■Fiori e Vino. (リゾット)
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Lei e un fiore.
Rosso Ciliegiaの手紙
リゾット・ネエロという男は、凡そ一般的とはかけ離れた特異な男であった。
シチリア出身の彼が14歳の時、いとこの子供が酒酔い運転の自動車にひかれ死亡した。
社会はドライバーを数年の刑で済ませたが、彼は決して許さず、18歳の時そのドライバーに個人的に制裁を行い、以後、彼は裏の世界で生きることとなった。
その裏の世界というのが、youも所属している「パッショーネ」なのであるが、事務所で平穏に内勤をこなす彼女とは違い、彼は所謂外での汚れ仕事を主に任されるチームでリーダーとして仕事をしていた。
「パッショーネ」のボスがジョルノに交代したことで仕事環境が変わり、職務や賃金に於ける劣悪な境遇が改善されてきてはいるが、それもまだまだこれかれと言ったところ…。
振られる仕事内容は以前と異なり、クリーンなものとなっているが、ただ〇〇すればいいという単純なものではなく、
あれやこれやの方法を考え、その結果どういった措置を取るべきかというところまでを考えて行動しなければならなくなったこともあり、以前より精神的に疲れてしまう日々を送っている。
自らが外へ出て行動することは少なくなり、チームリーダーとして部下に「この仕事はこのように動け」という指示を考え、その結果報告によって今後の対処を試行錯誤するということを毎日、彼等の拠点で唸りながら考えなければならず、事務所に泊まりこむこともしばしば…。
拠点(アジト)は集合住宅の上階にあり、普通に人が生活できる家をそのまま事務所として利用しているので、態々家に戻らなくても構いはしないのだが、朝起きてもそこが仕事場というのが数日続くと、流石に堪えるものがあるワケで…。
だがそんなある日、数日ぶりに家に帰ってみると、空室だった最奥の家に日本人の女性が越してきていた。
この辺りでアジア人を見かけること自体なかなか珍しいことなのに、この土地に居を構えるという驚きと興味がリゾットに僅かに沸く…。
普通のイタリア人であれば男女関係無く軽く挨拶を交わして終わるところだが、事もあろうに彼女はギャングである自分に態々「これからよろしく」と、菓子折りを渡してきたのだ。
兎に角第一印象としては馬鹿だとか阿呆だとか、そういったものであった。
どれだけ環境の良い場所で生きてくれば、そのように人を疑わずにいられるのかとさえ…。
勿論、彼女はリゾットがギャングであることなど知る由もないのだが、例えリゾットがギャングではなかったにしてもだ。
ただでさえスリや強盗に遭いやすい格好の餌食である見掛けで、これからイタリアで生活をしていこうとしているのに、
あまりにも「無知」を体現する彼女に、気付いたら「人を信用すべきでない」と注意を促していた。
出会って挨拶をする相手…今回は「隣人」という立場だが、それがギャングであろうと冷静に対話できる自分だったから良いものの、これが例えば自分の同僚だったらと、身近な者に置き換えるだけでもゾッとする。
或いは口説かれ、或いは無理矢理に、部屋に押し入られて乱暴されていたかもしれない。
自分のごく近しい者でもそういった考えを持つ輩が存在するのに、あまりにも彼女の脳内の自己防衛システムがお粗末である…と。
そこまで具体的に例は出さなかったが、自分の言いたいことは「今後は隣人への挨拶は控えるべき」という表現で伝わってくれたらしい。
彼女は少ししょんぼりした表情を浮かべたものの、リゾットの忠告を「尤もだ」と言って受け入れた。
ただ、そのまま俯かせておくのも申し訳なく思ったし、折角用意してくれた菓子に罪は無い…。
そうも思い、リゾットが今回の好意はありがたく受け取らせてくれと申し出たところ、一瞬驚いた顔をしたものの、すぐにパッと花が咲いたような笑顔を向けてくれた。
連日泊まり込みで仕事だったこともあり、そのストレスが緩和された気になるような、とても可愛い笑顔を有り難く思ったのと、
彼女のそれは「無知」でもあり「無垢」でもあると気付き、そんな彼女を創り上げた国は素敵だと、彼女の故郷を褒めた。
それは本心からの言葉だった。
だのに、その言葉を聞くや否や、彼女の瞳から零れたのは涙。
最初はホームシックが起因したのだろうかとも思ったが、それにしても動揺が凄く、
その後は慌てた様子で、殆ど言葉も交わせないまま、逃げるようにして部屋に戻っていってしまった。
「何か……気に障るような事を言ってしまったのだろうか…。」
自分の所為で泣かせてしまったのだと無意識に感じれば、そこで思わず言葉が零れていた。
それから数日…否、もう1週間程経過したのだが、家に戻れたのはお隣の彼女に出会った日の1日だけで、リゾットはまたずっと事務所に泊まり込んでしまっていた。
できれば、自分の無意識に放った言葉で泣かせてしまっていたのであれば、それを謝りたいところではあったが、如何せん家に戻れないので会うチャンスも無い。
しかも、これだけ時間が経過していれば会ったところでどう話を切り出せばいいのやら……口下手な自分にはハードルが高い……。そんなことをぼんやり考えてしまう。
今日はやっと自宅に帰れたものの、できれば鉢合わせせずに家に入りたい……どうかバッタリ会いませんように…と、リゾットは自宅玄関へ続く最後の階段を上りきる。
視界にはただ、夕暮れの廊下が映るだけで、人のシルエットは其処には無かった。
少し安堵して自宅に入り、リビングのテーブルに1週間分の郵便物をぶちまけると、チラシや通知書に紛れて淡い桃色の封筒が紛れているのに気が付く…。
近隣の誰かの分と間違って入れられたのではないかと思い、真っ先にその封筒を手に取ってみるが、そこには差出人も宛先も何も書かれてはいなかった。
綺麗に糊付けで封がしてあるかと思いきや、これまた可愛らしい花のステッカーが小さくペタリと貼られているだけだったので、リゾットは自分宛か確認するためにも遠慮なく手紙を拝読させてもらうことにした。
背の高いお隣さんへ
先日、お隣へ越してきた者です。
その節はご挨拶の貴重な時間をいただき、ありがとうございました。
わたしの話に付き合ってくださったこと、感謝します。
(イタリア語もまだ、あまり上手じゃないので聞き取り辛かったでしょう?)
お仕事でお疲れだったかもしれないのに、わざわざアドバイスまで…。
わたしのことを気遣ってくださる気持ちが、とても温かく感じました。
それから、自己紹介もできないまま、慌ただしく帰ってしまったこと…
みっともない姿を見せてしまって、本当に申し訳ありませんでした。
お隣さんが…わたしの生まれた国のことを素敵だと言ってくださった時、
本当に…ほんとうに嬉しかったです。
あの時、「ありがとうございます」と言いたかったのに、故郷を想って
少しだけ…いえ、かなり寂しくなって涙してしまったのだと思います。
驚かせてしまったかと思います……本当に申し訳ありませんでした。
本当は直接お会いして、色々とお礼やお詫びを伝えたかったのですが、
なかなかお会いする機会がなかったので、どうしようかと悩み、
今回、お手紙を書かせていただくことにしました。
またお会いすることがありましたら、その時直接お伝えさせていただければと思います。
それでは、お仕事お忙しいかと思いますが、どうかお身体をご自愛ください。
you
最後の結びには日本語で「敬具」に当たる「Distinti saluti」まで書き込まれており、書き手がとても丁寧で常識人であるということが推し量れる手紙だった。
それに加えて、終始言葉少なな会話だったはずなのに、ふんわりと柔らかな文で自分の事を褒めてくれている上に、最後には体調まで気遣ってくれている。
「直接会ってどう話せばいいのか分からないので、できれば会いたくない」などと思っていた自分を思わず恥じてしまった。
それに比べて彼女はどうだ、直接会ってお礼を言うタイミングが無いからと、態々このように手紙を用意して、自分の為に丁寧な文章を考える時間を割いて…。
「名はyouというのか………なんて……あたたかな手紙だろう。」
思わず感嘆の言葉が口を突いて出ていた。
リゾットは封筒と同色の淡い桃色の便箋を綺麗に折り畳み、封筒へ収めると、大事な書類を保管している引き出しにそっとそれを仕舞い込んだ。
桜色の手紙
words from:yu-a
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