッツォなんだよね、あれ?!わたし、マリトッツォがいいです!」
「はいはい、だけどちゃんと後で興奮した理由を教えてくれよ、キミ…。」
「勿論!」
「あー、注文をいいか?」
テンションが高くなっているyouを相手に、若干冷静になった様子のメローネ。
ショーケースの向かいにいる店員に手を挙げて呼び掛け、
自分の選んだ菓子とyouの選んだマリトッツォを注文し、ショーケースから出してもらう。
外で食べることを伝え、飲み物も一緒に注文。
代金を支払って外のテラス席で待てば、すぐに飲み物を準備して菓子と一緒に店員がそれを2人の元へ届けてくれた。
「わぁぁ……クリームいっぱいぃ……写真撮っていい?」
「勿論。じゃあオレも撮ろうっと。」
自分の携帯を取り出すと、youはクリームたっぷりのマリトッツォと飲み物が綺麗に画角に入るように収めて写真を撮る…。
天気もいいので光の当たり方も大変良い感じだ…と、満足そうな表情で撮影した写真を確認していると、
正面から有り得ないくらいのカメラの連射音が聞こえたため、ギョッとしてスマホから視線を外してメローネを見るyou。
「め、メローネ?!凄い連射音だったけど、何撮ったの?!」
「何って、youを撮ったが?」
「なんで?!」
「何でって……ドルチェを見て目を輝かせているキミが可愛かったからだが?」
「いや、ドルチェを撮るところだよね、そこは!」
「菓子が美味いのは分かるが、写真に残す理由にはならないだろ……オレとデートしてくれてるキミの方が写真に残したい被写体だ。」
「えぇ……被写体への許可は…?」
「・・・すまない、撮らせってもらった。」
「や、何かそうじゃない!完了形だし過去形!!」
「あー、あー…you、オレも尋ねたいことがあるんだが、いいか?」
「な、なに…?」
「どうしてマリトッツォにそんなに興奮することがあるんだ?凄い勢いだったが。」
「ああ!それはね…。」
メローネが狡猾に……というよりは、youがチョロいのだろうが、
気付けば、流れるように話題を持ち掛け、問い詰められる対象をスムーズに入れ替えられていた。
「日本でもマリトッツォは結構有名になってて、本場イタリアのものを食べてみたいなと思ったからだよ。」
「え、マリトッツォって日本で流行ってるのか?」
「流行って、もう馴染んじゃった感じ。」
「ヘェ、それは何とも不思議な感覚だ。遠い日本なんて国でオレ達の国の食べ物がピンポイントで知れ渡ることなんてあるんだな。」
「だねぇ……カレーだったり、お寿司だったり、ピッツァとか、各国の代表的な料理が流行るのは分かるけど、そういうのってなかなか無いよね。」
「マリトッツォ自体は店によって色んな形があるし、発祥はローマだが、イタリア全土で誰もが知ってるドルチェだ……そう思うと嬉しくもなるし、ちょっと自慢したくはなるな…。」
フム…と、顎に手を当てて納得したように軽く頷くメローネ。
「それじゃあ、実際に食べてみて感想を聞かせてくれよ。」
「そうだね!いただきます…!」
パンにはみ出るほど大量のクリームを挟んだ伝統的な菓子であるそれを目にし、
改めて目を輝かせるyouだったが、何故か見つめたまま動かないので、メローネが「どうした?」と声を掛ける。
「いえ…あの……うん…。」
「うん?」
「ナイフが添えられているし、絶対使って食べた方がいいって分かる、分かってるんだけど…!!」
「齧り付けばいいんじゃないか?」
「い、いいかな!?」
「オレは別に気にしない。」
「本当?!いい?はしたないかもだけど…1回だけ、初めての1回だけそのままクリームを…ガブっと食べてみたくて…ッツ!!」
「そんなこと誰にも許可なんて要らないだろ。キミ、本当に面白いな。」
「え、だ、だって一緒にいるのに「何だこの女行儀悪いな」って周りに思われたら、メローネに申し訳ない!!」
「ッハハ!高級リストランテでもあるまいし、誰もそんなこと気にしないって。気にせず食べるといい、きっとその方が美味しく思える。」
「そ、それはそう…!」
「そしてオレはその時の顔がとても……見たい。」
「…こわ。」
何を想像したのか、目の前の男はゾクゾクっと背筋を震わせると、ペロリと舌なめずりをする…。
捕食される小動物のような感覚に襲われたyouから、小さな声で本音が漏れた…。
「コホン…では、ごめんなさい……失礼して……今一度、いただきます!」
「♪」
「~~!!!!」
大きく口を開けてふわふわのブリオッシュ生地に齧り付けば、すぐさま口に甘さ控えめ、ミルク感たっぷりのクリームの味がたっぷりと広がる。
このクリームがまた、ふわふわで口溶けが良く、あまりの美味しさにyouは「ん~~!」と、小さく唸り声を発し、
目を細めて、蕩けそうな表情を浮かべた。
「っ……ディ・モールト!you、キミのその表情……最高に…ディ・モールト…いいぞッツ!!」
「しあわせ…。」
「しまった、ど、動画を撮っておくべきだったか……オレとしたことが!!」
「おいしい……おいしいよぉ…。」
「何か若干戦時中の腹を空かせた子ども感が無いこともないが、ある意味凄いなキミ、どんだけ感動してるんだ。」
「イタリア来て良かった…。」
「そ、そうか…そんなにか……最早面白いな、キミ。」
「メローネに会えて良かった…。」
「・・・・・・そうきたか。」
勿論、この状況下なので「美味しいマリトッツォを食べる機会をくれて感謝している」の意味合いだという事は理解できるが、
それでも言葉の選び方が良すぎて、ある意味で悪い…と。
不意打ちを食らって不覚にも少し顔を赤くしてしまったメローネ…。
そして、これは何らかの形で反撃をすべきであろうと思ったところで、彼はうまい具合にその術を見つける。
「ちょっとほろ苦いフラットホワイトとよく合うぅ…。」
「うんうん、ディ・モールトいい反応をするな……他の店も紹介し甲斐がある。」
「大変美味でございまする…他も凄い楽しみ……。」
マリトッツォを完食し、飲み物の入ったカップをコトリとソーサーに置いて満足そうにフーッと息を吐くyou。
「そんなに美味かったかい、ここのマリトッツォは。」
「すっっっ…ごく、美味しかったです!クリームもだけど、ブリオッシュ生地がもう!ただのパンでしょって思ってたその概念が!宇宙に飛んで行った!」
「へぇ、それは……一口くらいオレも貰えばよかったな。」
「あっ、そうだね…!ごめんなさい、美味し過ぎて意地汚く全部齧り付いて完食しちゃったよ、わたし…。」
「少量だがクリームの味くらいなら分かるかな。」
言葉の意味が分からず、聞き返すようにyouが「え?」と音を零したところで、
彼女の口元にメローネの長い指先が伸ばされた。
メローネはそのまま彼女の口元に付いたマリトッツォの白いクリームをぐいっと指で拭い去ると、
それを自分の舌でペロリと舐め取る。
「うん、確かにディ・モールト美味い。」
「!!!」
「キミの唇を掠めたものだから余計に美味い気がするな。」
「・・・。」
絶句するyouに、流石に今の台詞はアウトだったか…と思い、涼しい顔をして内心焦り始めるメローネ…。
この後も何件か一緒にパスティチェリアを巡る予定だったが「今日はもう帰る」などと言われる可能性が彼の脳内を過ぎった。
しかしながら、そんな予想とは裏腹に、見つめる向かい側の女性の瞳が揺れ動く。
「あぁ…ぅ……。」
「you……?」
「…もう……いい大人なのに、恥ずかしい…!!」
「おや。」
「め、メローネも!い、言ってくれれば自分で取ったのに!!」
「ディ・モールト!!その顔が見たかった!」
恥ずかしさから顔を赤くして、眉根を寄せるyouの反応に、思惑通り!とばかりに満面の笑みを浮かべるメローネ。
「もうあんな……子どもみたいにわんぱくな食べ方はしませんので!最初で最後だもん…!」
「果たしてそうかなァ……まだまだこれから他にも夢中で食べてしまうようなドルチェに会うかもしれないぞ?」
「うっ…そ、それは…!」
「ティラミスとか。」
「ティラミス!!食べたいです!」
「カンノーリやジェラート、スフォリアテッラ…。」
「…わんぱくに食べない自信無くなった…。」
「ああ、そうさ、本能のままに食べるといい!」
「うーー…!」
「大丈夫だ、キミの口の端に残ったものは全部オレが処理してあげるよ。」
「結構ですッツ!!」
「やっぱり怒っても可愛いな。」
くすくすと笑ってからかうメローネに、少し頬を膨らませて怒るyou。
彼女が本気で怒っているワケではないということは分かるので、
そう考えると着実に距離感が掴めてきているなと思い、少し嬉しくなってしまう…。
「さて、もうそろそろ次の目的地へ行こうか。あと数件紹介したいパスティチェリアがあってね。」
「はい、はい!よろしくお願いします!!」
それからまたバスやケーブルカーを使って移動しながら数件ほどカフェやドルチェ、ジェラートなどの美味しい店を巡って、しっかり夜になった頃にyouの家に近い最寄りの駅へと到着した。
・
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「また送ってもらってすみません…。」
「何言ってるんだ、当たり前じゃないか……キミ一人で夜道なんて歩かせらせないよ。」
「ありがとう、メローネ。」
「オレの家はキミの家と割と近いしね。歩いて行ける距離だし、全然問題ない。」
駅を出てからも、日が暮れたら女性の一人歩きは危ないと、家まで送ると申し出てくれたメローネに感謝を伝える。
2人で淡いオレンジの街灯の下を歩いていると、徐にポケットの中に手を入れたメローネが
「ん、何だこれは」と1枚のカードを取り出した。
「なんだ、今日買った1日交通券か……しまった、駅のゴミ箱に入れてくればよかったな…。」
「えっ、それ捨てちゃうの?」
「だってもう使わないだろ?今日はもう家に帰るだけだし…。」
「じゃぁ、じゃぁ、それわたしが貰ってもいい?」
今日はもう乗り物には乗らないから乗車券を捨てると言うメローネに驚いた後、
どうしてかそれが欲しいと言うyou。
「え、だってそれ今日の0時で使えなくなるんだぜ?持ってても使えないのに…要るのか、そんなもの?」
「使えなくなるのは分かってるけど、記念にとっておかなきゃだから…。」
「記念…?ああ、イタリアの交通機関を初めて使った記念か、成程、そういうことか。」
「それもそうだけど、それを「メローネに教えてもらった」っていうのが大事なんでしょ……。」
「は…っ…?」
「この日にメローネと初めて2人で出掛けて、バスとかケーブルカーとかの乗り方を教えてもらって、美味しいドルチェのお店を沢山教えてもらった記念にとっておくの。手帳の後ろの方にフリースペースがあるから、そこに貼っておこうかなって。」
「な、何だそれ……キミ、可愛すぎるぞ…。」
口元抑え、わなわなと震えるメローネ。
普段の生活の中で、たまたまこういう日があって、その時にただ使うのに必要だったから買った、見慣れたもの…。
使い終わってゴミになった交通チケット1枚を手渡せば、まるで大事な宝物のように両手で受け取って愛おしい目でそれを見つめる女性。
不意打ちにも程がある…と。
「いや、分かってる、キミの性格からして、きっとギアッチョと初めて買い出しに行った時の事とか、リゾットに出張土産を貰った事やプロシュートとペッシと飯を食いに行ったとか、イルーゾォの鏡の中に入れてもらった感想とか、ホルマジオと仕事帰りにバールへ行ったのとか、そういうのちゃんと書き残してたりするんだろ、分かるよ。」
「簡易的なメモみたいな感じだけど……ていうか何でそんな詳しいの…。」
「まぁ、皆が皆マウント取り合ってるからな…。」
「?」
「いや、こっちの話だ。」
「兎に角、この乗車券は使えなくなっても大事な思い出なので、いただいて帰ります。」
ふく…と、微かに頬に空気を含ませて、交通券を鞄に仕舞うyou。
明らかに今まで自分が、自分(達)の利益の為に出会ってきた「いい女」の在り方とは異なる、
そもそも掠りもしない新しい同僚の女性の行動や言動の全てが、新鮮で不思議で何より温かいと感じる。
気付けばメローネは口元を無意識に緩ませて、
鞄のジッパーを閉めるyouを後ろから抱きしめていた。
「・・・ゴメン、拗ねないでyou、ディ・モールト……嬉しいよ。」
「・・・?!」
「他の奴らのエスコートと比べてどうかは正直分かんないけどさ……もし今日があんたにとって楽しい日になったのであれば、すごく…ベリッシモ…光栄だ。」
バックハグの状態でyouの首元に顔を埋めるメローネ…。
別に恋人でも何でもない男にそんなアクションを起こされれば大いなる拒絶で突き飛ばす者もいるのだろうが、
こと彼女に於いてはその性格で今のメローネの心情を何となく察しているのか、良しも悪しも語ることなく、そのままの状態で返事を返した。
「わたしは凄く楽しかったです、ドルチェ全部美味しかったし…!!」
「…それは良かった。」
「何よりメローネの話が楽しかったし。今日は本当にありがとう。」
「・・・また出掛けてくれる?」
「是非…!」
「そうか…そうか、良かった。」
そう言ってゆるりと腕を放して向かい合う…。
お互いに目を合わせて、微笑むと、甘い視線を送るメローネとは異なり、
youは力強く拳を握ってキリっと侍も顔負けの真剣な顔つきで欲望を口にする。
「次はドルチェ旅第二弾ですか。それともグルメ旅でしょうか…同行させてください…。」
「うん、キミのそのイタリア人顔負けの食への執念もオレは良いと思うよ。」
この雰囲気でその切り返しは想定の範囲外だったな…と、少しだけ遠い目になるメローネであった…。
dolce!
甘いもの!
words from:yu-a
*。゜.*。゜.*。゜.*