■Fiori e Vino. (リゾット)
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「ボンジョルノ、you……準備はいいか?」
「ボンジョルノ、リゾット!ええ、バッチリですよ。」
朝、お互いの玄関の前で交わされた朝のアイサツ。
Fiori e Vino.
睫毛上のペルラを欲す
以前、リゾットの誘いで、引っ越しの挨拶にもらった菓子折りと、後日届けられたお詫びの手紙のお礼にと夕飯を共にした2人だったが、それから何度か夕飯を一緒に食べにいったりを数回繰り返し、今回は休日を合わせて出掛けることになった。
「すまないな、なかなか休みを合わせられなくて……話が上がってから大分経過してしまった。」
「いいえ、全然!寧ろ、リゾットの貴重な貴重なお休みをわたしなんかと出掛けることに使わせてしまって申し訳ないというか…。」
「オレはyouと出掛けられて嬉しい……それこそ、今日の日が仕事を頑張る糧になったくらいだ。」
「お、大袈裟だなぁ……でも、嬉しいです。」
その数日の間、「仕事」の合間にリゾットが自分のことを調べ尽くしていたとは知る由もなく、youは彼の言葉を素直に受け取り、照れ臭そうに笑いながらも「毎日お仕事お疲れ様です」と、優し言葉を掛けた。
リゾットがそんな彼女をとてもいじらしく感じるのは、彼女が此処に至るまでの経緯を全て把握したからなのか、ただ単に彼女に恋をしているため、どんな表情でも心に響いてしまうからなのか…。
兎にも角にも、今日一日の全ての時間を自分と過ごしてもらえることに、とてつもない幸せを感じてしまうのであった。
「では、そろそろ出掛けようか。」
「はい!」
「だが……本当に買い物とかじゃあなくて良かったのか?誘った張本人が言うのも何だが…。」
「いいのです、いいのです!!ナポリで過ごして暫く経ちますが、こう……生きるのに必死で、ナポリの本質的にいいところはあまり知らなかったので…。」
歩き出して早々、リゾットが申し訳なさそうにyouに問いかけたのは、本日の目的地に関してであった。
しかし、you本人としては本日の目的地に満足しているようで、喜々とした表情を浮かべ、その足取りはとても軽い。
「だが、博物館だぞ……しかも物凄く近い。」
「ええ、そう、近いのに一度も行ったことないんですわたし!なので、今日とても楽しみです!」
「まぁ、キミがそう言ってくれるならいいんだが………今度はもう少し楽しめるような場所にしなければな…。」
「えぇっ、いいです、こういうのがいいです!まだまだわたし観光客気分抜けてません!ナポリの素敵な場所いっぱい見たいです!」
目をキラキラと輝かせてリゾットにイタリアの観光案内を強請るyou。
本気度がかなり高いことが窺い知れて、思わず吹き出してしまう。
「ッハハ、そうか、それならこちらも安心だ……それに、今後も沢山出掛けられそうで有り難い。」
「はいっ、沢山連れて行ってくれると嬉しいです…!」
「車で行ける距離なら近くに古城や史跡もあるし、近場にある大聖堂や教会も有名だからな。」
「イタリアは国全体、至る所が世界遺産みたいなものですもんね……。」
「そうなんだ……だからなかなか近代的な建造物は増えないし、不便な点も多い……まぁ、個人的にはそれも嫌いではないんだが。」
「お洒落な街並みもローマ時代の建造物や道もわたし、好きです!教会や大聖堂なんて美し過ぎますし、深い歴史に感動して思わず支柱に抱き着いて頬擦りしたくなるくらいで…。」
「・・・。」
「・・・。」
「キミは……変わっているな。」
「・・・スミマセン…。」
我を忘れたようにイタリアの歴史的建造物や芸術美を敬愛しているのだと伝えるyou。
勿論、youとしては、そんな古き良きイタリアの歴史巡りも、近代的なお洒落を全面に押し出した市街地での買い物もどちらも好きなのだが、今の発言は完全に行き過ぎた歴史オタクのようであったと、思い返して顔を真っ赤にして俯いた。
「謝ることはない。オレもどちらかと言うと懐古趣味なところがあるから、博物館や美術館は割と好きなんだ。」
「あ、あの……柱に抱き着いたりはしないので…安心してください……その、物のたとえでして…。」
「別に抱き着いても構わないと思うが………案外コアラみたいで可愛いんじゃあないか?」
「むっ、今のはちょっとわたしを小馬鹿にしましたねー?!」
「その時はちゃんと写真を撮ってやろう。」
「リゾットっ!」
「ハハ、すまない、冗談だ。」
リスのように頬を膨らませてリゾットを睨むyouだったが、彼女に恋心を抱くリゾットにとってはちょっとした怒気を向けられてもただただ可愛いと思うだけで、幸せそうに締まりのない笑みで彼女を見下ろすのだった。
そんな会話をしつつ、ゆっくり歩いて辿り着いたナポリ旧市街にある博物館。
エントランスの周りは現地の人間や観光客で賑わっており、彼等に交じってリゾットとyouもチケットを購入して入館を果たした。
「なかなかに広いが、どこから見て回る?彫刻やフレスコ画が有名だが……他にも遺跡の出土品など様々ある。」
「確か、有名なモザイク画あるんですよね……!」
「ああ、ポンペイ出土の………そうだ、思わず抱き付きたくなるモザイク様式の美しい柱もあるぞ?展示物だから触れるのは違反行為だがな。」
「リゾット~~!!//」
再び「支柱に抱き付いて頬擦りしたくなる」という表現をネタにされ、youはリゾットの脇腹を小突く。
鍛え抜かれた肉体は常人のそれとは全く異なり、触れた拳に全く反発力が感じられなかったため、youは驚いた顔でリゾットを見上げる。
「硬っ……え、すごい……めっちゃ硬い…。」
「?」
「ふえぇ……良いガタイをしているとは思ってましたが……すっごい鍛えてるんですねーー!!」
「まぁ……人並みには…。」
「人並みに鍛えてもこんなにはならないかと…。」
「・・・。」
youにまじまじと腹回りを眺められ、ペタペタと腹筋を触られるリゾット…。
確かに、彼女と友達になる時に自分自身で「無口なゴリラみたいな男」と揶揄したのだが、
更にオプションが加わり、より一層彼女という存在とは対照的……基、隣を歩くのに似つかわしくない存在であると再認識してしまう。
「すまない……無口な上に筋肉までゴリラ並みな男で本当にすまない…。」
「いや、ゴリラの筋肉がどうかは知りませんけど……あと、何で謝るんです?」
「いや、キミに恥ずかしい思いをさせているかと思うと申し訳なくてな…。」
「え、え??な、何でですか?」
頭上に多量の疑問符を浮かべているのがハッキリ見て取れるほど、困惑した表情を浮かべ、youは気落ちした様子のリゾットを見上げる。
その問い掛けにリゾットがポツポツと己が容姿に関する自己嫌悪の理由を吐き出した。
「この国では割とオレは大柄というか…。」
「確かに身長は高いですけど……わたしから見ると海外の男性は皆身長高いのですが…。」
「表情に乏しいし。」
「今わたしをからかって笑ってませんでした…?」
「筋肉質で怖いだろう…。」
「いや、寧ろ素敵だと思いますけど…………というかですね。」
「・・・?」
見た目のいかつさとは裏腹に、叱られた子犬のようにしょんぼりと俯いているリゾット。
youはそのギャップに思わず胸がキュンと鳴ったものの、それ以上に彼に物申したい気持ちが強く、呆れたような声色で苦言を呈した。
「そもそも、リゾットの見た目より、アジア人であるわたしの方が明らかに浮いてるんですけど?」
「・・・あ。」
「ですよね?」
「……それもそうか…。」
「はい、そうですよ?」
両手をグーにして腰に当て「お分かり?」とばかりに、リゾットの顔を覗き込むyou。
数秒見つめ合った後、先に口を開いたのはリゾットだった。
「だが……youは……かわいいから……オレとは全然違って…。」
「ぶっふぉ…?!//」
「東洋人だから小柄だし、顔も幼く見えて……かわいい。オレはその反対で人より大柄で無表情でかわいさとは無縁だから、隣に並んでいるとキミまで異質な目で見られて、それが申し訳ない。」
「いや、お言葉を返すようですがリゾットもですからね?!」
「?」
「リゾットは背も高くて、クールでイケメンさんですが、わたしなんて完全に此処では異分子のアジア人です……皆さん基本的にはお優しいですけど、中には小馬鹿にしてくる人もいるくらいなんです……!」
「そんなヤツがいるのか?」
「ええ、いますよ、通り掛かりとかにもね。」
「(誰だソイツ、殺す…。)」
最初は自分を卑下するリゾットに喝を入れるために発した文句だったが、
色々経験したことを思い返したのか、段々感情的になってきたらしい……次第にじわりと涙が浮かんでくる。
「……そんなわたしと一緒に話してくれたり、出掛けてくれるリゾットはとても優しくて、わたしにとって有り難い存在なんです……。」
「you……。」
「こんなこと、言いたくないけど……わたしの方が一緒に歩いていて、きっとリゾットに恥ずかしい思いをさせているのに……だから、そんなこと……言わないで……っください……。」
「すまない…!」
最終的にポロポロと涙を零してリゾットに訴えかけるyou。
普段、感情をあまり表には出さず、冷静に何事も対処していくリゾットも、流石に好意を寄せた相手の涙に動揺したらしい…。
彼にしては本当に珍しく、オロオロと両手を上げ下げして困惑している。
人がごった返してガヤガヤと騒がしい美術館のホールではあったが、流石に大男の目の前で小柄な女性がシクシク泣いている様子は特異であるようで、彼等の周囲にいる館内の見学者達が「何事か?」とチラチラ視線を送ってくる。
ひとまずはその場を離れた方が良いだろうと、リゾットは何度も「すまない」と謝りながらyouの手を引いて人気の少ない廊下の突き当りへと移動した。
「すまない、you……キミにあんなことを言わせるつもりではなかったんだ、本当に……許してほしい。」
「っ……すいません、泣くつもりでは…。」
「いいんだ……オレが悪い。」
「リゾ……っ!!」
youがリゾットの名を完全に呼べなかったのは、壁を背にして名前の張本人に片腕で抱き寄せられたからだった。
その驚きと恥ずかしさで涙が引っ込んだのは幸いだったが、リゾットの広い胸に押し付けられた顔がとても熱くて非常に困った事態に陥るyou。
「り、りぞっと……あ、あの…人に見られ…。」
「壁に手を付いているだけにしか見えない……ゴリラ体格が役に立ったな。」
「っふふ……ゴリラ体格って…。」
ゆるりと腕の力を弱め、お互いの身体を少し離す。
少しだけ赤くなっている目尻を気の毒には思うが、自分の言葉で微かでも笑みを浮かべてくれたことにとてつもなく安堵してしまう。
リゾットの言葉に、少しだけ落ち着きを取り戻したらしいyou。
スーハ―と一度深呼吸をして「うん」と小さく頷いた。
「ごめんなさい、リゾット……感情的になりました…。」
「こちらこそすまなかった……自分を卑下するのも良くないことだな。キミまで巻き込んでしまって申し訳ない……だが…。」
「はい…?」
「オレはキミの隣を歩くことができて光栄だと思っている……恥ずかしい思いなんてするワケがない。」
「あ……ありがとうございます…。」
「こんなオレだが‥‥…これからも一緒に出掛けてくれると嬉しい。」
「そんな……こちらこそ、一緒にいてくれると嬉しいです!!」
「ありがとう、you………少し、勿体ない気もするが……そろそろ館内を見回ろうか。」
「はい!んん………勿体ない?」
「この体勢がな。」
「あわ……あわわ………かかか、壁ドンでしたね!!」
「KABEDON……??」
「な、何でもないです!い、行きましょう!!//」
「!!」
日本ではその行為自体が恋愛作品に用いられ、ドキドキするの代名詞のようになっている壁ドンが正に自分に降りかかろうとは思っておらず、図らずとも今がその状態だったことに改めて気付かされたyouは赤い顔で慌ててその場を離れる……リゾットの手を取って。
その場から離れようとすることは分かっていたが、まさか手を取って歩き出されるとは思っていなかったため、リゾットは目を丸くして繋がれた手をまじまじと見つめながら廊下を進む…。
「(手が……小さい、かわいい……いや、オレが大きいのか…。)」
「どこから見ましょう……下のフロアから行きますか?それとも上から…?」
「(…スベスベしていて柔らかい……オレのようにゴツゴツしていない…。)」
「リゾットはどっちがいいですか?」
「・・・。」
「リゾット…?」
「あ、すまない……今何て…?」
二度目に呼ばれた名前でハッと我に返ると、気付けば廊下の端からエントランスのホールに戻ってきており、その間ずっと繋がれた手だけしか見えていなかったことに少し驚いたリゾットだった。
ちょっとだけぼんやりした様子で何と言ったのか聞き返すと、彼女は怒ることも呆れることもなく、ちゃんと話を繰り返してくれた。
「ああ、エントランスホールに戻ってきたから騒がしくて聞こえなかったんですね、リゾットは背が高いし……。えっと、下と上、どちらから見回りますかってお尋ねしました。」
「ああ、それじゃあ上のフロアから見回って、下に降りてこようか。」
「じゃぁ、上に行きましょう!」
空いている方の手で階段を指差して、そのまま歩き出すyou。
変わらず手を繋いだままでいていいのだと理解し、リゾットはニヤける口元を一瞬手で覆い隠した。
無表情を装うことは慣れたもので、平然を装い彼女と一緒に階段を上ると、そこに館内の男性職員が立っており、こちらを見るなりツカツカと歩み寄ってくる。
何か問題でもあったのだろうかと、不思議そうに首を傾げるyouとは異なり、
リゾットは職業柄、警戒心剥き出しで彼女を庇うように職員の前に進み出たのだが…。
「ニホンジンデスカ?」
「Ah……e……Watashi?Hi, Soudesu.(え、あ……わたし?はい、そうです。)」
「Benvenuta al Sud, bella!ヨウコソ!(南イタリアへようこそ、ベッラ!)」
「A……Arigatou gozaimasu!(ありがとうございます!)」
恐らくは博物館に来る日本人の観光客も多いのだろう、職員は声を掛け慣れた様子で軽い日本語を交えた歓迎の言葉を述べると、ニッコリと笑ってyouに館内マップを差し出した。
郷に入っては郷に従えの精神……今は普通に使えているが、イタリア語で「Grazie!(ありがとう)」をもう一度伝え、軽く手を振る職員にペコリと一礼をして通り過ぎる…。
警戒心MAXで怪しんだ職員には少し申し訳ないと思いつつ、それ以上に彼女の日本人らしい所作に、ぼんやり「いいなぁ」と愛しさを募らせていたリゾットだったが、急に展示物のコーナーに入る手前、youに手を引かれて端の方へ移動することとなり、少し驚いた反応を見せた。
「ど…どうしたんだ、you……?」
「っ……リゾット…。」
「なっ、泣いているのか?!ど、どうして?!」
「違うの、嬉しくて……見てくださいこれ…。」
「これは……さっきの、館内マップか?」
「はい、日本語のものをくださいました。」
「そうだったのか………よかったな。」
「はいっ!今日、ここに来れてほんとに良かったです……!」
睫毛に残った微かな涙の欠片がとても綺麗で、しかし嬉しそうに笑う顔は涙とは対照的なもの。
youの口から聞くことはなかったが、彼女が故郷を恋しく想う理由は既に調べ尽くしているリゾット。
観光客に間違えられたことで、旅行が終われば家に帰るのだと思っていた日の事を想い返したのか、
はたまた、ただ単に日本語や日本の文字に触れる機会が訪れて感極まったのか…。
いずれにせよ、彼女が自らが選択した籠の中の鳥という立場を思えば、可哀想だ、守りたい、居場所になってやりたいという加護欲と、
その先に、もしも自分がその使命を与えられたのなら、彼女の日なたの笑顔も、この真珠のような涙も自分だけのものになるのかと思案してしまう。
リゾットは己の欲や願望を嚥下するようにコクリと生唾を飲み、彼女の目尻に手を伸ばして、その粒を軽く指で拭った。
「り、リゾット…?」
「キミは本当に………泣き虫なんだな。」
「うぐ…!」
「出会ってからずっと、泣き顔を見ている気がする。」
「泣いてない日もありますよね?!」
「まぁ、そうかもしれないが………毎回オレが泣かせてしまっているようで申し訳ない。」
「決してリゾットの所為では!わたしの涙腺の問題で…。」
「だが、とても綺麗だと思う。」
「はい?」
「キミの涙は、とても綺麗だと思う。」
「(出た、イタリア節!!)」
「勿論、笑った顔が一番だがな。」
「そ、そうですね……リゾットと一緒の時には極力わたしも笑顔でいたいです、だって楽しいから。」
「それは………とても光栄だ。」
youの言葉が嬉しくて、思わずらしくないくらい破顔してしまうリゾット。
「ハッ…(しまった思わずにやけて……気味の悪い顔になってなかっただろうか…)」
「(ききき、綺麗な顔ぉおおッツ!!///)」
普段あまり笑顔になることがないため、ぎこちなくて奇妙な顔になっているのではないかと思い、ハッとしたものの、目の前の彼女の赤い顔を見る限り、思ったほど変なものではなかったようで安心するリゾットであった…。
「you……。」
「はい?」
「キミが恥ずかしくなければでいいんだが……手を繋いで見て回っても構わないだろうか。」
「あっ!そ、そういえば……わたしずっと……すみません!//」
先程からずっとリゾットの手を握ったままでいたことに気付き、焦って離そうとするyouだったが、それはリゾットに阻止される。
ぎゅっと力強く握られた手は解かないでほしいという意思を示しており、手とリゾットを交互に見遣って、youは照れくさそうな顔で最終的に目の前の長身男性に笑みを向けた。
「わたしで良ければ…。」
「グラッツェ、you。」
それから館内を半日ほど掛けて見回ることになったのだが、階段や休憩の時以外はずっとお互いの温度を感じていた2人。
なかなかに入館者数が多い博物館で、大きな手がはぐれないように握ってくれていることには大いなる安心感を覚え、
youに好意を抱いているリゾットは勿論だが、youもまた、そういう理由でリゾットの男らしい手に終始胸が高鳴ってしまうのであった。
睫毛上のペルラを欲す
words from:yu-a
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