■Fiori e Vino. (リゾット)
name setting
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「アバッキオ、今日はありがとうございました!」
ぱあっと明るい表情で彼女は言った。
Fiori e Vino.
胸に燻る炎の名を知る
仕事帰りにアバッキオの誘いで、彼の行きつけの居酒屋に食事に行くことになったyou。
彼が昔から贔屓にしている店ということもあって、とても美味しい料理と酒に舌鼓を打った後、
夜道は危険ということと、youの家を10分程過ぎたところに自分の家があり、通り道だからと送ってもらっていた。
後は目の前にあるブロックを曲がったところが自宅…というところで、youが本日のお礼をアバッキオに告げたのだ。
「あのタベルナ凄く良かったです!お料理もお酒も美味しかったし、何より雰囲気が素敵!」
「だろ?オレもあの店の雰囲気は気に入ってんだよ。」
「また行きたいです!今度は皆と…。」
「いや、それは勘弁してくれ……アイツ等連れてくと騒がしくてならん……連れて行くならブチャラティだけだ。」
「それもいいですね、まったり3人でおしゃべりしたいかも。」
「つーことで、ナランチャとミスタがいる時は別の店な。」
「あはは、別の店ですね、了解です。」
youの楽しそうな笑い声にアバッキオもつられてフッと笑みを浮かべる。
パッショーネの借りているアパートから出る事に関しては、過保護が服を着て歩いているようなブチャラティやフーゴほどではないにしても、異国の地で本当に一人で大丈夫なのかと、アバッキオも心配していたが、この笑顔を見る限りは大丈夫そうだと人知れず安堵する。
「そういや、ナランチャがこの間不貞腐れてたぜ。」
「ナランチャが?どうして?」
「一人で心配だったから、お前に親しい友達ができたのは嬉しいけど、もう自分と遊んでくれないんじゃねぇかって。」
「あらあら……そんなこと、ないのに。」
「口ではお前の兄貴分なんて言ってるけど、どう考えたってアレじゃ弟分だ。」
「ふふ……アバッキオ、それナランチャに言っちゃだめですよ。」
「分かってる分かってる。言うとキャンキャン五月蠅ェから胸の内に閉まっとくわ。」
「でも、そんな風に思ってたんだ……心配してくれてたんですね、ナランチャ。」
「ナランチャだけじゃねぇけどな………ブチャラティもミスタもフーゴも、皆お前のことを気に掛けてるよ。」
「アバッキオ…。」
「勿論、オレもな。あー…あと、気に食わネェけど、ジョルノも。」
「もうアバッキオ、ジョルノは我らがボスですよ?」
「オレはまだ認めてねェ……ブチャラティが言うから…。」
「拗ねない拗ねない。」
口を尖らせてジョルノへの不満を漏らすアバッキオ。
多少お酒が入っているからなのか、最年長で一番大人な役回りを担う彼の子どもっぽい態度にyouはくすくす笑う。
少しだけばつが悪くなったように、アバッキオは「あー」とか「まぁ」とか、曖昧な言葉を口にした後、ふいにyouの頭に大きな手を伸ばしてポンポンと軽く叩いた。
「何だその……兎に角、何にせよお前が笑えてて良かったよ。」
「アバッキオ…。」
「1年経とうが2年経とうがお前の立場は変わらねェからな……。」
「・・・。」
それはつまり、パッショーネの監視下、庇護下にあることや故郷へ帰れないということだと言わずもがなyouは理解する。
そして、アバッキオを含め、チームのメンバーが自分の事を気に掛けてくれていることを改めて知った。
「はい……でもね、アバッキオ……ちゃんと、変わるものもあるんですよ。」
「ん?」
「1年前、怯えて震えて、何もできなかったわたしに、命令だったからとか、仕方なくだったとか、そういうことはさておき……皆が手を差し伸べてくれました……。そうやって皆さんと仲良くなれたことは何にも代えがたい、とても嬉しい変化です。」
「you…。」
「だから、変えられない悪いこともあるけど、変わっていく良いこともきっとあるんです。」
「…そうだな。」
「なので、これから、沢山良い変化が起こるように、見守ってくれると嬉しいです!」
「ああ、任せろ。」
頼りにしています、と笑うyouにアバッキオも笑みを返す。
ブチャラティもそうだが、どうにも心配で放っておけない存在だと思っていたyouだが、なかなかに己自身の心の持ちようを変えようと努力しているのだと知る。
そう思えば、先程の自分の発言は彼女を「可哀想な存在」と示唆していたなと、浅慮を省みてしまった。
最後にくしゃりと髪を撫でて、パッと手を離したアバッキオ。
「今日は突然付き合わせて悪かったな、まぁ奢ってやったから許せ。」
「こちらこそ、素敵なお店を教えてくれて感謝です!ご馳走様でした。」
「おう、今度はまた別の店紹介してやるよ。」
「わぁ、楽しみです!!あ、アバッキオ、もうここらへんでいいですよ、あとは角曲がるだけなので。」
「そうか、じゃぁ気を付けてな。」
「はい、アバッキオも。」
「おいおい……オレを誰だと思ってやがる…。」
「そうでした……アバッキオ大先輩でした。」
「おう、襲ってこられても返り討ち待ったなしだっつの。じゃぁな、you。」
「おやすみなさい、アバッキオ。」
「ああ、おやすみ。」
それは、最後に頬を寄せて挨拶を交わした時だった。
それまで穏やかだったアバッキオの目が怪訝そうなものに変化し、youはそれを不思議そうな顔で見つめる。
「アバッキオ……どうかしました?」
「いや………何でもない……気のせいだったみてェだ。」
「あ、何者かの気配ってヤツでしょう?この辺野良猫さん多いんですよ。」
「野良猫…か…。」
「わたしも勘違いしたこと多々あります。」
「お前の気配察知能力は節穴だと言うことがよーく分かった。」
「ひ、酷い…。」
「まぁいい、兎に角また明日な。」
「はい、おやすみなさいー!」
ブンブンと大きく手を振って、駆け足で家への道を行くyou。
そうやってちょくちょく振り向きながら進むので、躓いて転ぶのではないかと、角を曲がって姿が見えなくなるまで、ハラハラするアバッキオであった。
・
・
・
・
アバッキオがその場を離れて暫くして、近くの路地からスッと人影が現れた。
「レオーネ・アバッキオ……か。」
先刻、youと別れた男の名を呟いた人影は、youの隣人であるリゾット…。
本日youから、同僚と食事に行く予定があるからと夕飯の誘いを断られた際、彼の脳内を支配した感情は「嫉妬」であった。
凡そ自分には無縁だと…。
そのような気持ちにかまける時間のある人間は、余程お気楽な人生を送っているのだろうと決めつけていたリゾット。
それが、彼女からの断りのメッセージを見た瞬間、胸の中にドロリと汚泥のような、許容し難い感情が沸き上がり、一体何に形容すべきかと模索すれば、それは紛れもなく「嫉妬」そのもので、まさか自分がそのような陳腐なモノに振り回されることになるとは……と、思わず嘲笑してしまった。
それから事務所で少しメローネと話をした後、すぐに帰宅したリゾットは色々と思い悩んだのち、youと普段夕飯を一緒にした際に帰ってくるくらいの時間帯に張り込みをすることを決めたのだった。
予想は的中し、おおよそ狙った時間帯に意中の相手の柔らかな声がリゾットの耳に届く。
鈴を鳴らすような耳障りの良い声は紛れもなく彼女のもので、自分以外の誰かへと向けられていることに胸がヒリついて仕方ない。
そっと物陰から気配を殺してyouと、彼女の同僚の姿を確認する。
同じパッショーネに所属しており、本部にも稀に顔を出すことがあったリゾット。
今まで其処でyouと会うことがなかったのは、恐らく彼等の配慮で彼女をなるべく公の場に出すのを避け、奥の別室が仕事場になっていたからだろう。
だが、ボスであるジョルノは勿論のこと、彼と同等の立場と称されるブチャラティや、彼が率いているチームメンバーの顔と名前は本部への顔出しや任務なども併せて、youに出会う前から知り及んでいた。
故に、彼女が相対している相手がブチャラティの部下のレオーネ・アバッキオということもすぐに分かった。
苛々しながらも彼等の会話内容に耳を傾ければ、別段甘ったるい様子でもなく、同僚たちが皆youのことを心配しているといったもの。
そのまま特に大きな変化もなく、食事の礼をして解散するようで、ホッと胸を撫でおろした刹那、アバッキオとyouが急にお互いの顔を近づけたため、リゾットは思わずそちらに全意識を集中させてしまった。
ただ挨拶のためにお互いの頬を寄せただけだと理解はしていたが、心が追い付かなかったようだ。
殺していた気配が一瞬顕になり、アバッキオがそれに気付きそうになったのだが、すぐにまた気配を殺したことと、youが近所の野良猫説を推してくれたので、それ以上感付かれずに済み、安堵する…。
結局そのまま話は終わったようで、アバッキオに手を振りつつブロックの角を曲がったyou。
彼女がちゃんとアパートのエントランスを抜けたのと、アバッキオがその場から離れたのを見計らい、リゾットは通りに現れた。
そうして彼はアバッキオの名を再確認するように口にすると、深く溜息を吐く。
「そうか……これが本当に「嫉妬」というものなのだな……。」
苛々もするが、自分がちゃんと彼女に想いを寄せているのだと認識できるこの感情は存外悪いものでもないのかもしれない、とも。
だがしかし、このままではいけない。
このまま看過すれば、彼女は自分以外の誰かのものになってしまうだろう。
そうなれば、相手を殺してでも奪い取るという選択肢しか、今の自分には残らない気がする。
その場合、彼女から寄せられていた信頼は水泡に帰すし、何より嫌悪されるのが今の自分には一番の恐怖だ。
できれば周囲の人間は誰も傷付けずに、穏便に彼女の恋人になりたいと切に願うリゾット。
恋愛の障害として恋敵が現れるのであれば、一般的にはお互い精神的に傷付くことを指すが、
今のリゾットは、誰も傷付けずにという表現に「物理的に」という言葉も前置詞として付いている。
根本的には真面目実直で誠実、根底は穏やかで優しいのだろうが、今の彼は盲目的に彼女を追い求めており、自制が利いていない節がある。
今正に、隠れて様子を伺っていたのがいい証拠だ。
「もうそろそろ……オレが、オレだけが守れる立場に、なってもいいだろうか……you。」
事を急ぎたくなったのは、そういった自分の心境を無意識に理解しており、本当に誰も傷付けたくないと考えたからなのだろう…。
善悪入り混じった複雑な声色が、住宅街の夜闇に溶けて消えた。
胸に燻る炎の名を知る
words from:yu-a
*。゜.*。゜.*。゜.*