■Fiori e Vino. (リゾット)
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「あぁ!お隣さん!!」
「?」
それが2人の出会い。
Fiori e Vino.
花と涙
彼女はその辺の人間と同じ、特別でも何でもない、ただの一般人だった。
それが1年前、イタリアへ旅行へ来たことで、彼女の運命はあるべき道から逸れてしまう。
それも大いに、とても大いに、だ。
ナポリを観光中に現地ガイドと離れてしまい、迷い込んだ裏路地…。
そこで出会った本場イタリアの「ヤ」の付く御職業であろう方々に絡まれ、拉致され、監禁され、港へ連れていかれ、売り飛ばされる寸前まで事が運んでいた。
本当に寸でのところで、別のギャング組織…現在彼女が所属している「パッショーネ」のボスであるジョルノ・ジョバァーナこと、汐華初流乃その人に助けられたことで、最悪最低の運命からは脱したのであるが…。
その際、乱暴こそされなかったものの、囚われの間に人身売買のための作業だったのだろう…パスポートどころか、戸籍等、自分の存在を何もかも抹消されてしまっており、気の毒に思ったジョルノが手を回し、イタリアに彼女の居場所を作ってくれたのだ。
初めのうちはイタリア語と、その場所の生活に慣れるのに四苦八苦し、戻れない自分の居場所を恋しがって何度泣いたか知れない。
だが、半年が経過する頃には何とか簡単な言葉で日常生活を送ることができるようになり、
一年後の今日、彼女はジョルノの元を離れ、パッショーネ本部にもほど近いアパートで独り暮らしをすることになったのだった。
簡単にまとめると、このような存在であるyouという人間が、今邂逅している人物がいる。
「あぁ!お隣さん!!」
「?」
「は、初めまして、本日、こちらのアパートに引っ越してきた者です!よろしくお願いします。」
「……ああ、どうも。」
「イタリアで初のお隣さんだ……ちょっと緊張するな。」
緊張した声が思わず出てしまったのは、この「お隣さん」が男性であることと…、
何よりそのガタイの良さと、2メートル近くありそうな高身長に圧倒されてのことであった。
上擦った声を押し殺しつつ、頑張って挨拶を終えると、低く重いだけでなく、落ち着きと、僅かな甘やかさを含むようなバリトンボイスで軽く挨拶を返された。
テンションは低いものの、無視されないだけでも有難い…。
加えてそのような魅力的な声を耳にできただけでも、もしかしたら貴重なことのかもしれないとさえ思う。
youは少し安堵して、バッと顔を上げると、忘れかけていた本来の目的を思い出し、両手を胸の前でパーにして、後ろへと後退る。
「ちょっと、ちょっと待ってていただけますか?!」
「?」
そう言ってyouは今日引っ越してきたばかりの自分の家の中に入っていった。
玄関は開けたままだったので、バタバタという足音が聞こえて、急いでいるのだという雰囲気が察せられ、図らずとも、男が彼女の言う通り、その場で待つ気にさせていた。
本当にすぐ、足音がまたアパートの廊下へ近づき、玄関から何やら荷物を手にした彼女が再び顔を出した。
「あの、これ……よかったらもらってください。」
「…これは?」
「お店で買った焼き菓子です。」
「菓子?」
初対面の隣人にいきなり菓子を渡されることに違和感を感じているようで、少し怪訝な顔をして男はyouを見つめる。
一瞬、その顔をしっかり確認すると、黒めの大きさに驚いたyou。
だが、あまりまじまじと人の顔を見つめるのも悪いし、何よりその整った顔立ちを長時間直視するのが恥ずかしくなって、死線を外して話を続けることにした。
「えーっと…もしかして甘い物苦手でしたか?」
「いや、好きだが。」
「よかった!」
「…何故?」
「?」
「何故、オレに?」
「え…お隣さんだから…?」
「隣に住んでいる者に渡す理由が…あるのか?」
「…割と…わたしの国では引っ越しの時にお隣さんと下の階の方へは…ご挨拶したり…する、ので…。」
「そうなのか……変わっているな、キミの国は。見たところアジア人のようだが…。」
「えっと、日本です。」
「なるほど、ヤケに丁寧な文化だと思ったら…なるほどな。」
「やっぱりおかしいでしょうか。」
「ああ。わざわざ挨拶に来るのはとても珍しい。だが、寧ろ今後はそういったことは控えるべきだ。どんな人間が住んでいるか分からんからな……下の部屋にも行かない方が良い、危ない目に遭うかもしれない。」
「そう、ですか…。」
隣人の言葉…というよりは寧ろイタリアで生活する上での忠告を与えられ、しょんぼりと俯くyou。
確かに、言われてみると自分のそういった自己防衛があまりにも疎かでお粗末だったが故に、自分は今、ここにいるのだと思い返し、自分の甘さに自己嫌悪さえ抱きそうな気分だ…。
自分で悟るべきところを、見ず知らずの隣人から指摘されて悔しく思う気持ちと、お隣が彼でなければ問題提起すらおこらずにすんなり「ありがとう」の言葉で受け取ってもらえていた未来があったのだろうかと思うと、それはそれでまた悲しくなってしまう…。
どちらにしても、初対面の挨拶には似つかわしくない表情で俯くyouに、目の前の男は小さくフゥ…と息を吐くと「すまない」と謝罪の言葉を口にした。
「すまない……折角の好意に水を差してしまったな。」
「いっ、いえ!こちらこそすみません……忠告、御尤もでした…。」
「ああ、用心し過ぎるに越したことは無い、次回から気を付けるといい。」
「そうします。」
「それで……もしよければ、その焼き菓子……いただいてもいいだろうか。」
「えっ?」
「折角の心遣いだ。無碍にはできない………この国にはそぐわないかもしれないが、とても優しい文化を持っているんだな、キミの国は。」
「!!」
そう言って、男は不器用そうにそっと笑った。
彼のその言葉に、もう戻れない自分の国を想ってしまい、気付けばyouは無意識に涙を零していた。
自分が泣いているのに気付いたのは、見上げていた男の表情が笑顔から驚嘆のそれに変化したから…。
「っ……あ、ご、ごめんなさい…!」
「だ、大丈夫か…?」
「すいません、あの……本当にすいません……これ、どうぞ!!」
「あっ……!」
半ば強引に押し付けるようにして、菓子の入った紙袋を目の前の男に握らせると、深々と一礼してから、顔も上げずにバタバタと家に戻ってしまったyou。
そんな彼女の様子を見て、困惑をきたしたままその場で男は立ち尽くす…。
「何か……気に障るような事を言ってしまったのだろうか…。」
ぽつりと…そう言葉を漏らして、男は己が手にある紙袋に目を落とした…。
花と涙
words from:yu-a
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