Lei e un fiore. (番外編 / リゾット)
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「うわぁぁ……綺麗…!」
まるで数カラットの宝石を目にしたように彼女は瞳を輝かせた。
Lei e un fiore.
Cielo Stellato
「you、明日は休みだろう、何か予定はあるか?」
そう、就業時間になってリゾットに声を掛けられたのは昨日の夕刻の事。
特に予定が無いことを伝えると、少し考える様子を見せた後、思い切ったように彼は再び口を開いた。
「それなら…一緒に出掛けないか?」
「リゾットと…?」
「ああ、迷惑だろうか?」
「迷惑だなんて!とっても嬉しいです、是非ご一緒させてください。」
「そうか…良かった。」
断られることも特に無く、youが心から喜んでいる様子を見て、リゾットは軽く安堵の息を吐く。
それから、時間の約束をして、お互い家路に着き、一夜明けて出掛ける準備…。
当日は昼前に迎えに来たリゾットの車で海沿いのリストランテへ向かった。
「海鮮のスパゲッティ美味しい!海の見えるお洒落なお店……はぁ……なにこれ超絶しあわせ…//」
「そこまで言ってもらえるなら、連れてきた甲斐があった。」
「ええ、本当に!ありがとうございます、リゾット。」
「また食べたくなったら言ってくれ。」
「えっ、そんなこと言うと毎日って言っちゃいますよー!」
「流石に飽きるだろう、だが……まぁ、キミと毎日食事できるなら、それも吝かではないか。」
「うう…また……そういうこと言う…//」
「?」
流れるように女性の気分を良くさせる台詞を吐くのは、彼らにとってマナーのようなもの。
そう理解していても、未だに慣れることなく都度、youは頬を染めてしまうのだが、
その反応がまた新鮮で愛らしく、チームメンバーはもっと甘い言葉を言ってみようかな、という気にさせている事には気付いていないのだった。
それから具沢山のスープや彩り鮮やかなサラダ、お洒落に飾られたドルチェまでしっかり堪能し、店を出る…。
「うぅん……もうお腹いっぱい…。」
「そうか?もう一品くらい頼んでもよかったと思ったんだが…。」
「うーん、流石鍛えてる男性は違いますね。」
「そうでもない、普通だ。」
「いや、リゾットのそのバッキバキの腹筋は普通じゃないですよ…。」
「そうだろうか…。」
「そうですよ。」
「筋肉質で気持ち悪いか?」
「ううん、全然。寧ろ至高。すごく…素敵です!」
「そうか…(至高とまで言わんでも)。」
筋肉に対してフェチでもあるのだろうか…そこはかとなく、うっとりとした目でリゾット……の胸板を見て、微かに熱っぽい溜息を吐くyou…。
どちらにせよ、気持ち悪いと嫌厭されていないようで良かったと、感じたリゾットであった。
そこからずっと海沿いを車で走り、あちこちに点在する歴史的建造物やフォトスポットに立ち寄り、
リゾットが色々と説明や案内をしてくれるので、youはさながら一観光客としてイタリアを訪れた感覚に陥る。
随所随所で美しい風景の写真を収め、見るもの全てに本当喜々とした反応を見せるyouは、普段の大人しい会社員という雰囲気は全くなく、
リゾットにとっては見慣れたナポリの風景より、彼女のくるくる変わる表情の方が新鮮で見ていて飽きない、とさえ思えたほど。
そして、少し日が落ちてきた頃に立ち寄った小さな古代遺跡のフォトスポットを離れる際、
リゾットは「次で最後だ」と本日の最終目的地についてyouに話した。
「アルケオロージコ・デル・パウジルイポン公園というんだが、これも史跡だな。」
「は?何て?」
「アルケオロージコ・デル・パウジルイポン公園。」
「すいません、もう1回……。」
「アルケオロージコ・デル・パウジルイポン公園。」
「・・・うん。」
「(…分からなかったな。)」
名前が長すぎる上に地名やそのルーツも分からない彼女には少しハードルが高かったようだ…。
youは公園の正式名称を脳内にインプットするのを諦めた。
「どんなトコなんですか?」
「一言で言うと…穴場の観光スポットだな。ローマ時代の長い石窟路を見ることができる。」
「見るところ全てルーツが紀元前なんだもん……本当に歴史ある土地ですよね、イタリア。」
「そうだな……流石にそこから血が続いてきたという実感は無いが……それでも、この国に生まれたことを誇りに思っているよ。」
「それはとっても素敵なこと……でも、素直にそう言葉にできるリゾットはもっと素敵だと思います。」
「…ありがとう。」
この国に生まれたことを誇りには思うが、自分の生き方を誇りに思ったことなど、恐らくは一度も無い。
自分の在り方がブレることは勿論無いが、それはあくまでも自分の意思の話であり、「暗殺者」としての生き方ではない。
「素直に言葉にできる」という事が素敵だと言うのなら、この暗殺稼業上がりの暗い男の言葉に一つ一つ耳を傾け、
いつも相手を気遣い、優しい言葉を選んで答えてくれる彼女の方がどれだけ温かく、素敵だろう。
国民性というところを抜きにしても、恐らくは彼女の本質から来ることには変わりはないはず。
女性であれ、男性であれ、そのような存在が今、自分の隣にいてくれることが有り難いと…心から思うリゾットだった。
そんな穏やかな心持で、最後に訪れた場所…
アルケオロージコ・デル・パウジルイポン公園は山の中の石窟トンネルが見所の古代遺跡。
長いアーチ形状の通路がとても美しく、長いトンネルを抜ければ遺跡群の崖からナポリ湾を見下ろすことができるという。
夕陽と水平線という絶景の代名詞のような環境のこの場所は、そこまで大規模ではないためか、
一般の観光客は殆どいないようで、地元のデートスポットになっているようだ。
「わぁ……何か……カップルがいっぱい…。」
「・・・そうだな……いや、多少そのように聞いていたが…思ったより多いな。」
「まぁいいや、トンネル見ましょう、トンネル!史跡巡り本当に楽しい…感動する…!」
そう言いながら、もう既にyouは携帯のカメラで遺跡の色んな場所を撮影しつつリゾットの前を歩いている。
地元の者にとってはデートスポットかもしれないが、自分にとっては貴重な攻略対象のダンジョン!といった感覚なのだろう。
だが、カメラモードで携帯の液晶を見ながら歩いていたことが災いした。
遺跡ということもあり、手入れのされていない場所は足場も良くはない。
地面の起伏に気付かず、気躓いたyouの身体がぐらりと傾く…。
「ほわぁあああ!!」
「you!!」
そのまま前のめりで倒れるところを、間一髪でリゾットの腕が阻止してくれた。
「な…ないすきゃっち……カメラも無事……。」
「カメラじゃなくて自分の心配をしろ、馬鹿!」
「ご、ごめんなさいぃ……ありがとうございますぅ…!!」
「怪我をしなくて良かった……携帯は仕舞って、ちゃんと注意して歩きなさい。」
「はい……気を付けます…。」
「…回廊はこっちだ、行くぞ。」
「え、は、はい……えっと、リゾット…?//」
遺跡内部へ向かうと言って、リゾットはyouの手を掬い取り、歩き出す。
今まで無かった温度を感じ、繋がれた右手とリゾットを見上げると、彼は少し呆れたような、からかうような表情をしてyouを見つめていた。
「怪我をしないように……いや、君が遺跡とキスをしないよう、オレが注意していないとな。」
「む…それってまた前のめりに倒れるってコトですか?」
「そうじゃない、今日はオレがyouをエスコートしているのに……嫉妬するだろう、遺跡に。」
「遺跡に…!!」
これはまた斬新な表現で持ち上げてくるなと…。
最早ここまでくると、イタリア人のリップサービスに対し、照れ臭さを通り越してあっぱれと思えてくる…。
ある意味で感動しつつ、youはリゾットに連れられて遺跡内部の長いアーチ状の廊下へ足を踏み入れた。
石レンガで作られた美しいアーチ状がいくつもいくつも、ずっと先まで続いている。
隙間無く石壁に組み込まれたそれは、一体いつの時代に建造されたものかも知らないが、
「現代の建築業社が施工した」と言っても遜色無いほど、古代技術の素晴らしさを実感する空間だった。
「リゾット…写真撮ってもいいですか?」
「ああ、どうぞ。」
するりと離された手に、言いようの無い寂しさのようなものを感じたのはリゾットだけではなかったようだ…。
youは数枚写真を収めると、携帯を鞄に閉まった後で再びリゾットの大きな手をきゅっと握った。
「…暗くなったな。」
「夕陽が沈むトコ、見れなかったね……ごめんなさい、わたしが内部をガチで見回った所為で…。」
「気にするな、また一緒に来ればいい。」
「はいっ…!」
眉を下げ、しゅーんと申し訳なさそうな表情が、自分の言葉ひとつでパッと花咲く変化の何と愛しいことか。
リゾットはその百面相に思わず吹き出しそうになるのを堪え、平静を装う笑みを向けた。
「それにほら、日が沈んだということは、やっと今日の目的が果たせるということだ。」
「今日の…目的…?」
「ほら、外に出るぞ…。」
2人で長いトンネルを抜ければ、ナポリ湾を見下ろす場所へ出る。
潮騒が心地良く耳に届き、月に反射して輝く水面と、満点の星空がそこには広がっていた…。
「うわぁぁ……綺麗…!」
まるで数カラットの宝石を目にしたように彼女は瞳を輝かせた。
確かに美しい光景で、自分からしても見れて良かったという感想を抱くが、
それ以上に、とても喜んでいる様子の彼女を見て、ここへ此処へ連れてきて良かったと心の底から思うリゾットだった。
「満点の星…凄く綺麗……海も、月も…。」
「ナポリの星空は気に入ったか?」
「はい、とっても…とっても!すごく、本当に素敵です!」
「そんなにか…。」
「リゾット、本当にありがとうございます!こんな、こんなとっても綺麗な場所に連れてきてくれて…!」
「そこまで喜んでくれたなら光栄の至りだ……こちらも、約束が守れて良かった。」
「えっと…。」
「忘れたか?初めてうちのチームに来た時…。」
「あっ!」
そういえば、と…youはその「約束」を思い出す。
確かに、初めてこのチームの元に来た日の歓迎会でリゾットに自宅まで送ってもらった際、
輝く月が美しいという話をして、次は星空を見せてやると言われた。
その時、自分はとても見たいと思ったため、そのことを伝えてはみたものの、
てっきりそういうものは社交辞令で、本気で連れて行ってくれるとは考えもしなかったのだ。
「リゾットはずっと覚えていてくれたんですね……。」
「なかなか休みが合わず、誘うのが随分と遅くなってしまったから、きっと忘れているだろうと思ったが…。」
「確かに期間は空きましたけど…ずっと気に掛けてくれていたんですか?」
「勿論。酒に酔った勢いで誘ったなんて思われたくもなかったしな。」
「そんなことは思いませんけど……。」
「事務所から近い海辺でも良いかとも思ったが……折角だから色々とナポリ観光をしてみようかと。」
「うん、全部すごく楽しかった。」
「何にせよ、ささやかかもしれないが、こうやって星空を見たいという願いを叶えられてよかった。」
「とっても幸せです……。」
「あの時は月が綺麗だと言っていたが、満天の星はどうだろうか。」
「もちろん、言葉には上手くできないくらい、感動してます!あ、でも…あの時綺麗だと言ったのは確か…。」
「ん?」
「あ…いえ!何でも…//」
そうだ、確か…と、youは記憶を呼び起こす。
あの時綺麗だといったのは月そのものではなかった。
あの時美しいと思ったのは…。
「(月明りに照らされたリゾット……だったはず…//)」
「何だその顔は…。」
「ななな、なんでもないですひょ!」
「???」
「ああ、あっちに行きましょう!もうちょっと海辺へ!!//」
必死で照れを隠すため、話題を現実へ引き戻して切り替える。
が、それもあまり得策というわけではなかったようだ。
リゾットをせかして移動した場所は確かに全面に海と星空の広がる光景が一番よく見える場所ではあったが、
同時に観覧者達…この場合に至ってはそのほとんどをカップルと称した方がいいだろう…
そんな彼、彼女らが甘い時間を過ごしている場所となっていた。
星空を指差して語っているのまではまだ良いが、肩を寄せ合って事あるごとにキスを交わすものも多くおり、
凡そ自国では見掛けない光景にyouは目のやり場を無くし、いつの間にか上向きだった顔を伏せてしまっていた。
勿論、その状態では星空どころか水平線さえ見えないワケで…。
不思議に思ったリゾットが「どうした?」と、youの顔を覗き込む。
「you、大丈夫か…気分でも悪いのか?」
「えっ?!う、ううん……そんなことは…。」
「先程から顔を伏せて……。」
「うう、だって……目のやり場に困る…ハートなオーラがあちこちから…!//」
「さほど珍しい光景でもないと思うが……そんなに気になるものか?」
「だって……日本では見掛けないし、戸惑います…。//」
「大丈夫だろう、基本的にお互いのことしか見えていない。」
「そういう問題かなぁ……。」
「そういう問題じゃないか?だって、気にするべきは一緒にココへ来ている相手の事だろう?」
「!」
「だから、オレも周りの事は気にならない。一緒に来ているキミと過ごす時間が大事だから。」
「わ……わたしも……それが…リゾットが作ってくれたこの時間が……大事です!嬉しくて……すごくすごく…大事です…。」
「ああ。だから、2人で一緒に星を見よう。」
「はいっ!!」
今度はリゾットがyouの手を引き、景色が良く見えるスペースを探してくれた。
それから夜空を2人で眺めながら、月や星に因(ちな)み、星座や神話の話などをして穏やかな時間を過ごす…。
「…北極星は動かない星じゃないの?」
「いや、正確には動いていて、少しずつだが天の北極に近付いている。約100年後には一番近付き、その後はまた離れていくだろう。」
「ふぇ~知りませんでした……リゾットは色々詳しいんですね。」
「つまらない話で申し訳ないな……星の話など退屈だろう?メローネやホルマジオだったらもっと楽しい話ができるのかもしれんが…。」
「ううん、全然!もっと沢山聞きたいって思ったくらいです。」
「そうか……。」
「今日はリゾットと一緒に過ごせて良かったです、本当に。」
自分の話などつまらないだろうと、申し訳なさそうに謝罪してきたリゾットだったが、
youにとっては、まず誘ってもらえた時点で嬉しく思っていたし、
今日一日の彼の気遣いや話には好感以外持つことはできなかった。
そのことを正直に伝えると、キョトンと目を丸くした後、意外にもリゾットは照れくさそうに苦笑を漏らす。
「そう言ってもらえると有り難い……こちらこそ、丸一日オレのようなつまらない男と付き合ってくれて感謝する。」
「つまらないなんてとんでもない!わたし、またリゾットと出掛けたいです……ご迷惑じゃなければ、ですけど…。」
「you…。」
「め、迷惑でしたら…!」
わたわたと、少しだけ泣きそうな表情でリゾットから目を逸らすyou。
だが、彼はそうはさせまいと、彼女の頬を指でそっと撫ぜた。
「迷惑なんかじゃぁない……また一緒に出掛けよう。」
「リゾット…。//」
「次はどこに行こうか…?」
「リゾットが連れていってくれるなら、どこでも。だって…絶対楽しいから。」
「…分かった。では、次に休みが合う時までに考えておこう。」
「はいっ…!」
「では…そろそろ帰るか?」
「うーん、帰らなきゃですよね……でも、帰っちゃうの勿体ないなぁ。」
「なら、もう少し星を眺めて帰ろう。」
「いいんですか…?」
「ああ、youと過ごせる時間が増えるなら、それに越したことはないからな。」
「もぉ……またそういうこと言う…//」
「・・・?」
言葉の選定が露骨で分かりやすいため、終始リゾットの言葉に翻弄され続けた一日だったなぁと、赤い顔で大きく深呼吸をしたyou…。
しかし、youの言葉や反応や対応…それらも十分リゾットの心を揺らがせているのだが…。
それにお互いが気付くのはまだ少し先の話…。
Cielo Stellato
星空を君に捧ぐ
words from:yu-a
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