■Fiori e Vino. (リゾット)
name setting
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「わたし……イタリアで映画観るのって何気に初めてかもです……!」
ハッと、今気付きましたとばかりの表情で彼女が言った。
Fiori e Vino.
無我夢中で掴んだものは
「そうなのか?」
「ええ、はい!イタリア語は頑張りましたが、それでもまだ分からない表現ばかりですし、輸入映画だと、わたしの英語は高校英語止まりみたいなモンですから……イタリア語字幕もちゃんと追えるかまだまだ自信無いです…。」
「あー……幸か不幸か、イタリアでは輸入映画はほぼイタリア語吹替えなんだ。」
「えぇっ!知らなかった!じゃぁ字幕は追わなくていい…けど、その完全なイタリア語を理解できるかどうか…ですね。」
「では、映画じゃない方が良かったな……別のところへ行こうか。」
「いえ、いえ!観たいです映画!」
「そう、か…?」
3度目のデート…基、お出掛け中のリゾットとyou。
別段観たい映画があったワケではないが、一般的な外出先はどういったところがあるだろうとぼんやり考えた際に、ふっと浮かんだ場所であった。
youはイタリアでは初めてだと言ったが、実のところリゾット自身も映画館で映画を観賞するのは本当に久しぶりなことで、もしかすると彼女と同じくらい足を運んでいなかったのでは…と記憶を思い返す。
多分、1年くらい自分も観ていないな…と、思ったところでyouから声を掛けられた。
「あの、でも……終わった後でもいいので、分からないところがあった時は教えてもらってもいいですか?」
「構わない……じゃぁ、オレも寝ずにしっかり観ておかないとな……責任重大だ。」
「ふふ、映画で寝ちゃダメですよ、勿体ない。」
「モノによるな……。」
「わたしは何でも好きですけどね……アニメもアクションも恋愛も…割と何でも。」
「ホラーも?」
「あ、それは………観ますけど、後悔するタイプです。」
「成程……じゃぁ、今日はホラー映画一択だな。」
「なんで?!!」
綺麗な笑みを浮かべながら、youにホラー映画を勧めるリゾット。
youはというと、目を丸くして「わたしの話聞いてましたか?!」と全力で憤っている。
そんな風に他愛ない会話をしつつ、2人は映画館へ到着…。
流石に初めてということもあり、youはもの珍しそうに館内をキョロキョロを見まわして、日本とココが違う、あそこが違う、これは日本にもある、あれは何だ…と一人でずっと呟いている。
同じものを見つけて嬉しそうに笑ったり、異なるものに不思議そうな顔をしたりと、コロコロ変わる表情がどうにも可愛くて、リゾットは彼女に分からない程度に抑えた声でクスリと笑った。
「you、館内見学もいいが…まずは何を観るか決めよう。」
「はっ、すみません!ええと……。」
「これがいいんじゃないか?」
「これ以外がいいですね!」
「・・・。」
「・・・。」
「you、これを観よう。」
「リゾット、これ以外を観ましょう。」
「・・・。」
「・・・。」
最早言わずもがな…。
お互いが指差している映画の目録は公開されて間もない、ほどよく人気のあるホラー映画。
「譲らないですね……おたく…。」
「それはこっちの台詞だ。何でも観れると言ったのは嘘だったのか?」
「できることなら他の作品でイタリア映画館デビューさせてほしいんですけどぉ?!」
「だが、今公開されているものの中ではオレは一番これが観たい……これは正直な感想だ。」
「えぇ……えぇー……そんな…。」
そのように言われてしまうと、何を選んでもちゃんと全内容が理解できるかどうか怪しい自分より、現地の者を優先し、相手が一番楽しめる作品を選んでもらいたいと思ってしまうワケで…。
恐らくはyouの、そうやって相手を立てる国民性をリゾットは理解しているのだろう…。
敢えて「自分はこの中でこれを観たい」と発言することで、彼女の主張の優先順位を自ら落とすよう仕向けた。
勿論、目的としては彼女の怖がる姿が見たいというものが主ではあるが、目録の中で一番観たい作品というのも嘘ではなかったので、らしくなく頑固に食い下がってみたのだ。
しかしながら、矢張り好きな相手に意地悪をするようで少し心が痛んだリゾットは、暫し考えたのちに1つの案を出した。
「この映画に決めてくれるなら、夕飯は奢ろう。」
「……ドルチェ付けても…‥?」
「構わない。」
「それなら乗った!!」
寧ろリゾットを引っ張って窓口でホラー映画のチケットを率先して購入するyou…。
臆していた割には存外平気そうな様子に、少々ガッカリしてしまうリゾットであった……。
・
・
・
・
そして、上映時間近くになってシアターに入り、指定の席に向かう2人。
「わぁ、最初から2席ずつ区切ってあるんですね!」
「この映画館はそうみたいだな。他は1席ずつのところもあるし、1席ずつでも肘掛を上に収納して2席に繋げることができる映画館もある。」
「イタリアでは一人映画鑑賞って少ないのかな……日本では結構多いのに。」
「そうなのか?イタリアでは1人で来る者はあまり見掛けない。」
イタリアの映画観賞事情を話しながら着席する。
個別に区切られたシートに慣れているためか、すぐ傍に人がいることに何となく違和感を覚えるyou。
しかも、その相手が友人とはいえ、イタリア人の伊達男ともくれば心拍数は多少なりと上昇するワケで…。
「うう……何か緊張してきた…。」
「怖かったら言ってくれ、外に出ても構わない。」
「えっ、あ、う、うん、はい!//」
「?」
違います、恐怖に対する緊張ではなく、貴方との距離が近いので緊張しているんです……とは流石に言えず…。
薄暗くなった館内で何とも表現し難い、歪な表情を浮かべるyouであった…。
それから数分後、いよいよ映画が始まったのだが…。
ただのホラーであれば内容は面白いため、youも怖いもの見たさでスクリーンを見続けることもできたのだろうが、要所要所でスプラッターな光景が出るわ出るわ…。
それなら最初からジャンルを「ホラー映画」ではなく「スプラッター映画」と称しておけ!
レイティングをVM14じゃなくVM18(※)の表記にしておけ!と心の中でyouは大声で毒を吐く。
(※イタリアのレイティング表記。14歳以上対象、18歳以上対象)
そのため、上映中はずっとリゾットの一人勝ち状態であった。
人気だと噂されるだけあって、内容は面白いし、何より隣にいるyouがたまらなく可愛い。
大きな音が響けばビクゥっと肩を跳ねさせるし、始めの方では両手で顔を覆っていた残虐なシーンも、2度目にはリゾットの服の袖を掴み、3度目にはとうとう腕にしがみ付いてスクリーンを見ないように顔を埋めてきた。
「you、怖いなら外へ出ようか?」
「いえ……そ、そこまでしなくても…っ、大丈夫…デス。」
「・・・無理はしなくていい。」
「リゾット…。」
お言葉に甘えてしまおうか、いや、しかし、確かに話の内容は面白いので見逃すのは勿体ない…と、葛藤していると、急にパッと館内が明るくなり、見上げていたリゾットと視線がかち合う。
「へっ…?!」
「!!」
何かのトラブルかと思いyouが周囲を見回すと、観客たちは次々に席を立ち、スクリーンには「INTERVALLO(休憩)」の表記。
「きっ……きゅうけい…?」
「ああ、休憩時間だな。」
「休憩時間があるんだ……イタリアの映画。」
「ある。日本には無いのか?」
「無い、ですね………知ってる限りノンカットの映画かインド映画くらいです…。」
「インド映画…。」
「それにしても、今めっちゃくちゃスプラッターなトコでぶった切られましたけど………いいんですか?盛り上がりも薄れません…?」
「その辺りの違和感は慣れだな……もう「こういうもの」と思うしかない。」
「んん、でもまぁ……助かったかも…。」
「随分怖がっていたな。」
「怖いっていうか生々しいシーンを直視できなくて、なので………っはうっ?!」
言い掛けた言葉を噤み、youはバッと両手を空に伸ばしてリゾットの腕から離れた。
「ごごごごごめんなさい!!!いい、痛かったですよね、腕っ!」
「全然?」
「でも、完全に無意識で……凄い力でしがみ付いてたんじゃ…。」
「あれがyouの精一杯なら、可愛いものだ。」
「そ、それならいいんですけど……ああ、ごめんなさい…。」
「休憩が終わったらさっきの続きだが、離れていてもいいのか?」
「……リゾット、迷惑じゃないです?」
「迷惑じゃあないです。」
「……腕、借りててもいいです?」
「いいですよ。」
「グラッツェぇ……グラッツェぇえ…。」
感謝しますぅ…と泣きそうな顔で再びリゾットの腕にぎゅうっとしがみ付くyou。
リゾットは無言でそれを享受したものの、内心「腕じゃなくて寧ろ胸に抱き着いてください、腕は背中に回しますから!!」と叫びたくてたまらなかった。
結局、映画が再開してエンドロールが流れるまで、スプラッターなシーン以外もずっとyouはリゾットの腕にくっ付いており、その間、youは目を瞑ったり、イタリア語に集中してヒアリングを頑張ったり…。
そしてリゾットは、会話のシーンも血飛沫のシーンも終始同じ悦に入った表情で、腕から伝わる温もりを堪能したのだった。
無我夢中で掴んだものは
words from:yu-a
*。゜.*。゜.*。゜.*